2006年9月17日日曜日

Sturgis 2006 (その16)

(Sturgis 2006 その15 からの続き)

旅の最終日、八月二十日。日曜日。

七時半、起床。早く寝ているせいもあるが、早起きするくせがついている。

ヨネとは九時の約束なので、もう少し寝ていてもいいが、目が覚めてしまったので起きることにする。

だらだらと着替え、荷物を片付け、出発の準備を整える。

とくにすることがなくなり、ESPN でも観てのんびりしていると、チーフがごそごそと布団に入りなおしている。なにをするのかと思ったら、しっかりと寝る体勢になっている。出発の準備が完全に整った後に、まだ寝るか。

準備が終わってから惰眠をむさぼるチーフ

九時、チーフをたたき起こして出発。

朝飯は、昨日の晩飯の時に見つけたマックに行くことにする。

日曜日だし、本当はダイナーでエッグスベネディクトでも食べたいところだが、その気持ちは誰にも理解されない。みんな、エッグスベネディクトが何なのかも知らなければ、ダイナーで朝飯を食うということに対するノルタルジーもない。

八年前にアメリカ人と旅をした時には、朝はダイナーが基本だった。今日はさっさと先を急ぎたいというような日でも、のんきにダイナーで朝飯を食った。その頃は、そんなにこんな食事が嬉しいのかとさんざんバカにしたけれど、今は彼らの気持ちがよく分かる。近くにあったら Perkins に行きたいと、おれも思う。

全てが分かるわけではないし分かる日も来ないと思うけれど、アメリカ文化に対する理解度は、八年前と比べると千倍くらいになっていると思う。

さて、朝マックだ。注文は決まっている。ソーセージエッグマフィン。飲み物はコーヒー。そんなこと聞くなとすら言いたい。

出てきたハッシュドポテトが少し欠けていたので、丁寧に換えてもらうように言うと、同じものを上下逆さまに入れなおして持ってきた。はあ。わざわざ朝から気分を悪くさせてくれる必要はないのになあ。店長の前でボロカス言ってやってもいいのだが、どうせ店長も、そんなことくらいでそんなに怒ることもないだろうと言う態度を取るんだろう。しょせん、ヘボ田舎のマックだ。言うだけ無駄なので、ダメな客を甘んじて受け入れる。どうせ二度と来ないし、積極的に来ないという態度を取ることもできないし、対抗する手段がない。

チーフは相変わらずグリドルズを食べている。本当はソーセージエッグマフィンが食べたいはずなのに、おれを騙すためだけに、よく我慢して食べられるなあ。それにしても、いったい、どんな味がするのだろう。

九時四十分、出発。CA-99 を南下。ああ、もうすぐ旅は終わる。

I-5 の何倍もましとはいえ、CA-99 はどこまで行っても町の中。しかもアメリカの全ての都市部の郊外に見られるような典型的な店ばかりが立ち並び、観るべきもは何もない。アメリカに暮らしている人なら全ての人が知っているような大型量販店ばかりが目に付く。

ところどころの交差点で信号に止められながら黙って CA-99 を南下。

十一時すぎ、Sacramento に到着。街を抜けるために I-5 に乗る。

街を抜けたところで CA-160 に乗り換えるための Exit を探す。GPS でみるとそろそろだ。Exit-511 のところで、CA-160 まで 1マイルと書いてあった。次の Exit で降りればいいのだろう。いつでもインターステートを降りられるように一番右側の車線でのんびり走る。

が、どこまで走っても Exit がない。4マイルほど走ったところにやっと Exit があった。さすがにだいぶ南に来すぎてしまっているが、降りるしかないので降りる。このまま I-5 を南下して帰ることもできるし、その方が早いのだが、そんなつまらない帰り方はない。四年前の最終日は L.A. から I-5 で一気に北上して帰ってきたが、やはり罰ゲーム以外の何ものでもなかった。

十一時二十分、Exit-507 を降りて、とりあえずガスの補給。CA-160 に戻る道がないかを探してみる。

しかし、どれだけ走ってもそれらしい道がない。1マイル (1.6km) ほど西に走ることができれば CA-160 にぶつかるのに、東西に走る道がひとつもない。I-5 を境に完全に東西に分断されているらしい。

うーん、さっきからうろうろして時間を無駄にしているだけだ。やっぱり、急がば回れか。面倒くさいけれど I-5 を戻って Exit-511 でおりよう。そこから東に走っていけば必ず CA-160 にぶつかる。

十一時四十五分、Exit-506 から I-5 を北上。Sacramento に向かう。

ほどなく Exit-511 をおり、難なく CA-160 を発見。やはり、最初からここで降りていればよかったのだ。世界中の全ての道路標識にいえることだが、なにゆえこんなに不適切なサインが作れるのだろうか。地元の人には関係ないし、通りすがりの人は公式に文句を言わないので永久に改善されないということなのだろうが。

十二時、CA-160 を南下。河沿いののんびりした道。

見ると、ぜんぜん綺麗な河でもないのにクルーザやら水上スキーやら、好き放題に若い連中が遊んでいる。このあたりの人は、この河でしかそういう遊びができないのだろうが、日本だったら、こんな河でそんな風には遊ばない気がする。まあ、その前に、クルーザで遊んだりすること自体がアメリカほど一般的なことではないわけだが。

十分ほど走ると、CA-160 が河の反対側に移動。橋で渡る必要がある。

と思ったら、その橋が動いている。さっきみた大きな船を通すために、橋そのものが動いている。可動橋だ。アメリカではそこら中で見るが、日本ではほとんど見なくなった。

そういえば、アメリカで一番最初に住んだ町にも可動橋があり、しかもダウンタウンに近いところにあったので、それが動いてるところを見たときは、凄くびっくりした。橋が動いている間、黙って十分以上も待たされるのだ。大らかさを強要される仕組みはアメリカ社会のあらゆるところに見られるが、可動橋もそのひとつだろう。

最初は、なんでこんな無駄なことをするのか分からなかったのだが、調べてみたら可動橋の方が固定橋よりもかなり安く作れるということを知ってびっくりした。つまり、みんなが大らかに待つことを受け入れられれば、インフラのコストを削減できるというわけだ。日本では、質の低いサービスは受け入れられないし、高い橋を作る方がゼネコンも政治家も嬉しいのだから、絶対に受け入れらないのだろう。

二十分ほど、ただその橋が上下して船が通過するのを待つ。橋が下りたところで出発。向こう岸に渡り、CA-160 を南下。

十二時四十分、道路のわきにタコスの屋台を発見。ここで昼飯にしよう。

「ウノ アサダ」 ビーフタコをひとつ。

見たこともないソーダ瓶を、みんなであれこれいいながら飲む。説明されてもよく分からない。

天気もいいし、屋台で安いタコスを食べられて、幸せだ。こんなところに屋台があるというのは、やっぱりカリフォルニアに帰ってきたなあ。ラティーノと触れ合えて、幸せそうなヨネとひーちゃん。

ちなみに、この昼飯でひとつびっくりしたことがあった。それは、ヨネもひーちゃんも L.A. にいるのにスペイン語が喋れないこと。L.A. にいるならスペイン語から勉強するべきだろ。

おれも喋れるわけじゃないが、挨拶もできるし、数も数えられる。アメリカに住んでたら誰でもできるレベル。「まずは英語」とヨネは言ったが、そういえばおれもそう言ったことがある。まだ英語に自信がまったくなかったころ、スペイン語なんてひとつでも覚えたら大損だくらいに思っていた気がする。でも、ヨネは英語は上手なんだから、もうスペイン語を勉強するべきだと思うけどなあ。まあ、おれも知らないうちに覚えていただけのことだし、ヨネもそのうち数くらいは数えられるようになるんだろう。

一時、おなかも満足したし、出発。

一時十五分、また可動橋で向こう岸に渡る。今度は待たされずにすんだが、もとに戻るなら最初から河の東側を走ってくれば良かった。そうすればさっきの可動橋で待たされずに済んだ。って、それだとタコスも食えなかったけれど。

河口に近づくにつれ、風がどんどん強くなっていく。もうすぐ河が終わるという合図だ。

一時半すぎ、CA-4 に乗り換え。中央分離帯もあるしニ車線の大きな高速道路になった。田舎道の旅は終わりだ。あとは、インターステートを乗り継いで帰るだけだ。

CA-4 から CA-242、I-686、CA-24 と乗り継ぎ、二時十五分、Oakland に到着。I-580 に乗り換え。

ああ、帰ってきた。ここからは地図がなくても帰ることができる。見慣れた風景が目に飛び込んでくる。終わっちゃったなあ。

行きは Dumbarton 橋を渡ってきたから帰りは San Mateo 橋を渡るか。会社のまん前を走り、US-101 を南に向かう。

三時、US-101 を降り、信号を待っている間にすかさず自宅に電話する。「今、101 を降りた。んじゃ」

ほどなく我が家に到着。ああ、終わった。なにはともあれ、無事に終わってよかった。

ガラージの前で、子供たちが大喜びで騒いでいる。バイクを止め、ヘルメットを取る。「ただいま!!」 「おかえり〜!!」

息子が大喜びで抱きついてくる。少し見ない間に、また大きくなったようだ。

娘の顔はこわばっている。こちらをずっと見ているが、目が合うと目をそらす。まだ人見知りをするとはいえ、おれはお父さんだよ。頼むよ。決して、お母さんから離れようとしない。ちょっと悲しいが、自業自得とも言う。

ああ、終わったなあ。本当に終わったなあ。

まだまだバイクに乗ってたかったけれど、やっぱり終わっちゃったなあ。いつか、終わらないほど長い旅をしてみたいけれど、チーフは三ヶ月の旅もあっという間に終わったと言ってたし、どれだけ走ってもキリはないんだろうな。

とにかく、みんな無事に帰ってこれてよかった。またいつか、みんなで走りたいね。

おつかれさまでした
  • 総合走行距離: 5811.61. マイル (9352.88 km)
  • 今日の走行距離: 238.85 マイル (384.39 km)
  • 最高速度: 83.1 マイル/時 (133.74 km/h)
  • 移動時間: 4時間14分
  • 移動平均速度: 56.3 マイル/時 (90.6 km/h)
  • 最低最高高度: -61.3〜830 フィート (-18.7〜253 m)
  • $3.229 x 2.868G = $ 9.26 — 11:23:25 SHELL — 9100 Harbour Point, Elk Grove, CA



2006年9月16日土曜日

Sturgis 2006 (その15)

(Sturgis 2006 その14 からの続き)

旅の十五日目、八月十九日、土曜日。

七時半、起床。空は真っ青。風もない。気持ちいい。

外に出てみるとチーフがお湯を沸かしている。なるほど、その物音で目が覚めたのだな。

お湯が沸いたらさっそくインスタントのみそ汁を作るチーフ。いい香り。自分もお湯を沸かし、チーフにみそ汁の元をもらう。ウマイ。

みそ汁を飲み干すと、胃がおきてきたのか、さらにおなかが空いてくる。目の前の柿の種をかじりながら、何を食べるか考える。

Mazama Campground at Crater Lake

そうだ、きのうビレッジで買ってきたマフィンがあった。マフィンを食おう。

しかし、「そうなるとコーヒーが欲しいね」チーフが言う。そうか、ヨネが起きてこないとコーヒーが飲めないんだ。

さっきからごそごそしているのに、まったく起きる気配のないヨネとひーちゃん。まあ、急ぐこともないし、好きなだけ寝ててくれていい。

仕方ないので、コーヒーなしでマフィンをほおばる。飲み物なしというのも悲しいので、どこでもらって来たかも分からないお茶を飲むことにする。それぞれはおいしいのに、ふたつはまったく合わない。

おなかも満足したので、キャンプ道具を片付けて、準備をしよう。すると、やっとヨネとひーちゃんが起きてきた。おはよう。

二人が朝飯を食べている間に、テントを日向に移動して乾かす。乾かしている間にトイレに行って顔を洗う。さっぱり。テントが十分に乾いたら、たたんで、バイクに積む。チーフとおれは、出発の準備が完了。

三十分以上も遅くおきてきたヨネとひーちゃんは、まだ当分、出発の準備は整いそうにない。どうしようかな。

十時前、ビレッジの方に先に行って、そっちで待っていることにする。おれとチーフを目の前でずっと待たせている状態というのも急かされているみたいで気を使うだろうし、待っているだけのこっちも特にすることがない。ビレッジに行けばお土産屋をぶらぶらすることもできるし、コーヒーもある。

「んじゃ、ビレッジで待ってるね」

チーフと二人でビレッジに行く。コーヒーを買い、外のベンチでのんびりと飲む。気持ちいい朝だなあ。

地図を開いて今日のルートを検討する。

明日は夕方までにバイクを返す必要があるから、昼すぎにはおれの家で荷物を降ろしていたい。そうなると、今日は Redding が最低ライン。できれば、Redding よりも南まで行きたい。近ければ近いほど、明日が楽になる。

I-5 で南下すればどこまででも行けるのだが、それはできるだけ避けたい。I-5 を使わずに南下するルートでどこまでいけるか検討する。

すると一人の金髪の女性がとなりのランドリールームから出てきた。ミニスカートに、かなり胸元が開いたきわどい服。小さな犬を散歩させている。アウトドアとは対極の井出達。

まわりにいた全ての男が、何も見なかったことにしようと不自然な動きになる。何も見ていないし、見ようともしていないということを証明するために、体を硬直させ、体のどの部分も動かさないように気を使う。

しかし、そこにいたすべての男のサングラスの奥に光る目は、その女性の胸に釘付けになっていた。ぱっくり開いた胸元は、彼女の自慢の胸を強調するように不自然に開けっぴろげだった。

めちゃくちゃ見たいのに、誰もそんなそぶりは見せない。彼女が通り過ぎるタイミングでなにげなく振り向いて確認したりしている。

首から下は、ほしのあき。近くで見たすぎる。

すると、女はおれとチーフが座っていたベンチのまん前にきて、わざとらしく大きく足をあげて組み、真正面に座った。まわりの男の羨ましそうな視線がおれとチーフに降り注ぐ。いきなり S席になった。胸の谷間がすぐそこにある。

女は、その場の全員の男の視線を明らかに楽しんでいる。そこまで大きくするのにいくらかかったのかは知らないが、男の視線を独占できてかなり気分がいいだろう。

あまりにゴージャスな胸を目の前に、ほしのあきの話題で二人で盛り上がる。三十路には見えないとか、努力家だとか、まさにどうでもよすぎる話題に花を咲かす中年。視線はずっと女の胸の辺りを泳いでいる。

「しかし、ヨネは大損したね」チーフが言う。御意。早起きは三文の得だ。われわれは、今日という日をもっとも素晴らしい方法でスタートすることができたが、ヨネはほしのあきに会い損ねたのだ。

十時半、ヨネとひーちゃんがビレッジに到着。ガスを給油して、出発だ。時計回りに湖畔を一周する。

ビスタポイントのたびに止まり、目の前の美しい湖にため息をつく。

Crater Lake National Park in Oregon


十二時半、ビスタポイントの手前で交通整理の警察がいた。何かと思ったら、事故があったらしい。ぐしゃぐしゃに壊れた自転車とハーレーが、道路の脇にとめてある。二輪同士の事故だ。

バイク乗りはふつうに警察に受け答えしていて怪我はない様子だが、自転車の方の人はいない。

道路には生々しい血の跡がかなり広範囲に残っていて、大量に出血した様子がうかがえる。

現場の状況から考えて、長い下り坂をかなりのスピードで降りてきた自転車が右カーブを曲がりきれずに反対車線のバイクに激突した感じだ。バイクの車線はブラインドのカーブが終わった直後の直線だし、ビスタポイントの手前なので見通しもよく、スピードは出ていなかったと思われる。

バイク側に落ち度がなかったとしたら、それは自分だったかも知れないわけで、なんとも言えない気分になる。(残念ながら、この自転車乗りの方は先日亡くなった)

そういえば、もう昼過ぎだ。気がつくとけっこうおなかが空いている。どうしよう。昼が食べられそうなところは当分はない。湖を一周して Mazama ビレッジに戻れば何かあるだろうが、もう戻りたくない。とりあえず持っているものを食べておくことにしよう。ピーナッツとビーフジャーキーでお茶を濁す。

