2006年9月16日土曜日

Sturgis 2006 (その15)

(Sturgis 2006 その14 からの続き)

旅の十五日目、八月十九日、土曜日。

七時半、起床。空は真っ青。風もない。気持ちいい。

外に出てみるとチーフがお湯を沸かしている。なるほど、その物音で目が覚めたのだな。

お湯が沸いたらさっそくインスタントのみそ汁を作るチーフ。いい香り。自分もお湯を沸かし、チーフにみそ汁の元をもらう。ウマイ。

みそ汁を飲み干すと、胃がおきてきたのか、さらにおなかが空いてくる。目の前の柿の種をかじりながら、何を食べるか考える。

Mazama Campground at Crater Lake

そうだ、きのうビレッジで買ってきたマフィンがあった。マフィンを食おう。

しかし、「そうなるとコーヒーが欲しいね」チーフが言う。そうか、ヨネが起きてこないとコーヒーが飲めないんだ。

さっきからごそごそしているのに、まったく起きる気配のないヨネとひーちゃん。まあ、急ぐこともないし、好きなだけ寝ててくれていい。

仕方ないので、コーヒーなしでマフィンをほおばる。飲み物なしというのも悲しいので、どこでもらって来たかも分からないお茶を飲むことにする。それぞれはおいしいのに、ふたつはまったく合わない。

おなかも満足したので、キャンプ道具を片付けて、準備をしよう。すると、やっとヨネとひーちゃんが起きてきた。おはよう。

二人が朝飯を食べている間に、テントを日向に移動して乾かす。乾かしている間にトイレに行って顔を洗う。さっぱり。テントが十分に乾いたら、たたんで、バイクに積む。チーフとおれは、出発の準備が完了。

三十分以上も遅くおきてきたヨネとひーちゃんは、まだ当分、出発の準備は整いそうにない。どうしようかな。

十時前、ビレッジの方に先に行って、そっちで待っていることにする。おれとチーフを目の前でずっと待たせている状態というのも急かされているみたいで気を使うだろうし、待っているだけのこっちも特にすることがない。ビレッジに行けばお土産屋をぶらぶらすることもできるし、コーヒーもある。

「んじゃ、ビレッジで待ってるね」

チーフと二人でビレッジに行く。コーヒーを買い、外のベンチでのんびりと飲む。気持ちいい朝だなあ。

地図を開いて今日のルートを検討する。

明日は夕方までにバイクを返す必要があるから、昼すぎにはおれの家で荷物を降ろしていたい。そうなると、今日は Redding が最低ライン。できれば、Redding よりも南まで行きたい。近ければ近いほど、明日が楽になる。

I-5 で南下すればどこまででも行けるのだが、それはできるだけ避けたい。I-5 を使わずに南下するルートでどこまでいけるか検討する。

すると一人の金髪の女性がとなりのランドリールームから出てきた。ミニスカートに、かなり胸元が開いたきわどい服。小さな犬を散歩させている。アウトドアとは対極の井出達。

まわりにいた全ての男が、何も見なかったことにしようと不自然な動きになる。何も見ていないし、見ようともしていないということを証明するために、体を硬直させ、体のどの部分も動かさないように気を使う。

しかし、そこにいたすべての男のサングラスの奥に光る目は、その女性の胸に釘付けになっていた。ぱっくり開いた胸元は、彼女の自慢の胸を強調するように不自然に開けっぴろげだった。

めちゃくちゃ見たいのに、誰もそんなそぶりは見せない。彼女が通り過ぎるタイミングでなにげなく振り向いて確認したりしている。

首から下は、ほしのあき。近くで見たすぎる。

すると、女はおれとチーフが座っていたベンチのまん前にきて、わざとらしく大きく足をあげて組み、真正面に座った。まわりの男の羨ましそうな視線がおれとチーフに降り注ぐ。いきなり S席になった。胸の谷間がすぐそこにある。

