旅の十四日目、八月十八日。金曜日。
八時、起床。
さっさと着替えて朝飯だ。空港のそばのモーテルだけあって、当然ながらコンチネンタル・ブレックファストがある。久しぶりの贅沢な朝食に心も弾む。ドーナツとシナモンロールに、コーヒーとオレンジジュースで攻めることにする。まさにアメリカ人の朝食スタイル。
九時半すぎ、贅沢な朝食を満喫し、だらだらと準備を済ませ、出発。まずは目の前スタンドで給油。地図を開いてみんなでルートの確認。さーて、今日もがんばって走りますか。
十時、スタンドを出発。まずは目の前の I-84 に乗り、町から脱出だ。
朝の遅い時間なのに、町だけあってかなり車が多い。こんな道は事故の元だ。さっさと降りなくていけない。
30マイル (48km) ほど走って Caldwell に到着。インターステートから脱出。
十時半、US-20 を北上。帰る方向とは反対だが、昨日、Boise まで南下したツケを払う必要がある。
十一時、オレゴンに突入するも気づかずに走り続ける。GPS で確認したら、州境を過ぎたように見えるんだけれど、州境の看板はあったかなあ。
後ろのチーフに聞いてみると、州境の看板を見たという。おれが見逃しただけだったか。以前 US-97 で見たオレゴンの看板をイメージしていたので、何の変哲もないつまらない看板を見逃したらしい。悔しいので戻ることにする。
US-20: WELCOME TO OREGON |
さて、オレゴンだ。ヘルメットなしの自由もここまでだ。ここから自宅まではずっとヘルメットが必要になる。久しぶりのヘルメットはすごく重く感じる。
「オレゴンといえば『オレゴンから愛』だね」 とひーちゃんが言う。懐かしいなあ。しかし、ヨネは知らないという。知らない日本人がいたのにびっくりする。
「オレゴンから愛」とは全然関係ないのに、なぜかそれ以後、「北の国から」の主題歌が「おれTunes」に登録され、うるさいほどかかりまくることになる。
それまでは、ラジオを聴いているとき以外の「おれTunes」は、天気が悪い時は SRV の「Couldn't Stand the Weather」がよくかかっていた。それがかかると自動的に「Voo Doo Chile」がかかり「Pride and Joy」がかかる。ちなみに「Pride and Joy」の女性は、以前は女房だったのに今は娘になっている。この歌がかかると娘に会いたくなって仕方がなくなる。「She's my sweet little baby. I'm her little lover boy〜♪」
また、天気がよい時は、Lazytown の曲が流れっぱなしになる。「Welcome to Lazy Town」から「There's Always A Way」「Teamwork」と、順番に熱唱する。ハーレーで田舎道をぶっとばしながら「Teamwork do it together. Teamwork friends forever〜♪」と幼児番組の歌を大声で歌っている中年。ちょっと心配になるが、それがおれの今の実力なのだから仕方ない。
それにしても、今回の旅は、ラジオよりも「おれTunes」を聴いてる時間の方が圧倒的に多かった。
US-20/26 を北上し、十一時過ぎ、Morgan からやっと西進。ここまでは、Boise まで南下してきたツケを払う旅。本番はここからだ。
オレゴンに入ったとたん、何もない田舎道なのに 55MPH (88km/h) 制限となる。アイダホを抜けているのでモンタナの白バイ兄ちゃんの教えを忘れてもいい。10マイルオーバーくらいで走っている。だが、それでも 65MPH (104km/h) なのだから、かなりのんびり走っているように感じられる。同じ道がカリフォルニアならば 65MPH 制限、つまり 75MPH (120km/h) で走れるのに、何が目的なんだろうか。
十一時半、Vale から US-26 と分岐して US-20 を西進。ここから先は砂漠だ。砂漠の小さな山の間をうねりながら抜けていく。
この軽いワインディングで、ヨネのカーブの速度がだいぶあがっていることに気づく。今までだったらコーナーを二つも抜けたら後ろにはいなくなっていたのに、ここでは四つくらい越えてもまだ見えていた。毎日いやというほど走りまくっていることで、二人乗りも完全に板についてきたし、バイクが倒れる角度もだいぶついてきたようだ。
十二時半、約二週間ぶりに太平洋夏時間に時計が変わる。時計の針が一時間戻って十一時半に変更。バイクの時間も体内時計もずっと太平洋時間のままだったので何も変更なし。
一時間後の十二時半、Burns に到着。ガスの給油と昼飯。
一時半すぎ、出発。
二時過ぎ、US-395 に乗り換え。ぽかぽかと暖かい日差しが気持ちよすぎて、とにかく眠い。大声で「北の国から」の主題歌を歌って眠気をさますが、それでも眠い。
