2006年9月13日水曜日

Sturgis 2006 (その12)

(Sturgis 2006 その11 からの続き)

旅の十ニ日目、八月十六日。水曜日。

七時半、起床。モーテルでの朝は楽でいい。テントもシュラフも片付けなくていい。モーテル氏に感謝。

八時、なくなる前に朝飯だ。ロビーに行く。が、そこには朝食はなかった。

どう見てもコンチネンタル・ブレックファストがあると見せかけていた、ロビーの前のその広いスペースには、コーヒーだけがひっそりと置いてあった。通常なら、ここに豪勢な朝飯が所狭しと並んでいるべき棚に、コーヒーがひとつだけとはどういうことか。

勝手にあると思い込んでいただけなのに、約束が違うぞ、ふざけんじゃないぞと、店員に文句をいいに行く。

すると、 隣の Best Western で使える 1ドルクーポンがあるから、それで朝飯を食っていけと言われる。なんだそれ。プライドとかないのかよ。ないらしい。

たかが 1ドルクーポンに騙されてみるか。仕方ないので、しぶしぶ行くことにする。面倒くさいなあ。

Best Western に入ってみると、ただのコンチネンタル・ブレックファストだと思っていたら、何故かふつうのレストランだった。なんか、違うくね?明らかに、期待していたものとはぜんぜん違う展開になっているのだが、ここまで来て手ぶらで帰るというのも悔しい。面倒くさいので食っていくことにする。

何でも良かったが、久しぶりのダイナー朝飯なのでオムレツを注文。すると、大食い大会かというほどの量のオムレツが出てくる。悔しいので頑張ったが、半分しか食べられなかった。

べつに朝飯なんて何でも良かったのに、なんでこんなことになってしまったのか。無駄にお金と時間を使っただけの朝食になってしまった。

九時半、出発。すかさず町のはずれでガスの補給。まったく、ここでジャンク朝飯にしておいたら、一時間は時間を節約できた。

Great Falls の町を抜け、US-89 と I-15 の共同運航便に十分ほど乗り、US-89 を北西に向かう。

休憩もほとんど取らずに突っ走る。

十二時、Browning に到着。ガスの補給。ここまで一気に走ってきて疲れたので、ちょっと休憩。

十二時半、出発。US-89 をさらに北上。向こうの方に雄大な山々がそびえ立っているのが見える。グレーシャーはもうすぐだ。

一時、グレーシャーの手前の町、Saint Mary に到着。さっきまで遠くに見えていた山々は、すぐそこ、目の前にそびえ立っている。ワクワクしてくる。あたりはこれからグレーシャーに向かおうとする客で賑わっている。

はやる心を抑えて、まずは昼飯。

レストランは窓が大きく、天井も高くて、気分がいい。窓の外にはグレーシャーの雄大な景色がすぐそこにみえている。

L.A. で生活しているヨネとひーちゃんは、まわりに白人以外がいないことに違和感があるらしい。「まるで欧州に来ているみたいだ」などと言ってドキドキしている。まわりが不法滞在のラティーノだらけじゃないと気分が落ち着かないらしい。

昼飯の時間とはいえ、朝のボリュームが十分すぎたのであまりおなかはすいてない。一人分を頼んでも、どうせ残すことになるだろうし、チーフとサンドイッチを半分ずつにすることにした。

ウェイターがチーフに注文を聞いたところで、ぼくのサンドイッチを半分ずつにするからいいよと告げると、そのウェイターは気を利かせて、サンドイッチとそれについてきたサラダを、綺麗に二つの皿に分けて持ってきてくれた。頼んだわけでもないのに、ちゃんとそんなことをしてくれるなんて、偉い。チップを弾んであげなくては。

それにしても、こういうちゃんとした人がカリフォルニアやニューヨークにたくさんいれば、日本人のアメリカ人に対する印象はまったく違うものになるのだけれどなあ。都会には移民が多く、よくも悪くも "class" がないのは仕方ないか。

気分よく昼飯を終えてレストランを出た時、熊みたいな風貌のイカついバイカーが走ってきて訊いた。「ライトが消えてないハーレーがあるんだけど、心当たりないか?」「ないけど」「そうか、それならいい」

バイク乗りっぽい格好をした人に手当たり次第に聞いている。男はレストランの中に走っていった。見た目と違っていい人だ。

そろそろと駐車場に戻ってみたら、ヘッドライトがつきっぱなしになっているバイクを発見。ああ、あれのことか。

げげげ。おれのじゃん。ってことは、一時間はつけっぱなしになっていたってことか。うーわ、まずい。

おそるおそるエンジンをかけてみる。ドドドドッ〜。おー、一発でかかった。ほっ。冷や汗すぎる。

心配そうに回りで固唾を呑んで見守っていたハーレー乗りたちも、みんな、良かった良かったと、こっちを見てうなづいている。

さっきの親切ヒゲも じゃオヤジも戻ってきて、「なんだよ、おまえのだったんじゃないかよ。消してやろうかとも思ったんだけれど、勝手に触っていいもんか、よく分からなくって よー」と言って手を振った。「いやー、申し訳ない! 何、言ってんだ、このおっさん、くらいに思っててさー。心配してくれてありがとね!!」

あー、びっくりした。

さて、おなかもいっぱいになったし、エンジンもかかったし、さっさと出発しよう。すぐそこにエントランスが見えている。

二時過ぎ、出発。

ほどなくグレーシャー国立公園の入り口の看板に到着。毎回やっているように、看板の前にバイクを止め、エンジンを切り、写真を撮る。

Gracier National Park in Montana

みんなも写真を撮り終えて、さて、行こうと思ったその瞬間、事件が発生した。

カチッカチッ。あれ?

「うわ、バッテリーだ!!!」ヨネが確信を持って叫ぶ。おいおい。え゛、まじで…

カチッカチッ。何度やってもうんともすんとも言わない。

げーーー。セルが回らなくなってしまった。エンジンがかからないではないか。まじかよーーー。

カチッカチッ。リレーに電流が流れても、スターターモーターに流す力がバッテリーにはなくなっている。

さっきは幸運にも一発でエンジンがかかったが、どうやらセルを回すのに必要な電流をそこで使い果たしてしまっていたらしい。電圧はそれほど下がってないのだが、電流が微妙に足りない。一度回ってしまえば問題ないが、セルをまわすには瞬間的にかなりの電流が必要になる。

うーむ。その可能性に気づいてさえいれば、エンジンを切らずに放置しておくこともできたのだが、一発でかかってしまったので安心して何も考えなかった…

まいったなあ。

が、なってしまったものは仕方ない。うなっていても事態は改善しない。やれることはひとつ。押しがけだ。

400kg を越えるこの重いツアラーを二人の男が押し、一人の男がクラッチをつなぐ。それしかない。そうとなれば、さっそく押しがけだ。

おれが自分のバイクにまたがり、ヨネとチーフが押す。ぱっとクラッチをつなぐ。かからない。スピードが足らない。ほとんど平らの、かなり長い下り坂なので、ほとんど重力が使えない。

チーフとヨネが再度押す。が、かからない。

坂を使って、もうすこし加速してからつないだ方がいいとチーフが言うが、坂がなだらかすぎてほとんど加速していかない。公園の入り口のぎりぎりまで惰性で加速させたらいいというが、そこでかからなかったら、今度は上り坂になってしまって永久にかけるチャンスがなくなる。この重たいバイクを上り坂で押しがけするのは不可能だ。危険な賭けにも思える。そこに行くまでに、 絶対にかけなくてはいけない気がする。

チーフとヨネが再度押す。かかりそうな気配がない。二人ともすでに結構疲れている。

やはり、ここはおれが押し切るしかない。ヨネと交代して、押すことにする。

ハーレーの押しがけは、クラッチをつないでからも押し続けるのがコツといえばコツだ。かなり大変なのだが、かかるとしたら、それくらいしかない。

やはり、人に押させるのではなく自分で押すしかない。そもそもこうなったのは自分の責任なのだし、自分で押すしかない。かからなくて困るのはおれだ。

十年以上も前のことだが、親友のハーレーを押しがけしてかけたことがある。その時も、何度やってもかからなかったのだが、結局、クラッチをつないだ後もずっと押し続け、何度もクランクを回し続けて、やっとかかった。

ハーレーのエンジンは、並大抵の勢いでは回転してくれない。1450cc もあるのにニ気筒なのだから当然といえば当然。

押しがけの場合、一回目の圧縮工程を十分な速度で行うことで反対側の吸気がうまく行ったとしても、そのシリンダーの圧縮工程までは、慣性だけでは賄えない。ここで押し続けることで二度目、三度目の圧縮工程を実現するしかないのだ。

ちなみに、おれのツアラーはキャブではなく EFI なので、クラッチのつなぎ方やアクセルの開け方もあんまり関係ない。ただ、イグニッションが入った状態でエンジンを二回か三回くらい回せば必ずかかるはずだ。

気合を入れて押すことにする。チーフと一緒に、ただ押しながら走る。だんだんスピードが出てきた。

さっきから走り続けている不惑を越えたチーフは、早々に「もう限界!!」と手を離すが、おれは執拗に押し続ける。かかる瞬間まで押すしかないのだから、手を離すわけにはいかない。押し続ける。

そして、ヨネがクラッチをつないでパスッと言って、一発目の工程が不発に終わったその後も、とにかく押して、押して、押して、押して、ドドッドドッドドドドドドドッ 〜!! やった、かかった!!!

安心して力尽きたのか、足が回らなくなり、道路にごろごろと転がる。息が上がり、肩で息をする。あああ、よかった。きっとかかるとは信じていたけれど、実際にかかるまでは不安だった。よかった。本当によかった!!!

自分のかけ方が絶妙すぎたと自慢するヨネは、かかる瞬間もおれが押し続けていたことは知らないのだろう。クランクを三回もまわしたのはおれなのだが、そもそもおれが起こした問題なのでここでクレジットを要求しても仕方ない。ヨネがちゃんと正しいタイミングでクラッチをつなぎ、適切なタイミングでアクセルを回さなかったら、かかるものもかからなかったのは確かだ。

しかし、こんなに押せるとは思わなかった。自分の体力の限界以上に押し続けられたのは、いわゆる火事場のバカ力なんだろう。人のバイクだったら、絶対にこんな力は出せなかったに違いない。

自分の初歩的ミスで、これ以上、時間を無駄にし続けるわけにはいかないという怒りと焦りも手伝った。それにしても、かかって本当によかった。

無事にエントランスを抜け、園内に入る。

ビスタポイントでも、ひとりだけエンジンを切らない。ファットヘッドはアイドリングでも充電するので、とにかくエンジンはかけっぱなし。うるさいから切れ、空気が汚れるから切れ。他の観光客の視線がいたい。

結局、一時間くらいはエンジンは掛けっぱなしにすることにした。

Gracier National Park in Montana
昼飯のときは雲が多いと思っていたが、おれの生け贄が効いたのか、雲はだいぶ少なくなった。青い空の下で雄大な風景が映える。

ここにはいいトレイルがたくさんあると同僚から聞いていたが、ツーリングの旅なので、試す機会はない。バイクで行ける範囲で楽しむ。

三時半、あと二キロほどで Logan Pass ビジターセンターというところで、片側交互通行のため STOP させられる。すぐそこに見えているのだから、そこで休ませてくれればいいのに。お預けを食らっている犬状態だ。

そしてタイミングの悪いことに、そこで待たされている間に雨がポツリポツリと降り始める。バイクだけこっそり行かせてくれればいいのになあ。

することもなく待っていると、あっという間に雨が強くなっていく。大粒の雨がしっかりと降り始めたので、カッパを着るはめになった。目の前に軒があるのに、カッパを着ないといけないとはなあ。

十分後、先導車が到着し、やっと前に進める。さっきから見えていたビジターセンターに向かう。あーあ、なんだかなあ。

四時、ビジターセンター到着。

カッパを着たまま、ぶらぶらとビジターセンターの中をうろつく。トイレも行きたい。

すると、なにか慌しい雰囲気が漂っていることに気づいた。時間的には、まだ閉まるような時間じゃないと思うのだが、みんな、どんどん外に出ているように見える。いくらなんでも、五時くらいまではやってるよね?

とりあえず、国立公園に来たら必ずマグネットを買わないといけないという、我が家の古いしきたりに従い、マグネットを吟味し、ひとつ選ぶ。

まだレジは動いているようだ、買えるだろう。レジにマグネットを持って行くと、 「雷雨で避難勧告が出たから、レジも閉めてさっさと退散だよ」

えー、まじで。「それはいいとしても、レジを閉めるまえに、これだけは買わせて!」最後の客ということで、滑り込みセーフ。助かった。2ドルのマグネットに 5ドル出したら 18ドルのお釣りが戻ってきた。嬉しいけれど、増えすぎなので 15ドル返す。

ビジターセンターの軒で雨が止むのを待ち、四時半、出発。

一気に山を下っていく。ビジターセンターの手前側は大雨だったけれど、山の反対側には雨は一滴も降ってないらしい。カッパを着ているバイク乗りはいない。

Avalanche Creek in Gracier National Park in Montana
六時、山を下りきったところで、作戦会議と休憩を兼ねて Apgar ビジターセンターに寄る。ついでに女房のお土産も物色する。これでお土産はもれなく全員に買った。

さて、ここからが問題だ。

明日からのルートは二つにひとつ。Mt. Rainier 国立公園によって I-5 で帰るパターンと、ワシントン州は捨てる代わりインターステートは一切使わずに帰るパターンと、ふたつにひとつ。どちらを選択しても、家まで 1300マイル (2080km) くらいになる。

おれはどっちになってもいいと思っていたが、チーフがインターステートを使わないルートの方がいいと言うので、それに賛同。Mt. Rainier 国立公園にいけないのは残念だが、その代わりに Crater Lake 国立公園にはよれる。

Kalispell から US-93 で南下していくルートに決定。

今日の最低ラインは Kalispell だが、このルートで行くと、明日と明後日で最低でも 800マイル (1280km) 走らないといけない。しかも、Crater Lake も一周しないといけない。かなり厳しい。

なので、おれとしては、グレーシャーでの時間配分が読めなかったので、最低ラインを Kalispell とはしたものの、できれば Missoula まで行きたい。Kalispell から 120マイル (192km) もあるので、この時間からだと無理だろうが、暗くなるまで走って、途中の町でモーテルを探せばいいだろう。

しかし、すでにだいぶ疲れているのだろう、ヨネはその案には賛同せず「まずは Kalispell まで行って、そこで考えよう」と言った。ここで考えていても仕方ないし、とりあえず、そうしよう。Mt. Rainier 経由でも Kalispell までは一緒だ。

六時半、雄大なグレーシャー国立公園に別れを告げ、出発。US-2 に乗り、Kalispell に向かう。

七時すぎ、Kalispell に到着。ガスの補給。

とりあえず、ひーちゃんの代理人でもあるヨネに様子をうかがう。まだ行けるかな?「今日は、もう、ここでいいっしょ」

やっぱ、そうなるか。まあ、時間も時間だし仕方ないか。疲れてるのに無理やり走ってもいいことはないし。さて、さっさとモーテルを探すとしよう。

それなりに大きな街だったので、この時は四人とも簡単にモーテルが見つかると思っていた。

しかし、行けども行けども、モーテルというモーテルは全て満室。モーテルの数は十分あるのに、その全てが満室とはどういうことだろうか。グレーシャーの客なのだろうか。

同じようにモーテルを探すバイク乗りたちも、町を右往左往している。「どう?」「ないねー」

ヨネと手分けして、目に付くモーテルに一通りあたってみるが、結局、全滅。

唯一あったといえばあったのが、Outlaw Inn というふざけた名前のホテルにスイートだった。だが、値段もかなり高いし、それに一部屋じゃあねえ。

仕方ないので先に進むとしようか。と思ったら、部屋を見せてもらったひーちゃんが言う「部屋は十分広いし、ここで雑魚寝でいいんじゃない?」むむむ。

こういう場合、おれもチーフも、空きのモーテルが見つかるまでふつうに先の町に進む。おれとしては、そもそも今日は走り足りないというのもあったので、その方が好都合だとすら思っていた。