女は、その場の全員の男の視線を明らかに楽しんでいる。そこまで大きくするのにいくらかかったのかは知らないが、男の視線を独占できてかなり気分がいいだろう。

あまりにゴージャスな胸を目の前に、ほしのあきの話題で二人で盛り上がる。三十路には見えないとか、努力家だとか、まさにどうでもよすぎる話題に花を咲かす中年。視線はずっと女の胸の辺りを泳いでいる。

「しかし、ヨネは大損したね」チーフが言う。御意。早起きは三文の得だ。われわれは、今日という日をもっとも素晴らしい方法でスタートすることができたが、ヨネはほしのあきに会い損ねたのだ。

十時半、ヨネとひーちゃんがビレッジに到着。ガスを給油して、出発だ。時計回りに湖畔を一周する。

ビスタポイントのたびに止まり、目の前の美しい湖にため息をつく。

Crater Lake National Park in Oregon


十二時半、ビスタポイントの手前で交通整理の警察がいた。何かと思ったら、事故があったらしい。ぐしゃぐしゃに壊れた自転車とハーレーが、道路の脇にとめてある。二輪同士の事故だ。

バイク乗りはふつうに警察に受け答えしていて怪我はない様子だが、自転車の方の人はいない。

道路には生々しい血の跡がかなり広範囲に残っていて、大量に出血した様子がうかがえる。

現場の状況から考えて、長い下り坂をかなりのスピードで降りてきた自転車が右カーブを曲がりきれずに反対車線のバイクに激突した感じだ。バイクの車線はブラインドのカーブが終わった直後の直線だし、ビスタポイントの手前なので見通しもよく、スピードは出ていなかったと思われる。

バイク側に落ち度がなかったとしたら、それは自分だったかも知れないわけで、なんとも言えない気分になる。(残念ながら、この自転車乗りの方は先日亡くなった)

そういえば、もう昼過ぎだ。気がつくとけっこうおなかが空いている。どうしよう。昼が食べられそうなところは当分はない。湖を一周して Mazama ビレッジに戻れば何かあるだろうが、もう戻りたくない。とりあえず持っているものを食べておくことにしよう。ピーナッツとビーフジャーキーでお茶を濁す。

あまりに寂しい昼食を見かねたのか、ひーちゃんがシナモンロールをくれるという。そんな豪華な食べ物をくれるって、どんな富豪や。

ひーちゃんの気が変わる前に急いでもらうことにする。うーん、ウマイ。子供の頃は好きじゃなかったのに、今は大好きなシナモンロール。

てきとうに空腹を満たしたら出発。

一時すぎ、湖の淵を一周し、OR-62 に出る。昨日来た道を南に戻る。

二時前、US-97 に合流。Upper Klamath Lake の湖畔を南下。

右手に走る線路の向こう側に、脱線して転倒したままの列車がそのまま放置されている。そのままでも誰も困らないのか、困る人はいるけれど対処するためのコストを払えないのだろう。そういえば、コロラドのデュランゴでも、谷底に落ちたまま放置されている汽車を見たなあ。

二時すぎ、Klamath Falls に到着。OR-39 に乗り換え。

五分後、Altamont で ガスの補給。

湖畔の道は車も多くて、けっこう疲れた。休憩。とくにおなかは空いてないけれど、せっかくなので何か食べておくことにする。何にしようかなあ。結局、ホットドッグとコーヒー。

ここからはローカルハイウェイをちょこちょこと路線変更しながら南下していく。道を間違わないように地図でルートの確認。

三時すぎ、出発。OR-39 を南東に向かう。

三時半、最後の州、カリフォルニア州に到着。ここから OR-39 は CA-139 に名前が変わる。

天気の心配はまったくないし、制限速度も 55MPH (88km/) から 65MPH (104km/h) に変わるし、ここまでガイコクの文化や作法でしてきた苦労もここから先はなくなる。なんと言ってもカリフォルニアだ。地元だ。「あー、帰ってきたなあ」