途中、「あぁあ〜♪」と「北の国から」を最初から歌っていたら、二小節目から「大都会」に変更できることに気づく。何度も交互に歌ってみて確認する。富良野の田舎が大都会か。いくら暇でも、そんなことを真剣に考えている自分はどうなのかと自問する。
二時半、砂漠のど真ん中、Wagontire で右手にスタンドを発見。オアシスだ。多くのバイク乗りが休憩している。
ガスはまだあるので寄る必要はなかったが、眠すぎて怖かったので休憩することにする。
「『北の国から』と『大都会』は、最初は一緒なんだよ」とみんなに教えてあげたが、「へえ」と言いながら誰も本気では関心を示さなかった。自分としては凄い発見だと思っていたのに。まあ、眠くて頭が回ってないだけなんだろう。後で、もう一回教えてあげよう。
十五分ほど気分転換して、ひーちゃんに新しいガムをもらって出発。
US-395: Wagontire in Oregon |
三時、US-395 から Chirismas Valley Wagontire Road に乗り換えて西進。さらに砂漠の道が続く。
Chirismas Valley Wagontire Road in Oregon |
オレゴンは緑が豊かなイメージがあったのだが、今回東西に横断してみてそれが誤解だということが分かった。オレゴンは、西側は緑豊かだけれど、東側はただの砂漠。不毛の大地だ。この日は天気はすごく良かったが気温はそれほど高くなく、走っていれば気持ちいい気温だったこともあり、オレゴンの東半分は涼しいネバダ州のように感じた。
三時半、Chirismas Valley に到着。ガスの補給。
四時、出発。十分後、Silver Lake に到着。湖とは言ってもドライレイクなので水はない。OR-31 を西進。
四時半、Bear Flat Road に乗り換えて西進。
五時、US-97 に合流。
さて、ここから US-97 を 35マイル (56km) ほど南下して OR-62 を北上していくルート以外に、US-97 を素通りして、この先の州立森林公園の中を南下していくルートがある。地図で確認すると、州立公園ルートの方がかなり近い道になる。
問題は、だいたい 3マイル (4.8km) くらいのダートを走らないといけないということだ。
時間もだいぶ押しているし、できればこのショートカットで行きたいと思うが、ダートを二人乗りするのはかなり大変だ。ヨネが何ていうか聞いてみる。
すると、その 3マイルを我慢すればかなり時間が短縮できそうなんだし、行ってみようという。おぉ、そう言われると嬉しい。自分だったらかなり躊躇しそうだし、無理強いするつもりはなかったのだけれど、ヨネから積極的な意見が出たことで、おれとチーフの迷いも消えた。行こう。
US-97 を素通りし、西進を続ける。
先頭を走るおれの視界を遮るものは何もないが、おれの後ろを走る二人は、おれが巻き上げる砂埃で前が何も見えない。たまらずに車間距離をあける。
予定通り、3マイルほど走ったところで州立森林公園を南北に縦断するルートに合流した。しかし、あろうことかその縦断ルートも未舗装道路だった。「ダ、ダートなのかよ…」
たったの 3マイルで済むつもりだったから選択したルートだったのに、なんてこった。うーむ。どうしようか。
せっかく走ったダートを戻るのも馬鹿馬鹿しすぎるし、きっとこのダートもすぐに終わるはずだ。下まで全部がダートなワケがない。地図を確認してもダートの印はないのだ。意を決して南下することにする。
とりあえずヨネを先頭にして、おれがしんがりを務めることにしよう。先頭なら砂埃の中を走る必要はない。
ときどきかなり深い砂利にハンドルが取られそうになりながらも、我慢の走りでダートを南下する。しかし、いつ終わるんだろうか。
一人で乗っていてもかなり辛いのだから、二人乗りはさぞかし辛いだろうと思う。また、運転している方はハンドルを持っているのである程度は対応が取れたとしても、後ろのにっている方はたまらないと思う。執拗に続く大きな振動に、脳みそが溶けて耳から出てきそうになってるんじゃないだろうか。
そのダートは結局 OR-62 に出るまで、15マイル (24km) ちかくも続いた。嫌がるヨネをおれとチーフで無理やり説得したような形じゃなくて、よかった。このダートは酷すぎる。詐欺にもほどがある。
ダートは続くよどこまでも at Sun Pass State Forest in Oregon |
「だから嫌だって言ったのに、五分で終わるからお願いだって、何度も何度も言うから、五分だけだからねって言ったのに、もう二度と信用しないからね!!!」なんて言って、ひーちゃん、ブチギレしてたりしないだろうか。
奥さんを後ろに乗せて走っていた当時、つまらないことでよく喧嘩したと言っていた友人の話をみんなで思い出す。結局、こういう細かい詐欺の繰り返し、積み重ねが最終的な決断へと結びつくのだろう。「これは確実に離婚の要因のひとつだね」 いきなり離婚の危機を迎えるヨネとひーちゃん。