あまりに寂しい昼食を見かねたのか、ひーちゃんがシナモンロールをくれるという。そんな豪華な食べ物をくれるって、どんな富豪や。

ひーちゃんの気が変わる前に急いでもらうことにする。うーん、ウマイ。子供の頃は好きじゃなかったのに、今は大好きなシナモンロール。

てきとうに空腹を満たしたら出発。

一時すぎ、湖の淵を一周し、OR-62 に出る。昨日来た道を南に戻る。

二時前、US-97 に合流。Upper Klamath Lake の湖畔を南下。

右手に走る線路の向こう側に、脱線して転倒したままの列車がそのまま放置されている。そのままでも誰も困らないのか、困る人はいるけれど対処するためのコストを払えないのだろう。そういえば、コロラドのデュランゴでも、谷底に落ちたまま放置されている汽車を見たなあ。

二時すぎ、Klamath Falls に到着。OR-39 に乗り換え。

五分後、Altamont で ガスの補給。

湖畔の道は車も多くて、けっこう疲れた。休憩。とくにおなかは空いてないけれど、せっかくなので何か食べておくことにする。何にしようかなあ。結局、ホットドッグとコーヒー。

ここからはローカルハイウェイをちょこちょこと路線変更しながら南下していく。道を間違わないように地図でルートの確認。

三時すぎ、出発。OR-39 を南東に向かう。

三時半、最後の州、カリフォルニア州に到着。ここから OR-39 は CA-139 に名前が変わる。

天気の心配はまったくないし、制限速度も 55MPH (88km/) から 65MPH (104km/h) に変わるし、ここまでガイコクの文化や作法でしてきた苦労もここから先はなくなる。なんと言ってもカリフォルニアだ。地元だ。「あー、帰ってきたなあ」

CA-139: Welcome to California
CA-139 を南下する。

四時すぎ、Hackamore に到着。地図の確認。

このまま CA-139 を走り続けるよりも、Hackamore から真南に走る道の方がだいぶ近道だし、そちらを使ったらどうかと思うのだが、地図をみると番号も振られていない道だ。行ってみて大丈夫なのかは定かじゃない。

チーフに言ってみる。「たぶん三十分の短縮ができるけれど、ヨネは反対するかな」地図を見ながら「するだろうね」とチーフが答える。

だよなあ。しかし、さすがにこれがダートってことはないんじゃないだろうか。

ちらっとヨネを見ると、ひーちゃんと話をしていておれが何を考えているかはまったく気がついてない様子。ふむ。ヨネには内緒で走ってみよう。ヨネに相談してしまえば、ひーちゃんを守る立場として反対せざるを得なくなるにしても、知らなければ反対のしようもないし、後で喧嘩の原因になったとしても、知らなかったヨネには責任はないはずだ。「いいよね?」一応チーフも共犯にしておく。「大丈夫でしょ」

CA-139 を走り続ける振りをして出発。先頭を走るおれが自信満々に右にそれて行けば、よほどの確信がなければついてくるしかない。

何も書かれていない分岐点から、こっそりと Lookout Hackamore Road へと乗り換える。

見渡す限りの草原を、一直線に南に突っ切る田舎道。どうやら問題はなさそうだ。

その道は最高に気持ちのいい田舎道で、30マイル (48km) ほど走る間に対向車はたったの二台しかすれ違わなかった。賭けは大成功だった。

四時半、Bieber に到着。ガスの補給。トイレに行き、水を補給し、出発。ここから CA-299 を南西に向かう。

右手には 4000m 級の Mt. Shasta が見え、左手には 3000m 級の真っ白な雪山、Lassen が見える。

五時半、CA-89 に乗り換えて南下。目の前に Lassen が見える。以前に来た時はここまで真っ白じゃなかった記憶があったけれど、今日は真っ白だ。そこだけ真冬といった井出達だ。しかし、今からあれに登るのだろうか?

六時すぎ、Lassen Volcanic 国立公園に到着。ここから急激に山を登っていく。

遠くから見えていた真っ白な雪山は、やはり道の脇にはいたるところに残雪がある。そして、標高が上がるにつれ、残雪というよりもふつうの雪山のように変貌していく。寒すぎる。

七時、頂上付近のビスタポイントに到着。ほとんどスキー場だ。さっきまで夏だったのに、もう真冬だ。Lassen の頂上は 3000m くらいなので立山とあまり変わらないはずなのだが、なにゆえこれほど大量に雪が残っているのだろうか。駐車場の脇には 50cm から 1m くらいの高さで雪が残っている。

それにしても寒い、寒すぎる。さっさと降りよう。

七時半、Lassen Vocanic 国立公園を脱出し、CA-36 との分岐点に到着。ここから西に一時間走って Red Bluff に行くルートを取るか、さらに南を目指して Chico に向かうか。

明日、だまって I-5 で帰るのならば Red Bluff に行くべきだが、I-5 を避けて走っていくならば Chico の方がいい。「だったらChico の方がいいね」チーフが言う。もちろんおれは賛成だ。しかし Chico を目指すとなると、一時間ではつかない。二時間コースになる。

今日はそれほどの距離を走っていないとはいえ、つく頃には暗くなっているのは間違いない。ヨネの判断にゆだねる。ひーちゃんに訊く。大丈夫だという。大丈夫としかいいようがないのに訊いているのだからずるい。

よし。んじゃ、行こう。がんばって南に向かうことにしよう。

暗くなるまで頑張って走る時の心の支えは中華だ。ひーちゃんが言う。「今晩はチャイニーズだね!!」おぉ、今日はマズイ中華を食うぞ! みんなの気合も入る。

US-36 を南下する。

七時半、US-32 に乗り換え。あとは Chico まで一本道。この山道をまっすぐ走れば Chico につく。

日も落ち、薄暗くなり始める。真っ暗になる前に着きたい。自然とスピードが上がっていく。

50MPH (80km/h) から 70MPH (112km/) で峠道を攻め続ける。チーフはぴったり着いてくる。もっと速く走ってみろと言われているような気分だ。自然と速度が上がっていく。

八時半、かなり暗くなってきた。

道路わきにバイクを止め、ヨネが追いつくのを待つ。チーフと二人でスピードを出しすぎたため、だいぶ離してしまった。

ほどなくヨネが追いつく。Chico まであと三十分くらいだ。頑張って行こう。

道路に戻って出発した瞬間から、アクセル全開で走る。一瞬、もたついたチーフが後方に消える。これで追いつけないだろう。

どんなにコーナーを速く走っても、必ずストレートで追いつかれてしまうので、ここから Chico までは、絶対に追いつくことができないようにストレートでも速度を緩めずに走ることにしよう。コーナーの立ち上がりからアクセルをあけ、90MPH (144km/h) くらいで巡航する。山道でこれ以上の速度は出せないだろう。

しかし、十分ほど走ったところでチーフのライトが後方に見えた。え!?距離を縮めている?家庭を持つ男としては、これ以上は無理というくらいに頑張ってみたのに、チーフはなんと追いついてきた。ストレートは 100MPH (160km/h) くらい出ているに違いない。むちゃくちゃだ。

八時四十五分、Chico に到着。ガスの補給。トイレでチーフに言ってみた。

「あんなにスピードだしたらアカンって。やりすぎだって」

「『追いつけるものなら追いついてみろ』ってことだと思って、かなり頑張ったよ」

頑張るなっての。まったく、負けず嫌いにもほどがある。

九時、出発。

スタンドで教えてもらったモーテルに、迷いながらも到着。チェックイン。九時十五分。

荷物を降ろしたら、インド人の店主に教えてもらったチャイニーズに向かう。

九時半、チャイニーズバフェに到着。やったー。今日の褒美だー。嬉しくて仕方ない。おなかもペコペコだ。

手当たり次第に皿に取り、食事らしい食事を楽しむ。昨晩デニーズで食べたフライドチキンステーキとは大違いだ。やはり、メシはアジアに限るなあ。

おかわりに立ってみると、スシを発見。チャイニーズのバフェなのにスシもあるのか。

こんな田舎でもスシが食えるとは、スシの市民権は完全に確立されたともいえるし、田舎でもカリフォルニアはカリフォルニアともいえる。

どうしようもないスシを手当たり次第に皿に取ってほお張る。日本で売ったら死刑間違いなしのマズさなのに、うまくて仕方ない。

「今日も遅くまで頑張って走った甲斐があったね」みんなでおいしい晩ご飯に感謝する。ビールもウマイ。

十時半、モーテルに戻る。

シャワーを浴び、テレビをつけ、スポーツニュースをぼんやりと眺める。カリフォルニアなので天気予報は必要ない。

ああ、これが最後の夜なんだねえ。明日には終わっちゃうんだねえ。

  • 総合走行距離: 5572.74 マイル (8968.46 km)
  • 今日の走行距離: 367.05 マイル (590.71 km)
  • 最高速度: 90.2 マイル/時 (145.16 km/h)
  • 移動時間: 7時間13分
  • 移動平均速度: 50.8 マイル/時 (81.8 km/h)
  • 最低最高高度: 1509〜8332 フィート (460〜2540 m)
  • $3.146 x 3.159G = $ 9.94 — 10:27:49 MAZAMA VILLAGE GAS — 569 Mazama Villsage, Crater Lake, OR 97604 
  • $3.279 x 1.975G = $ 6.48 — 14:16:38 ALBERTSONS EXPRESS — 5400 South 6th St., Klamath Falls, OR
  • $3.479 x 2.255G = $ 7.85 — 16:38:25 RED BARN — Hwy 299, Bieber, CA
  • $3.299 x 3.708G = $12.23 — 20:46:24 7-ELEVEN — 1111 Forest Street, Chico, CA




(Sturgis 2006 その16 へ続く)

2006年9月15日金曜日

Sturgis 2006 (その14)

(Sturgis 2006 その13 からの続き)

旅の十四日目、八月十八日。金曜日。

八時、起床。

さっさと着替えて朝飯だ。空港のそばのモーテルだけあって、当然ながらコンチネンタル・ブレックファストがある。久しぶりの贅沢な朝食に心も弾む。ドーナツとシナモンロールに、コーヒーとオレンジジュースで攻めることにする。まさにアメリカ人の朝食スタイル。

九時半すぎ、贅沢な朝食を満喫し、だらだらと準備を済ませ、出発。まずは目の前スタンドで給油。地図を開いてみんなでルートの確認。さーて、今日もがんばって走りますか。

十時、スタンドを出発。まずは目の前の I-84 に乗り、町から脱出だ。

朝の遅い時間なのに、町だけあってかなり車が多い。こんな道は事故の元だ。さっさと降りなくていけない。

30マイル (48km) ほど走って Caldwell に到着。インターステートから脱出。

十時半、US-20 を北上。帰る方向とは反対だが、昨日、Boise まで南下したツケを払う必要がある。

十一時、オレゴンに突入するも気づかずに走り続ける。GPS で確認したら、州境を過ぎたように見えるんだけれど、州境の看板はあったかなあ。

後ろのチーフに聞いてみると、州境の看板を見たという。おれが見逃しただけだったか。以前 US-97 で見たオレゴンの看板をイメージしていたので、何の変哲もないつまらない看板を見逃したらしい。悔しいので戻ることにする。

US-20: WELCOME TO OREGON

さて、オレゴンだ。ヘルメットなしの自由もここまでだ。ここから自宅まではずっとヘルメットが必要になる。久しぶりのヘルメットはすごく重く感じる。

「オレゴンといえば『オレゴンから愛』だね」 とひーちゃんが言う。懐かしいなあ。しかし、ヨネは知らないという。知らない日本人がいたのにびっくりする。

「オレゴンから愛」とは全然関係ないのに、なぜかそれ以後、「北の国から」の主題歌が「おれTunes」に登録され、うるさいほどかかりまくることになる。

それまでは、ラジオを聴いているとき以外の「おれTunes」は、天気が悪い時は SRV の「Couldn't Stand the Weather」がよくかかっていた。それがかかると自動的に「Voo Doo Chile」がかかり「Pride and Joy」がかかる。ちなみに「Pride and Joy」の女性は、以前は女房だったのに今は娘になっている。この歌がかかると娘に会いたくなって仕方がなくなる。「She's my sweet little baby. I'm her little lover boy〜♪」

また、天気がよい時は、Lazytown の曲が流れっぱなしになる。「Welcome to Lazy Town」から「There's Always A Way」「Teamwork」と、順番に熱唱する。ハーレーで田舎道をぶっとばしながら「Teamwork do it together. Teamwork friends forever〜♪」と幼児番組の歌を大声で歌っている中年。ちょっと心配になるが、それがおれの今の実力なのだから仕方ない。

それにしても、今回の旅は、ラジオよりも「おれTunes」を聴いてる時間の方が圧倒的に多かった。

US-20/26 を北上し、十一時過ぎ、Morgan からやっと西進。ここまでは、Boise まで南下してきたツケを払う旅。本番はここからだ。

オレゴンに入ったとたん、何もない田舎道なのに 55MPH (88km/h) 制限となる。アイダホを抜けているのでモンタナの白バイ兄ちゃんの教えを忘れてもいい。10マイルオーバーくらいで走っている。だが、それでも 65MPH (104km/h) なのだから、かなりのんびり走っているように感じられる。同じ道がカリフォルニアならば 65MPH 制限、つまり 75MPH (120km/h) で走れるのに、何が目的なんだろうか。

十一時半、Vale から US-26 と分岐して US-20 を西進。ここから先は砂漠だ。砂漠の小さな山の間をうねりながら抜けていく。

この軽いワインディングで、ヨネのカーブの速度がだいぶあがっていることに気づく。今までだったらコーナーを二つも抜けたら後ろにはいなくなっていたのに、ここでは四つくらい越えてもまだ見えていた。毎日いやというほど走りまくっていることで、二人乗りも完全に板についてきたし、バイクが倒れる角度もだいぶついてきたようだ。

十二時半、約二週間ぶりに太平洋夏時間に時計が変わる。時計の針が一時間戻って十一時半に変更。バイクの時間も体内時計もずっと太平洋時間のままだったので何も変更なし。

一時間後の十二時半、Burns に到着。ガスの給油と昼飯。

一時半すぎ、出発。

二時過ぎ、US-395 に乗り換え。ぽかぽかと暖かい日差しが気持ちよすぎて、とにかく眠い。大声で「北の国から」の主題歌を歌って眠気をさますが、それでも眠い。

途中、「あぁあ〜♪」と「北の国から」を最初から歌っていたら、二小節目から「大都会」に変更できることに気づく。何度も交互に歌ってみて確認する。富良野の田舎が大都会か。いくら暇でも、そんなことを真剣に考えている自分はどうなのかと自問する。

二時半、砂漠のど真ん中、Wagontire で右手にスタンドを発見。オアシスだ。多くのバイク乗りが休憩している。

ガスはまだあるので寄る必要はなかったが、眠すぎて怖かったので休憩することにする。

「『北の国から』と『大都会』は、最初は一緒なんだよ」とみんなに教えてあげたが、「へえ」と言いながら誰も本気では関心を示さなかった。自分としては凄い発見だと思っていたのに。まあ、眠くて頭が回ってないだけなんだろう。後で、もう一回教えてあげよう。

十五分ほど気分転換して、ひーちゃんに新しいガムをもらって出発。

US-395: Wagontire in Oregon

三時、US-395 から Chirismas Valley Wagontire Road に乗り換えて西進。さらに砂漠の道が続く。

Chirismas Valley Wagontire Road in Oregon

オレゴンは緑が豊かなイメージがあったのだが、今回東西に横断してみてそれが誤解だということが分かった。オレゴンは、西側は緑豊かだけれど、東側はただの砂漠。不毛の大地だ。この日は天気はすごく良かったが気温はそれほど高くなく、走っていれば気持ちいい気温だったこともあり、オレゴンの東半分は涼しいネバダ州のように感じた。

