2006年9月13日水曜日

Sturgis 2006 (その12)

(Sturgis 2006 その11 からの続き)

旅の十ニ日目、八月十六日。水曜日。

七時半、起床。モーテルでの朝は楽でいい。テントもシュラフも片付けなくていい。モーテル氏に感謝。

八時、なくなる前に朝飯だ。ロビーに行く。が、そこには朝食はなかった。

どう見てもコンチネンタル・ブレックファストがあると見せかけていた、ロビーの前のその広いスペースには、コーヒーだけがひっそりと置いてあった。通常なら、ここに豪勢な朝飯が所狭しと並んでいるべき棚に、コーヒーがひとつだけとはどういうことか。

勝手にあると思い込んでいただけなのに、約束が違うぞ、ふざけんじゃないぞと、店員に文句をいいに行く。

すると、 隣の Best Western で使える 1ドルクーポンがあるから、それで朝飯を食っていけと言われる。なんだそれ。プライドとかないのかよ。ないらしい。

たかが 1ドルクーポンに騙されてみるか。仕方ないので、しぶしぶ行くことにする。面倒くさいなあ。

Best Western に入ってみると、ただのコンチネンタル・ブレックファストだと思っていたら、何故かふつうのレストランだった。なんか、違うくね?明らかに、期待していたものとはぜんぜん違う展開になっているのだが、ここまで来て手ぶらで帰るというのも悔しい。面倒くさいので食っていくことにする。

何でも良かったが、久しぶりのダイナー朝飯なのでオムレツを注文。すると、大食い大会かというほどの量のオムレツが出てくる。悔しいので頑張ったが、半分しか食べられなかった。

べつに朝飯なんて何でも良かったのに、なんでこんなことになってしまったのか。無駄にお金と時間を使っただけの朝食になってしまった。

九時半、出発。すかさず町のはずれでガスの補給。まったく、ここでジャンク朝飯にしておいたら、一時間は時間を節約できた。

Great Falls の町を抜け、US-89 と I-15 の共同運航便に十分ほど乗り、US-89 を北西に向かう。

休憩もほとんど取らずに突っ走る。

十二時、Browning に到着。ガスの補給。ここまで一気に走ってきて疲れたので、ちょっと休憩。

十二時半、出発。US-89 をさらに北上。向こうの方に雄大な山々がそびえ立っているのが見える。グレーシャーはもうすぐだ。

一時、グレーシャーの手前の町、Saint Mary に到着。さっきまで遠くに見えていた山々は、すぐそこ、目の前にそびえ立っている。ワクワクしてくる。あたりはこれからグレーシャーに向かおうとする客で賑わっている。

はやる心を抑えて、まずは昼飯。

レストランは窓が大きく、天井も高くて、気分がいい。窓の外にはグレーシャーの雄大な景色がすぐそこにみえている。

L.A. で生活しているヨネとひーちゃんは、まわりに白人以外がいないことに違和感があるらしい。「まるで欧州に来ているみたいだ」などと言ってドキドキしている。まわりが不法滞在のラティーノだらけじゃないと気分が落ち着かないらしい。

昼飯の時間とはいえ、朝のボリュームが十分すぎたのであまりおなかはすいてない。一人分を頼んでも、どうせ残すことになるだろうし、チーフとサンドイッチを半分ずつにすることにした。

ウェイターがチーフに注文を聞いたところで、ぼくのサンドイッチを半分ずつにするからいいよと告げると、そのウェイターは気を利かせて、サンドイッチとそれについてきたサラダを、綺麗に二つの皿に分けて持ってきてくれた。頼んだわけでもないのに、ちゃんとそんなことをしてくれるなんて、偉い。チップを弾んであげなくては。

それにしても、こういうちゃんとした人がカリフォルニアやニューヨークにたくさんいれば、日本人のアメリカ人に対する印象はまったく違うものになるのだけれどなあ。都会には移民が多く、よくも悪くも "class" がないのは仕方ないか。

気分よく昼飯を終えてレストランを出た時、熊みたいな風貌のイカついバイカーが走ってきて訊いた。「ライトが消えてないハーレーがあるんだけど、心当たりないか?」「ないけど」「そうか、それならいい」