六時、やっと OR-62 に到着。舗装された道路は快適そのもの。さーて、クレーターレイクまで北上だ。
六時半、クレーターレイクに到着。訊くと、キャンプサイトに空きはある。良かった。
小さな国立公園だし、それほど多くの人が訪れる場所でもないから空きがないなどという事態は考えてなかったけれど、キャンプ大好きアメリカ人のことなので、楽観はできないと思っていた。まあ、回りにはたくさんキャンプ場があるから、ここがダメでも他に行けばいいと思っていたけれど。
七時、Mazama Village に到着。
受付でキャンプサイトを確保しようと思ったら、キャンプサイトを回って空いてるサイトの札をもってこいと言う。実際にサイトを見て場所を決めろということだ。
三台でかなり広いキャンプ場をぐるぐると回って様子を窺う。が、ほとんど埋まっていて選択肢はほとんどない。
こんなに広いキャンプ場がほとんど埋まっているなんて、日本ではまず考えられない。しかも、ここは規模も小さく大人気という国立公園でもないし、金曜日だ。アメリカ人のキャンプ好きは本当に感心するしかない。
大きさによって若干値段が違うサイトだが、値段よりもロケーションを選択。残っていた中では、なかなかいいところを確保できた。
サイトの入り口にあった札を取り、受付まで持っていく。その札がないサイトは確保されたという意味になる。
さっき説明をしてくれた受付の親父に言われる。
「あれ?友達はどうしたんだい?ひとりで金を払ってこいって言われたのかい?」
「まあ、そんなところ」
「チケットを持って戻ったときに、彼らがいい場所でテントをさっさと張ってるかどうかで、友情の具合が分かるね」
「確かに、みんないいところに張ってて、おれにはロクでもないところしか残ってなかったから頭にくるなあ」
果たしてサイトに戻ってみると、テントはひとつも張られてなかった。おー、真の友達だ。本当はなんでさっさと張ってないのか分からないけれど、どこに張るかは今からみんなで公平に探せるわけだ。嬉しいなあ。
あたりはだいぶ薄暗くなってきた。テントをさっさと張り、ビレッジに晩飯と薪の買いだしに行く。
火さえ通せば適当に食べられそうなものをいくつか買い、キャンプサイトに戻る。
薪に火をおこし、ランタンに火をつける。
買ってきた肉と野菜を焼き、適当な味付けで食べる。玉ねぎやじゃがいもをホイル焼きにして食べる。ウマイ。火が通って塩気があれば、ほとんど何を食ってもウマイと感じられる。ビールもウマイ。
明日はいけるところまで行って最後のモーテルになるから、今夜が最後のキャンプということになる。
ここまで何度もキャンプしてきたけれど、風もなく、雲もなく、寒くもなく、今回の旅ではもっとも快適なキャンプだ。
焚き火を囲んで、結婚や離婚からアメリカでの生活や仕事のことなど、たわいもない話に花を咲かせる。お互いの共通の友人の話題を肴に盛り上がる。
毎日こうやってくだらない話をしているのに、話は尽きない。本当に楽しいなあ。
空を仰ぐと満天の星空。イエローストーンの空も綺麗だったけれど、ここは周りの全ての木がかなり高いので、空がすごく低く見える。天の川に手が届きそうだ。
のんびりと天を眺めていると、ときどき流れ星が見える。人工衛星ばかり見つけて流れ星を見られないひーちゃんは悔しそうにずっと空を見ている。疲れて下を向いた瞬間に流れ星が線を描く。
しかし、キャンプは最高だなあ。今度の旅は、もっとたくさんキャンプがしたいなあ。はやく子供たちを連れてキャンプに来たいなあ。
ああ、もうすぐこの旅も終わるんだなあ。
- 総合走行距離: 5205.70 マイル (8377.76 km)
- 今日の走行距離: 409.97 マイル (1335.06 km)
- 最高速度: 89.2 マイル/時 (143.6 km/h)
- 移動時間: 7時間02分
- 移動平均速度: 58.2 マイル/時 (93.7 km/h)
- 最低最高高度: 2147〜6070 フィート (654〜1850 m)
- $3.199 x 3.192G = $10.21 — 09:42:35 AIRPORT CHEVRON — 2828 Airport Way, Boise, ID
- $3.409 x 4.297G = $14.65 — 12:23:57 L.R. SWARTHOUT — 19 W. Monroe St., Burns, OR 97720
- $3.429 x 2.607G = $ 8.94 — 02:35:27 CHRISTMAS VLY MARKET — 87497 Valley Hwy, Christmas Valley, OR
(Sturgis 2006 その15 へ続く)
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