三時半、Chirismas Valley に到着。ガスの補給。

四時、出発。十分後、Silver Lake に到着。湖とは言ってもドライレイクなので水はない。OR-31 を西進。

四時半、Bear Flat Road に乗り換えて西進。

五時、US-97 に合流。

さて、ここから US-97 を 35マイル (56km) ほど南下して OR-62 を北上していくルート以外に、US-97 を素通りして、この先の州立森林公園の中を南下していくルートがある。地図で確認すると、州立公園ルートの方がかなり近い道になる。

問題は、だいたい 3マイル (4.8km) くらいのダートを走らないといけないということだ。

時間もだいぶ押しているし、できればこのショートカットで行きたいと思うが、ダートを二人乗りするのはかなり大変だ。ヨネが何ていうか聞いてみる。

すると、その 3マイルを我慢すればかなり時間が短縮できそうなんだし、行ってみようという。おぉ、そう言われると嬉しい。自分だったらかなり躊躇しそうだし、無理強いするつもりはなかったのだけれど、ヨネから積極的な意見が出たことで、おれとチーフの迷いも消えた。行こう。

US-97 を素通りし、西進を続ける。

先頭を走るおれの視界を遮るものは何もないが、おれの後ろを走る二人は、おれが巻き上げる砂埃で前が何も見えない。たまらずに車間距離をあける。

予定通り、3マイルほど走ったところで州立森林公園を南北に縦断するルートに合流した。しかし、あろうことかその縦断ルートも未舗装道路だった。「ダ、ダートなのかよ…」

たったの 3マイルで済むつもりだったから選択したルートだったのに、なんてこった。うーむ。どうしようか。

せっかく走ったダートを戻るのも馬鹿馬鹿しすぎるし、きっとこのダートもすぐに終わるはずだ。下まで全部がダートなワケがない。地図を確認してもダートの印はないのだ。意を決して南下することにする。

とりあえずヨネを先頭にして、おれがしんがりを務めることにしよう。先頭なら砂埃の中を走る必要はない。

ときどきかなり深い砂利にハンドルが取られそうになりながらも、我慢の走りでダートを南下する。しかし、いつ終わるんだろうか。

一人で乗っていてもかなり辛いのだから、二人乗りはさぞかし辛いだろうと思う。また、運転している方はハンドルを持っているのである程度は対応が取れたとしても、後ろのにっている方はたまらないと思う。執拗に続く大きな振動に、脳みそが溶けて耳から出てきそうになってるんじゃないだろうか。

そのダートは結局 OR-62 に出るまで、15マイル (24km) ちかくも続いた。嫌がるヨネをおれとチーフで無理やり説得したような形じゃなくて、よかった。このダートは酷すぎる。詐欺にもほどがある。

ダートは続くよどこまでも at Sun Pass State Forest in Oregon


「だから嫌だって言ったのに、五分で終わるからお願いだって、何度も何度も言うから、五分だけだからねって言ったのに、もう二度と信用しないからね!!!」なんて言って、ひーちゃん、ブチギレしてたりしないだろうか。

奥さんを後ろに乗せて走っていた当時、つまらないことでよく喧嘩したと言っていた友人の話をみんなで思い出す。結局、こういう細かい詐欺の繰り返し、積み重ねが最終的な決断へと結びつくのだろう。「これは確実に離婚の要因のひとつだね」 いきなり離婚の危機を迎えるヨネとひーちゃん。

六時、やっと OR-62 に到着。舗装された道路は快適そのもの。さーて、クレーターレイクまで北上だ。

六時半、クレーターレイクに到着。訊くと、キャンプサイトに空きはある。良かった。

小さな国立公園だし、それほど多くの人が訪れる場所でもないから空きがないなどという事態は考えてなかったけれど、キャンプ大好きアメリカ人のことなので、楽観はできないと思っていた。まあ、回りにはたくさんキャンプ場があるから、ここがダメでも他に行けばいいと思っていたけれど。

七時、Mazama Village に到着。

受付でキャンプサイトを確保しようと思ったら、キャンプサイトを回って空いてるサイトの札をもってこいと言う。実際にサイトを見て場所を決めろということだ。

三台でかなり広いキャンプ場をぐるぐると回って様子を窺う。が、ほとんど埋まっていて選択肢はほとんどない。

こんなに広いキャンプ場がほとんど埋まっているなんて、日本ではまず考えられない。しかも、ここは規模も小さく大人気という国立公園でもないし、金曜日だ。アメリカ人のキャンプ好きは本当に感心するしかない。

大きさによって若干値段が違うサイトだが、値段よりもロケーションを選択。残っていた中では、なかなかいいところを確保できた。

サイトの入り口にあった札を取り、受付まで持っていく。その札がないサイトは確保されたという意味になる。

さっき説明をしてくれた受付の親父に言われる。

「あれ?友達はどうしたんだい?ひとりで金を払ってこいって言われたのかい?」

「まあ、そんなところ」

「チケットを持って戻ったときに、彼らがいい場所でテントをさっさと張ってるかどうかで、友情の具合が分かるね」

「確かに、みんないいところに張ってて、おれにはロクでもないところしか残ってなかったから頭にくるなあ」

果たしてサイトに戻ってみると、テントはひとつも張られてなかった。おー、真の友達だ。本当はなんでさっさと張ってないのか分からないけれど、どこに張るかは今からみんなで公平に探せるわけだ。嬉しいなあ。

あたりはだいぶ薄暗くなってきた。テントをさっさと張り、ビレッジに晩飯と薪の買いだしに行く。

火さえ通せば適当に食べられそうなものをいくつか買い、キャンプサイトに戻る。

薪に火をおこし、ランタンに火をつける。

買ってきた肉と野菜を焼き、適当な味付けで食べる。玉ねぎやじゃがいもをホイル焼きにして食べる。ウマイ。火が通って塩気があれば、ほとんど何を食ってもウマイと感じられる。ビールもウマイ。

明日はいけるところまで行って最後のモーテルになるから、今夜が最後のキャンプということになる。

ここまで何度もキャンプしてきたけれど、風もなく、雲もなく、寒くもなく、今回の旅ではもっとも快適なキャンプだ。

焚き火を囲んで、結婚や離婚からアメリカでの生活や仕事のことなど、たわいもない話に花を咲かせる。お互いの共通の友人の話題を肴に盛り上がる。

毎日こうやってくだらない話をしているのに、話は尽きない。本当に楽しいなあ。

空を仰ぐと満天の星空。イエローストーンの空も綺麗だったけれど、ここは周りの全ての木がかなり高いので、空がすごく低く見える。天の川に手が届きそうだ。

のんびりと天を眺めていると、ときどき流れ星が見える。人工衛星ばかり見つけて流れ星を見られないひーちゃんは悔しそうにずっと空を見ている。疲れて下を向いた瞬間に流れ星が線を描く。

しかし、キャンプは最高だなあ。今度の旅は、もっとたくさんキャンプがしたいなあ。はやく子供たちを連れてキャンプに来たいなあ。

ああ、もうすぐこの旅も終わるんだなあ。

  • 総合走行距離: 5205.70 マイル (8377.76 km)
  • 今日の走行距離: 409.97 マイル (1335.06 km)
  • 最高速度: 89.2 マイル/時 (143.6 km/h)
  • 移動時間: 7時間02分
  • 移動平均速度: 58.2 マイル/時 (93.7 km/h)
  • 最低最高高度: 2147〜6070 フィート (654〜1850 m)
  • $3.199 x 3.192G = $10.21 — 09:42:35 AIRPORT CHEVRON — 2828 Airport Way, Boise, ID 
  • $3.409 x 4.297G = $14.65 — 12:23:57 L.R. SWARTHOUT — 19 W. Monroe St., Burns, OR 97720
  • $3.429 x 2.607G = $ 8.94 — 02:35:27 CHRISTMAS VLY MARKET — 87497 Valley Hwy, Christmas Valley, OR

(Sturgis 2006 その15 へ続く)

2006年9月14日木曜日

Sturgis 2006 (その13)

(Sturgis 2006 その12 からの続き)

旅の十三日目、八月十七日。木曜日。

八時半、出発。

すぐ近くのスタンドに寄って、朝食。

たまには変わったものはないかと冷蔵庫の中をみてみるが、何もない。ハム&チーズ・ブリトーとコーヒーにすることにした。朝はコーヒーに限る。

さっさと朝飯をすませたらさっそく出発だ。今日は、昨日のツケもあるし、頑張る必要がある。最低でも 400マイル (640km) 以上は走らないといけない。できれば 450マイル (720km) くらい目指したい。

空は真っ白で雨が来そうな雰囲気。気温もけっこう涼しいので、カッパを着ていくことにする。雨は降っていないが、カッパは優れた防寒着でもある。

九時、出発。US-93 を南下。

十二時前、Missoula に到着。ガスの補給。

おなかが空いているわけでもないし、ちょっと早い気もするけれど、これからの道を考慮して昼飯を食っていくことにする。

アイダホ州に向かって山を登っていく途中、町らしい町がないので、ここで取らないと昼飯が二時ということになりかねない。それでもいいけれど、分かっていてそうする必要もない。

スタンドの店内をぶらぶらして、昼飯を探す。が、さっきスタンドで朝食をとったばかりなので、食べるものがない。どれも似たようなものばかりで、同じものを食べる気にはならない。うーむ。

もうどうでもいいなあと思ってツナサンドを手に取る。これでいいや。と思ったところにソーセージエッグマフィンが目に飛び込んできた。ほほう、こんなものもあるんだ。これも食べてやれ。

味気ないツナサンドとソーセージエッグマフィンをコーヒーで流し込み、地図とにらめっこする。

予定としては Lewiston 経由で Walla Walla に向かうルート。町の名前が面白いのでぜひ行きたい。400マイル (640km) 走っても到達できないが、450マイル (720km) 走ればいける。できれば今日はここまで行きたい。

Lewiston を最低ラインといってしまうと、結局そこまでになってしまう可能性が高いと思い、絶対に口にしないように気をつける。念仏のように、「今日は Walla Walla まで行こう」と言い続ける。

ここから US-93 を南下し、途中から US-12 で山越えするルートを確認。

地図を見ながらコースをイメージしていると、ひとりの男が声をかけてきた。

「いいバイクだねえ。新しいやつかい?おれも仕事でハーレーに乗ってるんだよ」

へえ。え?仕事でハーレーに乗ってる?まさか…

どんな仕事かと思ったら、なんと警察官だった。日本語で言えば、彼は白バイ兄ちゃんだった。

非番の白バイ兄ちゃんは気さくに、これからどっちに向かうんだと聞いてくる。

US-12 で山を越えるつもりだというと、「あそこは気持ちいい峠でおすすめだよ。おれも大好きな道だ」などという。仕事は警察官かも知れないが、その話振りは単なるバイク乗りのそれだ。

「しかし、アイダホに入ったら気をつけろよ。州境を越えた瞬間にねずみとりやってるからな、あいつらは」

え、そうなんだ。っていうか、おまえがそういうことを言うのか。

「知り合いも何人かやられてるんだけれど、アイダホの連中ははっきりいってエゲツないよ。最低の連中だよ」

非番でも警察官なんだから、言葉を選んだ方がいいんじゃないのでせうか。

「ふつうは 10マイルオーバーくらいなら多めに見るのに、あいつらはたったの 2マイルでも切符を切るんだよ」

たしかにそれはふざけてると思うけれど、警察が「ふつうは10マイルくらいは大丈夫」とか言うなよ。おまえ、本当に警官かよ、単なるバイク乗りじゃないのか。

「ちょっと通りすがるだけで誰もお金を落としていかない州だからって、それで罰金を徴収するなんてクソ野郎だぜ」

あーあ。言っちゃったよ。この人、よっぽどアイダホが嫌いなんだなあ。

田舎の州が隣の田舎の州をひどく忌み嫌うってのはありがちだけれど、それにしても典型的すぎて笑うなあ。

かなり大げさに言っている気もするが、言われてたのに捕まったんじゃ馬鹿馬鹿しい。アイダホに入ったら制限速度ぴったりで走るように気をつけていくことにしよう。

十二時四十五分、出発。

一時、US-12 への分岐点に到着。ここから山道に入っていく。

しかし、山の上の方はまったく見えない。黒すぎる雨雲が山を完全に覆ってしまっている。どうみてもひどい雷雨だ。

3000メートル級の山の間を抜けていく険しい山道で、この天気はさすがにヤバすぎる。困った。

一人でも躊躇するような天気なのに、二人乗りのヨネもいる。これは予定を変更するしかない。

悔しいが、今日の計画はすべてご破算とし、右手の山を越えないまま南下するルートを考えることにする。さんざん考えたルートが一瞬でパーになってしまうのは辛いが仕方ない。誰かが転んで谷底に落ちたら、何の意味もない。

地図を見てルートを考える。US-93 をこのまま南下し続け、右手の雷雨を越えたところで山越えするしかない。

仕方ない。そうしよう。山を覆うように鎮座した真っ黒な雨雲を右手に、南に向かう。

二時半、Idaho に突入。

US-93: Welcome to IDAHO

いきなり速度を落とし、のろのろ運転を心がける。あまりに気持ちいい林道なので、気がつくとすぐに 5マイルくらいオーバーしてしまっているが、すぐに減速するように気をつける。

三時半、Salmon に到着。ガスの補給。

のんびり走っているとはいえ、やはり山道は疲れる。少し休憩しよう。水を飲みトイレに行き、のんびりする。

四時、出発。

前方には、雨と晴れの境界がはっきりと見えている。これから向かう道は晴れている方向なので問題ない。

US-93: 雨の境界

五時、Challis に到着。ほどなく US-93 から ID-75 に乗り換えなので、念のために地図を確認。イメージがつかめたら出発。

六時、Sunbeam を通過。まわりはキャンプ場だらけ。

それにしても、目に付くキャンプ場はすべて、所狭しとテントが張ってある。百はかるく越えるほどの大量のテント。こんなところに何でこんなにキャンパーがいるんだ?

実は、その一帯では山火事があったばかりで、消防団員が消火作業のために山に来ていたのだった。

森林公園のど真ん中を突っ切る林道沿いにはモーテルなどまったくなく、あるのは大量のキャンプ場だけ。泊まる方法はキャンプしかないというわけだ。仕事でキャンプできるなんていいなあ。

六時半、Stanley に到着。休憩。ここから ID-21 に乗り換えて、西進するルートを行く。これ以上南下してもネバダに出てしまうだけだ。ネバダは制覇したし、もういい。

六時四十五分、出発。ID-21 は、さらに険しいワインディングとなっていく。素晴らしい。

それにしても、この森林公園がこれほど気持ちいいところだとは思っても見なかった。こんなにキャンプ場がたくさんあるなら、今日はキャンプの予定で来ても良かったかも知れないなあ。

さらに、険しい山道を降りていく。

八時前、Lowman に到着。ガスの補給。だいぶ薄暗くなってきた。

ここで、ひーちゃんが提案をする。もう遅いし、今日はキャンプにしたらどうか、と。

いいねえ。それも手だね。環境は素晴らしいし、きっと最高のキャンプになるに違いない。いつか、ここに子供たちとキャンプに来たいと思っているくらい気に入っている。

しかし、食べるものがない。

ヨネとひーちゃんは、ちゃんと非常食を蓄えてあり、いつでもキャンプできる体勢になっているが、おれとチーフは、非常食はぜんぶ食べきってしまって、残っているのはつまみくらいしかない。非常食はいつも確保しておかなければいけないのに、南西部の荒野を抜けて安心してしまったおれとチーフは、食料はどこでも簡単に手に入ると高をくくっていたのだった。

申し訳ないのだけれど、食べ物もないしビールもないし、モーテルを探すことにしない? しぶしぶ受け入れてもらう。ごめん。

US-20 に向かうためにも、とりあえず、まっすぐ西に向かい、ID-55 にでることにする。

八時半、Banks に到着。ID-55 を南下しながらモーテルを探す。しかし、どれだけ走ってもモーテルは見当たらない。

途中、ID-52 で西進するルートを行きたいと思っていたが、小さな町ばかりでいつまでたってもモーテルは見つからないと苛立つヨネが、Boise に行こうと強く主張する。

明日から走る予定の US-20 とは反対の方向になるし、ないと言ってもいつかはモーテルが見つかると思っているおれは、本当はこれ以上南下するのはすごく嫌だ。しかし、すでにノルマの 400マイル以上を走っていることと、女房を早く休ませて上げたいと思っているはずのヨネの立場を尊重するのが人の道だと考えた。

ID-55 をそのまま南下し、Boise に向かう。遠くからでもそこが町だということが分かる。けっこう大きな町だ。

九時半、Boise 到着。

町の北側にモーテルがあればよかったのだが、どれだけ走ってもモーテルがない。ありそうな道なのに、まったく見当たらない。どんどん南下し、町の中心部に向かう。

結局、どこまで走ってもモーテルは見当たらない。

バイクを止め、チーフが見つけたモーテルクーポンで Boise にあるモーテルの位置を確認する。すると、モーテルは全て I-84 沿いにあることが分かった。Motel-8 のディレクトリを見ても、やはり I-84 沿いだ。インターステート沿いにモーテルがあるのは定跡だが、町の中心部を通ってかなり南下しなくてはいけないので、それまでに見つかってくればいいと期待していたのだが、残念ながら、ないらしい。仕方ないので I-84 に向かう。

十時前、I-84 に到着。

しかし、見える範囲にモーテルがない。地図を確認すると Exit-53 の近辺に集中している。となりの Exit だ。

町の中心を走る US-20 沿いにはひとつもなく、わざわざ隣の Exit にあるというのは、どういう理由なのだろうか。地図をみてみたら、Exit-53 は空港への道がある Exit だった。つまり、この町のモーテルは、空港の近くに集中しているということか。

それにしても時間が時間だ、のんびりはしてられない。モーテルクーポンを開き、さっそく電話してみることにした。

「四人で二部屋ありますか?」

「満室です。」

げげ。もしかして、やばい?すかさず次のモーテルに電話する。

「四人で二部屋ありますか?」

「満室です。」

うーわ。ピンチなんじゃないのか、これ。十時だよ、もう。っていうか、なんで平日に田舎のモーテルが満室なんだよ。

願いを込めて、次のモーテルに電話してみる。

「四人で二部屋ありますか?」

「ええ、ありますよ」

やったっ!あったっ!