が、四人でスイートに泊まろうと、他ならぬひーちゃんが言う。ひーちゃんが一番偉いのはハッキリしている。それが本意かどうかはともかく、ひーちゃんがそれでいいというのなら、そうしてあげるべきだ。

おれは、もうちょっと行こうかという勢いになっていたけれど、チーフと相談して、その提案に乗ることにした。

今日は Kalispell までが最低ラインと言って走ってきたのだし、たぶんヨネもひーちゃんも、Kalispell に着いた時点で今日はおしまいだとほっとして気持ちが切れているに違いない。一度おしまいだと思ってからさらに走るのは、さすがにかなりしんどいし、危ない。明日からのツケがキツいけれど、それは仕方ないってことで理解してもらうことにしよう。

そうと決まれば、さっさと荷物を降ろしてチェックイン。八時。

おれもチーフもさっさと必要な荷物を持って上がって、一気にくつろぎモード。二人分の荷物を運ぶヨネは、まだまだ仕事があって大変だ。手伝ってあげればいいのにチーフは手伝おうともしない。おれがひとりで手伝ったらチーフが悪者になっちゃうから、手伝いたくても手伝えない。テレビをつけて、ヨネの存在を無視してくつろぐ。

二人分のキャンプ用マットを持ってくるよりも小さくて済むという合理的な理由で、電動エアベッドを持ってきていたヨネとひーちゃんはさっさとベッドを作りはじめる。非常識にもほどがある。考え方がアメリカ人すぎる。そんなものをキャンプに持っていくやつがいるか。実はアメリカ人にはたくさんいる。

人段落ついたら、さて、飯だ。晩飯だ。どうせろくなもんは食えないけれど、何にしようか。

ホテルの近くになんでもありそうだし、とりあえずまわりを歩いてみよう。

あそこはどうだ、こっちはどうだと散々歩いてみる。が、ない。なんでもいいのに、なにもない。あったのはバーとドライブスルー専門のハンバーガー屋だけ。

なんだ、それ。こんなことなら、バイクで飯屋を探しに行っても良かったなあ。

うーん、仕方ない。面倒だし、そこのドライブスルー専門のハンバーガー屋でお茶を濁すことにしよう。

バイクはホテルの駐車場だし、車もないので、四人でのこのこ歩きながらドライブスルーに入っていく。一応、車に乗っているみたいな感じになるように四人が並ぶ。おれが運転。バカすぎる。

どうせ並んでいる車は一台もないし、マイクに向かって四人で注文するのも何かバカらしいので、受け取り窓口まで歩いて入る。ここで注文していいかと訊いたらいいというので、その場で注文する。ドライブスルーなのにドライブしてないし、レジで注文。

出てきた注文の品を、それぞれ手に取る。手に取ったアイスティを飲んでみると、なんと甘いのが出てきて吹きだす。未だに甘いアイスティなんてあるのか。やはり、田舎は違う。

以前は、甘くないことを確認してから買うようにしていたアイスティだけれど、最近は甘くないのが当たり前になっていたので、ちょっとショック。二十一世紀になっても、田舎は時間の流れが遅いのだなあ。アイスティを頼んで甘いのが出てくるところを田舎と定義しよう。

しかし、口に入れてしまった分は飲むことにしても、それ以上は飲めない。仕方ないので、レモネードに交換してもらうことにする。甘いアイスティなんて飲めないけれど、レモネードなら甘いのが当たり前だから飲める。

それにしても、自分で注文したくせに、自分の期待と違ったからと言って平気で違うものと交換させるという態度はどうだろうか。いくら当然のごとく換えてくれるからといっても、アメリカナイズしすぎにもほどがある。まあ、日本でも、言ったらたぶん換えてはくれると思うけれど、びっくりされるだろうなあ。

しかし、結局、レモネードはほとんど飲まずに捨ててしまうことになる。もったいないことこの上なし。アメリカ人化も極まれり。いらないなら、いらないと言えばよかったと激しく後悔する。おれは、いったい何をやっているのだろう。よく考えたら、これからビールを買って帰るのだった。

スタンドに寄って、ビールを物色。

すると、五歳くらいの子供が恥ずかしそうにずっとこっちを見ている。アジア人が珍しいのだろう。何か言いたそうにしてるのでニコリと目を合わせると、ささっと近くに寄ってきて言った。「Are you a motorcycle guy?」目がきらきらしている。「Yup. I am a motorcycle guy!」 とわざと低い声で答えてあげたら、満面の笑みでお父さんのほうに走っていって「お父さん、お父さん、やっぱり、ぼくの思ったとおりだったよ! バイク乗りだって! かっこいいなあ!!!」と大興奮。子供は無邪気でかわいいなあ。

ああ、早く息子に会いたいなあ。

部屋に戻り、まずいハンバーガーを食べ、ビールを飲み、リラックス。極楽極楽。

ヨネとひーちゃんはエアベッド。

おれはほとんどフルフラットになる超アメリカ的リクライニングチェア。味もへったくれもないのだけれど、すわり心地は最高だし、いつか欲しい。

広すぎるキングサイズのベッドはチーフが一人で寝る。ベッドの半分以上がほぼそのまま使われなかったという贅沢な寝かた。

おれがそこで寝ても良かったのだけれど、相手の寝返りとかで目が覚めることもあるだろうし、ご老体で風邪ひきのチーフには一人で寝かせてあげようと思った。目が覚めたときに間違って抱き合っていても困るし。

しかし、いい大人が、広いスイートルームでこんな風に寝るとはなあ。楽しすぎるなあ。二十歳くらいに若返ったような気分になった。

  • 総合走行距離: 4280.22 マイル (6888.34 km)
  • 今日の走行距離: 248.22 マイル (399.47 km)
  • 最高速度: 91.2 マイル/時 (146.8 km/h)
  • 移動時間: 5時間19分
  • 移動平均速度: 46.7 マイル/時 (75.2 km/h)
  • 最低最高高度: 2913〜6670 フィート (888〜2033 m)
  • $3.179 x 2.588G = $ 8.23 — 9:45:48 LOAF N JUG — 225 Central Ave., Great Falls, MT
  • $3.299 x 3.424G = $11.30 — 13:58:05 TOWN PUMP EXXON — Hwy 89, Browning, MT 59417
  • $3.299 x 2.878G = $ 9.49 — 17:15:22 EVERGREEN GAS & DELI — 2100 US-2 East, Kalispell, MT


(Sturgis 2006 その13 へ続く)

2006年9月12日火曜日

Sturgis 2006 (その11)

(Sturgis 2006 その10 からの続き)

旅の十一日目、八月十五日。火曜日。

八時半、起床。例によって、一番最初に起きて活動を始めていたチーフの気配で目が覚める。

朝食は、ビレッジで買ってきたシナモンロール。を食べたいが、コーヒーなしというのも悲しいので、ヨネが出てくるまで待つ。

ただ待っているだけというのもつまらないので、お湯を沸かしてインスタントの味噌汁をのむ。ウマイ。

味噌汁を飲み干し、みんなのコーヒーを淹れ、シナモンロールをほおばる。ウマイ。

九時半、のんびりと出発。昨日はよる暇もなかったので、Grant Village のビジターセンターによってぶらぶらとする。

そういえば、娘にしかお土産を買ってなかったことを思い出し、息子と義母に買っていくことにする。

一通り見終わり、することもなくなってみんなが外に出た時、おみやげを手にレジに並ぶ。自分の前には二人しかいない、すぐに終わる。

というわけにはいかないのがアメリカ。

何をやっているのか分からないが、とくに困った様子も急ぐ様子もないのに、なぜか前に進まない。ときおり客と談笑したまま手も止まっている。

どうなっとんねんとイライラしはじめる。五分ほどたって、やっと最初の客が終わり、二番目の客。こいつの次はおれだ。

レジのおばちゃんは、その二番目の客の持っていた本を手に取ると、それをスキャナにかけるかと思いきや、「いい本ねえ、私、この本大好きなのよ」、などと話し始める。話はいいから手を動かせ。

するとバックパックの兄ちゃんは、今日はあそこに行こうと思うんだが、どうだろうとかそんなことレジのおばちゃんに聞くなよってことを聞き始める。聞かれたおばちゃんは、答えられるレンジャーを探しにレジを離れる。

いやいや、ここがアメリカなのは認めます。でも、いったい何がおきているのでしょうか。

レンジャーを連れて帰ってきたおばちゃんは、レンジャーが兄ちゃんにトレイルを説明している横で、本をスキャンし、お金を受け取り、本を袋に入れて兄ちゃんに渡す。やればできるじゃないか。

と思いきや、兄ちゃんはおれの前からどかない。また、レジのおばちゃんは、レンジャーと兄ちゃんの間に入って一緒になって話しはじめる。

もしかして、おれはいないんでしょうか。後ろを振り向くと、後ろの客も首を横に降って、おれに同意する。だよな、だよな、これはやりすぎだよな。

結局、十分ほど待たされて、やっとおれの番。たった二つのお土産を買うのに、なんでこんなに待たされるんだろうか。かなり頭にきているが、ここで大人気ない態度を取るようでは失格だ。何もなかったかのように、にこやかに、朝の挨拶する。

「あらあら、可愛いバスだこと。お子さんにプレゼントですか?」

くったくなくしゃべり始めるおばちゃん。丁寧に答えていると、まったくスキャンしてくれる様子がない。「いくらですか?」と丁寧に即す。値段を言ったあとに、「お子さんはおいくつなんですか?」とあくまでも会話を続けるおばちゃん。

おれも丁寧に返しつつ、結局どうでもいい世間話を五分くらいさせられる。後ろの人の視線がいたい。でも、これがアメリカだし。

やっとの思いで外にでると、待ちくたびれた三人の視線が冷たい。ほんとうに申し訳ない。心の中で叫ぶ。「It's not my fault! (おれのせいじゃない!)」アメリカ人らしい台詞だ。

しかし、この無駄な十五分が大きな問題を生むことになる。

十時四十五分、出発。のんびりと北上。気持ちいい林道。

そして、十一時十分、右手に噴射が遠目に見えた。ヨネが近づいてきて言う、右手に見えてたよ!

十一時二十分、噴射が終わったばかりの Old Faithful に到着。うーむ、遅かったか…

湖上の煙 at Old Faithful

Old Faithful に到着する手前で、あの有名な Old Faithful の噴射が遠目に見えた。ということは、次の噴射まで一時間くらい待たないといけないということか。看板を見ると次は十二時十五分と書いてある。うーむ。

さっきの無駄な十五分さえなければ、どんぴしゃのタイミング だった。ビジターセンターはあそこだけじゃない。全部観て回ってから最後に寄ればよかったんじゃないのか。どうせマンモススプリングスに寄るのだから、そこでもお土産は買えたはずじゃないのか。

今日は Old Faithful に来るつもりだったのだから、まずここに来てから考えるべきだった。ここで一時間待つと言われてからお土産を買いに行ってもよかったのだ。

もちろん、後で寄ろうと思っていたら寄れなくなってお土産が買えなかった、なんてことは過去に何度もあった。とにかく寄れる時にビジターセンターに寄るというのは、それはそれで定跡だ。だが、いつでも通用するというわけではない。この時ばかりはかなり悔しい思いをした。

先日、わざわざこれだけを見るために Yellowstone に来たというヨネとひーちゃんは、先日観たばかりだし自分たちはどっちでもいいけれど、この噴射をみたことがないおれとチーフに対し、これを観ないで帰るのはありえないと強調する。ここで早めの昼飯にして、一時間、時間をつぶすというのも手だという。

どっちがいいかチーフに訊いてみると、どちらでもいいという。このまま先に行ってもいいし、一時間待ってもいいという。うーむ。どっちがいいって言ってくれると楽なんだけどなあ。

うーむ。いろいろ考えた末、やはり、諦めようと言ってみることにする。

さっき朝食を食べたばかりで、おなかはぜんぜん空いてない。食べられない昼飯を食べることにして、結局一時間半も時間をここで消費したら、グレーシャーに行く案はなくなるかも知れない。グレーシャーは明日にしか観るチャンスはないから、今日、行けるところまで北上しておく必要がある。どっちを取りたいか考えた末に、グレーシャーを取りたいとおれは思った。

そうこう話している間に、もう時間もだいぶ経った。もう一時間も待つ必要はない。四十五分くらいのことだ。それくらいあっという間に経つ。

きっと、先日それを観てすごく感激したのだろう。もったいないと、なんどもヨネは言う。

だが、それを言うなら、イエローストーンに来てトレイルも歩かずに帰ることの方が、よっぽどもったいないはずだとも思う。

もちろん、有名な間欠泉が噴出すところは自分の目で観てみたい。そう思っていたのにまた観れないというのはすごく悔しい。

でも、それだけを観ればイエローストーンを観たと言えるほどここは単純じゃない。それがメインの観光ポイントだとは思わない。そもそも、ここはバイクで通りすがりに寄って、満足できるような規模の公園じゃない。観られないものの方が圧倒的に多いのを承知の上でわざわざ寄っているのだ。

結局、諦めようというおれの主張が通って先に行くことにする。無念さを胸に、北上。

アクセルを握りながら、果たしてこれでよかったのかと、何度も自問する。

やはり、あそこで一時間半ほど使って噴 射を見ておいた方がチーフにとっては良かったんじゃないのか。おれもそうそうは来れないが、チーフはもっと来れないだろう。おれは、いつか子供たちを連れてきて一緒に見ようと思っているが、もしかしたらチーフには二度とチャンスが巡ってこないかも知れない。チーフは内心、これが最後のチャンスだと思っていたのかも知れない。

実際、その日の午後は、チーフはあからさまに機嫌が悪く、ほとんどおれの相手をしてくれなかった。Old Faithful を諦めて先に行こうとおれが強く主張したことが面白くなかったか、他の原因が何かあったのかも知れない。

喜びを共有できるのが旅を共にするということでもある反面、お互いになんらかしらの我慢することも時には余儀なくされるのも旅を共にするということだ。仕方ないといえば仕方ない。全員が全ての局面で納得できるような方法はない。妥協できなかったら、一人で旅するしかない。

モンタナの田舎道を突っ走りながら、とはいえ気を利かせて引くべき場面だったかも知れないと、反省した。

十一時半すぎ、Old Faithful を出発。

てきとうにポイントに止まりながら、あちこち観て回る。バイソンやエルクを観ながら、北上。

二時過ぎ、Mammoth Springs に到着。上の方をバイクで観て回り、下におりる。おなかも空いた。昼飯にする。

四年前、着いたときには時間切れで入れなかったマンモス温泉。今回は入りたいと思っていた。

だが、チーフは風邪を引いているから入らないという。当然だろう。

それよりもなによりも、さっきあれほど強く主張して Old Faithful を捨ててきたのに、ここで温泉に入りたいって主張したら、さすがにみんなに見捨てられると思う。言いたい気持ちもあるが、それを言ったらおしまいだな、と諦めることにする。

そもそも、温泉なんかにのんびりつかっている時間はない。

今日はマンモスで昼飯だと思っていたけれど、気がつけば、もう二時を過ぎている。それなりにきびきびやっているのに、時間はあっという間に経っている。うーむ。やばい。

地図を確認し、どこまでいけるか考える。明日のことを考えると、どうしても Great Falls まで行きたい。まだ、200マイル (320km) 以上はある。

三時すぎ、遅すぎる昼飯を終えて、出発。

三時半すぎ、北門に到着。朝から行動して、それこそ多くのところを捨てて走っているというのに、今頃やっと出口か。大きい。大きすぎる。

Yellowstone National Park North Entrance

四時、US-89 を北上。

久しぶりに高速走行ができて気持ちいい。どんどん山を降りていく。

五時、Livingston に到着。ここから数マイル US-89 と I-90 が共同運航便になるが、これを使わずに行く方法がないか地図を確認。ない。諦めて I-90 にのる。二分後、I-90 を降り、US-89 を北上。