バイク乗りっぽい格好をした人に手当たり次第に聞いている。男はレストランの中に走っていった。見た目と違っていい人だ。

そろそろと駐車場に戻ってみたら、ヘッドライトがつきっぱなしになっているバイクを発見。ああ、あれのことか。

げげげ。おれのじゃん。ってことは、一時間はつけっぱなしになっていたってことか。うーわ、まずい。

おそるおそるエンジンをかけてみる。ドドドドッ〜。おー、一発でかかった。ほっ。冷や汗すぎる。

心配そうに回りで固唾を呑んで見守っていたハーレー乗りたちも、みんな、良かった良かったと、こっちを見てうなづいている。

さっきの親切ヒゲも じゃオヤジも戻ってきて、「なんだよ、おまえのだったんじゃないかよ。消してやろうかとも思ったんだけれど、勝手に触っていいもんか、よく分からなくって よー」と言って手を振った。「いやー、申し訳ない! 何、言ってんだ、このおっさん、くらいに思っててさー。心配してくれてありがとね!!」

あー、びっくりした。

さて、おなかもいっぱいになったし、エンジンもかかったし、さっさと出発しよう。すぐそこにエントランスが見えている。

二時過ぎ、出発。

ほどなくグレーシャー国立公園の入り口の看板に到着。毎回やっているように、看板の前にバイクを止め、エンジンを切り、写真を撮る。

Gracier National Park in Montana

みんなも写真を撮り終えて、さて、行こうと思ったその瞬間、事件が発生した。

カチッカチッ。あれ?

「うわ、バッテリーだ!!!」ヨネが確信を持って叫ぶ。おいおい。え゛、まじで…

カチッカチッ。何度やってもうんともすんとも言わない。

げーーー。セルが回らなくなってしまった。エンジンがかからないではないか。まじかよーーー。

カチッカチッ。リレーに電流が流れても、スターターモーターに流す力がバッテリーにはなくなっている。

さっきは幸運にも一発でエンジンがかかったが、どうやらセルを回すのに必要な電流をそこで使い果たしてしまっていたらしい。電圧はそれほど下がってないのだが、電流が微妙に足りない。一度回ってしまえば問題ないが、セルをまわすには瞬間的にかなりの電流が必要になる。

うーむ。その可能性に気づいてさえいれば、エンジンを切らずに放置しておくこともできたのだが、一発でかかってしまったので安心して何も考えなかった…

まいったなあ。

が、なってしまったものは仕方ない。うなっていても事態は改善しない。やれることはひとつ。押しがけだ。

400kg を越えるこの重いツアラーを二人の男が押し、一人の男がクラッチをつなぐ。それしかない。そうとなれば、さっそく押しがけだ。

おれが自分のバイクにまたがり、ヨネとチーフが押す。ぱっとクラッチをつなぐ。かからない。スピードが足らない。ほとんど平らの、かなり長い下り坂なので、ほとんど重力が使えない。

チーフとヨネが再度押す。が、かからない。

坂を使って、もうすこし加速してからつないだ方がいいとチーフが言うが、坂がなだらかすぎてほとんど加速していかない。公園の入り口のぎりぎりまで惰性で加速させたらいいというが、そこでかからなかったら、今度は上り坂になってしまって永久にかけるチャンスがなくなる。この重たいバイクを上り坂で押しがけするのは不可能だ。危険な賭けにも思える。そこに行くまでに、 絶対にかけなくてはいけない気がする。

チーフとヨネが再度押す。かかりそうな気配がない。二人ともすでに結構疲れている。

やはり、ここはおれが押し切るしかない。ヨネと交代して、押すことにする。

ハーレーの押しがけは、クラッチをつないでからも押し続けるのがコツといえばコツだ。かなり大変なのだが、かかるとしたら、それくらいしかない。

やはり、人に押させるのではなく自分で押すしかない。そもそもこうなったのは自分の責任なのだし、自分で押すしかない。かからなくて困るのはおれだ。

十年以上も前のことだが、親友のハーレーを押しがけしてかけたことがある。その時も、何度やってもかからなかったのだが、結局、クラッチをつないだ後もずっと押し続け、何度もクランクを回し続けて、やっとかかった。