「クーポンを持ってるんですけど使えますよね?」

「いえ、今日は使えません」

「えー。クーポンがあるから電話してるのに、クーポンの意味がないじゃん…」

「クーポンには条件がありまして、今日は満室に近いので使えないのです」

満室じゃなくてもそういえばいいだけちゃうんか、くそ。

まあ、そうは言っても選択肢はない。おなかもすいてるし、体もかなり疲れてる。さっさと予約してしまうことにする。

さて、部屋は確保できた。待望の晩飯タイムだ。とは言っても、もう、おなかが空きすぎて、晩飯なんて実はどうでもいい。座って食べられるものなら、なんだっていいさ。

とにかくモーテルの方に向かうとしよう。モーテルの近くなら食うところもあるだろう。となりの Exit まで走ることにする。

I-84 に飛び乗り、北上。1マイル (1.6km) 先の Exi-53 に向かう。

さくっと Exit を出て、モーテル方面に向かう。途中、モーテルが左手に見えたところで左折。モーテルに向かう。

と思いきや、あろうことかその道はモーテルには繋がっていなかった。その道は無常にも I-84 に戻ってしまったのだった。

なんだそれは… もう、いい加減、許してくれてもいいんじゃないのか。

仕方ないのでそのまま Exit-54 まで戻り、I-84 に乗りなおして、さっき走った道を走る。そして Exit-53 を降りる。意味もなく一周半。悔しすぎる。先頭を走るおれを無邪気に信じてついてきた二人の視線が痛い。でも、ちゃんと書いてない道の方が悪いと思う。アメリカ人は決して反省しない。

今度はさっきの道では左折せず、次の道まで出る。ここまでくれば I-84 に乗せられる心配はない。ふう。

十時半、やっとモーテルの通りに到着。

さーて、部屋は確保されてるので、チェックインは後でいい。とにかく晩飯だ。早く食べないと死んでしまう。目の前にあったデニーズに飛び込む。食べられるものなら何でもいい。

とはいえ、最初から分かっているとおり、デニーズには食べたいものがひとつもない。朝飯ならいいのだけれど、晩飯はない。

食わないというわけにもいかないので、妥協に妥協を重ねて Fried Chicken Steak とビールを頼む。勝負して死ぬよりおれを信じて騙された方がマシだとばかりに、おれもそれにしようとチーフがいう。

不味すぎるデニーズの晩飯を、まるでウマイものを食べているかのように、がつがつ食べる四人。旅で経験値を上げ続けている今のおれたちにかかれば、どんなマズイもんでもとたんに美味しくなる。

いやー、それにしても今日は疲れた。昨日の倍の時間と距離を走ったのだから、当たり前といえば当たり前。一人で走れば問題ないけれど、さすがにグループで 500マイル (800km) を走るのはキツイ。ほぼ限界だろう。

さーて、おなかも満足したし、モーテルにいきますか。

財布をみると現金がない。カードで払ってみんなから金を巻き上げることにする。

ウェイターを席に呼び、伝票とクレジットカードを店員に渡してチェックしてくれというと、彼は爆弾でも受け取ったかのように不安な顔になり、急いでレジに戻っていった。ん?

店長におれのカードを渡して事情を説明する店員。ふたりでこちらを見て、困惑の表情を浮かべる。え?おれ、なにか悪いことした?

最近はやっているクレジットカード詐欺のアジア人四人組ってあいつらじゃないですかね?そんな会話が聞こえてくるようだ。

すると意を決したように、店長がこちらに向かって歩いてきた。

「このカードで支払われるのですね?」

「は?そうですけど」

どうやら、席に座ったままカードで払うという方式は採用されていないらしい。日本のようにレジに出向いて支払いを済ませるというレストランもときどきはあるし、それほどびっくりはしない。とりあえず、都会から来た客として、対応してくれるようだ。

「えー、ところで、そのなんといいますか、チップはどうされるつもりでしょうか?」

「は?チップもカードで払いますけど」

「あ、そうですか、そうですか。いや、あー、よかった」

なるほど。

あの店員は、チップがもらえないかも知れないと思って顔面蒼白になってしまったわけか。ガイコクから着たアジア人の客がチップを払わずに帰ってしまうというのは、一番恐れられているシナリオなのだろう。席に座ったままカードなんか出しやがって、こいつらには常識が通用しねー!って思ったんだろうな。

こちらがちゃんと払う意思があると分かって安心したのか、疑って悪かったとばかりに世間話を展開する店長。

聞くと、なんと五年生まで日本に住んでいたという。こんな田舎にもそんな人がいるんだなあ。

日本語が分かるのかと思いきや、スコーシという。アイダホでは日本語を使うチャンスはまずないので、ほとんど忘れてしまったらしい。もったいないと思って大学のときに少し日本語を勉強したので、ものすごくゆっくり喋ってくれればけっこう分かるようになったらしいが、おれたちの会話は早すぎて何も理解できないと言っていた。

五年生といえば高学年で、精神的にもだいぶ発達している年齢だ。その時まで日本語だけで生活していたというのに、三十年ほど使わなかったら綺麗に忘れてしまうなんて、不思議だなあ。

支払いも無事にすませ、デニーズを後にする。目の前のモーテルに向かう。

十一時半、チェックイン。はあー、長かった修行が終わった。

モーテルには、幸運にも洗濯機と乾燥機があったので溜まった下着を洗うことにする。きょう洗濯しないと明日の靴下とパンツがない。

洗濯が終わり乾燥機にかけている間にシャワーを浴びることにする。さっぱりして風呂から出ると、すでにチーフは夜用アドビルでぐっすり眠っていた。睡眠薬っていいなあ。

はくパンツがないので乾燥機に下着を取りに行く。部屋に持って帰ってきて、暖かいパンツをはく。ほかの下着をたたむ。

綺麗にたたまれた自分の下着と、そのままほったらかしにされているチーフの下着をみて、それもどうよと思いなおし、チーフの下着もたたんであげることにした。しかし、なんともいえない感覚。

もしチーフに見られたらどうしよう。どきどきする。自分以外の男のパンツをたたんだのは、これが初めてだった。

  • 総合走行距離: 4795.69 マイル (7717.91 km)
  • 今日の走行距離: 515.47 マイル (829.57 km)
  • 最高速度: 86.6 マイル/時 (139.4 km/h)
  • 移動時間: 10時間0分
  • 移動平均速度: 51.5 マイル/時 (82.9 km/h)
  • 最低最高高度: 2585〜7057 フィート (788〜2151 m)
  • $3.259 x 3.097G = $10.09 — 11:47:07 HOLIDAY STATIONSTORES — 2325 S Reserve St, Missoula, MT 59801 
  • $3.329 x 3.117G = $10.38 — 15:20:33 BUDDY'S — 609 Hwy 93, Salmon, ID
  • $3.199 x 2.451G = $ 7.84 — 19:48:33 JERRY'S COUNTRY STORE — Lowman, ID



(Sturgis 2006 その14 へ続く)

2006年9月13日水曜日

Sturgis 2006 (その12)

(Sturgis 2006 その11 からの続き)

旅の十ニ日目、八月十六日。水曜日。

七時半、起床。モーテルでの朝は楽でいい。テントもシュラフも片付けなくていい。モーテル氏に感謝。

八時、なくなる前に朝飯だ。ロビーに行く。が、そこには朝食はなかった。

どう見てもコンチネンタル・ブレックファストがあると見せかけていた、ロビーの前のその広いスペースには、コーヒーだけがひっそりと置いてあった。通常なら、ここに豪勢な朝飯が所狭しと並んでいるべき棚に、コーヒーがひとつだけとはどういうことか。

勝手にあると思い込んでいただけなのに、約束が違うぞ、ふざけんじゃないぞと、店員に文句をいいに行く。

すると、 隣の Best Western で使える 1ドルクーポンがあるから、それで朝飯を食っていけと言われる。なんだそれ。プライドとかないのかよ。ないらしい。

たかが 1ドルクーポンに騙されてみるか。仕方ないので、しぶしぶ行くことにする。面倒くさいなあ。

Best Western に入ってみると、ただのコンチネンタル・ブレックファストだと思っていたら、何故かふつうのレストランだった。なんか、違うくね?明らかに、期待していたものとはぜんぜん違う展開になっているのだが、ここまで来て手ぶらで帰るというのも悔しい。面倒くさいので食っていくことにする。

何でも良かったが、久しぶりのダイナー朝飯なのでオムレツを注文。すると、大食い大会かというほどの量のオムレツが出てくる。悔しいので頑張ったが、半分しか食べられなかった。

べつに朝飯なんて何でも良かったのに、なんでこんなことになってしまったのか。無駄にお金と時間を使っただけの朝食になってしまった。

九時半、出発。すかさず町のはずれでガスの補給。まったく、ここでジャンク朝飯にしておいたら、一時間は時間を節約できた。

Great Falls の町を抜け、US-89 と I-15 の共同運航便に十分ほど乗り、US-89 を北西に向かう。

休憩もほとんど取らずに突っ走る。

十二時、Browning に到着。ガスの補給。ここまで一気に走ってきて疲れたので、ちょっと休憩。

十二時半、出発。US-89 をさらに北上。向こうの方に雄大な山々がそびえ立っているのが見える。グレーシャーはもうすぐだ。

一時、グレーシャーの手前の町、Saint Mary に到着。さっきまで遠くに見えていた山々は、すぐそこ、目の前にそびえ立っている。ワクワクしてくる。あたりはこれからグレーシャーに向かおうとする客で賑わっている。

はやる心を抑えて、まずは昼飯。

レストランは窓が大きく、天井も高くて、気分がいい。窓の外にはグレーシャーの雄大な景色がすぐそこにみえている。

L.A. で生活しているヨネとひーちゃんは、まわりに白人以外がいないことに違和感があるらしい。「まるで欧州に来ているみたいだ」などと言ってドキドキしている。まわりが不法滞在のラティーノだらけじゃないと気分が落ち着かないらしい。

昼飯の時間とはいえ、朝のボリュームが十分すぎたのであまりおなかはすいてない。一人分を頼んでも、どうせ残すことになるだろうし、チーフとサンドイッチを半分ずつにすることにした。

ウェイターがチーフに注文を聞いたところで、ぼくのサンドイッチを半分ずつにするからいいよと告げると、そのウェイターは気を利かせて、サンドイッチとそれについてきたサラダを、綺麗に二つの皿に分けて持ってきてくれた。頼んだわけでもないのに、ちゃんとそんなことをしてくれるなんて、偉い。チップを弾んであげなくては。

それにしても、こういうちゃんとした人がカリフォルニアやニューヨークにたくさんいれば、日本人のアメリカ人に対する印象はまったく違うものになるのだけれどなあ。都会には移民が多く、よくも悪くも "class" がないのは仕方ないか。

気分よく昼飯を終えてレストランを出た時、熊みたいな風貌のイカついバイカーが走ってきて訊いた。「ライトが消えてないハーレーがあるんだけど、心当たりないか?」「ないけど」「そうか、それならいい」

バイク乗りっぽい格好をした人に手当たり次第に聞いている。男はレストランの中に走っていった。見た目と違っていい人だ。

そろそろと駐車場に戻ってみたら、ヘッドライトがつきっぱなしになっているバイクを発見。ああ、あれのことか。

げげげ。おれのじゃん。ってことは、一時間はつけっぱなしになっていたってことか。うーわ、まずい。

おそるおそるエンジンをかけてみる。ドドドドッ〜。おー、一発でかかった。ほっ。冷や汗すぎる。

心配そうに回りで固唾を呑んで見守っていたハーレー乗りたちも、みんな、良かった良かったと、こっちを見てうなづいている。

さっきの親切ヒゲも じゃオヤジも戻ってきて、「なんだよ、おまえのだったんじゃないかよ。消してやろうかとも思ったんだけれど、勝手に触っていいもんか、よく分からなくって よー」と言って手を振った。「いやー、申し訳ない! 何、言ってんだ、このおっさん、くらいに思っててさー。心配してくれてありがとね!!」

あー、びっくりした。

さて、おなかもいっぱいになったし、エンジンもかかったし、さっさと出発しよう。すぐそこにエントランスが見えている。

二時過ぎ、出発。

ほどなくグレーシャー国立公園の入り口の看板に到着。毎回やっているように、看板の前にバイクを止め、エンジンを切り、写真を撮る。

Gracier National Park in Montana

みんなも写真を撮り終えて、さて、行こうと思ったその瞬間、事件が発生した。

カチッカチッ。あれ?