と同時に、前方に雨雲が見えはじめた。むむむ。

注意しながら北に向かう。GPS を確認すると、自分たちの向かっている方角は、すこしだけ西側に振れている。つまり、北北西に向かっている。雨雲は真北だ。避けられる。

よし、このまま北北西に向けてまっすぐに走っていけば、真北にみえるあの雨雲を迂回できるに違いない。

雨雲は、右手にそびえ立つ Crazy Mountains というふざけた名前の山地から来ている。山を迂回して走っている道だから、大丈夫だろう。

雨雲を右手前方に見ながら北北西に進む。しかし、道路は少しずつ右に曲がっていく。そして、気がつくと進路は真北になっている。さっきまで右手前方にいたはずの雨雲が、なぜか正面にいる。むむむ。

真北に向かう道を走り続けると、今度は、少しずつ左に曲がっていく。北北西に進路が変わり、さっきまで正面にあった雨雲が右手前方に移動する。いいぞ、いいぞ。

安心するのもつかの間、しかし、道はまた右にそれ、真北に進路が変更。またもや雨雲は前方に移動する。

避けられるのか避けられないのか、いったいどっちなんだ。雨雲はおれたちをあざ笑うかのように、正面に出てみたり右によけてみたりを繰り返す。

そんな攻防を三十分ほど続け、右手に見える Crazy Mountains をやり過ごしたかに見えたその時、試合は動いた。

北北西に進んでいた道が右にそれ、真北に進路を変更したその瞬間を雨雲は逃さなかった。

正面の雨雲は、もう、雨雲ではなくなっていた。降りしきる雨になっていた。

前方に雨が降っているのがはっきりと見える。距離は数マイルもない。これからおれたちが走ろうとしている道の上に雨が降っているのだ。万事休す。

しかたない、カッパを着るとするか。諦めてバイクを止める。最後の悪あがきとして、いちおう地図と雨の方向を確認。ふむ。逃げ道はない。全員で着替えて、雨に備える。

そして、走り始めて一分後、ぽつりぽつりと始まった。雨に突入。ポツポツがあっという間にザーザーに変わる。

雨は勝ったと思っているかも知れないが、我々は完全に防御してある。なかなか激しい雨だが、凌げないことはない。

30MPH (48km/h) 程度の速度でのんびりと走る。速度をあげると雨が顔に当たって痛い。ときおりバケツをひっくり返したような雨になり、10MPH (16km/h) 程度での徐行を余儀なくされるが、雷はかなり遠い。まったく怖くない。

三十分ほど、雨の激しい攻撃に耐え、雨から脱出。

六時半、White Sulphur に到着。ガスの補給。ふー、疲れた。雨との戦いは体力を消耗する。少しだけ休憩。

もう雨の心配はいらないと思うけれど、寒さ対策としてカッパを着たまま進むことにする。

寒いというほどのことはないが、けっこう涼しい。寒がりのヨネとひーちゃんは、今から北極にでもいくのかというほど着込んでいる。二人からみると、おれはアメリカ人かというほどに寒さを感じない人に見えるかも知れないが、女房から見ればおれはかなりの寒がりだ。つまり、おれがふつうで、ヨネとひーちゃんが異常な寒がり、女房が暑がりということになる。

ここからは 70MPH 程度の高速コーナーの山道だ。US-89 はどこをとっても素晴らしい Scenic Route で、本当に気分よく走れる。

山道となれば、がんがん飛ばしていくだけだ。あっという間に二人組を置き去りにして、チーフと一緒にコーナーに突っ込んでいく。楽しい。

山を登り、いっきに下る。今日の目標地点まで、あと少しだ。

八時半、予定通り Great Falls に到着。ふー。お疲れ様。

面倒くさいので持っている Motel-6 のディレクトリを確認。あるある。ここでいいよ。町のはずれに向かい、Motel-6 を発見。値段なんてどうでもいい。九時、チェックイン。荷物を降ろし、部屋に向かう。

さあて、宿が決まったら晩めしの心配だ。

と、思うまもなく、今日は、ピザでも取ろうとヨネが言う。ほほう、ピザかあ。それを聞いても、とくにピザが食べたくなったりはしない。どちらかといえば、うどんがいい。うどんがないなら蕎麦がいい。蕎麦がないならカツ丼でいい。

とはいえ、そういうことを言ってはいけないのがアメリカでのルール。

初心者の日本人は、すぐにそういう意味のない夢を膨らましたりするが、それは絶対にやってはいけない。それは、そのことがどれほど空しい響きを持つか、お互いによく分かっている上級者同士でのみ許される特別で神聖な行為なのだ。マスターするには最低でも五年はかかるとされている。

まあ、いいだろう。晩飯の話題になる前に先手を打ってヨネが言い出したことだ。きっとその方がひーちゃんにとってもいいんだろう。おなかに入ればなんでもいいし、その案に乗ることにした。

よくよく考えてみれば、ピザを配達してもらえば外に食べに行かなくてもいい。部屋でのんびりできる時間が長く取れる。なるほど、そういう配慮があったのか。ふむふむ、なるほど、好手だ。

ひーちゃんがピザの注文をする係り。おれとチーフが地ビールと水を買出しに行く係り。ヨネがひーちゃんのためにサラダとオレンジジュースを買出しに行く係。役割が決まったら、さっそく出陣。

買出しを済ませ、ピザが届く。頼んだのは大きいのを一枚のつもりだったが、なぜか二枚きた。ファミリーなんとかは二枚らしい。

多すぎてもったいないので、耳をかなり大きめに残して贅沢食い。五枚も食べた。バカすぎる。

今日のあそこはああだったこうだったと、とりとめもなく駄弁る。和むひと時。

十一時、おなかも満足したし、どうでもいい話をてきとうに切り上げて解散。

さーて、明日はグレーシャーだなあ。おれにとっては今回の旅の一番の目玉と言える。どうしても行きたかった国立公園。

しかし、問題はその後だ。

スタージスの日程が決まっているので、前半部分はかなり綿密に計画を立てて、だいたいそれにそう形で来た。また、スタージスの後、イエローストーンへは二日はかかるというのは距離的にどうしようもないので、ここまではまあ予定の範囲内といえる。

だが、後半のスケジュールは大まかにしか決めてない。四人で走るペースがどうなるか未知数だったし、女性もいるからさらに分からなかった。

グレーシャーもオリンピックも、行けたら行きたい。無理なら後で考えよう。それくらいしか考えてなかった。

今日まで数日走ってみて、だいたいどんなペースで走れるかは分かってきた。どこまでいけるか、よく計算してみよう。地図を開いて、いろんなパターンを考えて見る。

ここまで来た以上、やはりグレーシャーは外せない。今回、四人とも行ったことのない唯一のポイントがグレーシャーだ。ここは絶対に行こう。

と、チーフと話していたのもつかの間、すーすーと寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。

最近は、夜用のタイレノールとかを飲んで、眠気が襲ってきたらそれに乗って気持ちよく寝てしまうことが多い。まあ、眠たくなったタイミングで寝るというのは、さぞかし気持ちいいことだろう。羨ましい。

しんと静まりかえった部屋で、ひとりで地図とにらめっこしながら明日からの予定を検討する。メモ用紙に町から町への距離を書き並べ、どのルートだとどのくらいの距離になるか、ありとあらゆるパターンを想定して計算しまくる。

ひとりで頭を使っているとはいえ、勝手にぜんぶを決めてしまっては、みんなも面白くないだろうから、そうだな、二者択一にしよう。合理的でかつ、どちらになってもおれはいいというパターンを二つ考えて、みんなに選んでもらおうことにしよう。

悩みに悩み、メモ用紙を使いまくる。そして、なんとか納得いく案が二つできた。ふと時計をみたら、ニ時だった。

  • 総合走行距離: 4031.99 マイル (6488.86 km)
  • 今日の走行距離: 310.92 マイル (500.38 km)
  • 最高速度: 88.4 マイル/時 (142.3 km/h)
  • 移動時間: 6時間21分
  • 移動平均速度: 48.9 マイル/時 (78.7 km/h)
  • 最低最高高度: 3333〜8572 フィート (1016〜2613 m)
  • $3.389 x 2.937G = $ 9.95 — 15:44:13 TOWN STATION — 120 Park St., Gardiner, MT 59030
  • $3.299 x 3.060G = $10.09 — 18:37:01 TOWN PUMP EXXON — 309 Main St., White Sulphur, MT



(Sturgis 2006 その12 へ続く)


2006年9月11日月曜日

Sturgis 2006 (その10)

(Sturgis 2006 その9 からの続き)

旅の十日目、八月十四日。月曜日。

八時、起床。天気は悪くない。いい感じ。だらだらと準備を済ませる。

準備が終わってのんびりテレビを観ていると、だんだん体も起きてくる。腹が減ってきた。でも今日は九時出発の約束だし、もう少し我慢する。

九時、予定通り出発。

さて、朝は何にしようか。と思ったら、ヨネとひーちゃんはすでに朝食は済ませたらしい。九時には朝食も終わった上での出発だと思っていたのか。それは申し訳なかった。ていうか、こっちは九時までは何も食えないと思って我慢してました。おれもチーフも腹、ペコペコです。謝るのはそっちです。

何かないかとのんびりと Sheridan の町を走る。町の外れにマックを発見。そうとなれば、贅沢に朝マックが定跡。やはり、町はいい。なんでもある。

オーダーは言うまでもなくソーセージ・エッグ・マフィン。しかし、チーフは頑固にグリドルズを注文。なんど食べたって、おいしくないものはおいしくないのに。ほんとうはソーセージ・エッグ・マフィンを食べたいはずなのに、「そんなもん日本にもあるし、こっちの方がウマイんだって。無理せんと、食べてみたらええが。でらウマいって。食べたいくせに。」と、あくまでも強がる。それはこっちの台詞だっつの。

朝はとっくにすませているヨネとひーちゃんは、コーヒーでも飲んで待ってるのかと思いきや、ひーちゃんはパンケーキを注文。朝食を取ったのに、まだ食べるのかよ。ぜんぶは食べられないから良かったら食べてというので、おれのことを許したというメッセージだと理解。喜々として一枚もらうことにする。

十時前、出発。今日は、イエローストーンまで 250 マイル (400km) ちょっと、US-14/16 をひたすら西進するだけなので考えることもない。

山道をどんどん登り、コーナーを攻める。気持ちいい。

US-14: 山道 in Wyoming

途中、US-14 から US-14A に乗り換える。US-14 でもいいのだけれど、地図によれば US-14A の方が Scenic Route をあらわす緑の点の部分が多いので、Alt の方を使うことにする。Scenic route rules だ。

十二時、Lovell に到着。ガスの補給。まだそれほどおなかも空いてないので、次に進む。

一時、Cody に到着。なにはともあれ昼飯だ。町のメインストリートを流していたら、Daily Queen があった。みたらハンバーガもやっていたので入ることにする。

実は、おれはその時まで Daily Queen でハンバーガーが食える店もあるということを知らなかったのだが、48州すべてをハーレーで旅して回ったチーフは知っていた。チーフがいなかったら、Daily Queen は素通りしていたに違いない。

飯を食って外に出ると、となりに止めてあった車のナンバーをみてチーフがおれに聞いた。「Show Me State」ってどういう意味?

「ミズーリ州は大ぼら吹きが多い土地だから、『そんなにえらそうに言うならショウミーしてみずーり』ってみんなが言うってことだろうね。ぜんぜん知らんけど。」

おれの説明では何故か納得できなかったチーフは、ヨネに同じことを訊いてみる。ヨネは、そういうことはご当地の人に訊くのが早いとばかりに、助手席に座っていたおばちゃんに訊いてみる。

結局、そのおばちゃんはおれが言ったことと同じことを言っただけで、おれの説が正しいこと、もしくはそのおばちゃんも知らないというが証明されただけだった。チーフはその説明で納得はしたようだった。

が、ヨネとおばちゃんの会話はそれだけでは終わらずに、もっと重要な情報を我々に告げることになる。

そのミズーリのおばちゃんは、おれたちが今まさに向かっているイエローストーンから帰っている途中で、これからおれたちが走る予定だった US-14/16 の状況を詳しく教えてくれたのだ。

なんと、彼らはイエローストーンから脱出するのに二時間もかかって大変だったという。あと 60マイル (96km) 程度で到着する予定のイエローストーンなのに、その道は工事で大渋滞しているらしいのだ。うーむ。

かなり計算外のできごとだが、訊いておいて良かった。二時間もかかるならコースの変更を検討しよう。Cody からイエローストーンへのルートは、US-14/16 でど真ん中に入るルート以外にもうひとつ、WY-120 から WY-296 を通って北側から入るルートがある。

距離はだいぶ伸びてしまうし、結局、到着には二時間くらいかかりそうだけれど、北から入れば一周しやすくなる。また、公園内で走る予定だった、北上の 30マイル (48km) くらいが自動的に解消されることになるし、北ルートを取る意味は十分にある。

片側交互の渋滞で一時間ちかく無駄に時間を過ごす意味はないし、そうしよう。

それにしても、チーフがおれを信用しなかったことと、ヨネが気楽に人に声をかけてしまう性格だったことが、これほど重要な情報に結びつくとは。自分ひとりだったら、まったく得られなかった情報だ。やはり、仲間と旅をするのは素晴らしい。

関係ない人にもとにかく「はなす」コマンドを使って話しかけていくと、最初は違うことを答えるけれど二回目には本当に訊きたかったことをしゃべりだすという、ドラクエ的な方法論が、実生活でも大いに役立つのだなあと感心する。

一時四十五分、Cody を出発。WY-120 を北上する。

二時半、WY-286 に乗り換え。

30MPH (48km/h) から 50MPH (80km/h) くらいの速度が中心になる、かなりワインディング。これは二人乗りのヨネにはちょっとキツいだろうが、そんなことは気にせずに、どんどん山道を飛ばす。うしろのチーフがぴったりついてくるので、ついつい速度もあがってしまう。気持ちいい。

コーナーをたくさん抜け、だいぶヨネに差をつけた。山を登りきったところでヨネが追いつくのを待つ。あっという間に追いつく。それほど遅れているわけでもない。

三時過ぎ、US-212 に合流。

三時半、工事につかまる。工事を避けて北回りのルートにしたのに、結局は工事で待たされるわけか。すぐ向こう側にモンタナ州との州境が見えている。

US-212: 結局、工事で待たされる

五分後、STOP サインが SLOW に変わって、モンタナ州に突入。

ワイオミングにあるイエローストーンだが、北側はモンタナ州に入っている。政治的な理由だろうと思うが、そんなことはどうでもいい。今日は北から入るのでモンタナから入る。

四時、イエローストーン国立公園のエントランスに到着。やっとついた。しかし、この巨大な公園はここからが遠い。ひたすら園内を西進。

五時、Roosevelt Lodge に到着。まずはキャンプサイトの具合を確認する。

四年前に来た時は、着いた時間がもっと遅かったというのもあるけれど、キャンプサイトは全滅だった。今日も、その可能性はあると思っている。最悪、公園を出てモーテルを探す旅にでる必要があるかも知れないという覚悟はしている。

果たして、ロッジのレジストレーションでキャンプサイトの空きを調べられるかと訊いたら、すべて調べられるという。さっそく調べてもらうと、人気のロケーションは全部埋まっていたが、いくつか空いているところが見つかった。