ハーレーのエンジンは、並大抵の勢いでは回転してくれない。1450cc もあるのにニ気筒なのだから当然といえば当然。

押しがけの場合、一回目の圧縮工程を十分な速度で行うことで反対側の吸気がうまく行ったとしても、そのシリンダーの圧縮工程までは、慣性だけでは賄えない。ここで押し続けることで二度目、三度目の圧縮工程を実現するしかないのだ。

ちなみに、おれのツアラーはキャブではなく EFI なので、クラッチのつなぎ方やアクセルの開け方もあんまり関係ない。ただ、イグニッションが入った状態でエンジンを二回か三回くらい回せば必ずかかるはずだ。

気合を入れて押すことにする。チーフと一緒に、ただ押しながら走る。だんだんスピードが出てきた。

さっきから走り続けている不惑を越えたチーフは、早々に「もう限界!!」と手を離すが、おれは執拗に押し続ける。かかる瞬間まで押すしかないのだから、手を離すわけにはいかない。押し続ける。

そして、ヨネがクラッチをつないでパスッと言って、一発目の工程が不発に終わったその後も、とにかく押して、押して、押して、押して、ドドッドドッドドドドドドドッ 〜!! やった、かかった!!!

安心して力尽きたのか、足が回らなくなり、道路にごろごろと転がる。息が上がり、肩で息をする。あああ、よかった。きっとかかるとは信じていたけれど、実際にかかるまでは不安だった。よかった。本当によかった!!!

自分のかけ方が絶妙すぎたと自慢するヨネは、かかる瞬間もおれが押し続けていたことは知らないのだろう。クランクを三回もまわしたのはおれなのだが、そもそもおれが起こした問題なのでここでクレジットを要求しても仕方ない。ヨネがちゃんと正しいタイミングでクラッチをつなぎ、適切なタイミングでアクセルを回さなかったら、かかるものもかからなかったのは確かだ。

しかし、こんなに押せるとは思わなかった。自分の体力の限界以上に押し続けられたのは、いわゆる火事場のバカ力なんだろう。人のバイクだったら、絶対にこんな力は出せなかったに違いない。

自分の初歩的ミスで、これ以上、時間を無駄にし続けるわけにはいかないという怒りと焦りも手伝った。それにしても、かかって本当によかった。

無事にエントランスを抜け、園内に入る。

ビスタポイントでも、ひとりだけエンジンを切らない。ファットヘッドはアイドリングでも充電するので、とにかくエンジンはかけっぱなし。うるさいから切れ、空気が汚れるから切れ。他の観光客の視線がいたい。

結局、一時間くらいはエンジンは掛けっぱなしにすることにした。

Gracier National Park in Montana
昼飯のときは雲が多いと思っていたが、おれの生け贄が効いたのか、雲はだいぶ少なくなった。青い空の下で雄大な風景が映える。

ここにはいいトレイルがたくさんあると同僚から聞いていたが、ツーリングの旅なので、試す機会はない。バイクで行ける範囲で楽しむ。

三時半、あと二キロほどで Logan Pass ビジターセンターというところで、片側交互通行のため STOP させられる。すぐそこに見えているのだから、そこで休ませてくれればいいのに。お預けを食らっている犬状態だ。

そしてタイミングの悪いことに、そこで待たされている間に雨がポツリポツリと降り始める。バイクだけこっそり行かせてくれればいいのになあ。

することもなく待っていると、あっという間に雨が強くなっていく。大粒の雨がしっかりと降り始めたので、カッパを着るはめになった。目の前に軒があるのに、カッパを着ないといけないとはなあ。

十分後、先導車が到着し、やっと前に進める。さっきから見えていたビジターセンターに向かう。あーあ、なんだかなあ。

四時、ビジターセンター到着。

カッパを着たまま、ぶらぶらとビジターセンターの中をうろつく。トイレも行きたい。

すると、なにか慌しい雰囲気が漂っていることに気づいた。時間的には、まだ閉まるような時間じゃないと思うのだが、みんな、どんどん外に出ているように見える。いくらなんでも、五時くらいまではやってるよね?