「うわ、バッテリーだ!!!」ヨネが確信を持って叫ぶ。おいおい。え゛、まじで…

カチッカチッ。何度やってもうんともすんとも言わない。

げーーー。セルが回らなくなってしまった。エンジンがかからないではないか。まじかよーーー。

カチッカチッ。リレーに電流が流れても、スターターモーターに流す力がバッテリーにはなくなっている。

さっきは幸運にも一発でエンジンがかかったが、どうやらセルを回すのに必要な電流をそこで使い果たしてしまっていたらしい。電圧はそれほど下がってないのだが、電流が微妙に足りない。一度回ってしまえば問題ないが、セルをまわすには瞬間的にかなりの電流が必要になる。

うーむ。その可能性に気づいてさえいれば、エンジンを切らずに放置しておくこともできたのだが、一発でかかってしまったので安心して何も考えなかった…

まいったなあ。

が、なってしまったものは仕方ない。うなっていても事態は改善しない。やれることはひとつ。押しがけだ。

400kg を越えるこの重いツアラーを二人の男が押し、一人の男がクラッチをつなぐ。それしかない。そうとなれば、さっそく押しがけだ。

おれが自分のバイクにまたがり、ヨネとチーフが押す。ぱっとクラッチをつなぐ。かからない。スピードが足らない。ほとんど平らの、かなり長い下り坂なので、ほとんど重力が使えない。

チーフとヨネが再度押す。が、かからない。

坂を使って、もうすこし加速してからつないだ方がいいとチーフが言うが、坂がなだらかすぎてほとんど加速していかない。公園の入り口のぎりぎりまで惰性で加速させたらいいというが、そこでかからなかったら、今度は上り坂になってしまって永久にかけるチャンスがなくなる。この重たいバイクを上り坂で押しがけするのは不可能だ。危険な賭けにも思える。そこに行くまでに、 絶対にかけなくてはいけない気がする。

チーフとヨネが再度押す。かかりそうな気配がない。二人ともすでに結構疲れている。

やはり、ここはおれが押し切るしかない。ヨネと交代して、押すことにする。

ハーレーの押しがけは、クラッチをつないでからも押し続けるのがコツといえばコツだ。かなり大変なのだが、かかるとしたら、それくらいしかない。

やはり、人に押させるのではなく自分で押すしかない。そもそもこうなったのは自分の責任なのだし、自分で押すしかない。かからなくて困るのはおれだ。

十年以上も前のことだが、親友のハーレーを押しがけしてかけたことがある。その時も、何度やってもかからなかったのだが、結局、クラッチをつないだ後もずっと押し続け、何度もクランクを回し続けて、やっとかかった。

ハーレーのエンジンは、並大抵の勢いでは回転してくれない。1450cc もあるのにニ気筒なのだから当然といえば当然。

押しがけの場合、一回目の圧縮工程を十分な速度で行うことで反対側の吸気がうまく行ったとしても、そのシリンダーの圧縮工程までは、慣性だけでは賄えない。ここで押し続けることで二度目、三度目の圧縮工程を実現するしかないのだ。

ちなみに、おれのツアラーはキャブではなく EFI なので、クラッチのつなぎ方やアクセルの開け方もあんまり関係ない。ただ、イグニッションが入った状態でエンジンを二回か三回くらい回せば必ずかかるはずだ。

気合を入れて押すことにする。チーフと一緒に、ただ押しながら走る。だんだんスピードが出てきた。

さっきから走り続けている不惑を越えたチーフは、早々に「もう限界!!」と手を離すが、おれは執拗に押し続ける。かかる瞬間まで押すしかないのだから、手を離すわけにはいかない。押し続ける。

そして、ヨネがクラッチをつないでパスッと言って、一発目の工程が不発に終わったその後も、とにかく押して、押して、押して、押して、ドドッドドッドドドドドドドッ 〜!! やった、かかった!!!

安心して力尽きたのか、足が回らなくなり、道路にごろごろと転がる。息が上がり、肩で息をする。あああ、よかった。きっとかかるとは信じていたけれど、実際にかかるまでは不安だった。よかった。本当によかった!!!

自分のかけ方が絶妙すぎたと自慢するヨネは、かかる瞬間もおれが押し続けていたことは知らないのだろう。クランクを三回もまわしたのはおれなのだが、そもそもおれが起こした問題なのでここでクレジットを要求しても仕方ない。ヨネがちゃんと正しいタイミングでクラッチをつなぎ、適切なタイミングでアクセルを回さなかったら、かかるものもかからなかったのは確かだ。

しかし、こんなに押せるとは思わなかった。自分の体力の限界以上に押し続けられたのは、いわゆる火事場のバカ力なんだろう。人のバイクだったら、絶対にこんな力は出せなかったに違いない。

自分の初歩的ミスで、これ以上、時間を無駄にし続けるわけにはいかないという怒りと焦りも手伝った。それにしても、かかって本当によかった。

無事にエントランスを抜け、園内に入る。

ビスタポイントでも、ひとりだけエンジンを切らない。ファットヘッドはアイドリングでも充電するので、とにかくエンジンはかけっぱなし。うるさいから切れ、空気が汚れるから切れ。他の観光客の視線がいたい。

結局、一時間くらいはエンジンは掛けっぱなしにすることにした。

Gracier National Park in Montana
昼飯のときは雲が多いと思っていたが、おれの生け贄が効いたのか、雲はだいぶ少なくなった。青い空の下で雄大な風景が映える。

ここにはいいトレイルがたくさんあると同僚から聞いていたが、ツーリングの旅なので、試す機会はない。バイクで行ける範囲で楽しむ。

三時半、あと二キロほどで Logan Pass ビジターセンターというところで、片側交互通行のため STOP させられる。すぐそこに見えているのだから、そこで休ませてくれればいいのに。お預けを食らっている犬状態だ。

そしてタイミングの悪いことに、そこで待たされている間に雨がポツリポツリと降り始める。バイクだけこっそり行かせてくれればいいのになあ。

することもなく待っていると、あっという間に雨が強くなっていく。大粒の雨がしっかりと降り始めたので、カッパを着るはめになった。目の前に軒があるのに、カッパを着ないといけないとはなあ。

十分後、先導車が到着し、やっと前に進める。さっきから見えていたビジターセンターに向かう。あーあ、なんだかなあ。

四時、ビジターセンター到着。

カッパを着たまま、ぶらぶらとビジターセンターの中をうろつく。トイレも行きたい。

すると、なにか慌しい雰囲気が漂っていることに気づいた。時間的には、まだ閉まるような時間じゃないと思うのだが、みんな、どんどん外に出ているように見える。いくらなんでも、五時くらいまではやってるよね?

とりあえず、国立公園に来たら必ずマグネットを買わないといけないという、我が家の古いしきたりに従い、マグネットを吟味し、ひとつ選ぶ。

まだレジは動いているようだ、買えるだろう。レジにマグネットを持って行くと、 「雷雨で避難勧告が出たから、レジも閉めてさっさと退散だよ」

えー、まじで。「それはいいとしても、レジを閉めるまえに、これだけは買わせて!」最後の客ということで、滑り込みセーフ。助かった。2ドルのマグネットに 5ドル出したら 18ドルのお釣りが戻ってきた。嬉しいけれど、増えすぎなので 15ドル返す。

ビジターセンターの軒で雨が止むのを待ち、四時半、出発。

一気に山を下っていく。ビジターセンターの手前側は大雨だったけれど、山の反対側には雨は一滴も降ってないらしい。カッパを着ているバイク乗りはいない。

Avalanche Creek in Gracier National Park in Montana
六時、山を下りきったところで、作戦会議と休憩を兼ねて Apgar ビジターセンターに寄る。ついでに女房のお土産も物色する。これでお土産はもれなく全員に買った。

さて、ここからが問題だ。

明日からのルートは二つにひとつ。Mt. Rainier 国立公園によって I-5 で帰るパターンと、ワシントン州は捨てる代わりインターステートは一切使わずに帰るパターンと、ふたつにひとつ。どちらを選択しても、家まで 1300マイル (2080km) くらいになる。

おれはどっちになってもいいと思っていたが、チーフがインターステートを使わないルートの方がいいと言うので、それに賛同。Mt. Rainier 国立公園にいけないのは残念だが、その代わりに Crater Lake 国立公園にはよれる。

Kalispell から US-93 で南下していくルートに決定。

今日の最低ラインは Kalispell だが、このルートで行くと、明日と明後日で最低でも 800マイル (1280km) 走らないといけない。しかも、Crater Lake も一周しないといけない。かなり厳しい。

なので、おれとしては、グレーシャーでの時間配分が読めなかったので、最低ラインを Kalispell とはしたものの、できれば Missoula まで行きたい。Kalispell から 120マイル (192km) もあるので、この時間からだと無理だろうが、暗くなるまで走って、途中の町でモーテルを探せばいいだろう。

しかし、すでにだいぶ疲れているのだろう、ヨネはその案には賛同せず「まずは Kalispell まで行って、そこで考えよう」と言った。ここで考えていても仕方ないし、とりあえず、そうしよう。Mt. Rainier 経由でも Kalispell までは一緒だ。

六時半、雄大なグレーシャー国立公園に別れを告げ、出発。US-2 に乗り、Kalispell に向かう。

七時すぎ、Kalispell に到着。ガスの補給。

とりあえず、ひーちゃんの代理人でもあるヨネに様子をうかがう。まだ行けるかな?「今日は、もう、ここでいいっしょ」

やっぱ、そうなるか。まあ、時間も時間だし仕方ないか。疲れてるのに無理やり走ってもいいことはないし。さて、さっさとモーテルを探すとしよう。

それなりに大きな街だったので、この時は四人とも簡単にモーテルが見つかると思っていた。

しかし、行けども行けども、モーテルというモーテルは全て満室。モーテルの数は十分あるのに、その全てが満室とはどういうことだろうか。グレーシャーの客なのだろうか。

同じようにモーテルを探すバイク乗りたちも、町を右往左往している。「どう?」「ないねー」

ヨネと手分けして、目に付くモーテルに一通りあたってみるが、結局、全滅。

唯一あったといえばあったのが、Outlaw Inn というふざけた名前のホテルにスイートだった。だが、値段もかなり高いし、それに一部屋じゃあねえ。

仕方ないので先に進むとしようか。と思ったら、部屋を見せてもらったひーちゃんが言う「部屋は十分広いし、ここで雑魚寝でいいんじゃない?」むむむ。

こういう場合、おれもチーフも、空きのモーテルが見つかるまでふつうに先の町に進む。おれとしては、そもそも今日は走り足りないというのもあったので、その方が好都合だとすら思っていた。

が、四人でスイートに泊まろうと、他ならぬひーちゃんが言う。ひーちゃんが一番偉いのはハッキリしている。それが本意かどうかはともかく、ひーちゃんがそれでいいというのなら、そうしてあげるべきだ。

おれは、もうちょっと行こうかという勢いになっていたけれど、チーフと相談して、その提案に乗ることにした。

今日は Kalispell までが最低ラインと言って走ってきたのだし、たぶんヨネもひーちゃんも、Kalispell に着いた時点で今日はおしまいだとほっとして気持ちが切れているに違いない。一度おしまいだと思ってからさらに走るのは、さすがにかなりしんどいし、危ない。明日からのツケがキツいけれど、それは仕方ないってことで理解してもらうことにしよう。

そうと決まれば、さっさと荷物を降ろしてチェックイン。八時。

おれもチーフもさっさと必要な荷物を持って上がって、一気にくつろぎモード。二人分の荷物を運ぶヨネは、まだまだ仕事があって大変だ。手伝ってあげればいいのにチーフは手伝おうともしない。おれがひとりで手伝ったらチーフが悪者になっちゃうから、手伝いたくても手伝えない。テレビをつけて、ヨネの存在を無視してくつろぐ。

二人分のキャンプ用マットを持ってくるよりも小さくて済むという合理的な理由で、電動エアベッドを持ってきていたヨネとひーちゃんはさっさとベッドを作りはじめる。非常識にもほどがある。考え方がアメリカ人すぎる。そんなものをキャンプに持っていくやつがいるか。実はアメリカ人にはたくさんいる。

人段落ついたら、さて、飯だ。晩飯だ。どうせろくなもんは食えないけれど、何にしようか。

ホテルの近くになんでもありそうだし、とりあえずまわりを歩いてみよう。

あそこはどうだ、こっちはどうだと散々歩いてみる。が、ない。なんでもいいのに、なにもない。あったのはバーとドライブスルー専門のハンバーガー屋だけ。

なんだ、それ。こんなことなら、バイクで飯屋を探しに行っても良かったなあ。

うーん、仕方ない。面倒だし、そこのドライブスルー専門のハンバーガー屋でお茶を濁すことにしよう。

バイクはホテルの駐車場だし、車もないので、四人でのこのこ歩きながらドライブスルーに入っていく。一応、車に乗っているみたいな感じになるように四人が並ぶ。おれが運転。バカすぎる。

どうせ並んでいる車は一台もないし、マイクに向かって四人で注文するのも何かバカらしいので、受け取り窓口まで歩いて入る。ここで注文していいかと訊いたらいいというので、その場で注文する。ドライブスルーなのにドライブしてないし、レジで注文。

出てきた注文の品を、それぞれ手に取る。手に取ったアイスティを飲んでみると、なんと甘いのが出てきて吹きだす。未だに甘いアイスティなんてあるのか。やはり、田舎は違う。

以前は、甘くないことを確認してから買うようにしていたアイスティだけれど、最近は甘くないのが当たり前になっていたので、ちょっとショック。二十一世紀になっても、田舎は時間の流れが遅いのだなあ。アイスティを頼んで甘いのが出てくるところを田舎と定義しよう。

しかし、口に入れてしまった分は飲むことにしても、それ以上は飲めない。仕方ないので、レモネードに交換してもらうことにする。甘いアイスティなんて飲めないけれど、レモネードなら甘いのが当たり前だから飲める。

それにしても、自分で注文したくせに、自分の期待と違ったからと言って平気で違うものと交換させるという態度はどうだろうか。いくら当然のごとく換えてくれるからといっても、アメリカナイズしすぎにもほどがある。まあ、日本でも、言ったらたぶん換えてはくれると思うけれど、びっくりされるだろうなあ。

しかし、結局、レモネードはほとんど飲まずに捨ててしまうことになる。もったいないことこの上なし。アメリカ人化も極まれり。いらないなら、いらないと言えばよかったと激しく後悔する。おれは、いったい何をやっているのだろう。よく考えたら、これからビールを買って帰るのだった。

スタンドに寄って、ビールを物色。

すると、五歳くらいの子供が恥ずかしそうにずっとこっちを見ている。アジア人が珍しいのだろう。何か言いたそうにしてるのでニコリと目を合わせると、ささっと近くに寄ってきて言った。「Are you a motorcycle guy?」目がきらきらしている。「Yup. I am a motorcycle guy!」 とわざと低い声で答えてあげたら、満面の笑みでお父さんのほうに走っていって「お父さん、お父さん、やっぱり、ぼくの思ったとおりだったよ! バイク乗りだって! かっこいいなあ!!!」と大興奮。子供は無邪気でかわいいなあ。

ああ、早く息子に会いたいなあ。

部屋に戻り、まずいハンバーガーを食べ、ビールを飲み、リラックス。極楽極楽。

ヨネとひーちゃんはエアベッド。

おれはほとんどフルフラットになる超アメリカ的リクライニングチェア。味もへったくれもないのだけれど、すわり心地は最高だし、いつか欲しい。

広すぎるキングサイズのベッドはチーフが一人で寝る。ベッドの半分以上がほぼそのまま使われなかったという贅沢な寝かた。

おれがそこで寝ても良かったのだけれど、相手の寝返りとかで目が覚めることもあるだろうし、ご老体で風邪ひきのチーフには一人で寝かせてあげようと思った。目が覚めたときに間違って抱き合っていても困るし。

しかし、いい大人が、広いスイートルームでこんな風に寝るとはなあ。楽しすぎるなあ。二十歳くらいに若返ったような気分になった。

  • 総合走行距離: 4280.22 マイル (6888.34 km)
  • 今日の走行距離: 248.22 マイル (399.47 km)
  • 最高速度: 91.2 マイル/時 (146.8 km/h)
  • 移動時間: 5時間19分
  • 移動平均速度: 46.7 マイル/時 (75.2 km/h)
  • 最低最高高度: 2913〜6670 フィート (888〜2033 m)
  • $3.179 x 2.588G = $ 8.23 — 9:45:48 LOAF N JUG — 225 Central Ave., Great Falls, MT
  • $3.299 x 3.424G = $11.30 — 13:58:05 TOWN PUMP EXXON — Hwy 89, Browning, MT 59417
  • $3.299 x 2.878G = $ 9.49 — 17:15:22 EVERGREEN GAS & DELI — 2100 US-2 East, Kalispell, MT


(Sturgis 2006 その13 へ続く)

2006年9月12日火曜日

Sturgis 2006 (その11)

(Sturgis 2006 その10 からの続き)