チーフが八年前にキャンプした時は、湖の近くのサイトがよかったというので、湖の近くを探してみる。Grant Village に空きがあった。いいぞ、いいぞ。

四年前に訊いたときは、キャンプサイトは早い者勝ちシステムなので予約できないと言われてびっくりしたのだが、今もそうなんだろうか。試しに訊いてみる。すると、「電話で予約できますよ。Grant Village なら、ここにかけて」と言われて電話番号を渡される。素晴らしい。細かいところだけれど、カイゼンされているようだ。

さっそく携帯を取り出し、予約。と思いきや、当然ながら電波は入っていない。まあ、そらそうか。レジストレーションで電話を貸してくれるか訊いてみたら、外に公衆電話がありますという。はいっ。

すでに小銭王になっているチーフから大量にクオーターをもらい、急いで公衆電話で電話をかける。十分くらいそのまま待たされて、ようやく係りの人につながる。

「湖の近くで、大きいハーレーが三台止められて、大きいテントひとつに小さいテントふたつが設営できるサイト、残ってますか?」まるで、急いで言わないと空きがなくなってしまうかのように、全力でまくし立てる。「えーと… ええ、ありますよ。18ドルです」

クレジットカードの番号を伝え、予約完了。やった。最悪のことも想定していただけに、これは最高に嬉しかった。後日予定しているグレーシャー国立公園に行くためには、イエローストーンを二泊できない。イエローストーンの一泊が外だったら、かなり辛いところだった。

宿は確保した。あとは南下しながら見て回るだけだ。

Yellowstone National Park in Wyoming

四年前も見たところ、四年前は見なかったところ、一つずつポイントを回りながらイエローストーンの絶景を楽しむ。

道すがら、ときどき人が群がっているので何かと思えば、エルク、バイソンがたくさんいる。バイソンは相変わらず汚い。

Lake Village を少し行き過ぎてから、インスピレーションポイントに寄ってないことに気づく。だいぶ疲れているとは思うが、東側は観ていないと言っていたヨネとひーちゃんだから、一応、訊いてみる。「ちょっと戻る元気ある?」あるというので、少し戻る。

四年前にここに一緒に来た友人は、この少し赤らんだ渓谷を見て、「まるで女性のシンボルのようだ」と形容した。その時、おれは彼の詩的な表現に深く頷いて感銘を受けたのだが、その話をしたら、「この谷ををそんな風に形容できる人だから四人も子供がいるんだな」と、ヨネとひーちゃんは納得していた。そうなのかも知れない。

Inspiration Point at Yellowstone
いくつか見て回っているうちに、だいぶ日も落ちてきた。けっこう寒くなってきた。

本当はもう少し寄りたいところがいくつかあったのだけれど、「暗くなってきたし、これ以上みても仕方ないね」とヨネが言うので、キャンプ場まで直行することにする。

三人でキャンプ場に直行してもらって一人だけで Mud Volcano に寄るという案が一瞬、脳裏をかすめたのだが、だったら一緒に行くと、かえって気を使わせるだけになるかも知れないと思って、言うのをやめた。東側を走れたら必ず Mud Volcano には寄ろうと思っていたけれど、次回の楽しみにしよう。どうせ、いつかまたここには来るし、最初からほとんどのことを諦めるつもりで来ている。

七時過ぎ、Grant Village に到着。まずはテントを設営し、ビレッジに買出しに出かける。チキン、ソーセージ、トマト、たまねぎ、ズッキーニ、ガーリックソルト、ビール、薪などを購入。

さっそく火をおこし、晩飯の準備。

ソーセージには、予定外のチーズが入っていたけれど、これもウマイ。ビールに合いすぎる。ビールは当然 Teton Amber。おれは地ビールしか飲まない主義。

トマトはみんなそのまま食っていたけれど、硬そうだったのでおれは焼いて食ってみた。めちゃくちゃうまい。トマトは焼きトマトに限る。みんな、がまんできずにすぐに食べてしまうからどうしようもない。

四つのチキンのうち、ひとつはホイル焼きにして、三つはそのまま焼いて見る。ホイル焼きにしてみたチーフのチキンは、ジューシーで最高にウマイ。人のチキンの方が何故かウマイのか、チーフのチキンに三人が群がり、チーフは焼いたチキンがウマイと言って食っていた。

こうして火を囲み、ただ焼いただけの晩飯とビールがこんなにもおいしいキャンプとは、なんて贅沢な遊びだろうか。

空を眺めると、天の川があまりにも綺麗に見える。ぼーっと天上を見ていると、流れ星が線を描く。また、天空で異様な光を放ち動き続ける星、人工衛星もいくつか見える。

子供の頃、将来は天文学者になろうと思っていたという父に、星のことをたくさん教わった。夏の夜は、父と外に出て星を眺めて父の話を聞くのが楽しみで仕方なかった。どんな質問にも答えてくれる父は、何でも知っていると思っていた。

そんな父の影響もあってか、一時期、物理学者になろうかと思っていたこともあったおれの星に関するウンチクは、誰にも興味を示されなかったが、まあ、いいだろう。そのうち、子供たちにたっぷりと聞かせてやる。

  • 総合走行距離: 3721.07 マイル (5988.48 km)
  • 今日の走行距離: 326.49 マイル (525.43 km)
  • 最高速度: 92.2 マイル/時 (148.38 km/h)
  • 移動時間: 6時間57分
  • 移動平均速度: 46.9 マイル/時 (75.5 km/h)
  • 最低最高高度: 3671〜9338 フィート (1119〜2846 m)
  • $3.329 x 2.704G = $ 9.00 — 11:55:38 MINCHOW'S SERVICE — Lovell, WY
  • $3.599 x 3.704G = $13.33 — 16:51:04 TOWER JCT #8 — Yellowstone National Park, WY

(Sturgis 2006 その11 へ続く)

2006年9月10日日曜日

Sturgis 2006 (その9)

(Sturgis 2006 その8 からの続き)

旅の九日目、八月十三日。日曜日。

七時過ぎ、外に人の気配を感じて目が覚める。朝か。外を見てみると、すっかり晴れていて気持ちがいい。

昨夜は、とつぜん降りだした雨が激しくテントを叩く音で目が覚めた。時間は知りたくなかったので時計は見なかった。朝だったらショックだからだ。けっこう長い間バチバチとうるさい音に悩まされたと思うが、気がついたら寝ていたようだ。

のろのろと着替えを済ませてテントの外に出てみると、すでにチーフがお湯を沸かしている。日本から持ってきたインスタントの味噌汁を飲むためだ。これが最高にウマイ。

Bear Butte State Park Campground in South Dakota

ほどなくヨネとひーちゃんも起き、そそくさとテントから出てくる。

「すっかり雨があがってよかったねえ」とチーフが言うと、「え、雨降ってたの?」とヨネが答える。あの音に気がつかないで寝ていられたとはどんな神経をしているのか。ヨネが一番図太いのは間違いない。

朝食は、レモンマフィンとコーヒー。昨晩、買出しに行ったとき、レモンマフィン3つとクリームマフィン1つを買っておいた。きっとひーちゃんがクリームマフィンを食べることになるんだろうとチーフと予想していたが、やっぱりそうなった。

紅茶でも飲もうかと思ったら、コーヒーがあるとヨネ がいう。挽いた粉とドリッパーをちゃんと持ってきていたのだ。偉い。

ヨネがドリッパーでコーヒーを淹れてひーちゃんが飲む。ひーがちゃんが薄いというので、少しだけ粉を多めに自分で淹れることにする。それ用のポットがないので上手には淹れられないが、まぁまぁ。バイトで、毎日百杯くらいこうやってドリッパーで淹れた記憶が蘇る。

ヨネが淹れたものよりも若干うまかったのか、ひーちゃんにマスターと呼ばれる。 そうやって、これから毎朝、おれに淹れさせようという魂胆なんだろう。まあ、いいだろう。どうせ、おれが淹れた方がウマイんだから、誰に褒められなくてもみんなの分を淹れてやる。まあ、どうせ淹れるなら、褒めてもらった方が気分もいい。結局、のせられている。

九時、朝食を済ませ、隣のキャンプサイトに顔を洗いに行く。水はそっちにしかなかったからだ。

九時半、全員の準備が整い、出発。

最終日のスタージスのメインストリートをのんびりと走り、狂気の祭りに別れを告げる。またいつかここに来れるだろうか。四年後に来れるといいのだけれど。

十時前、スタージスの町を抜けたところで、とりあえずガスの補給。ハーレーだらけのスタンドで、なかなかポンプが空かない。

I-90 をくぐり、US-14 を西進し、US-385 を南下。Mt. Rushmore に向かう。今日の通過予定地 Devil's Tower とはまったく反対の方向だが、ここに来て Blackhills を走らないわけにはいかないし、初めて来たひーちゃんを Mt. Rushmore に連れて行かない手もない。

十一時過ぎ、Mt. Rushmore 国定公園に到着。ここに来るのは三度目でとくに新味もないのだが、八年目に一緒に来たチーフとヨネと、またここにいるというのは、やはり感慨深いものがある。

Mt. Rushmore in South Dakota

十二時前、Mt. Rushmore を発ち、今度はその敵、インディアンのヒーローのところに向かう。

十二時半、Crazy Horse Memorial に到着。四年前と比べて何も進んでいないように見えるが、いつか本当に完成するのだろうか。すでに、彫刻を完成させることそのものよりも、政府の(つまり白人の政府の)手を借りずに事業を進めているということが、Crazy Horse Memorial のポイントになってしまっているようだ。今の事業主が逝った後、誰がこの事業を続けていくのか知らないが、いつかその最初の志は忘れ去られ、州政府の力を借りて事業を完了させるか、まったく前進しないままだらだらになるかのどちらかになる気がする。

ものごとを妥協しながらも確実に前進させていくことにかけては、やはりアメリカ人は凄く優れているように思う。

さて、おなかも空いてきたし、ここで昼飯にしよう。レストランに入る。

何にしようか悩んだ後、結局三人はバフェにした。おれはあえて Native American Taco というのを選んでみる。ひとりだけおいしいものを食べる作戦だ。

先に食べるなと言うのをまったく無視して食べ始める三人。バフェなので、好き放題に具を載せた贅沢タコスを作ってほお張っている。

それにしても、おれの分はいつまで待っても来ない。おれの存在を忘れているのか、それともおれを苦しめるためにわざとやっているのか、三人はうまそうにタコスを食い続けている。おいしい、おいしいって言うな。腹が減って死にそうなのに。

すると、店員が来て言った。「もし待ちきれないようでしたら、あちらのバフェで自分で作って食べてもいいですよ」

な、な、な、なんだよ、それ。 結局、おれが注文したものは、店員がバフェで作って持ってきてくれるというだけのことだったのだ。どうやって作ればその Native American Taco というのになるのか知らないが、そこのバフェにあるもので作るのなら、バフェでいいじゃんかよ。最初に言えっての。散々待ったあげくこれかよ。どういう仕打ちやねん。

結局、三人と同じものを食べることになった。全面的敗北。今度、誰かとここにきたら、「Native American Taco がいいよ。おれは前くったから、今日はバフェにしてみるけど」って言ってやろうと思う。

一時半、Crazy Horse Memorial を出発。Devil's Tower 国定公園に向かう。本当は、Needles Highway の方も走りたかったのだけれど、時間がだいぶ遅くなってしまったので諦めて先を急ぐことにする。

US-385 を南下し、Caster から US-16 を西進する。

二時過ぎ、ワイオミング州に到着。ブラックヒルズでは終始あめ模様の空だったが、結局、一滴も降らずにすんで助かった。

US-16: WYOMING WECOMES YOU

二時半、Newcastle に到着。ガスの補給と休憩。

二時四十五分、US-85 を北上。

三時過ぎ、WY-585 に乗り換えて北上。

三時半、Sundance を抜け、US-14 に乗り換え。

三時五十分、Carlile Junction から WY-24 に乗り換え。

四時過ぎ、Devil's Tower 国定公園に到着。

Devil's Tower National Monument in Wyoming


異様な風貌でそびえ立つ眼前の山を、しきりに男性のシンボルにたとえて話す幼稚な男衆。それを無視するでもなく、まったく動じずについてくるひーちゃん。四人での旅も、だいぶ板についてきた。

せっかくだから山を一周してみようかとも思ったが、そこまでしている時間はなさそうだ。トレイルを途中まで歩いて引き返すことにする。

五時前、出発。WY-24 を南下して、US-14 に戻る。

五時半、Moorcroft にてガスの補給。ここから Gillette までの 30マイル (48km) ほどが、I-90 と US-14 と US-16 の共同運航便になる。不本意ながらもインターステートを使う以外にない。

が、地図をよくよく確認して見ると、I-90 と平行して走っている道があるようにも見える。はっきり分からないので、GPS で確認してみると、51 と書いてある。ちゃんと番号が振られた側道があることを発見。ハイウェイだ。これが使えるなら、インターステートに乗らずにすむぞ。

ここで、今日の目標地点を検討することにする。疲れたので Buffalo くらいでヨシにしようかという雰囲気にもなるが、頑張って Sheridan まで行こうと言い張ってみる。

もし Buffalo までとすると、今日の総距離はだいたい 330 マイル (528km) くらいになり、ちょっと少ない。確かに、今日はあちこち見たので、自然に距離が伸びる日ではないけれど、それでももう少し走っておきたい。これからあと一週間も続く旅なので、手を抜けるところで抜くのではなく、毎日できるかぎり多めに走って余裕を作りたい。ここで 50マイル (80km) 楽したら、そ れを取り返すためには、結局、インターステートを使うしかなくなる。

また、Buffalo に行くためには US-16 を南下するか、I-90 で行くしかない。I-90 はおれの選択肢にはないので、そうなると US-16 しかない。しかし、US-16 で西進するルートを取ると、US-14 を使うルートに比べて 50マイルも走行距離が増えてしまう。今日、50マイル楽して、さらに全体として 50マイル増えることになるということは、100マイルの追徴課税ということだ。それは無理だ。

チーフはどっちでもいいといい、ヨネは Buffalo でいいんじゃないかといい、おれは Sheridan と言い張る。

ヨネとひーちゃんは、二人分の荷物を二人乗りで運んでいるのだから、おれやチーフよりも疲労の度合いは高い。

八年前に女房を後ろに乗せて、Todd と Terry と一緒に走った時とまったく同じ状態なので、ヨネの立場もよく分かる。夫としては女房を守る義務もあるし、だからといって、女房が女房が、と言って二人の男の意見に反対ばかりするわけにもいかない。微妙な立場にある。

インターステートを走るのはいやだという意見にチーフが同意しつつも、Sheridan だとヨネとひーちゃんに負担が多すぎるかも知れないということで、結局、Sheridan に向かいながら、様子を見ようということになった。これ以上は厳しいという感じになったら、途中でモーテルを探す方向で。途中で夜になってしまったら、それでおしまいにするということで。

後で、ヨネはひーちゃんになんて言うんだろう。おれは止めようって言ったのに、チーフが無理強いしたって言っておいてくれればいいのだけれど…

さて、時間を無駄にはしていられない。さっそく出発する。

I-90 と平行して走っているはずの WY-51 は、どんな道かはまったく分からない。地図にちゃんと載ってないくらいだし、使えない道かも知れない。

GPS を見ながら I-90 の入り口に向けて走ってみると、左手に側道と思われる道を発見。分かりにくいところにひっそりとあった道だが、思い切って飛び込んでみることにした。きっと、後続のチーフもヨネも、そこに左折できる道があったとはおれが曲がるまで気づかなかったに違いない。

正解だった。右手にたくさんの車が行きかう I-90 を見ながら、誰も走っていない真っ赤な WY-51 を西進する。

六時十五分、Gillette に到着し、US-14/16 に復帰。結局、インターステートを使えば 20分強で走ることができる 30マイルに 40分もかけたことになるが、満足至極。