とりあえず、国立公園に来たら必ずマグネットを買わないといけないという、我が家の古いしきたりに従い、マグネットを吟味し、ひとつ選ぶ。

まだレジは動いているようだ、買えるだろう。レジにマグネットを持って行くと、 「雷雨で避難勧告が出たから、レジも閉めてさっさと退散だよ」

えー、まじで。「それはいいとしても、レジを閉めるまえに、これだけは買わせて!」最後の客ということで、滑り込みセーフ。助かった。2ドルのマグネットに 5ドル出したら 18ドルのお釣りが戻ってきた。嬉しいけれど、増えすぎなので 15ドル返す。

ビジターセンターの軒で雨が止むのを待ち、四時半、出発。

一気に山を下っていく。ビジターセンターの手前側は大雨だったけれど、山の反対側には雨は一滴も降ってないらしい。カッパを着ているバイク乗りはいない。

Avalanche Creek in Gracier National Park in Montana
六時、山を下りきったところで、作戦会議と休憩を兼ねて Apgar ビジターセンターに寄る。ついでに女房のお土産も物色する。これでお土産はもれなく全員に買った。

さて、ここからが問題だ。

明日からのルートは二つにひとつ。Mt. Rainier 国立公園によって I-5 で帰るパターンと、ワシントン州は捨てる代わりインターステートは一切使わずに帰るパターンと、ふたつにひとつ。どちらを選択しても、家まで 1300マイル (2080km) くらいになる。

おれはどっちになってもいいと思っていたが、チーフがインターステートを使わないルートの方がいいと言うので、それに賛同。Mt. Rainier 国立公園にいけないのは残念だが、その代わりに Crater Lake 国立公園にはよれる。

Kalispell から US-93 で南下していくルートに決定。

今日の最低ラインは Kalispell だが、このルートで行くと、明日と明後日で最低でも 800マイル (1280km) 走らないといけない。しかも、Crater Lake も一周しないといけない。かなり厳しい。

なので、おれとしては、グレーシャーでの時間配分が読めなかったので、最低ラインを Kalispell とはしたものの、できれば Missoula まで行きたい。Kalispell から 120マイル (192km) もあるので、この時間からだと無理だろうが、暗くなるまで走って、途中の町でモーテルを探せばいいだろう。

しかし、すでにだいぶ疲れているのだろう、ヨネはその案には賛同せず「まずは Kalispell まで行って、そこで考えよう」と言った。ここで考えていても仕方ないし、とりあえず、そうしよう。Mt. Rainier 経由でも Kalispell までは一緒だ。

六時半、雄大なグレーシャー国立公園に別れを告げ、出発。US-2 に乗り、Kalispell に向かう。

七時すぎ、Kalispell に到着。ガスの補給。

とりあえず、ひーちゃんの代理人でもあるヨネに様子をうかがう。まだ行けるかな?「今日は、もう、ここでいいっしょ」

やっぱ、そうなるか。まあ、時間も時間だし仕方ないか。疲れてるのに無理やり走ってもいいことはないし。さて、さっさとモーテルを探すとしよう。

それなりに大きな街だったので、この時は四人とも簡単にモーテルが見つかると思っていた。

しかし、行けども行けども、モーテルというモーテルは全て満室。モーテルの数は十分あるのに、その全てが満室とはどういうことだろうか。グレーシャーの客なのだろうか。

同じようにモーテルを探すバイク乗りたちも、町を右往左往している。「どう?」「ないねー」

ヨネと手分けして、目に付くモーテルに一通りあたってみるが、結局、全滅。

唯一あったといえばあったのが、Outlaw Inn というふざけた名前のホテルにスイートだった。だが、値段もかなり高いし、それに一部屋じゃあねえ。

仕方ないので先に進むとしようか。と思ったら、部屋を見せてもらったひーちゃんが言う「部屋は十分広いし、ここで雑魚寝でいいんじゃない?」むむむ。

こういう場合、おれもチーフも、空きのモーテルが見つかるまでふつうに先の町に進む。おれとしては、そもそも今日は走り足りないというのもあったので、その方が好都合だとすら思っていた。

が、四人でスイートに泊まろうと、他ならぬひーちゃんが言う。ひーちゃんが一番偉いのはハッキリしている。それが本意かどうかはともかく、ひーちゃんがそれでいいというのなら、そうしてあげるべきだ。

おれは、もうちょっと行こうかという勢いになっていたけれど、チーフと相談して、その提案に乗ることにした。

今日は Kalispell までが最低ラインと言って走ってきたのだし、たぶんヨネもひーちゃんも、Kalispell に着いた時点で今日はおしまいだとほっとして気持ちが切れているに違いない。一度おしまいだと思ってからさらに走るのは、さすがにかなりしんどいし、危ない。明日からのツケがキツいけれど、それは仕方ないってことで理解してもらうことにしよう。