旅の十一日目、八月十五日。火曜日。

八時半、起床。例によって、一番最初に起きて活動を始めていたチーフの気配で目が覚める。

朝食は、ビレッジで買ってきたシナモンロール。を食べたいが、コーヒーなしというのも悲しいので、ヨネが出てくるまで待つ。

ただ待っているだけというのもつまらないので、お湯を沸かしてインスタントの味噌汁をのむ。ウマイ。

味噌汁を飲み干し、みんなのコーヒーを淹れ、シナモンロールをほおばる。ウマイ。

九時半、のんびりと出発。昨日はよる暇もなかったので、Grant Village のビジターセンターによってぶらぶらとする。

そういえば、娘にしかお土産を買ってなかったことを思い出し、息子と義母に買っていくことにする。

一通り見終わり、することもなくなってみんなが外に出た時、おみやげを手にレジに並ぶ。自分の前には二人しかいない、すぐに終わる。

というわけにはいかないのがアメリカ。

何をやっているのか分からないが、とくに困った様子も急ぐ様子もないのに、なぜか前に進まない。ときおり客と談笑したまま手も止まっている。

どうなっとんねんとイライラしはじめる。五分ほどたって、やっと最初の客が終わり、二番目の客。こいつの次はおれだ。

レジのおばちゃんは、その二番目の客の持っていた本を手に取ると、それをスキャナにかけるかと思いきや、「いい本ねえ、私、この本大好きなのよ」、などと話し始める。話はいいから手を動かせ。

するとバックパックの兄ちゃんは、今日はあそこに行こうと思うんだが、どうだろうとかそんなことレジのおばちゃんに聞くなよってことを聞き始める。聞かれたおばちゃんは、答えられるレンジャーを探しにレジを離れる。

いやいや、ここがアメリカなのは認めます。でも、いったい何がおきているのでしょうか。

レンジャーを連れて帰ってきたおばちゃんは、レンジャーが兄ちゃんにトレイルを説明している横で、本をスキャンし、お金を受け取り、本を袋に入れて兄ちゃんに渡す。やればできるじゃないか。

と思いきや、兄ちゃんはおれの前からどかない。また、レジのおばちゃんは、レンジャーと兄ちゃんの間に入って一緒になって話しはじめる。

もしかして、おれはいないんでしょうか。後ろを振り向くと、後ろの客も首を横に降って、おれに同意する。だよな、だよな、これはやりすぎだよな。

結局、十分ほど待たされて、やっとおれの番。たった二つのお土産を買うのに、なんでこんなに待たされるんだろうか。かなり頭にきているが、ここで大人気ない態度を取るようでは失格だ。何もなかったかのように、にこやかに、朝の挨拶する。

「あらあら、可愛いバスだこと。お子さんにプレゼントですか?」

くったくなくしゃべり始めるおばちゃん。丁寧に答えていると、まったくスキャンしてくれる様子がない。「いくらですか?」と丁寧に即す。値段を言ったあとに、「お子さんはおいくつなんですか?」とあくまでも会話を続けるおばちゃん。

おれも丁寧に返しつつ、結局どうでもいい世間話を五分くらいさせられる。後ろの人の視線がいたい。でも、これがアメリカだし。

やっとの思いで外にでると、待ちくたびれた三人の視線が冷たい。ほんとうに申し訳ない。心の中で叫ぶ。「It's not my fault! (おれのせいじゃない!)」アメリカ人らしい台詞だ。

しかし、この無駄な十五分が大きな問題を生むことになる。

十時四十五分、出発。のんびりと北上。気持ちいい林道。

そして、十一時十分、右手に噴射が遠目に見えた。ヨネが近づいてきて言う、右手に見えてたよ!

十一時二十分、噴射が終わったばかりの Old Faithful に到着。うーむ、遅かったか…

湖上の煙 at Old Faithful

Old Faithful に到着する手前で、あの有名な Old Faithful の噴射が遠目に見えた。ということは、次の噴射まで一時間くらい待たないといけないということか。看板を見ると次は十二時十五分と書いてある。うーむ。

さっきの無駄な十五分さえなければ、どんぴしゃのタイミング だった。ビジターセンターはあそこだけじゃない。全部観て回ってから最後に寄ればよかったんじゃないのか。どうせマンモススプリングスに寄るのだから、そこでもお土産は買えたはずじゃないのか。

今日は Old Faithful に来るつもりだったのだから、まずここに来てから考えるべきだった。ここで一時間待つと言われてからお土産を買いに行ってもよかったのだ。

もちろん、後で寄ろうと思っていたら寄れなくなってお土産が買えなかった、なんてことは過去に何度もあった。とにかく寄れる時にビジターセンターに寄るというのは、それはそれで定跡だ。だが、いつでも通用するというわけではない。この時ばかりはかなり悔しい思いをした。

先日、わざわざこれだけを見るために Yellowstone に来たというヨネとひーちゃんは、先日観たばかりだし自分たちはどっちでもいいけれど、この噴射をみたことがないおれとチーフに対し、これを観ないで帰るのはありえないと強調する。ここで早めの昼飯にして、一時間、時間をつぶすというのも手だという。

どっちがいいかチーフに訊いてみると、どちらでもいいという。このまま先に行ってもいいし、一時間待ってもいいという。うーむ。どっちがいいって言ってくれると楽なんだけどなあ。

うーむ。いろいろ考えた末、やはり、諦めようと言ってみることにする。

さっき朝食を食べたばかりで、おなかはぜんぜん空いてない。食べられない昼飯を食べることにして、結局一時間半も時間をここで消費したら、グレーシャーに行く案はなくなるかも知れない。グレーシャーは明日にしか観るチャンスはないから、今日、行けるところまで北上しておく必要がある。どっちを取りたいか考えた末に、グレーシャーを取りたいとおれは思った。

そうこう話している間に、もう時間もだいぶ経った。もう一時間も待つ必要はない。四十五分くらいのことだ。それくらいあっという間に経つ。

きっと、先日それを観てすごく感激したのだろう。もったいないと、なんどもヨネは言う。

だが、それを言うなら、イエローストーンに来てトレイルも歩かずに帰ることの方が、よっぽどもったいないはずだとも思う。

もちろん、有名な間欠泉が噴出すところは自分の目で観てみたい。そう思っていたのにまた観れないというのはすごく悔しい。

でも、それだけを観ればイエローストーンを観たと言えるほどここは単純じゃない。それがメインの観光ポイントだとは思わない。そもそも、ここはバイクで通りすがりに寄って、満足できるような規模の公園じゃない。観られないものの方が圧倒的に多いのを承知の上でわざわざ寄っているのだ。

結局、諦めようというおれの主張が通って先に行くことにする。無念さを胸に、北上。

アクセルを握りながら、果たしてこれでよかったのかと、何度も自問する。

やはり、あそこで一時間半ほど使って噴 射を見ておいた方がチーフにとっては良かったんじゃないのか。おれもそうそうは来れないが、チーフはもっと来れないだろう。おれは、いつか子供たちを連れてきて一緒に見ようと思っているが、もしかしたらチーフには二度とチャンスが巡ってこないかも知れない。チーフは内心、これが最後のチャンスだと思っていたのかも知れない。

実際、その日の午後は、チーフはあからさまに機嫌が悪く、ほとんどおれの相手をしてくれなかった。Old Faithful を諦めて先に行こうとおれが強く主張したことが面白くなかったか、他の原因が何かあったのかも知れない。

喜びを共有できるのが旅を共にするということでもある反面、お互いになんらかしらの我慢することも時には余儀なくされるのも旅を共にするということだ。仕方ないといえば仕方ない。全員が全ての局面で納得できるような方法はない。妥協できなかったら、一人で旅するしかない。

モンタナの田舎道を突っ走りながら、とはいえ気を利かせて引くべき場面だったかも知れないと、反省した。

十一時半すぎ、Old Faithful を出発。

てきとうにポイントに止まりながら、あちこち観て回る。バイソンやエルクを観ながら、北上。

二時過ぎ、Mammoth Springs に到着。上の方をバイクで観て回り、下におりる。おなかも空いた。昼飯にする。

四年前、着いたときには時間切れで入れなかったマンモス温泉。今回は入りたいと思っていた。

だが、チーフは風邪を引いているから入らないという。当然だろう。

それよりもなによりも、さっきあれほど強く主張して Old Faithful を捨ててきたのに、ここで温泉に入りたいって主張したら、さすがにみんなに見捨てられると思う。言いたい気持ちもあるが、それを言ったらおしまいだな、と諦めることにする。

そもそも、温泉なんかにのんびりつかっている時間はない。

今日はマンモスで昼飯だと思っていたけれど、気がつけば、もう二時を過ぎている。それなりにきびきびやっているのに、時間はあっという間に経っている。うーむ。やばい。

地図を確認し、どこまでいけるか考える。明日のことを考えると、どうしても Great Falls まで行きたい。まだ、200マイル (320km) 以上はある。

三時すぎ、遅すぎる昼飯を終えて、出発。

三時半すぎ、北門に到着。朝から行動して、それこそ多くのところを捨てて走っているというのに、今頃やっと出口か。大きい。大きすぎる。

Yellowstone National Park North Entrance

四時、US-89 を北上。

久しぶりに高速走行ができて気持ちいい。どんどん山を降りていく。

五時、Livingston に到着。ここから数マイル US-89 と I-90 が共同運航便になるが、これを使わずに行く方法がないか地図を確認。ない。諦めて I-90 にのる。二分後、I-90 を降り、US-89 を北上。

と同時に、前方に雨雲が見えはじめた。むむむ。

注意しながら北に向かう。GPS を確認すると、自分たちの向かっている方角は、すこしだけ西側に振れている。つまり、北北西に向かっている。雨雲は真北だ。避けられる。

よし、このまま北北西に向けてまっすぐに走っていけば、真北にみえるあの雨雲を迂回できるに違いない。

雨雲は、右手にそびえ立つ Crazy Mountains というふざけた名前の山地から来ている。山を迂回して走っている道だから、大丈夫だろう。

雨雲を右手前方に見ながら北北西に進む。しかし、道路は少しずつ右に曲がっていく。そして、気がつくと進路は真北になっている。さっきまで右手前方にいたはずの雨雲が、なぜか正面にいる。むむむ。

真北に向かう道を走り続けると、今度は、少しずつ左に曲がっていく。北北西に進路が変わり、さっきまで正面にあった雨雲が右手前方に移動する。いいぞ、いいぞ。

安心するのもつかの間、しかし、道はまた右にそれ、真北に進路が変更。またもや雨雲は前方に移動する。

避けられるのか避けられないのか、いったいどっちなんだ。雨雲はおれたちをあざ笑うかのように、正面に出てみたり右によけてみたりを繰り返す。

そんな攻防を三十分ほど続け、右手に見える Crazy Mountains をやり過ごしたかに見えたその時、試合は動いた。

北北西に進んでいた道が右にそれ、真北に進路を変更したその瞬間を雨雲は逃さなかった。

正面の雨雲は、もう、雨雲ではなくなっていた。降りしきる雨になっていた。

前方に雨が降っているのがはっきりと見える。距離は数マイルもない。これからおれたちが走ろうとしている道の上に雨が降っているのだ。万事休す。

しかたない、カッパを着るとするか。諦めてバイクを止める。最後の悪あがきとして、いちおう地図と雨の方向を確認。ふむ。逃げ道はない。全員で着替えて、雨に備える。

そして、走り始めて一分後、ぽつりぽつりと始まった。雨に突入。ポツポツがあっという間にザーザーに変わる。

雨は勝ったと思っているかも知れないが、我々は完全に防御してある。なかなか激しい雨だが、凌げないことはない。

30MPH (48km/h) 程度の速度でのんびりと走る。速度をあげると雨が顔に当たって痛い。ときおりバケツをひっくり返したような雨になり、10MPH (16km/h) 程度での徐行を余儀なくされるが、雷はかなり遠い。まったく怖くない。

三十分ほど、雨の激しい攻撃に耐え、雨から脱出。

六時半、White Sulphur に到着。ガスの補給。ふー、疲れた。雨との戦いは体力を消耗する。少しだけ休憩。

もう雨の心配はいらないと思うけれど、寒さ対策としてカッパを着たまま進むことにする。

寒いというほどのことはないが、けっこう涼しい。寒がりのヨネとひーちゃんは、今から北極にでもいくのかというほど着込んでいる。二人からみると、おれはアメリカ人かというほどに寒さを感じない人に見えるかも知れないが、女房から見ればおれはかなりの寒がりだ。つまり、おれがふつうで、ヨネとひーちゃんが異常な寒がり、女房が暑がりということになる。

ここからは 70MPH 程度の高速コーナーの山道だ。US-89 はどこをとっても素晴らしい Scenic Route で、本当に気分よく走れる。

山道となれば、がんがん飛ばしていくだけだ。あっという間に二人組を置き去りにして、チーフと一緒にコーナーに突っ込んでいく。楽しい。

山を登り、いっきに下る。今日の目標地点まで、あと少しだ。

八時半、予定通り Great Falls に到着。ふー。お疲れ様。

面倒くさいので持っている Motel-6 のディレクトリを確認。あるある。ここでいいよ。町のはずれに向かい、Motel-6 を発見。値段なんてどうでもいい。九時、チェックイン。荷物を降ろし、部屋に向かう。

さあて、宿が決まったら晩めしの心配だ。

と、思うまもなく、今日は、ピザでも取ろうとヨネが言う。ほほう、ピザかあ。それを聞いても、とくにピザが食べたくなったりはしない。どちらかといえば、うどんがいい。うどんがないなら蕎麦がいい。蕎麦がないならカツ丼でいい。

とはいえ、そういうことを言ってはいけないのがアメリカでのルール。

初心者の日本人は、すぐにそういう意味のない夢を膨らましたりするが、それは絶対にやってはいけない。それは、そのことがどれほど空しい響きを持つか、お互いによく分かっている上級者同士でのみ許される特別で神聖な行為なのだ。マスターするには最低でも五年はかかるとされている。

まあ、いいだろう。晩飯の話題になる前に先手を打ってヨネが言い出したことだ。きっとその方がひーちゃんにとってもいいんだろう。おなかに入ればなんでもいいし、その案に乗ることにした。

よくよく考えてみれば、ピザを配達してもらえば外に食べに行かなくてもいい。部屋でのんびりできる時間が長く取れる。なるほど、そういう配慮があったのか。ふむふむ、なるほど、好手だ。

ひーちゃんがピザの注文をする係り。おれとチーフが地ビールと水を買出しに行く係り。ヨネがひーちゃんのためにサラダとオレンジジュースを買出しに行く係。役割が決まったら、さっそく出陣。

買出しを済ませ、ピザが届く。頼んだのは大きいのを一枚のつもりだったが、なぜか二枚きた。ファミリーなんとかは二枚らしい。

多すぎてもったいないので、耳をかなり大きめに残して贅沢食い。五枚も食べた。バカすぎる。

今日のあそこはああだったこうだったと、とりとめもなく駄弁る。和むひと時。

十一時、おなかも満足したし、どうでもいい話をてきとうに切り上げて解散。

さーて、明日はグレーシャーだなあ。おれにとっては今回の旅の一番の目玉と言える。どうしても行きたかった国立公園。

しかし、問題はその後だ。

スタージスの日程が決まっているので、前半部分はかなり綿密に計画を立てて、だいたいそれにそう形で来た。また、スタージスの後、イエローストーンへは二日はかかるというのは距離的にどうしようもないので、ここまではまあ予定の範囲内といえる。

だが、後半のスケジュールは大まかにしか決めてない。四人で走るペースがどうなるか未知数だったし、女性もいるからさらに分からなかった。

グレーシャーもオリンピックも、行けたら行きたい。無理なら後で考えよう。それくらいしか考えてなかった。

今日まで数日走ってみて、だいたいどんなペースで走れるかは分かってきた。どこまでいけるか、よく計算してみよう。地図を開いて、いろんなパターンを考えて見る。

ここまで来た以上、やはりグレーシャーは外せない。今回、四人とも行ったことのない唯一のポイントがグレーシャーだ。ここは絶対に行こう。

と、チーフと話していたのもつかの間、すーすーと寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。

最近は、夜用のタイレノールとかを飲んで、眠気が襲ってきたらそれに乗って気持ちよく寝てしまうことが多い。まあ、眠たくなったタイミングで寝るというのは、さぞかし気持ちいいことだろう。羨ましい。

しんと静まりかえった部屋で、ひとりで地図とにらめっこしながら明日からの予定を検討する。メモ用紙に町から町への距離を書き並べ、どのルートだとどのくらいの距離になるか、ありとあらゆるパターンを想定して計算しまくる。