何もないハイウェイを 80 MPH (128km/h) で風を切り、人口千人にも満たない町の入り口で 30 MPH (48km/h) に減速し、その枯れ果てた空虚な町をのんびりと素通りし、また何もないハイウェイに戻る。これの繰り返し。アメリカの田舎道を走っている実感に浸る。90 MPH (144km/h) でガスがなくなるまでひたすら走り続けるインターステートでの旅とは、見えるものも感じるものも、何もかもが違う。

予定通り US-14/16 を北上。

US-14/16: Scenic Byway in Wyoming

US-14/16 を北上している最中、ほとんど車とはすれ違わなかったが、周りにはたくさんの鹿を見た。きっと飼っているわけではないはずだから、野生なんだろうが、とにかくたくさん見た。一生分の鹿を見たといっても過言ではないくらいに見た。あ、鹿だ、ではなく、あ、鹿の群れだ、という感じで、それこそしょっちゅう見た。

十頭から多いのになると五十頭くらいはいそうな群れが、放牧されている牛の近くにいたり、何もない草原に群れていたりする。たぶん、合計で千頭くらいは見たんじゃないだろうか。とにかく、 鹿をたくさん見た。もういいというくらいに鹿ばかり見た。US-14/16 は、鹿が見たい人にはとくにオススメの道と言える。

Sheridan に向かう途中、なんどか小さな町でモーテルを見つけたが、ひーちゃんがまだ大丈夫だと言うので、結局 Sheridan まで走ってしまうことにする。

八時、Sheridan に到着、ガスを補給。目標は達成した。あとはモーテル探しだ。

それなりに大きな街で、メインストリート沿いにはいくつもモーテルがあった。ひとつずつ入って、空き部屋と値段を確認する。

最初に入ったモーテルで、ツインが 55ドルと言われる。こんな田舎でそんなに高いのか。やめることにした。他をあたろう。

いくつか回って見る。が、どこも 60ドルから 70ドル。高すぎる。結局、一番最初のモーテルが一番安かったわけだ。

仕方ないので、最初のモーテルに戻ることにする。

さっき来たばかりのアジア人の顔を覚えていた店の親父が、つまらなそうに言う「結局、ここが一番安かったってわけかい?」「ええ、まあ」

念のために空き部屋を確認する。ある。だが、さっきと値段が違う。

「さっきはツインで 55ドルって聞きましたが?」

「いや、それはシングルの値段だ」

「いえいえ、おれはちゃんと『ツイン』の値段を聞いて、『55ドル』って聞いてたから戻ってきたんですよ」

おれが値段を聞いていた時、ヨネも横でそれを聞いていたので、決しておれの聞き間違いでも勘違いでもない。だが、おやじは言い張った。「いいや、それはシングルの値段だ」

うーん、どうしたものかな。こういうオヤジは言い出したら聞かないからなあ。そこでヨネが言った「じゃ、負けてくれない?」

その言葉を聞いたとたん、おやじは無言で鍵と登録用紙を片付け始めた。

「え、泊まらないとは言ってないですよ」

「こっちから願い下げだ。とっとと、違うところに行きな」

ははは。まあ、田舎ではとくに珍しいことではない。

アジア人なんてほとんどいない田舎の町で、自分のモーテルが一番安いからと言って戻ってきたクソアジア野郎に、自分の勘違いを指摘されてブチ切れた中年の白人。もしかしたら、単にアジア人が嫌いなのかもしれないし、おれたちがアジア人じゃなくても頭に来たのかも知れないし、まあ、どっちでもいい。

こんな扱いはあまり受けたことがないのか、かなり頭にきている様子のヨネ。カリフォルニアにいると、あまりそういう目にあう機会がない。

おれは幸か不幸か、東側で何度も差別的扱いを受けてきていて免疫があるので、なんとも思わない。もちろん、明らかな差別ならば平然と厳しい口調で抗議して、差別的対応を取ってしまったことを後悔させてやるのだけれど、今回の扱いは、仮に人種差別がその根底にあったとしても、明らかな差別的対応というわけではない。差別ではなく、ただのガンコ親父なのかも知れない。

まあ、どっちでもいい。さっさと次に行こう。

町の外れに向かいながら、いくつもあるモーテルを調べていく。九時、モーテル決定。チェックイン。

さて、宿が決まれば飯だ。今日は遅くまで頑張った。ご褒美に中華を食おうとみんなで決めていた。

チェックインしながらインド人のオーナーに聞いてみる。中華なんだけど、どこがいい?

親切すぎるそのインド人店主は、こういうことはうちの息子が詳しいんだと言って、わざわざ息子に電話する。そして、おれに受話器を渡して言う。「行き方をちゃんと聞いておきなよ」

そのインド人息子が一番薦めたいところは時間的に無理だろうからと言って、次善の店を教えてもらう。さっきここに来る途中に、ひーちゃんが左手に中華料理屋を見つけたと行っていた店だった。チェックインを済ませ、荷物を降ろす。

荷物を降ろしたら、さっそく店に向かう。時間がない。

二人乗りがどんな感じなのか試して見るために、チーフを後ろに乗せて中華料理屋に向かう。久しぶりの二人乗り。ちょっと緊張する。

ちゃんと運転していないと、簡単にバランスを崩しそうになる。モーテル到着後なので、とくに気も抜けている。気を抜くと、すぐに倒れそうで怖い。ヨネはこれで一日中はしってるんだから、大したものだなあ。

店に到着すると、客は誰もいない。店員は全員、奥で賄いを食べている。終わりかと思いきや、バフェにあるものしかないけれど、いいですよ、と。よかった。

腹ペコで死にそうな四人は、いっせいにバフェに群がる。

すると、こちらが日本人だと知った一人の店員が、一所懸命に日本語で話しかけてきた。以前、日本にちょっとだけいたことがあるらしい。彼の日本語はかなりひどかったが、こちらの日本語が少しは分かるらしく、なんとか話をしようと必死になってこちらの気をひこうとしている。

食べることしか考えてない四人は、誰一人として彼の話をまともに聞いていない。横浜がどうとか言われても「へー、そうなんだー」と生返事しかしない。それでも一所懸命に何かを説明しつづける彼。

そんなにこっちに好意的ならと、調子にのって注文してみる。鳥唐とシュウマイが切れてるんだけれど、作れない?「できるある、できるある。すぐ作るあるよ」日本語で頼まれたことがよっぽど嬉しかったらしい。

今日は頑張った甲斐があった。かなり疲れたけれど、最後にはいいことがあるものだ。みんな、おいしいおいしいと、マズい中華バフェを幸せそうにほおばる。もっとも幸福を感じるひと時。

こんなおいしいものを発明した上、こんなところで店をやってくれているなんて、本当に中国人は偉いと思う。

幸せをかみ締めたら、モーテルに帰る。ああ、そうだった、二人乗りだった。完全に腑抜けになっているので、相当に気をつけなくては。

モーテルへ戻る途中のスタンドで、水とビールを買う。チーフは夜用の風邪薬を買う。それに含まれている睡眠薬が効くらしい。それを飲むと、あっという間に眠たくなって寝てしまうらしい。まあ、寝ても一時間くらいすると、咳で目が覚めちゃって可哀想なのだけれど。

チーフの風邪が完全に治るのは、きっと日本に着いたころになるってオチなんだろうなあ。

  • 総合走行距離: 3394.59 マイル (5463.06 km)
  • 今日の走行距離: 382.56 マイル (615.67 km)
  • 最高速度: 88.5 マイル/時 (142.42 km/h)
  • 移動時間: 7時間13分
  • 移動平均速度: 53.0 マイル/時 (85.3 km/h)
  • 最低最高高度: 3139〜5997 フィート (957〜1828 m)
  • $3.359 x 2.088G = $ 7.01 — 9:46:29 FRESHSTART — 2350 Lazelle, Sturgis, SD
  • $3.319 x 2.636G = $ 8.75 — 14:25:39 4 WAY GAS N GO — 1226 Washington Blvd., Newcastle, WY 82701
  • $3.299 x 2.872G = $ 9.47 — 17:31:22 DIEHL'S SUPER MARKET — 109 North Big Horn, Moorcroft, WY 82721
  • $3.219 x 3.364G = $10.83 — 19:58:52 RED EAGLE FOOD — Sheridan, WY


(Sturgis 2006 その10 へ続く)

2006年9月9日土曜日

Sturgis 2006 (その8)

(Sturgis 2006 その7 からの続き)

旅の八日目、八月十ニ日。土曜日。

八時すぎ起床。外を確認すると、空は真っ白。全力で雲りだ。ただ雲の間には晴れ間も見え、雨が降りそうな気配はまったくない。雨が降らない曇りの日は、バイクで走るのには適している。

昨晩の約束どおり、今日は九時出発。

これまでは何も決めずに、ただ、おれが先に起きたらその気配でチーフが勝手に起き、チーフが先に起きたらその気配でおれの目が覚めるという、阿吽の呼吸だけでやってきた。二人だけなので何の問題もない。

だが、今日からは四人での旅になる。二人だけでの阿吽の呼吸は通用しない。だいたい、モーテルの場合だと、同じ部屋で寝ているわけじゃないから、こっちが起きたかどうかは気配では分からない。

ひーちゃんの代理人でもあるヨネの意見をできるだけ尊重して、もしくは尊重している振りをしながら、自分の意見をなるべく無理なく、もしくは無理やりにでも通していくことが肝要となってくる。

チーフが日本から持ってきたカロリーメートを食べながらロビーでコーヒーを飲み、軽い朝食とする。

外を見ると、ヨネとひーちゃんが準備を始めた。二人の準備は、こっちの準備の何倍も時間がかかるので、ヨネが準備を始めてから準備をすればいいだろうとチーフと話していた。

外に出て、さっさと準備を済ますチーフとおれ。ヨネは先に準備を始めたのに、まだ終わらない。

実は、ヨネとチーフが借りたエレクトラグライド・クラシックにはツアーパックとサドルバッグがついているのだけれど、それらの上にラックがついていなかった。たしかにおれのにもついていないし、ラックは標準ではついていないのだけれど、レンタル用のバイクには当然つけてあると、勝手に思い込んでいた。というのも、HOG の Fry & Ride で借りられるバイクには、リアにもサイドにも、ラックがついているからだ。

このラックがないことで、二人分の荷物の積載はものすごく面倒になる。二人分の荷物は三つの箱の中には納まらないので、ツアーパックの上にくくりつける必要があるのだが、そこにラックがないものだから、簡単に固定する方法がないのだ。

二人分の荷物をヨネはどうやって積むのかと思っていたが、ヨネは、ツアーパックに傷をつけないようにテープで保護してその上にドライバッグを載せ、かなり長いバンジーコードで無理やり固定していた。なるほど、それしかないのだろう。もちろん、この方法ではツアーパックの開閉ができないので不便は不便だが、他に有効な方法はない。やはり、バイクは HOG で借りないといけない。

さて、今日のポイントは、バッドランズとスタージスだ。スタージスに行ってからバッドランズに行くか、バッドランズに行ってからスタージスに行くか、二つに一つ。

明日はこのブラックヒルズを離れる予定だし、できればスタージスでのんびりしたいということで、バッドランズからスタージスに行くルートで考えることにする。地図を広げ、チーフと二人でコースを練る。選択肢はあまりないが、できればあまり遠回りはしたくない。最短のルートはダートがあるので、それを避けつつ最短でいけるルートを選択する。

荷物を積み終えたヨネが、どんなルートを考えてるのかと心配そうに寄ってきて、地図を覗き込む。二人に任せておいたら、とんでもない道を選ぶかも知れないし、ひーちゃんへの責任もある。人任せにはできない。おれとチーフが選んだ道は、今までヨネが走ってきた道と比べると、そんなところ大丈夫なのかと思えるような道だったに違いない。行って見ないとどんな道だかさっぱり分からないような細いカウンティ道。州道ですらない。しかもインディアン保護地区。そんなところに、ちゃんとスタンドがあるのかも定かじゃない。

「こっちの方が安心じゃない?」と提案するヨネに対して、「いや、こっちの方が絶対にいいよ」と知りもしないくせにしたり顔で断言する。

九時十分、バッドランズに向かって出発。US-20 を西に十分ほど走り、US-385 との分岐点から北上する。

九時半、サウスダコタ州に到着。ヘルメットを脱ぎ捨て、ベースボールキャップに変更。頭の上にあった重しがなくなり、最高に快適。

US-385: South Dakota に突入

九時五十分、Oelrichs から、US-18 に乗り換えて東進。十時半、Denby の手前で 27 を北進。なだらかな丘を走る道。気持ちいい。

十一時、Sharps Corner でガスの補給。2 に乗り換えて東進。

とくに決めたわけでもなく、とりあえず今朝はここまでおれが先頭を走り、ヨネが続き、チーフがしんがりを務めていた。だが、やはり真ん中は気を使うだろうといって、ここでチーフとヨネがポジション交代。後ろを気にせずゆっくり走ればいいというチーフの配慮だ。

さて、後ろがチーフなら、どんだけ飛ばしてもついてくる。今までヨネの負担にならないように 60MPH (96km/h) くらいで余裕をもって走ってきた山道だが、ここからは 75MPH (120km/h) くらいで飛ばすことにする。コーナーを二つ越えると、あっという間にヨネの姿が見えなくなるが、まあ、いいだろう。二人乗りでついてくるのは難しいに決まっている。それに、こっちが少し速度を落として走っていれば、すぐに追いつく。

結局、この順番が一番気が楽なので、この後の道程はすべてこの順番で走ることにする。

十一時五十分、44 に合流。 44 を北上。向こうにうっすらとバッドランズの異様な景色が見えている。

十二時過ぎ、Badlands 国立公園に到着。ああ、来た。なんと表現すればいいのか分からない、異様な景色。昔の人が Badlands と呼ぶのも分かる。

240 をのんびりと北上し、異様な景色を堪能する。一通り堪能したら、そのまま Wall に向かう。おなかも空いてきた。

Badlands National Park in South Dakota

一時四十五分、Wall に到着。メインストリートはハーレーで埋め尽くされている。「ハーレーだらけだねー」ひーちゃんが言う。「いや、多いけど『だらけ』じゃないよ。Sturgis についたら『だらけ』になるよ」

この Wall は、I-90 を東から来ると、400マイル (640km) くらい先から「Wall Drug にタダの氷水がある」というような看板が何度も目に付いて、一体どんな町だろうと思わせる、いわゆるツーリストトラップで有名な町。実際には何の変哲もない町で、わざわざ行く価値はとくにない。

Wall ではちょっと遅めの昼飯。コーンビーフバーガー。ちょっと足りないってことで、みんなはサラダを食べる。おれはスタージスで何か食べるつもりだったので食べない。

二時半、出発。I-90 を Sturgis に向けて西進。

途中、とつぜんヨネの姿が遠くなる。どうしたのかと思えば、ガスがやばいらしい。高速走行では燃費も悪くなる。ヨネのはキャブで、おれとチーフのはインジェクションというのもある。この先、ガスの消費量が微妙に違うということにも気を使う必要がでてきた。

三時半、Rapid City に到着。ガスを補給。当初は Rapid City で来年モデルでも試乗していくかという案があったのだけれど、結構時間も遅くなってしまったので、Sturgis に向かうことにする。今回の旅にひとつだけ目的があるとしたら、それは、いつものおばちゃんにパッチを縫ってもらうことだ。あまり遅くなってそのチャンスを逃すわけにはいかない。先へ急ぐ。