CA-139: Welcome to California
CA-139 を南下する。

四時すぎ、Hackamore に到着。地図の確認。

このまま CA-139 を走り続けるよりも、Hackamore から真南に走る道の方がだいぶ近道だし、そちらを使ったらどうかと思うのだが、地図をみると番号も振られていない道だ。行ってみて大丈夫なのかは定かじゃない。

チーフに言ってみる。「たぶん三十分の短縮ができるけれど、ヨネは反対するかな」地図を見ながら「するだろうね」とチーフが答える。

だよなあ。しかし、さすがにこれがダートってことはないんじゃないだろうか。

ちらっとヨネを見ると、ひーちゃんと話をしていておれが何を考えているかはまったく気がついてない様子。ふむ。ヨネには内緒で走ってみよう。ヨネに相談してしまえば、ひーちゃんを守る立場として反対せざるを得なくなるにしても、知らなければ反対のしようもないし、後で喧嘩の原因になったとしても、知らなかったヨネには責任はないはずだ。「いいよね?」一応チーフも共犯にしておく。「大丈夫でしょ」

CA-139 を走り続ける振りをして出発。先頭を走るおれが自信満々に右にそれて行けば、よほどの確信がなければついてくるしかない。

何も書かれていない分岐点から、こっそりと Lookout Hackamore Road へと乗り換える。

見渡す限りの草原を、一直線に南に突っ切る田舎道。どうやら問題はなさそうだ。

その道は最高に気持ちのいい田舎道で、30マイル (48km) ほど走る間に対向車はたったの二台しかすれ違わなかった。賭けは大成功だった。

四時半、Bieber に到着。ガスの補給。トイレに行き、水を補給し、出発。ここから CA-299 を南西に向かう。

右手には 4000m 級の Mt. Shasta が見え、左手には 3000m 級の真っ白な雪山、Lassen が見える。

五時半、CA-89 に乗り換えて南下。目の前に Lassen が見える。以前に来た時はここまで真っ白じゃなかった記憶があったけれど、今日は真っ白だ。そこだけ真冬といった井出達だ。しかし、今からあれに登るのだろうか?

六時すぎ、Lassen Volcanic 国立公園に到着。ここから急激に山を登っていく。

遠くから見えていた真っ白な雪山は、やはり道の脇にはいたるところに残雪がある。そして、標高が上がるにつれ、残雪というよりもふつうの雪山のように変貌していく。寒すぎる。

七時、頂上付近のビスタポイントに到着。ほとんどスキー場だ。さっきまで夏だったのに、もう真冬だ。Lassen の頂上は 3000m くらいなので立山とあまり変わらないはずなのだが、なにゆえこれほど大量に雪が残っているのだろうか。駐車場の脇には 50cm から 1m くらいの高さで雪が残っている。

それにしても寒い、寒すぎる。さっさと降りよう。

七時半、Lassen Vocanic 国立公園を脱出し、CA-36 との分岐点に到着。ここから西に一時間走って Red Bluff に行くルートを取るか、さらに南を目指して Chico に向かうか。

明日、だまって I-5 で帰るのならば Red Bluff に行くべきだが、I-5 を避けて走っていくならば Chico の方がいい。「だったらChico の方がいいね」チーフが言う。もちろんおれは賛成だ。しかし Chico を目指すとなると、一時間ではつかない。二時間コースになる。

今日はそれほどの距離を走っていないとはいえ、つく頃には暗くなっているのは間違いない。ヨネの判断にゆだねる。ひーちゃんに訊く。大丈夫だという。大丈夫としかいいようがないのに訊いているのだからずるい。

よし。んじゃ、行こう。がんばって南に向かうことにしよう。

暗くなるまで頑張って走る時の心の支えは中華だ。ひーちゃんが言う。「今晩はチャイニーズだね!!」おぉ、今日はマズイ中華を食うぞ! みんなの気合も入る。

US-36 を南下する。

七時半、US-32 に乗り換え。あとは Chico まで一本道。この山道をまっすぐ走れば Chico につく。

日も落ち、薄暗くなり始める。真っ暗になる前に着きたい。自然とスピードが上がっていく。

50MPH (80km/h) から 70MPH (112km/) で峠道を攻め続ける。チーフはぴったり着いてくる。もっと速く走ってみろと言われているような気分だ。自然と速度が上がっていく。