ひとりで頭を使っているとはいえ、勝手にぜんぶを決めてしまっては、みんなも面白くないだろうから、そうだな、二者択一にしよう。合理的でかつ、どちらになってもおれはいいというパターンを二つ考えて、みんなに選んでもらおうことにしよう。

悩みに悩み、メモ用紙を使いまくる。そして、なんとか納得いく案が二つできた。ふと時計をみたら、ニ時だった。

  • 総合走行距離: 4031.99 マイル (6488.86 km)
  • 今日の走行距離: 310.92 マイル (500.38 km)
  • 最高速度: 88.4 マイル/時 (142.3 km/h)
  • 移動時間: 6時間21分
  • 移動平均速度: 48.9 マイル/時 (78.7 km/h)
  • 最低最高高度: 3333〜8572 フィート (1016〜2613 m)
  • $3.389 x 2.937G = $ 9.95 — 15:44:13 TOWN STATION — 120 Park St., Gardiner, MT 59030
  • $3.299 x 3.060G = $10.09 — 18:37:01 TOWN PUMP EXXON — 309 Main St., White Sulphur, MT



(Sturgis 2006 その12 へ続く)


2006年9月11日月曜日

Sturgis 2006 (その10)

(Sturgis 2006 その9 からの続き)

旅の十日目、八月十四日。月曜日。

八時、起床。天気は悪くない。いい感じ。だらだらと準備を済ませる。

準備が終わってのんびりテレビを観ていると、だんだん体も起きてくる。腹が減ってきた。でも今日は九時出発の約束だし、もう少し我慢する。

九時、予定通り出発。

さて、朝は何にしようか。と思ったら、ヨネとひーちゃんはすでに朝食は済ませたらしい。九時には朝食も終わった上での出発だと思っていたのか。それは申し訳なかった。ていうか、こっちは九時までは何も食えないと思って我慢してました。おれもチーフも腹、ペコペコです。謝るのはそっちです。

何かないかとのんびりと Sheridan の町を走る。町の外れにマックを発見。そうとなれば、贅沢に朝マックが定跡。やはり、町はいい。なんでもある。

オーダーは言うまでもなくソーセージ・エッグ・マフィン。しかし、チーフは頑固にグリドルズを注文。なんど食べたって、おいしくないものはおいしくないのに。ほんとうはソーセージ・エッグ・マフィンを食べたいはずなのに、「そんなもん日本にもあるし、こっちの方がウマイんだって。無理せんと、食べてみたらええが。でらウマいって。食べたいくせに。」と、あくまでも強がる。それはこっちの台詞だっつの。

朝はとっくにすませているヨネとひーちゃんは、コーヒーでも飲んで待ってるのかと思いきや、ひーちゃんはパンケーキを注文。朝食を取ったのに、まだ食べるのかよ。ぜんぶは食べられないから良かったら食べてというので、おれのことを許したというメッセージだと理解。喜々として一枚もらうことにする。

十時前、出発。今日は、イエローストーンまで 250 マイル (400km) ちょっと、US-14/16 をひたすら西進するだけなので考えることもない。

山道をどんどん登り、コーナーを攻める。気持ちいい。

US-14: 山道 in Wyoming

途中、US-14 から US-14A に乗り換える。US-14 でもいいのだけれど、地図によれば US-14A の方が Scenic Route をあらわす緑の点の部分が多いので、Alt の方を使うことにする。Scenic route rules だ。

十二時、Lovell に到着。ガスの補給。まだそれほどおなかも空いてないので、次に進む。

一時、Cody に到着。なにはともあれ昼飯だ。町のメインストリートを流していたら、Daily Queen があった。みたらハンバーガもやっていたので入ることにする。

実は、おれはその時まで Daily Queen でハンバーガーが食える店もあるということを知らなかったのだが、48州すべてをハーレーで旅して回ったチーフは知っていた。チーフがいなかったら、Daily Queen は素通りしていたに違いない。

飯を食って外に出ると、となりに止めてあった車のナンバーをみてチーフがおれに聞いた。「Show Me State」ってどういう意味?

「ミズーリ州は大ぼら吹きが多い土地だから、『そんなにえらそうに言うならショウミーしてみずーり』ってみんなが言うってことだろうね。ぜんぜん知らんけど。」

おれの説明では何故か納得できなかったチーフは、ヨネに同じことを訊いてみる。ヨネは、そういうことはご当地の人に訊くのが早いとばかりに、助手席に座っていたおばちゃんに訊いてみる。

結局、そのおばちゃんはおれが言ったことと同じことを言っただけで、おれの説が正しいこと、もしくはそのおばちゃんも知らないというが証明されただけだった。チーフはその説明で納得はしたようだった。

が、ヨネとおばちゃんの会話はそれだけでは終わらずに、もっと重要な情報を我々に告げることになる。

そのミズーリのおばちゃんは、おれたちが今まさに向かっているイエローストーンから帰っている途中で、これからおれたちが走る予定だった US-14/16 の状況を詳しく教えてくれたのだ。

なんと、彼らはイエローストーンから脱出するのに二時間もかかって大変だったという。あと 60マイル (96km) 程度で到着する予定のイエローストーンなのに、その道は工事で大渋滞しているらしいのだ。うーむ。

かなり計算外のできごとだが、訊いておいて良かった。二時間もかかるならコースの変更を検討しよう。Cody からイエローストーンへのルートは、US-14/16 でど真ん中に入るルート以外にもうひとつ、WY-120 から WY-296 を通って北側から入るルートがある。

距離はだいぶ伸びてしまうし、結局、到着には二時間くらいかかりそうだけれど、北から入れば一周しやすくなる。また、公園内で走る予定だった、北上の 30マイル (48km) くらいが自動的に解消されることになるし、北ルートを取る意味は十分にある。

片側交互の渋滞で一時間ちかく無駄に時間を過ごす意味はないし、そうしよう。

それにしても、チーフがおれを信用しなかったことと、ヨネが気楽に人に声をかけてしまう性格だったことが、これほど重要な情報に結びつくとは。自分ひとりだったら、まったく得られなかった情報だ。やはり、仲間と旅をするのは素晴らしい。

関係ない人にもとにかく「はなす」コマンドを使って話しかけていくと、最初は違うことを答えるけれど二回目には本当に訊きたかったことをしゃべりだすという、ドラクエ的な方法論が、実生活でも大いに役立つのだなあと感心する。

一時四十五分、Cody を出発。WY-120 を北上する。

二時半、WY-286 に乗り換え。

30MPH (48km/h) から 50MPH (80km/h) くらいの速度が中心になる、かなりワインディング。これは二人乗りのヨネにはちょっとキツいだろうが、そんなことは気にせずに、どんどん山道を飛ばす。うしろのチーフがぴったりついてくるので、ついつい速度もあがってしまう。気持ちいい。

コーナーをたくさん抜け、だいぶヨネに差をつけた。山を登りきったところでヨネが追いつくのを待つ。あっという間に追いつく。それほど遅れているわけでもない。

三時過ぎ、US-212 に合流。

三時半、工事につかまる。工事を避けて北回りのルートにしたのに、結局は工事で待たされるわけか。すぐ向こう側にモンタナ州との州境が見えている。

US-212: 結局、工事で待たされる

五分後、STOP サインが SLOW に変わって、モンタナ州に突入。

ワイオミングにあるイエローストーンだが、北側はモンタナ州に入っている。政治的な理由だろうと思うが、そんなことはどうでもいい。今日は北から入るのでモンタナから入る。

四時、イエローストーン国立公園のエントランスに到着。やっとついた。しかし、この巨大な公園はここからが遠い。ひたすら園内を西進。

五時、Roosevelt Lodge に到着。まずはキャンプサイトの具合を確認する。

四年前に来た時は、着いた時間がもっと遅かったというのもあるけれど、キャンプサイトは全滅だった。今日も、その可能性はあると思っている。最悪、公園を出てモーテルを探す旅にでる必要があるかも知れないという覚悟はしている。

果たして、ロッジのレジストレーションでキャンプサイトの空きを調べられるかと訊いたら、すべて調べられるという。さっそく調べてもらうと、人気のロケーションは全部埋まっていたが、いくつか空いているところが見つかった。

チーフが八年前にキャンプした時は、湖の近くのサイトがよかったというので、湖の近くを探してみる。Grant Village に空きがあった。いいぞ、いいぞ。

四年前に訊いたときは、キャンプサイトは早い者勝ちシステムなので予約できないと言われてびっくりしたのだが、今もそうなんだろうか。試しに訊いてみる。すると、「電話で予約できますよ。Grant Village なら、ここにかけて」と言われて電話番号を渡される。素晴らしい。細かいところだけれど、カイゼンされているようだ。

さっそく携帯を取り出し、予約。と思いきや、当然ながら電波は入っていない。まあ、そらそうか。レジストレーションで電話を貸してくれるか訊いてみたら、外に公衆電話がありますという。はいっ。

すでに小銭王になっているチーフから大量にクオーターをもらい、急いで公衆電話で電話をかける。十分くらいそのまま待たされて、ようやく係りの人につながる。

「湖の近くで、大きいハーレーが三台止められて、大きいテントひとつに小さいテントふたつが設営できるサイト、残ってますか?」まるで、急いで言わないと空きがなくなってしまうかのように、全力でまくし立てる。「えーと… ええ、ありますよ。18ドルです」

クレジットカードの番号を伝え、予約完了。やった。最悪のことも想定していただけに、これは最高に嬉しかった。後日予定しているグレーシャー国立公園に行くためには、イエローストーンを二泊できない。イエローストーンの一泊が外だったら、かなり辛いところだった。

宿は確保した。あとは南下しながら見て回るだけだ。

Yellowstone National Park in Wyoming

四年前も見たところ、四年前は見なかったところ、一つずつポイントを回りながらイエローストーンの絶景を楽しむ。

道すがら、ときどき人が群がっているので何かと思えば、エルク、バイソンがたくさんいる。バイソンは相変わらず汚い。

Lake Village を少し行き過ぎてから、インスピレーションポイントに寄ってないことに気づく。だいぶ疲れているとは思うが、東側は観ていないと言っていたヨネとひーちゃんだから、一応、訊いてみる。「ちょっと戻る元気ある?」あるというので、少し戻る。

四年前にここに一緒に来た友人は、この少し赤らんだ渓谷を見て、「まるで女性のシンボルのようだ」と形容した。その時、おれは彼の詩的な表現に深く頷いて感銘を受けたのだが、その話をしたら、「この谷ををそんな風に形容できる人だから四人も子供がいるんだな」と、ヨネとひーちゃんは納得していた。そうなのかも知れない。

Inspiration Point at Yellowstone
いくつか見て回っているうちに、だいぶ日も落ちてきた。けっこう寒くなってきた。

本当はもう少し寄りたいところがいくつかあったのだけれど、「暗くなってきたし、これ以上みても仕方ないね」とヨネが言うので、キャンプ場まで直行することにする。

三人でキャンプ場に直行してもらって一人だけで Mud Volcano に寄るという案が一瞬、脳裏をかすめたのだが、だったら一緒に行くと、かえって気を使わせるだけになるかも知れないと思って、言うのをやめた。東側を走れたら必ず Mud Volcano には寄ろうと思っていたけれど、次回の楽しみにしよう。どうせ、いつかまたここには来るし、最初からほとんどのことを諦めるつもりで来ている。

七時過ぎ、Grant Village に到着。まずはテントを設営し、ビレッジに買出しに出かける。チキン、ソーセージ、トマト、たまねぎ、ズッキーニ、ガーリックソルト、ビール、薪などを購入。

さっそく火をおこし、晩飯の準備。

ソーセージには、予定外のチーズが入っていたけれど、これもウマイ。ビールに合いすぎる。ビールは当然 Teton Amber。おれは地ビールしか飲まない主義。

トマトはみんなそのまま食っていたけれど、硬そうだったのでおれは焼いて食ってみた。めちゃくちゃうまい。トマトは焼きトマトに限る。みんな、がまんできずにすぐに食べてしまうからどうしようもない。

四つのチキンのうち、ひとつはホイル焼きにして、三つはそのまま焼いて見る。ホイル焼きにしてみたチーフのチキンは、ジューシーで最高にウマイ。人のチキンの方が何故かウマイのか、チーフのチキンに三人が群がり、チーフは焼いたチキンがウマイと言って食っていた。

こうして火を囲み、ただ焼いただけの晩飯とビールがこんなにもおいしいキャンプとは、なんて贅沢な遊びだろうか。

空を眺めると、天の川があまりにも綺麗に見える。ぼーっと天上を見ていると、流れ星が線を描く。また、天空で異様な光を放ち動き続ける星、人工衛星もいくつか見える。

子供の頃、将来は天文学者になろうと思っていたという父に、星のことをたくさん教わった。夏の夜は、父と外に出て星を眺めて父の話を聞くのが楽しみで仕方なかった。どんな質問にも答えてくれる父は、何でも知っていると思っていた。

そんな父の影響もあってか、一時期、物理学者になろうかと思っていたこともあったおれの星に関するウンチクは、誰にも興味を示されなかったが、まあ、いいだろう。そのうち、子供たちにたっぷりと聞かせてやる。

  • 総合走行距離: 3721.07 マイル (5988.48 km)
  • 今日の走行距離: 326.49 マイル (525.43 km)
  • 最高速度: 92.2 マイル/時 (148.38 km/h)
  • 移動時間: 6時間57分
  • 移動平均速度: 46.9 マイル/時 (75.5 km/h)
  • 最低最高高度: 3671〜9338 フィート (1119〜2846 m)
  • $3.329 x 2.704G = $ 9.00 — 11:55:38 MINCHOW'S SERVICE — Lovell, WY
  • $3.599 x 3.704G = $13.33 — 16:51:04 TOWER JCT #8 — Yellowstone National Park, WY

(Sturgis 2006 その11 へ続く)

2006年9月10日日曜日

Sturgis 2006 (その9)

(Sturgis 2006 その8 からの続き)

旅の九日目、八月十三日。日曜日。

七時過ぎ、外に人の気配を感じて目が覚める。朝か。外を見てみると、すっかり晴れていて気持ちがいい。

昨夜は、とつぜん降りだした雨が激しくテントを叩く音で目が覚めた。時間は知りたくなかったので時計は見なかった。朝だったらショックだからだ。けっこう長い間バチバチとうるさい音に悩まされたと思うが、気がついたら寝ていたようだ。

のろのろと着替えを済ませてテントの外に出てみると、すでにチーフがお湯を沸かしている。日本から持ってきたインスタントの味噌汁を飲むためだ。これが最高にウマイ。

Bear Butte State Park Campground in South Dakota

ほどなくヨネとひーちゃんも起き、そそくさとテントから出てくる。

「すっかり雨があがってよかったねえ」とチーフが言うと、「え、雨降ってたの?」とヨネが答える。あの音に気がつかないで寝ていられたとはどんな神経をしているのか。ヨネが一番図太いのは間違いない。

朝食は、レモンマフィンとコーヒー。昨晩、買出しに行ったとき、レモンマフィン3つとクリームマフィン1つを買っておいた。きっとひーちゃんがクリームマフィンを食べることになるんだろうとチーフと予想していたが、やっぱりそうなった。

紅茶でも飲もうかと思ったら、コーヒーがあるとヨネ がいう。挽いた粉とドリッパーをちゃんと持ってきていたのだ。偉い。

ヨネがドリッパーでコーヒーを淹れてひーちゃんが飲む。ひーがちゃんが薄いというので、少しだけ粉を多めに自分で淹れることにする。それ用のポットがないので上手には淹れられないが、まぁまぁ。バイトで、毎日百杯くらいこうやってドリッパーで淹れた記憶が蘇る。

ヨネが淹れたものよりも若干うまかったのか、ひーちゃんにマスターと呼ばれる。 そうやって、これから毎朝、おれに淹れさせようという魂胆なんだろう。まあ、いいだろう。どうせ、おれが淹れた方がウマイんだから、誰に褒められなくてもみんなの分を淹れてやる。まあ、どうせ淹れるなら、褒めてもらった方が気分もいい。結局、のせられている。