四時過ぎ、Sturgis の Exit を降りる。とうとう来た。嬉しくて仕方ない。「来たねえ!!」「来ちゃったねえ!!!」

すでにあたり一体はハーレーだらけ。四年ぶりのスタージス。興奮する。ハーレーだらけの状況に圧倒されて、町の構成を思い出せない。「そういえば、メインストリートはどっちだったっけ…」とりあえず、前を走っているハーレーに黙ってついていく。どこからメインストリートに入ればいいのかよく分からないまま、とりあえず SD-79 を東進していく。あ、右手にメインストリートが見えた。ふむふむ、だんだん思い出してきたぞ。

こんな時間からメインストリートに行っても、どうせバイク三台を止めるスペースは見つけられるわけがない。のんびりとメインストリートを走るのもやりたいが、やっぱり後にしよう。SD-79/34 を東進しながら止められそうなわき道を探す。交差点のたびに左右を確認するが、すべての道がバイクで埋め尽くされ、どこまで行っても駐車スペースはまったくない。いったい、何しにこんなにたくさん来てるんだ、こいつらは。結局、町をほとんど抜けたところで、やっと止められそうな道を見つけた。かなり町の外れだけれど、仕方ない。

ふう。バイクをわきに止め、町の中心部に向けてやおら歩き始める。かなり暑いけれど、革ジャンを置いていくわけにはいかないので着ていく。だが、着ているとあまりに暑いので、途中から脱いで、手に持ち換える。重たい。

道沿いの家の玄関先では、椅子に座って SD-79/34 を走るハーレーを眺める人たちがたくさんいる。朝から晩まで、ビールでも飲みながら、行きかうハーレーをこうしてただぼーっと眺めているのだ。バカすぎる。何が楽しいのかさっぱり分からない。自分も、メインストリートに行きかうハーレーを何時間でも、ただぼーっと眺めて楽しんでいられるのは確かだけれど。

とりあえずメインストリートに出る。うーん、来たねえ。まさに一生分のハーレーがひしめくメインストリート。こいつら全員バカだ。テンションは最高潮。

Main Street at Sturgis Bike Rally in South Dakota

さっそくヘッドクオーターに向かう。誰が主催してようが、どこがヘッドクオーターだろうと、そんなことはどうでもいいのだが、おれにはヘッドクオーターでしなければならないことが三つある。ピンを刺し、オフィシャルTシャツを買い、パッチをおばちゃんに縫ってもらうことだ。そのための旅というわけではないが、これらはおれにとっては点睛であって、決して欠くわけにはいかない。

ほどなくヘッドクオーターに到着。

まずは世界地図を見つける。お、Redwood City はあいてるぞ。ピンを刺す。チーフとヨネも、それぞれ自分の町にピンをさす。

次に、パッチを買い、おばちゃんを探す。ヨネの記憶が確かならば、おれは八年前、パッチを買わずにパッチを縫ってもらったらしい。その時は、縫い代とパッチ代は別だということを理解していなかったらしい。

お、いたっ!今年もいてくれた!本人と約束はしていないが、この旅で会う約束をした唯一の人と会えて、感無量。過去に縫ってもらったパッチの下に、今年のパッチを塗ってもらう。「覚えてないだろうけれど、その二つも、おばちゃんが縫ったんだよ」

三つ目のオフィシャルパッチを縫うリンダおばちゃん

ヨネが二つ目のパッチを縫ってもらっている間に、オフィシャルTシャツを買い、目標を達成。あとは竜の尻尾を書くだけだ。これまでどおり、旅をぞんぶんに楽しむぞ。

小腹が減ったので、アメリカンドッグを買う。「短いの、長いの?」店員に聞かれる「え?じゃ、長いの」長さ 40cm以上の長すぎるアメリカンドッグ。こんなどうしようもない食い物を、そんなに長くしてもまったく意味はないのになあ。

今日はこれ以上の予定はないので、気分も楽でいい。だらだら町を練り歩き、スタージスに来たことを実感し、達成感に浸る。

六時半、革ジャンも邪魔だし、今晩のことも考えないといけないし、いったんバイクの方に戻る。

さて、寝床の確保はどうしようか。モーテルに空きがあるはずもないし、たとえあったとしてもありえないくらい高いに決まっている。この一帯の宿という宿は、みな半年から一年以上も前に予約で埋め尽くされているのだ。キャンプでいいよね?

八年前、ヨネと Mt. Rushmore で別れた後、チーフとスタージスに戻ってきて、この町の外れでキャンプをした。ちゃんとしたキャンプ場ではなく、単に広場で勝手にキャンプしたという感じだった。そういえば三時くらいまでエンジンを吹かして騒いでいるバカもいた。できれば、もうちょっとましなところがいいな、今回は…

地図を見ると、ちょっと上に州立公園がある。お、ここはいいかも。州立公園のキャンプ場は、国立公園のそれと比べると、空いている確率がすごく高いうえに安い。うんうん、ここにしよう。

その前に、とりあえずメインストリートで何かを食ってからいこう。走っておく必要もあるし。

バイクにまたがり、メインストリートに戻る。パレードに参加して、駐車スペースを探す。夕方なのに、まだまだバイクだらけで停めるところが少ない。探しに探してやっと見つかった。

さて、晩飯は何にしようか。まあ、何でもいいね。目に入ったところで適当に何かを買って食べることにしよう。

七時半、目に入った出店で晩飯。1パウンド (453g) のデカすぎるハンバーガーを食う。あまりに大きすぎる。ヨネはそれでも足りないかのような勢いで食べ、人の分まで食べている。どんな大食いやねん。

八時、メインストリートに別れを告げ、いざ、州立公園に向かう。SD-79/34 を東進。

八時十五分、SD-79 と SD-34 の分岐点で、州立公園まで 4マイル (6.4km) と書いてあるサインを見る。サインをみたヨネは、今のところ左折じゃなかったかと言うのだが、直進と見違えたおれは「まっすぐって書いてあった」と自信を持って答えて直進。SD-79 に行くべきところを SD-34 に行ってしまう。

4マイルほど走ると、そこは州立公園どころか、まっ平らの大草原。見渡す限り、何もない。おかしいなあ。地図を見ても、SD-79 沿いにあるのか SD-34 沿いにあるのかはっきり分からないので、さらに東進してみる。

うーん、何もない。4マイルでいいはずなのに 8マイルも走ってる。何か違う。やっぱり、さっきのところ左折だったのかも…

SD-34 を戻ってみると、やはり、ヨネが正しかった。どうして見間違えたのかさっぱり分からないが、おれの目は悪くない。見間違えるような書き方が悪いに違いない。二十分も時間を無駄にしてしまった。もうあたりは真っ暗。八時三十五分。

ほどなく Bear Butte Lake 州立公園を見つけ、目当てのキャンプサイトを発見する。八時四十五分。

真っ暗ななか、少ない明かりを頼りにさっさとテントを設営。

そういえばビールがない。めんどうだけれど買出しに行かなくては。一人で行くのは寂しいのでひーちゃんと二人で行きたいのだが、そういうわけにもいかないので、チーフと二人で行くことにする。4マイルほど離れたスタンドにビールと明日の朝食を買出しに出かける。コーヒーがなかったので紅茶のティバッグを買って、マフィンを買って、ビールを買って、キャンプサイトに戻る。

ふう。必要なことを全て終え、ブーツをサンダルに履き替えてくつろぐ。ビールがウマイ。と思っていたら、とつぜん風が強くなる。モニュメントバレーの強風に比べればたいしたことはないが、それでもかなりの風。さっきまで無風だったのになあ。

風がさらに強くなり、夜もだいぶ更けたころ、係りの人が料金の回収に来た。こんな夜更けにまだ仕事しているとは。

小さな州立公園の多くは、料金の徴収は朝だったり、キャンプサイトの出入り口のところに置かれた箱に自己申告で払ったりするので、ちょっとびっくり。テント三つだと言うと、天気も悪いし負けてやるといって $2 × 3 で $6 だと言われた。本当はいくらかも知らないし、その人が本物のレンジャーなのかも知らないが、言われたとおりに払う。

風もさらに強くなり、さすがに寒くなってきた。さっさと寝ることにしよう。明日のことは何も考えてないけれど、明日は明日。目が覚めてから考えることにしよう。

十一時過ぎ、シュラフに滑り込み、あっという間に就寝。

  • 総合走行距離: 3012.01 マイル (4361.38 km)
  • 今日の走行距離: 301.97 マイル (615.94 km)
  • 最高速度: 92.5 マイル/時 (156.1 km/h)
  • 移動時間: 5時間14分
  • 移動平均速度: 57.5 マイル/時 (111.5 km/h)
  • 最低最高高度: 2319〜3775 フィート (653〜1256 m)
  • $3.159 x 4.092G = $12.93 — 11:00:10 GROCERY 141 — Sharps Corner, SD
  • $3.359 x 3.864G = $12.98 — 15:28:50 FRYING J TRAVEL PLAZA — 4200 North I-90, Rapid City, SD


(Sturgis 2006 その9 へ続く)

2006年9月8日金曜日

Sturgis 2006 (その7)

(Sturgis 2006 その6 からの続き)

旅の七日目、八月十一日。金曜日。

八時起床。カーテンを開け、外を確認。空は真っ白。

相変わらずウェザーチャンネルは Scattered Thunderstorm と言い張っているが、気にしない。降るなら勝手に降れ。いや、降るな。

モーテルのオフィスに朝食を取りに行ってみる。コーヒーしかない。ドーナツはないのかと訊いてみたら、そっけなくないという。売り切れではなく、最初からないらしい。ちぇっ。

荷物をまとめ、さっそく出発する。八時半。

US-36 を少し戻って US-283 との交差点に来てみると、むこう側にマクドナルドが見えた。おぉ、久しぶりに朝マックにしよう。毎朝、最低ランクのジャンクフードの朝食なので、朝マックというだけでものすごく贅沢に聞こえる。

店に入って、すぐに注文。ソーセージ・エッグ・マックマフィンとコーヒー。選択肢は一つなので迷う必要がなくていい。が、なんとチーフはマックグリドルズを頼む。日本にはないメニューらしい。あるわけない。

マフィンの代わりにメープルシロップのかかったパンケーキ。甘い香りが漂ってくる。ウマイ理由がない。嬉しそうに食べるチーフ。だが、どう見てもウマそうに見えない。

「日本人のくせに、よくそんなもん食えるね」

「ほんとうは食べてみたいくせに」

「ほんとうは後悔してるくせに」

「欲しいって言ってもあげないよ」

負けず嫌いでは、お互い誰にも負けない自信がある。

地図を見ながら、コースを検討。バイカーたるもの、来た道を戻るわけにはいかないので McCook に寄るのは諦めて、素直に US-283 を北上していこう。

北上して I-80 にぶつかったところで、少しだけインターステートを走ることにしよう。サービスエリアがすぐにあるから、そこでクーポン冊子を拾っていこう。ここまでまったく見つけられていないクーポン冊子だが、さすがにサービスエリアならあるはずだ。

モーテルはすでにヨネが確保したから要らないといえば要らないが、あって困るものでもないし、ワイオミングまでカバーされてれば今後も役に立つ。

九時十分、Norton を出発。数時間後にはヨネたちに会える。心が躍る。US-283 を北上。

九時二十分、not quite good life のネブラスカ州に到着。ヘルメットをする。

十時十五分、I-80 との合流点に到着。70マイル (112km) 位の距離を一時間くらいで走ってきたわけだから、なかなかいいペースだ。何もない道を走るのは楽だ。

Exit-237 から I-80 にのり、西に向かう。10マイルほど走ったところでサービスエリアに到着。

が、お目当てのクーポン冊子が見当たらない。うーむ。どうしてしまったんだろう。サービスエリアにモーテル情報がなくて、どうするんだよ。なぜ見当たらないのかさっぱり分からないが、ないものはない。仕方ないので、先に進む。

十時半、Exit-222 で I-80 を降り、Cozad でガスの補給。

と思いきや、このスタンドにはハイオクがない。うーむ。見た目、ふつーのスタンドなのに、何ゆえハイオクがないのだろうか。ここまで、どんなボロい店でもハイオクがあったし、ハイオクしか入れてこなかったのに。まあ、ないものは仕方ない。オクタン価 89 のガスを入れることにする。

ついでに水を買い、レジでお金を払っていたら、地元の兄ちゃんから声をかけられる。「よー。スタージスに行くのかい?」

アメリカ人は、相手が誰だろうといつも話がしたくてうずうずしている。どうでもいいことをベラベラと話していないと寂しくて死んでしまう。口から生まれてきたような連中ばっかりの国だ。

そうだと答えると、「やっぱり、そうか、そうだと思ったよ。スタージスなら 83 を上がっていくのがいいぞ。それから 2 もいいぞ。だいぶ前だけど工事をして綺麗になってたしな。20 もいいけどトラックが多いからオススメしないな。まあ、あれだよ、北上する道はどれも走ったことがあるけど、どれも最高だよ。ああそうだ、地図とか持ってないのかい?持ってたら詳しく教えてあげられるんだけどなあ」客を見つけたとばかりに、ものすごい勢いでまくし立てる。

どうやら道に詳しそうだし、話がしたくて仕方がないみたいだから、話を好きなだけさせてやろう。地図を広げて説明させる。

自由に話をさせていたら、必要ないことまで説明を始めたので、こっちの訊きたいことを重点的に質問攻撃する。こういう親切すぎる人は、いくつか質問して答えさせてあげると、すごく役に立った実感をもって、満足して開放してくれる。そうしないと、いつまで経っても話が終わらない。

「なるほどね。すごく参考になったよ。ありがとう。」

どうやら、考えていた道よりももっといい道があるということが分かったので、川沿いを走ろうと思っていた計画を微調整する。

十一時前、US-30 を西に向かう。Gothenburg から NE-47 を北上。

十一時四十分、NE-47 は NE-40 になり、十分後、Arnold に到着。Arnold からは NE-92 に乗り換え、西に向かう。

NE-92: 誰も走っていない田舎道 in Nebraska
もう、どれだけ走ってもめったに対向車とはすれ違わない。時々すれ違う対向車の半分以上は、ハーレーだ。スタージスに近づいている証拠だ。

気がつくと、道の脇にたくさん見られたとうもろこし畑はなくなり、なにもない草原になっている。ときどき牛や馬を見られる以外に何もない草原。あまりに気持ちよくて、眠たくなってくる。

十二時、スタンドであった兄ちゃんオススメの US-83 に乗り換え、北上。たしかに気持ちいい道だ。

大きく起伏し、坂の向こうの風景はまったく見えない。坂の向こうに見える景色が待ち遠しくなる。なだらかにいつまでも続く上り坂を越えると、またさっきと同じように起伏の激しい田舎道が続く。素晴らしい。やはり、地元のことは地元の人に訊くに限る。

十ニ時半、Thedford から NE-2 に乗り換え、西進。今日の目的地、Chadron はちょうど北西の方角にあるので、北上したら西進し、西進したら北上し、の繰り返し。

十二時四十五分、Seneca を越えて、マウンテン夏時間に変更。時計の針が一時間もどって、十一時四十五分になる。まったく気にしない。

十二時前、Mullen でガスの補給。またしてもハイオクがない。89 を入れる。

それにしても、ネブラスカ州にはオクタン価 91 以上のハイオクはないのだろうか。ハーレーの推奨は 91 以上なのでできれば 91 以上で入れたいのだけれど、どのスタンドに寄っても 87 と 89 の二つしかない。しかたないので 89 を入れておくが、坂道を五速で登ると時々ノッキングするのが分かる。四速で登ればいいのだが、トルクフルなのがハーレーの乗り味なので、やはり五速の低回転でだらだらと登りたい。

ちなみに、このオクタン価について「少し」知識がある人は、日本のオクタン価と比べてすごく低いアメリカのオクタン価を見て、アメリカのガソリンはとても質が悪いと勘違いするかも知れない。したり顔でアメリカのガスは質が悪いなどというと、「もう少し」知識がある人にバカにされるかも知れないので気をつけないといけない。