八時半、かなり暗くなってきた。

道路わきにバイクを止め、ヨネが追いつくのを待つ。チーフと二人でスピードを出しすぎたため、だいぶ離してしまった。

ほどなくヨネが追いつく。Chico まであと三十分くらいだ。頑張って行こう。

道路に戻って出発した瞬間から、アクセル全開で走る。一瞬、もたついたチーフが後方に消える。これで追いつけないだろう。

どんなにコーナーを速く走っても、必ずストレートで追いつかれてしまうので、ここから Chico までは、絶対に追いつくことができないようにストレートでも速度を緩めずに走ることにしよう。コーナーの立ち上がりからアクセルをあけ、90MPH (144km/h) くらいで巡航する。山道でこれ以上の速度は出せないだろう。

しかし、十分ほど走ったところでチーフのライトが後方に見えた。え!?距離を縮めている?家庭を持つ男としては、これ以上は無理というくらいに頑張ってみたのに、チーフはなんと追いついてきた。ストレートは 100MPH (160km/h) くらい出ているに違いない。むちゃくちゃだ。

八時四十五分、Chico に到着。ガスの補給。トイレでチーフに言ってみた。

「あんなにスピードだしたらアカンって。やりすぎだって」

「『追いつけるものなら追いついてみろ』ってことだと思って、かなり頑張ったよ」

頑張るなっての。まったく、負けず嫌いにもほどがある。

九時、出発。

スタンドで教えてもらったモーテルに、迷いながらも到着。チェックイン。九時十五分。

荷物を降ろしたら、インド人の店主に教えてもらったチャイニーズに向かう。

九時半、チャイニーズバフェに到着。やったー。今日の褒美だー。嬉しくて仕方ない。おなかもペコペコだ。

手当たり次第に皿に取り、食事らしい食事を楽しむ。昨晩デニーズで食べたフライドチキンステーキとは大違いだ。やはり、メシはアジアに限るなあ。

おかわりに立ってみると、スシを発見。チャイニーズのバフェなのにスシもあるのか。

こんな田舎でもスシが食えるとは、スシの市民権は完全に確立されたともいえるし、田舎でもカリフォルニアはカリフォルニアともいえる。

どうしようもないスシを手当たり次第に皿に取ってほお張る。日本で売ったら死刑間違いなしのマズさなのに、うまくて仕方ない。

「今日も遅くまで頑張って走った甲斐があったね」みんなでおいしい晩ご飯に感謝する。ビールもウマイ。

十時半、モーテルに戻る。

シャワーを浴び、テレビをつけ、スポーツニュースをぼんやりと眺める。カリフォルニアなので天気予報は必要ない。

ああ、これが最後の夜なんだねえ。明日には終わっちゃうんだねえ。

  • 総合走行距離: 5572.74 マイル (8968.46 km)
  • 今日の走行距離: 367.05 マイル (590.71 km)
  • 最高速度: 90.2 マイル/時 (145.16 km/h)
  • 移動時間: 7時間13分
  • 移動平均速度: 50.8 マイル/時 (81.8 km/h)
  • 最低最高高度: 1509〜8332 フィート (460〜2540 m)
  • $3.146 x 3.159G = $ 9.94 — 10:27:49 MAZAMA VILLAGE GAS — 569 Mazama Villsage, Crater Lake, OR 97604 
  • $3.279 x 1.975G = $ 6.48 — 14:16:38 ALBERTSONS EXPRESS — 5400 South 6th St., Klamath Falls, OR
  • $3.479 x 2.255G = $ 7.85 — 16:38:25 RED BARN — Hwy 299, Bieber, CA
  • $3.299 x 3.708G = $12.23 — 20:46:24 7-ELEVEN — 1111 Forest Street, Chico, CA




(Sturgis 2006 その16 へ続く)

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