九時、朝食を済ませ、隣のキャンプサイトに顔を洗いに行く。水はそっちにしかなかったからだ。

九時半、全員の準備が整い、出発。

最終日のスタージスのメインストリートをのんびりと走り、狂気の祭りに別れを告げる。またいつかここに来れるだろうか。四年後に来れるといいのだけれど。

十時前、スタージスの町を抜けたところで、とりあえずガスの補給。ハーレーだらけのスタンドで、なかなかポンプが空かない。

I-90 をくぐり、US-14 を西進し、US-385 を南下。Mt. Rushmore に向かう。今日の通過予定地 Devil's Tower とはまったく反対の方向だが、ここに来て Blackhills を走らないわけにはいかないし、初めて来たひーちゃんを Mt. Rushmore に連れて行かない手もない。

十一時過ぎ、Mt. Rushmore 国定公園に到着。ここに来るのは三度目でとくに新味もないのだが、八年目に一緒に来たチーフとヨネと、またここにいるというのは、やはり感慨深いものがある。

Mt. Rushmore in South Dakota

十二時前、Mt. Rushmore を発ち、今度はその敵、インディアンのヒーローのところに向かう。

十二時半、Crazy Horse Memorial に到着。四年前と比べて何も進んでいないように見えるが、いつか本当に完成するのだろうか。すでに、彫刻を完成させることそのものよりも、政府の(つまり白人の政府の)手を借りずに事業を進めているということが、Crazy Horse Memorial のポイントになってしまっているようだ。今の事業主が逝った後、誰がこの事業を続けていくのか知らないが、いつかその最初の志は忘れ去られ、州政府の力を借りて事業を完了させるか、まったく前進しないままだらだらになるかのどちらかになる気がする。

ものごとを妥協しながらも確実に前進させていくことにかけては、やはりアメリカ人は凄く優れているように思う。

さて、おなかも空いてきたし、ここで昼飯にしよう。レストランに入る。

何にしようか悩んだ後、結局三人はバフェにした。おれはあえて Native American Taco というのを選んでみる。ひとりだけおいしいものを食べる作戦だ。

先に食べるなと言うのをまったく無視して食べ始める三人。バフェなので、好き放題に具を載せた贅沢タコスを作ってほお張っている。

それにしても、おれの分はいつまで待っても来ない。おれの存在を忘れているのか、それともおれを苦しめるためにわざとやっているのか、三人はうまそうにタコスを食い続けている。おいしい、おいしいって言うな。腹が減って死にそうなのに。

すると、店員が来て言った。「もし待ちきれないようでしたら、あちらのバフェで自分で作って食べてもいいですよ」

な、な、な、なんだよ、それ。 結局、おれが注文したものは、店員がバフェで作って持ってきてくれるというだけのことだったのだ。どうやって作ればその Native American Taco というのになるのか知らないが、そこのバフェにあるもので作るのなら、バフェでいいじゃんかよ。最初に言えっての。散々待ったあげくこれかよ。どういう仕打ちやねん。

結局、三人と同じものを食べることになった。全面的敗北。今度、誰かとここにきたら、「Native American Taco がいいよ。おれは前くったから、今日はバフェにしてみるけど」って言ってやろうと思う。

一時半、Crazy Horse Memorial を出発。Devil's Tower 国定公園に向かう。本当は、Needles Highway の方も走りたかったのだけれど、時間がだいぶ遅くなってしまったので諦めて先を急ぐことにする。

US-385 を南下し、Caster から US-16 を西進する。

二時過ぎ、ワイオミング州に到着。ブラックヒルズでは終始あめ模様の空だったが、結局、一滴も降らずにすんで助かった。

US-16: WYOMING WECOMES YOU

二時半、Newcastle に到着。ガスの補給と休憩。

二時四十五分、US-85 を北上。

三時過ぎ、WY-585 に乗り換えて北上。

三時半、Sundance を抜け、US-14 に乗り換え。

三時五十分、Carlile Junction から WY-24 に乗り換え。

四時過ぎ、Devil's Tower 国定公園に到着。

Devil's Tower National Monument in Wyoming


異様な風貌でそびえ立つ眼前の山を、しきりに男性のシンボルにたとえて話す幼稚な男衆。それを無視するでもなく、まったく動じずについてくるひーちゃん。四人での旅も、だいぶ板についてきた。

せっかくだから山を一周してみようかとも思ったが、そこまでしている時間はなさそうだ。トレイルを途中まで歩いて引き返すことにする。

五時前、出発。WY-24 を南下して、US-14 に戻る。

五時半、Moorcroft にてガスの補給。ここから Gillette までの 30マイル (48km) ほどが、I-90 と US-14 と US-16 の共同運航便になる。不本意ながらもインターステートを使う以外にない。

が、地図をよくよく確認して見ると、I-90 と平行して走っている道があるようにも見える。はっきり分からないので、GPS で確認してみると、51 と書いてある。ちゃんと番号が振られた側道があることを発見。ハイウェイだ。これが使えるなら、インターステートに乗らずにすむぞ。

ここで、今日の目標地点を検討することにする。疲れたので Buffalo くらいでヨシにしようかという雰囲気にもなるが、頑張って Sheridan まで行こうと言い張ってみる。

もし Buffalo までとすると、今日の総距離はだいたい 330 マイル (528km) くらいになり、ちょっと少ない。確かに、今日はあちこち見たので、自然に距離が伸びる日ではないけれど、それでももう少し走っておきたい。これからあと一週間も続く旅なので、手を抜けるところで抜くのではなく、毎日できるかぎり多めに走って余裕を作りたい。ここで 50マイル (80km) 楽したら、そ れを取り返すためには、結局、インターステートを使うしかなくなる。

また、Buffalo に行くためには US-16 を南下するか、I-90 で行くしかない。I-90 はおれの選択肢にはないので、そうなると US-16 しかない。しかし、US-16 で西進するルートを取ると、US-14 を使うルートに比べて 50マイルも走行距離が増えてしまう。今日、50マイル楽して、さらに全体として 50マイル増えることになるということは、100マイルの追徴課税ということだ。それは無理だ。

チーフはどっちでもいいといい、ヨネは Buffalo でいいんじゃないかといい、おれは Sheridan と言い張る。

ヨネとひーちゃんは、二人分の荷物を二人乗りで運んでいるのだから、おれやチーフよりも疲労の度合いは高い。

八年前に女房を後ろに乗せて、Todd と Terry と一緒に走った時とまったく同じ状態なので、ヨネの立場もよく分かる。夫としては女房を守る義務もあるし、だからといって、女房が女房が、と言って二人の男の意見に反対ばかりするわけにもいかない。微妙な立場にある。

インターステートを走るのはいやだという意見にチーフが同意しつつも、Sheridan だとヨネとひーちゃんに負担が多すぎるかも知れないということで、結局、Sheridan に向かいながら、様子を見ようということになった。これ以上は厳しいという感じになったら、途中でモーテルを探す方向で。途中で夜になってしまったら、それでおしまいにするということで。

後で、ヨネはひーちゃんになんて言うんだろう。おれは止めようって言ったのに、チーフが無理強いしたって言っておいてくれればいいのだけれど…

さて、時間を無駄にはしていられない。さっそく出発する。

I-90 と平行して走っているはずの WY-51 は、どんな道かはまったく分からない。地図にちゃんと載ってないくらいだし、使えない道かも知れない。

GPS を見ながら I-90 の入り口に向けて走ってみると、左手に側道と思われる道を発見。分かりにくいところにひっそりとあった道だが、思い切って飛び込んでみることにした。きっと、後続のチーフもヨネも、そこに左折できる道があったとはおれが曲がるまで気づかなかったに違いない。

正解だった。右手にたくさんの車が行きかう I-90 を見ながら、誰も走っていない真っ赤な WY-51 を西進する。

六時十五分、Gillette に到着し、US-14/16 に復帰。結局、インターステートを使えば 20分強で走ることができる 30マイルに 40分もかけたことになるが、満足至極。

何もないハイウェイを 80 MPH (128km/h) で風を切り、人口千人にも満たない町の入り口で 30 MPH (48km/h) に減速し、その枯れ果てた空虚な町をのんびりと素通りし、また何もないハイウェイに戻る。これの繰り返し。アメリカの田舎道を走っている実感に浸る。90 MPH (144km/h) でガスがなくなるまでひたすら走り続けるインターステートでの旅とは、見えるものも感じるものも、何もかもが違う。

予定通り US-14/16 を北上。

US-14/16: Scenic Byway in Wyoming

US-14/16 を北上している最中、ほとんど車とはすれ違わなかったが、周りにはたくさんの鹿を見た。きっと飼っているわけではないはずだから、野生なんだろうが、とにかくたくさん見た。一生分の鹿を見たといっても過言ではないくらいに見た。あ、鹿だ、ではなく、あ、鹿の群れだ、という感じで、それこそしょっちゅう見た。

十頭から多いのになると五十頭くらいはいそうな群れが、放牧されている牛の近くにいたり、何もない草原に群れていたりする。たぶん、合計で千頭くらいは見たんじゃないだろうか。とにかく、 鹿をたくさん見た。もういいというくらいに鹿ばかり見た。US-14/16 は、鹿が見たい人にはとくにオススメの道と言える。

Sheridan に向かう途中、なんどか小さな町でモーテルを見つけたが、ひーちゃんがまだ大丈夫だと言うので、結局 Sheridan まで走ってしまうことにする。

八時、Sheridan に到着、ガスを補給。目標は達成した。あとはモーテル探しだ。

それなりに大きな街で、メインストリート沿いにはいくつもモーテルがあった。ひとつずつ入って、空き部屋と値段を確認する。

最初に入ったモーテルで、ツインが 55ドルと言われる。こんな田舎でそんなに高いのか。やめることにした。他をあたろう。

いくつか回って見る。が、どこも 60ドルから 70ドル。高すぎる。結局、一番最初のモーテルが一番安かったわけだ。

仕方ないので、最初のモーテルに戻ることにする。

さっき来たばかりのアジア人の顔を覚えていた店の親父が、つまらなそうに言う「結局、ここが一番安かったってわけかい?」「ええ、まあ」

念のために空き部屋を確認する。ある。だが、さっきと値段が違う。

「さっきはツインで 55ドルって聞きましたが?」

「いや、それはシングルの値段だ」

「いえいえ、おれはちゃんと『ツイン』の値段を聞いて、『55ドル』って聞いてたから戻ってきたんですよ」

おれが値段を聞いていた時、ヨネも横でそれを聞いていたので、決しておれの聞き間違いでも勘違いでもない。だが、おやじは言い張った。「いいや、それはシングルの値段だ」

うーん、どうしたものかな。こういうオヤジは言い出したら聞かないからなあ。そこでヨネが言った「じゃ、負けてくれない?」

その言葉を聞いたとたん、おやじは無言で鍵と登録用紙を片付け始めた。

「え、泊まらないとは言ってないですよ」

「こっちから願い下げだ。とっとと、違うところに行きな」

ははは。まあ、田舎ではとくに珍しいことではない。

アジア人なんてほとんどいない田舎の町で、自分のモーテルが一番安いからと言って戻ってきたクソアジア野郎に、自分の勘違いを指摘されてブチ切れた中年の白人。もしかしたら、単にアジア人が嫌いなのかもしれないし、おれたちがアジア人じゃなくても頭に来たのかも知れないし、まあ、どっちでもいい。

こんな扱いはあまり受けたことがないのか、かなり頭にきている様子のヨネ。カリフォルニアにいると、あまりそういう目にあう機会がない。

おれは幸か不幸か、東側で何度も差別的扱いを受けてきていて免疫があるので、なんとも思わない。もちろん、明らかな差別ならば平然と厳しい口調で抗議して、差別的対応を取ってしまったことを後悔させてやるのだけれど、今回の扱いは、仮に人種差別がその根底にあったとしても、明らかな差別的対応というわけではない。差別ではなく、ただのガンコ親父なのかも知れない。

まあ、どっちでもいい。さっさと次に行こう。

町の外れに向かいながら、いくつもあるモーテルを調べていく。九時、モーテル決定。チェックイン。

さて、宿が決まれば飯だ。今日は遅くまで頑張った。ご褒美に中華を食おうとみんなで決めていた。

チェックインしながらインド人のオーナーに聞いてみる。中華なんだけど、どこがいい?

親切すぎるそのインド人店主は、こういうことはうちの息子が詳しいんだと言って、わざわざ息子に電話する。そして、おれに受話器を渡して言う。「行き方をちゃんと聞いておきなよ」

そのインド人息子が一番薦めたいところは時間的に無理だろうからと言って、次善の店を教えてもらう。さっきここに来る途中に、ひーちゃんが左手に中華料理屋を見つけたと行っていた店だった。チェックインを済ませ、荷物を降ろす。

荷物を降ろしたら、さっそく店に向かう。時間がない。

二人乗りがどんな感じなのか試して見るために、チーフを後ろに乗せて中華料理屋に向かう。久しぶりの二人乗り。ちょっと緊張する。

ちゃんと運転していないと、簡単にバランスを崩しそうになる。モーテル到着後なので、とくに気も抜けている。気を抜くと、すぐに倒れそうで怖い。ヨネはこれで一日中はしってるんだから、大したものだなあ。

店に到着すると、客は誰もいない。店員は全員、奥で賄いを食べている。終わりかと思いきや、バフェにあるものしかないけれど、いいですよ、と。よかった。

腹ペコで死にそうな四人は、いっせいにバフェに群がる。

すると、こちらが日本人だと知った一人の店員が、一所懸命に日本語で話しかけてきた。以前、日本にちょっとだけいたことがあるらしい。彼の日本語はかなりひどかったが、こちらの日本語が少しは分かるらしく、なんとか話をしようと必死になってこちらの気をひこうとしている。

食べることしか考えてない四人は、誰一人として彼の話をまともに聞いていない。横浜がどうとか言われても「へー、そうなんだー」と生返事しかしない。それでも一所懸命に何かを説明しつづける彼。

そんなにこっちに好意的ならと、調子にのって注文してみる。鳥唐とシュウマイが切れてるんだけれど、作れない?「できるある、できるある。すぐ作るあるよ」日本語で頼まれたことがよっぽど嬉しかったらしい。

今日は頑張った甲斐があった。かなり疲れたけれど、最後にはいいことがあるものだ。みんな、おいしいおいしいと、マズい中華バフェを幸せそうにほおばる。もっとも幸福を感じるひと時。

こんなおいしいものを発明した上、こんなところで店をやってくれているなんて、本当に中国人は偉いと思う。

幸せをかみ締めたら、モーテルに帰る。ああ、そうだった、二人乗りだった。完全に腑抜けになっているので、相当に気をつけなくては。

モーテルへ戻る途中のスタンドで、水とビールを買う。チーフは夜用の風邪薬を買う。それに含まれている睡眠薬が効くらしい。それを飲むと、あっという間に眠たくなって寝てしまうらしい。まあ、寝ても一時間くらいすると、咳で目が覚めちゃって可哀想なのだけれど。

チーフの風邪が完全に治るのは、きっと日本に着いたころになるってオチなんだろうなあ。

  • 総合走行距離: 3394.59 マイル (5463.06 km)
  • 今日の走行距離: 382.56 マイル (615.67 km)
  • 最高速度: 88.5 マイル/時 (142.42 km/h)
  • 移動時間: 7時間13分
  • 移動平均速度: 53.0 マイル/時 (85.3 km/h)
  • 最低最高高度: 3139〜5997 フィート (957〜1828 m)
  • $3.359 x 2.088G = $ 7.01 — 9:46:29 FRESHSTART — 2350 Lazelle, Sturgis, SD
  • $3.319 x 2.636G = $ 8.75 — 14:25:39 4 WAY GAS N GO — 1226 Washington Blvd., Newcastle, WY 82701
  • $3.299 x 2.872G = $ 9.47 — 17:31:22 DIEHL'S SUPER MARKET — 109 North Big Horn, Moorcroft, WY 82721
  • $3.219 x 3.364G = $10.83 — 19:58:52 RED EAGLE FOOD — Sheridan, WY


(Sturgis 2006 その10 へ続く)