ポンプをよく見ると分かるのだが、アメリカのオクタン価は (R+M)/2 という基準で量られている。RON 基準と MON 基準の平均値という意味だ。日本や欧州のオクタン価は RON 基準だが、MON 基準の数値は RON 基準のそれよりも 10ポイント程度低いので、同じガソリンでもアメリカ基準の方が低い数字になる。つまり、書かれている数値だけを見て、日本のレギュラーとアメリカのハイオクが同じくらいのオクタン価だと考えるのは、とんでもない勘違いなのだ。実際、アメリカの 87 は、日本や欧州の 92〜95程度であり、日本のレギュラーよりもオクタン価は高い。

当たり前のことだが数値は同じ単位で比較しないと意味がない。2センチと 1インチを比較して 2センチの方が長いと思ってはいけない。数値を見たら、まず正確な単位を調べないといけないということだ。

さて、おなかも空いてないし、疲れてもいないし、たいしたものも売ってないので、さっさと先を急ぐことにする。

一時前、Hyannis の大き目のスタンドで昼飯。チーフはいつものジャンクフードを買ったが、せっかくいろいろ売っているスタンドだったのでピザにしてみた。いくつか種類があったので、一番具の多かったピザコンボにしてみた。

ら、それだけが切れていて、一から焼き始めてしまった。焼きたてが食べられるのは嬉しいのだけれど、そんなどうでもいい昼飯に時間をかけるのも馬鹿馬鹿しい。結局、十分以上待たされた。焼き立てでおいしかったけれど、さっさと昼飯を済ませていたチーフをだいぶ待たせることになってしまって申し訳なかった。

熱々のピザを急いで食いながら、頭上にかけてあったプラズマテレビに目をやると、音が聞こえないので何を言ってるのかは分からないが、なにやらテロ関係の放送をしているっぽい。ロンドンがなんとかって出てるけれど、もしかしてイギリスでテロでもあったのだろうか。世間の情報からだいぶ遠ざかっているので、世界中のどんな不幸もまったく別世界のことに感じられる。世の中の、何たる不公平なことか。

一時半、Hyannis を出発。NE-2 をさらに西進。

NE-2 は路面の状態がそれほどよくなく、バイクで走ってもあまり楽しい道ではなかった。いやになってきたので Ellsworth から NE-27 を北上する。二時過ぎ。

NE-27 の北上は大正解。地元の兄ちゃんも言っていたとおり、北上する道はどれも最高だ。US-83 よりもさらに起伏が激しく、こんどはカーブも多い。

NE-27: 起伏の激しい Scenic Byway in Nebraska

だいたい、直線で 85MPH (136km/h)、カーブは 70MPH (112km/h) くらいでぶっ飛ばす。ほとんど二人占め状態の田舎道。最高だ。

時々、忘れた頃にすれ違う相手のほとんどはハーレー。誰も走ってないこういう田舎道をわざわざ選んで走っているのは、ほんとうの好き者しかいない。すれ違うたびに手を上げて挨拶する。バイク乗りの挨拶。

止まっていると気温はそれなりにあるが、今日は朝からずっと雲り空なので、走っているとけっこう涼しくて快適。バイクに乗るには、じつはこういう日の方が楽でいい。ピーカンの日も悪くはないのだが、やはり雲ひとつない青空で太陽の下を走るのは物凄く疲れる。動いているから問題ないような気がするが、よく考えると、太陽からみればバイクなんて止まっているのに等しい。つまり炎天下の野外でじっとしながら扇風機をあびているのと変わらない。これを二時間もやってたら、そりゃ疲れる。

曇りは曇りでなんとなく損した気分だが、暑くないというのは本当に楽でいい。

GPS で現在位置を拡大してみると、Chadron がすぐそこに見えている。おお、もうすぐだ。テンションがあがる。

と、その時、前方に黒い影がうっすらと見えてきた。雨雲だ。うーむ。来るか。

カッパを着るのは面倒くさいなあ。祈りながら走っていると、左手に雨が降っているのが見えてきた。自分たちの真上にはまったく雲がないが、左手には雨が降っているのがはっきりと見える。

NE-27: 雨と晴れ間の差がはっきりと見える田舎ならではの光景

目の前の道が左にカーブしていくと、さっきまで左にあった雨が前方に移動する。げげ。やっぱり、あれに突っ込むのか。

さっきまで左手に合った真っ黒な雨雲が、前方に垂れ込めている。来るのか、来ないのか。

雨が降っている地帯と降っていないところの差が、さっきよりもはっきりと見える。田舎に来るとよく見る光景。

こういう何もないまったいらない所では、決して、雨は突然降ってきたりはしない。頭上にある雨雲が辛抱たまらず降り始めるか、さっきから雨が降っているところに自ら入っていくか、そのどちらかしかない。

さっきから、ずっと、自分たちの頭上に雨雲はないのだが、向かう先では雨が降っている。今走っているこの道が、その場所に入っていくのか、入っていかないのか、走ってみなければ分からない。

こういう田舎ではあまりに道が少なすぎて、道の選択肢はまったくない。ひとつ選んだら、その道を一時間ほど走らないと他の道に合流しないのが当たり前。つまり、避けたくても避ける方法がまったくない。雨に突っ込もうが突っ込むまいが、ただまっすぐに北上して、US-20 に出る以外の選択はない。

祈りながら走る。

結局、自分たちが走った道には雨が一滴も降らなかった。ただ、ずっと雨の真横を走っている感じだったので、まったく気が抜けなかった。

二時五十分、果たして、運良く雨には一滴も濡れずに Gordon に到着。ガスの補給。やはり、ハイオクはない。

ここからは US-20 で Chadron まで一本道だ。ガスを入れたらさっさと出発。気持ちがはやる。

US-20 を西進し始めるとすぐに北からの強風に悩まされることになる。あまりの強風のため、バイクを右に傾けた状態でまっすぐ走らないといけない。体力も神経も消耗する。この道を反対側から東進して Chadron に来るであろうヨネもこの強風の中を走ることになるだろう。二人乗りだから、自分たちの何倍も風を受け止めながら走らないといけない。大変だろうなあ。

この強風のおかげでさっきまで左側に停滞していた雷雨がさらに南側に向かってくれたのだろう。前方には雨の気配はまったくないが、左側では雨が降りしきり、雷が落ち続けている。

四時前、Chadron に到着。ヨネが予約して確保しておいてくれた Motel-8 にチェックイン。Motel-8 のくせに 132ドル。明らかにスタージス料金。スタージスが終わったら、閑古鳥が鳴き続けるに違いない。

部屋に入ってクーラーを全開にする。走っていれば涼しいのだが、止まると暑くてやってられない。気温は 30度近い。

ブーツを脱ぎ、ジーンズを脱ぎ、短パンに着替えてゆっくりくつろぐ。体も十分に冷えたころ、サンダルをはいて、近所を少しだけ散策。夜のために酒屋をチェック。

外は暑くて疲れるので、さっさと部屋に退散。こんな暑い日に外に出てる人の気が知れない。クーラーの効いた部屋でのんびりとテレビでも見る。

それにしても、ヨネはいつごろ着くだろう。

今日は、とくに寄るところもなかったし、当然ながら渋滞も町もなかったので、あっという間に目的地に着いてしまった。ヨネもこの町までは同じくらいの距離だろうけれど、嫁さんも乗ってるし、ペースも遅いと言っていたしなあ。

外でハーレーの音がするたびに窓から外を覗く。「どう?」「違った」何度も繰り返す。

ロビーにあったパソコンでネットを見たり、ロビーでお茶を飲んだり、久しぶりに骨の髄までくつろぐ。部屋に戻ってどうでもいい話をチーフと駄弁る。

そして、待ちに待ったその瞬間がやってきた。

「お、ハーレーが来るね」「うん、近い、近い」「お、すぐそこに止まったね、ここかな」「どれどれ、おおお、二人乗りしてるよ」「来たかな?」「キターーーーーーーー」

窓を開け、外の熱い空気を全身に浴びながら、ヨネに手を降る。「おーい、ここだよ!」「おー!!」

当たり前だけれど、予定通りに再会できて本当によかった。それにしても、ここまで、二人でよく頑張ってきたなあ。

とっくにチェックインしてすっかりくつろぎ切っているおれとチーフの部屋に、ヨネとヨネの嫁さんがあがってくる。ヨネの嫁さん、ひーちゃんにはじめましての挨拶。

三年前、おれとヨネがモニュメントバレーで奇跡の再会を果たしたその時、ひーちゃんは部屋にいて出てこなかった。すごく会いたかったけれど、おれも時間がなかったし、早朝だったし、無理を言っても仕方ないと思って、その時は素直に諦めた。

半年ほど前、LA に遊びに行ったとき、予定通りヨネとは会えたのだけれどひーちゃんは一緒じゃなかった。勉強が忙しいという理由で、おれとは会ってくれなかった。

先週、うちに泊まる約束だった金曜日、風邪を引いたというもっともらしい理由でうちには来なかった。

すぐそこにいるのに会ってもらえないという状況を三回も繰り返され、どうすれば気に入ってもらえるか、どうすれば許してもらえるか、自分なりに一所懸命考えたりもしたけれど、結論は出なかった。とにかく、会って、釈明させてもらうしかない。

そして、今日、とうとう、会えた。 「なんで嫌われてるのか分からないけれど、とにかく会えて嬉しいなあ!!」

二人が着替えをすませ、準備ができたところで晩飯を食いに行く。何があると言うわけでもないが、目の前にダイナーがあったので、そこに入ることにする。

みんなはステーキを注文したが、なんか毎日、肉ばかり食ってる気もしたので、なんとなくラザニアにしてみた。予想通り、量は多すぎだったけれど、味はまあまあ。

飯を食いながら、今日までどんな旅をしてきたか、お互いに報告しあう。話が弾む。

ダイナーを出て、酒屋でネブラスカの地ビール Luna Sea ESB を買って部屋に戻って、とりとめもなくだらだらと駄弁る。最高に楽しい。

一段楽したところで、ヨネとひーちゃんは洗濯をする。二人分の着替えというのはものすごい勢いで溜まっていくらしい。洗濯機があるならついでだし、自分たちも洗濯をすることにする。

洗濯している間、とくにすることもなかったので、チーフとプールで泳いだりネットを見たりして過ごす。こういうどうでもいい無駄な時間が最高にくつろぐ。

ああ、あしたはとうとうスタージスだなあ。

  • 総合走行距離: 2710.04 マイル (4361.38 km)
  • 今日の走行距離: 382.73 マイル (615.94 km)
  • 最高速度: 97.0 マイル/時 (156.1 km/h)
  • 移動時間: 5時間31分
  • 移動平均速度: 69.3 マイル/時 (111.5 km/h)
  • 最低最高高度: 2143〜4122 フィート (653〜1256 m)
  • $3.019 x 4.325G = $13.06 — 10:43:25 CASEY'S GENERAL STORE — 510 S. Meridian Cozad, NE 69130
  • $3.199 x 3.736G = $11.95 — 11:53:32 FARMER'S RANCHERS CO. — 202 SW. 1st St., Mullen,NE 69152
  • $3.099 x 3.609G = $11.18 — 14:46:25 PUMP & PANTRY #34 — 101 W HWY-20 Gordon, NE




(Sturgis 2006 その8 へ続く)

2006年9月7日木曜日

Sturgis 2006 (その6)

(Sturgis 2006 その5 からの続き)

旅の六日目、八月十日。木曜日。

七時、気持ちよく目が覚める。外を見ると空は真っ白。雨は降ってない。

なくなる前に、モーテルのオフィスにドーナツとコーヒーを取りに行く。ドーナツには限りがあるので、のんびりしてるとなくなってしまう。みると、シナモンロールとマフィンがあった。期待してなかった分、嬉しい。

たいしたものではないとはいえ、同じ値段で朝食がつくのとつかないのとでは大違い。結果の平等性が重視される日本では許されないであろう、早い者勝ちシステム。アメリカでは機会さえ平等なら結果はどうであろうと、なにも問題はない。

朝飯を部屋に持ち帰って、ベッドの上でのんびりと朝食を取る。

まずはウェザーチャンネルで天気予報の確認。案の定、Scattered Thunderstorm (ところにより雷雨) と言っているが、昨日はそれでも降らずに済んだし、今日も雨が降らないことを祈る。幸い、進行方向の北方面には雨雲はなさそうな感じだし、きっと大丈夫だろう。

天気も良くないし、急ぐ気もしないので、そのままのんびりとテレビを眺めて過ごす。チーフはいっこうに準備をする気配がない。実は、この時、風邪で体がだるくて動きたくなかったらしい。もちろん、チーフはそんなことはおくびにも出さない。結局、ESPN の Sports Center を一時間くらい見てダラダラと過ごす。

まあ、いつまでもこうしていても仕方ないし、そろそろ準備をして出かけることにしようか。

外に出てみると思いのほか寒い。これからロッキーを登りさらに標高は上がっていくので、寒さ対策は万全にしていく必要がある。パッチをはき、フリースを着ることにする。

さらにカッパまで着てしまうとかなり暑くなってしまうので、カッパは着ないで行くことにする。雨が降り始めたら着ればいい。きっと、降らない。

九時、目の前のスタンドでガスを補給し、出発。US-40 を北上。

九時半、Granby から US-34 に乗り換え。

十時前、Rocky Mountain 国立公園に到着。ひさしぶりのロッキー。四年ぶり。

Rocky Mountain National Park, Colorado

公園内をのんびりと走り、ビスタポイントで写真を撮る。

十時半、ビジターセンターに到着。けっこう寒い。GPS を見ると、標高は 11600フィート (3535メートル) らしい。酸素も薄いのだろう、眠くもないのに、何度もあくびがでる。

駐車場とそこに停まっている車はほとんど全部びしょ濡れという状態。今さっきまでここで雨が降っていたらしい。反対側から来たハーレー乗りたちは、みなカッパを来ていた。

「こっち側は降ってなかったけど、向こう側はけっこう降ってるの?」

「おまえら運がいいなあ。こっちはけっこう派手にやられたよ。ただの通り雨だと思うけどな」

「ふーん。ところで、これからどこ行くの?」

「家に帰るところだよ。そっちは?」

「スタージスに向かってるところ」

「おれたちは二日前にスタージスにいたんだけど、ヒョウが降って大変だったよ」

「えー、ヒョウなんて降ったの!死ぬじゃん!!」

「だよな。たまたま近くにバーがあったから飛び込んで、三十分くらいでやんでくれてよかったよ」

うーむ。今年の天気はどうなってるんだろう。四年前は一度もカッパを着ずに済んだのに、今年は、ほとんど毎日雨の心配をしてるし、スタージスではヒョウって、なんだ、それ。

十一時半、ビジターセンターを後にし、US-34 を東に向かう。空模様は、いつ雨が降ってもおかしくないけれど、雨はいまのところ降ってない。「緊迫した投手戦が続くねえ」チーフが言う。

十二時半、分岐点に到着。四年前は US-34 を走ったから、US-36 で行くことにする。また、前回は行ってない Bear Lake にも行きたかった。

一時前、Bear Lake に到着。

Bear Lake in Rocky Mountain National Park

結局ここまで、一滴二滴と来ることはあっても、それ以上は来なかった。そろそろダメかと覚悟しても、なんとか持ちこたえる。「塁には出しても点は与えない、粘りのピッチングだね」チーフが言う。

携帯を見たら電波が来ていたので、頂上付近で撮った自分の写真を女房宛にメールする。娘の写真が届く。ニヤニヤ。

ついでにヨネに電話する。留守電にメッセージを残すと、すぐにかかってきた。タイミングいい。元気な声が聞こえる。

お互いの状況と予定を手短に報告。Salt Lake 経由で Arches 国立公園に来て、飯を食ってるという。北上して南下して、また北上するというルートか。なんという無茶なルートだ。どうやらヨネはヨネで、贅沢な旅をしているようだ。嬉しくなってくる。それから、やっぱりあの後 I-80 に上がるのはやめて、US-50 でネバダを横断したという。US-50 は最高だったと。

ヨネたちは今日はデンバー方面に向かって、行けるところまで行く予定。おれたちは今日はネブラスカまで行っちゃうけれど、それならば明日は合流できる可能性がある。今晩、地図を見ながら計画を立てることにしよう。夜、電話する約束をする。

それにしても、US-50 を横断したのかあ。よかったなあ。おれは、感じなくてもいい罪悪感をちょっとだけ感じていたので、ヨネが US-50 を堪能してくれたことが、本当に嬉しかった。せっかくネバダを横断するチャンスがあったってのに、US-50 は走りませんでしたってんじゃあ、悲しすぎるというものだ。

気分が良くなったところであたりを散策することにする。 Bear Lake のまわりにはいくつも湖があったが、トレイルマップを見る限り、どれもそれなりに遠い。残念ながらそれらを順番に回っている余裕はない。結局、一番手前の Bear Lake だけを回って今年のロッキーマウンテンは終了ということにする。

一時二十分、Bear Lake を出発。

山を下り、どんどん標高は下がっていく。そして、気温はどんどん上がっていく。

一時四十五分、四年前に泊まった Estes Park を通過。US-34 に乗り換え。

振り返るとロッキーの上には分厚い雲が鎮座しているのが見える。おれたちの向かう前方は、雲ひとつない。もう、雨の心配はまったくない。

結局、雨はまったく降らなかった。毎回のようにヒットを許しながらも、終わってみれば完璧な継投で無失点。カッパも着ずに大正解。オレ竜采配がずばり当たった完全勝利。

Loveland を抜け、Greeley を抜け、ひたすら US-34 を東に向かう。

三時半、走っていた US-34 は Wiggins にて I-76 に変身。何ゆえインターステートを走らされているのか納得がいかず、次の Exit ですぐに降りて地図を確認する。もうひとつ先の Exit までは US-34 と I-76 が一緒の道ということらしい。United なんだけれど ANA みたいなものか。

それにしても暑い。標高を見たら 4480フィート (1365メートル) らしい。一瞬にして 2000メートルも下ってきたということか。そりゃ暑いに決まってる。

Exit を出たすぐ脇のところで、着替えることにする。ジーンズを脱ぐためにブーツを脱がなくてはならず、そのブーツを脱ぐのはものすごく面倒くさいことなのだけれど、さすがにもうこの暑さには耐えられない。汗びっしょりのパッチを脱ぎ、水を大量に飲む。あー、気持ちいい。

三時五十分、面倒くさいけれど、いったん I-76 に戻って次の Exit まで走る。

四時、Ft. Morgan に到着。Safeway のガソリンスタンドがあったので、そこで入れることにする。電話番号を入れて Safeway のメンバー認証をしたら、1ガロンあたり 3セントのディスカウントだった。チーフにもおれの自宅の電話番号を教える。

そういえばまだ昼飯を食べてなかった。おなかが空きすぎてて忘れていた。食事や休憩を別箇に取ると、思いのほか時間のロスが大きいので、なるべく給油のタイミングで食事と休憩を取ることにしている。給油はタイミングを選べないので、他に必要なことを給油に合わせるわけだ。

結果として、スタンドに寄らないと食べるチャンスを逃しがちということになってしまう。

Safeway で何かを買うという手もあったのだけれど、レジに並ぶのは面倒くさいし、次のスタンドまで走って、そこでジャンクフードでも食べることにしよう。

と思いきや、次のスタンドが見つからない。しかし、一度、おなかが空いていたことに気がついたら、もう我慢できない。おなかが空く一方。うーむ、Safeway で何か食べておくべきだったか。

四時四十分、Akron に到着。やっとの思いでスタンドを発見。そっこうで飛び込む。ホットドッグは食い飽きたし、サンドイッチももの足りない感じだったので、ひさびさにブリトーにしてみる。ウマイ。レモネードをがぶ飲み。リフィルしてがぶ飲み。マズウマイ。

さーて、今日はどこまで走ろうか。地図を見ながら作戦会議。

ここまで走ってきた US-34 を、そのまま 150マイル (240km) ほど東に走っていくと、McCook という町がある。なんか、MacBook みたいでいい名前だね。ここを目標にしよう。おれはマックユーザだったことは過去に一度もないが、チーフは生粋のマックユーザ。

まっすぐ McCook に向かってもいいのだが、地図には、その下のカンザスを走る US-36 が Scenic Road と書いてあるので、そっちを走って行ってみよう。

五時十五分、遅すぎた昼飯を終え、Akron を出発。

六時十五分、完全ヘルメットフリーのコロラド州(ちなみに、コロラド州、アイオワ州、イリノイ州、ニューハンプシャー州の四つの州だけが年齢制限なくヘルメットフリーで、あとのヘルメットしなくていい州は、18歳以上とか20歳以上という年齢制限がある。)から、全てのライダーがヘルメットをしなくてはいけない完全ヘルメット義務のネブラスカ州に突入。

ネバダ州のヘルメット着用義務もぜんぜん納得いかないけれど、あそこはラスベガスとかタホとかリノみたいな町があるし、まあ分からないでもない。だけど、ネブラスカ州はどこをどうひねくり回してもヘルメットの必要性が分からない。コロラド州よりも人は少ないし、町もないし、っていうか町自体まったくないし、車よりも牛や馬の方が何倍も多そうなのに、何ゆえヘルメットを要求するのだろうか。the good life って看板、偽りありすぎ。

US-34:NEBRASKA ... the good life

六時半、Haigler から NE-27 に乗り換え、カンザス州に突入。面倒くさいのでヘルメットはかぶったまま。

NE-27/KS-27:welcome to Kansas

ここからタイムゾーンはセントラルの夏時間となって、時計の針が一時間すすむ。ということは、現地時間は七時半。だが、そんなことは気にせず、KS-27 を南下。

七時五十分、US-36 に合流。

八時半、Atwood に到着。ガスを補給し、休憩。ずっと探しているモーテルのクーポン冊子は、ここでも見当たらない。以前はどこでもあったのに、今時ははやらないんだろうか。

となりでガスを入れている、明らかに超ダメ系白人男に声をかけられる。"My Name Is Earl" の Earl みたいな兄ちゃん。

「よー。あれだろ、スタージスに行くんだろ?おれっちはカンザスから出たこともねーずらよ」

「そ、そうなんだ… (なんて言って欲しいんだよ!)」

「ハーレーってさ、高いんだよな。仕事なにしてるずらか?」

「プログラマだよ」

「すげーずらな。おれもやってみてーずらよ。プログラマ」

うーむ。おれになんと言って欲しいのだろうか。勝手に友達にされてはかなわないので、そつなくつれなく突き放して話していたら、諦めたのか静かに去って行った。

さて、バイクの時計はカリフォルニア時間のまま、つまり六時半なので、ついつい勘違いしてしまうが現地時間は八時半。あたりは日も少し薄暗くなりつつある。

今日は McCook まで行きたかったけれど、暗くなってから走るのは意味がないので、モーテルが見つかったところでおしまいってことにしよう。

とりあえずスタンドの店員に、この町のモーテルについて聞いてみると「モーテルなら、この先の Norton ってところにたくさんあるよ」という返事。

地図を見るとその Norton という町は 60マイル (96km) ほど東に走ったところ。をいをい、そんなに走らないとモーテルないのかよ。うーむ。

ぐずぐずしていても仕方ないので、八時四十五分、Atwood を出発。とりあえず Atwood から 30マイル (48km) ほど東の次の町 Oberin を目指す。その間、草原以外なにもないので、走り始めたらつぎの町まで走る以外の選択肢はない。US-36 を東にひた走る。

九時十分、Oberlin に到着。これといって何もない町だがモーテルが三件あった。入ってみると二件は両方とも満室で、一件は廃業して家として住んでいた。

観光地が近くにあるわけでもない、カンザスの田舎町でモーテルに空きがない。ありえない。

うーむ。スタージスだ。全米から集まるハーレー野郎たちが、近辺のモーテルに泊まりまくっている。カンザスは結構遠いはずだけれど、がんばれば一日で行ける距離だから、もう近所と言っていい。うーむ。

当初の予定では Oberlin から McCook に北上するつもりだったが、スタージスに近づく方向でモーテルを探すのは難しいかも知れない。ましてや現地時間は九時を回っている。もしかしたら、McCook には一件くらいしかモーテルがないかも知れない。それなら、さっきのスタンドの兄ちゃんが言ってた Norton ってところに行った方が確率は高いかも知れない。二件しかモーテルがない Oberlin のことは一言も言わなかったのに、Norton にはたくさんあるって言ってたし。

うーむ。残念だけれど、Norton に向かうことにしよう。もし Norton がダメでも、KS-383 を南下するルートを取れば、町はいくつかあるから確率は高いはず。Mac を諦めて、Norton Utility をインストールすることにしよう。

九時四十五分、たくさんモーテルがある町、Norton に到着。ふむふむ、短いメインストリート沿いにいくつかモーテルらしき看板が見える。

徐行しながら順番に見ていこう。あ、あった… が満室。お、これはどうかな…満室。むむむ。じゃ、あれはどうかな…満室。げげげ。まじで。

Norton に入ってさくっと見つけたモーテル三件はすべて満室。見ると何台ものハーレーが泊まっている。スタージス野郎たちだ。

それはそうと、町の端っこはすぐそこというところまで走ってきたのに、他にモーテルは見当たらないのはどういうことだ。たくさんのモーテルって、どこにあるんだよ…

うーん、こうなったら、モーテルが見つかるまでどこまでもスタージスから遠ざかる方向に向かっていくしかない。近づいても仕方ない。と半ば諦めかけた時、町の外れにもう一件モーテルがあるのを発見。

恐る恐る近づいてみると… お、満室って書いてないよ!急いでオフィスに飛び込む。

「何でもいいから部屋ないですか?」

「えーと… 最後のひと部屋でしたね。ツインでいいですか?」

ひやっっほーぃ!!

結局、モーテルがたくさんある Norton には、モーテルは四件しかなく、部屋はひとつしか空いてなかった。人口千人ちょっとの Atwood 住人からすれば、四件のモーテルはたくさんってことになるのも無理はないのだろうか。

さて、寝床が確保できたし、何か買いに行こう。さっき昼飯を食べたばかりだし、おなかはぜんぜん空いてない。とりあえず、つまみとビールでいっか。

近所のスタンドに買出し。店に入ると、店員の汚いオバちゃんを地元の汚いオヤジが一所懸命くどいている。二人っきりで恋の駆け引きを楽しんでいるところに邪魔に入ったような感じ。オヤジはうっとうしそうにこっちを見る。なんだよ、こんな時間にこのクソアジア人が。顔に書いてある。

「えーと、ビール欲しいんだけど」

「ビールは置いてないよ。向かいの酒屋に行きな。でも、十時で閉まっちゃうけどね」

げげげ。バイクの時計は八時だったのですっかり勘違いしてたけれど、もう、十時なんだ。田舎では酒屋が閉まっちゃう夜遅い時間なんだ!

こんなに走ったのに、ビールなしとはあまりにトホホすぎる。非常用にビールは数本確保しておくべきかも知れないなあ。あああ。

おなかもぜんぜん空いてないし、結局柿の種とビーフジャーキーなどを適当につまむだけの寂しい夜。旅先での禁酒は本当に辛い。

うなだれてモーテルに戻り、疲れきった体をベッドに放り出す。

チーフがてきとうにチャンネルをひねって遊んでいると、ディスカバリーチャンネルでハーレーカスタムの番組 American Chopper がやっている。ひさしぶりに見る。面白い。二人であれこれいいながら見る。ふたりともただのハーレー好きの中年。

そういえばヨネに電話しないといけなかったことを思い出す。地図を引っ張り出し、電話する。

ヨネ一行はデンバーのちょっと手前のシルバーなんとかって町にいるらしい。まあ、そのくらいまで来てれば十分だね。それなら、明日、合流できる。

自分としては、できれば明日はバッドランズ、カスター、ウィンドケイブのどこかでキャンプってのが、次の日のスタージスにも近くていいと思っている。が、ヨネがどんなペースで走っているか分からないので、まず、どのへんまで北上できるか訊いてみる。

すると、仮に I-25 を頑張って北上してもワイオミング州の Douglas くらいまでかな、と言う。ネブラスカまではちょっと厳しそうだし、やっぱり、合流は明後日にスタージスくらいかな、と。

うーん、スタージスで再会ってのはちょっと劇的っぽい感じでやってみたい気もするのだけれど、いろいろ考えるとけっこう面倒くさい。お互いのバイクをどこに止められるかさっぱり分からないし、人も多すぎるし。やっぱり、できれば明日がいい。 

こうなるとサウスダコタまで来いって言うのはいかにも無理そうだ。そうするとどの辺りに誘い出すのがいいかなあ。チーフと地図を見ながら作戦を練る。

「ネブラスカの Chadron 辺りなら、お互いに 400マイル (640km) くらいだし、そっちはインターステートで登ってくればそれほど無理ってこともないんじゃないんじゃないかな。」

ヨネに訊いてみると、「頑張ればいけるかも知れないけれど、たぶん厳しい」と言う。やはり嫁さんが後ろに乗っていると、「休憩も多くなるし、一回の休憩が長くなるし、走るペースも遅くなる」らしい。ふむ。まあ、それは間違いなくそうだろうな。

どうしよう。っていうか、今、頑張ればできるかもって言ったな。じゃ、頑張ってみちゃおうよ。うん。頑張れ、頑張れ!明日の早い時間にモーテルを Chadron に予約しちゃって、無理やりでもそこまで走るってことにしちゃえば達成可能だ。うん、そうしよう、そうしよう!

明日、とうとう合流するのかと思うとテンションが上がってくる。最初は厳しいと言っていたヨネも、「うん、頑張れば、いけるね。うん、いける、いける」と徐々に乗ってきた。うんうん、そう来なくっちゃ。

そうとなれば、あとはモーテルの確保だけだ。

「こっちはこっちでモーテルクーポンを探すけれど、そっちはサービスエリアでモーテルクーポンを見つけられる確率が高いんで、それを見つけて Chadron にモーテルを二部屋、予約して連絡ちょうだい。もしこっちが先に見つけられたら、部屋を確保してから連絡するね。」

さーて、明日はとうとう合流だ。

明日からの旅のペースがいったいどうなるのか、少々の不安はあるけれど、ヨネの嫁さんに会えるのが嬉しい。もしかしたら、「さっき、体調を崩して、飛行機で LA に帰っちゃった」ってヨネに言われる可能性もあるから、実際に会って抱擁するまでは安心できないけれど。

過去に三回もチャンスを逃してるから、明日こそは絶対に会いたいなあ。四度目の正直、なるかなあ。

  • 総合走行距離: 2326.92 マイル (3744.81 km)
  • 今日の走行距離: 430.78 マイル (693.27 km)
  • 最高速度: 90.6 マイル/時 (145.8 km/h)
  • 移動時間: 8時間8分
  • 移動平均速度: 52.9 マイル/時 (85.1 km/h)
  • 最低最高高度: 2241〜12190 フィート (683〜3716 m)
  • $3.369 x 2.505G = $ 8.44 — 09:09:19 7-ELEVEN — 78878 US-40, Winter Park, CO
  • $3.149 x 3.934G = $12.39 — 16:00:59 SAFEWAY — 8404 N. Federal, Ft. Morgan, CO 80701
  • $3.199 x 4.390G = $14.04 — 19:40:16 KABREDLO'S #257 — 310 Grant, Atwood, KS 67730


(Sturgis 2006 その7 へ続く)