そうと決まれば、さっさと荷物を降ろしてチェックイン。八時。

おれもチーフもさっさと必要な荷物を持って上がって、一気にくつろぎモード。二人分の荷物を運ぶヨネは、まだまだ仕事があって大変だ。手伝ってあげればいいのにチーフは手伝おうともしない。おれがひとりで手伝ったらチーフが悪者になっちゃうから、手伝いたくても手伝えない。テレビをつけて、ヨネの存在を無視してくつろぐ。

二人分のキャンプ用マットを持ってくるよりも小さくて済むという合理的な理由で、電動エアベッドを持ってきていたヨネとひーちゃんはさっさとベッドを作りはじめる。非常識にもほどがある。考え方がアメリカ人すぎる。そんなものをキャンプに持っていくやつがいるか。実はアメリカ人にはたくさんいる。

人段落ついたら、さて、飯だ。晩飯だ。どうせろくなもんは食えないけれど、何にしようか。

ホテルの近くになんでもありそうだし、とりあえずまわりを歩いてみよう。

あそこはどうだ、こっちはどうだと散々歩いてみる。が、ない。なんでもいいのに、なにもない。あったのはバーとドライブスルー専門のハンバーガー屋だけ。

なんだ、それ。こんなことなら、バイクで飯屋を探しに行っても良かったなあ。

うーん、仕方ない。面倒だし、そこのドライブスルー専門のハンバーガー屋でお茶を濁すことにしよう。

バイクはホテルの駐車場だし、車もないので、四人でのこのこ歩きながらドライブスルーに入っていく。一応、車に乗っているみたいな感じになるように四人が並ぶ。おれが運転。バカすぎる。

どうせ並んでいる車は一台もないし、マイクに向かって四人で注文するのも何かバカらしいので、受け取り窓口まで歩いて入る。ここで注文していいかと訊いたらいいというので、その場で注文する。ドライブスルーなのにドライブしてないし、レジで注文。

出てきた注文の品を、それぞれ手に取る。手に取ったアイスティを飲んでみると、なんと甘いのが出てきて吹きだす。未だに甘いアイスティなんてあるのか。やはり、田舎は違う。

以前は、甘くないことを確認してから買うようにしていたアイスティだけれど、最近は甘くないのが当たり前になっていたので、ちょっとショック。二十一世紀になっても、田舎は時間の流れが遅いのだなあ。アイスティを頼んで甘いのが出てくるところを田舎と定義しよう。

しかし、口に入れてしまった分は飲むことにしても、それ以上は飲めない。仕方ないので、レモネードに交換してもらうことにする。甘いアイスティなんて飲めないけれど、レモネードなら甘いのが当たり前だから飲める。

それにしても、自分で注文したくせに、自分の期待と違ったからと言って平気で違うものと交換させるという態度はどうだろうか。いくら当然のごとく換えてくれるからといっても、アメリカナイズしすぎにもほどがある。まあ、日本でも、言ったらたぶん換えてはくれると思うけれど、びっくりされるだろうなあ。

しかし、結局、レモネードはほとんど飲まずに捨ててしまうことになる。もったいないことこの上なし。アメリカ人化も極まれり。いらないなら、いらないと言えばよかったと激しく後悔する。おれは、いったい何をやっているのだろう。よく考えたら、これからビールを買って帰るのだった。

スタンドに寄って、ビールを物色。

すると、五歳くらいの子供が恥ずかしそうにずっとこっちを見ている。アジア人が珍しいのだろう。何か言いたそうにしてるのでニコリと目を合わせると、ささっと近くに寄ってきて言った。「Are you a motorcycle guy?」目がきらきらしている。「Yup. I am a motorcycle guy!」 とわざと低い声で答えてあげたら、満面の笑みでお父さんのほうに走っていって「お父さん、お父さん、やっぱり、ぼくの思ったとおりだったよ! バイク乗りだって! かっこいいなあ!!!」と大興奮。子供は無邪気でかわいいなあ。

ああ、早く息子に会いたいなあ。

部屋に戻り、まずいハンバーガーを食べ、ビールを飲み、リラックス。極楽極楽。

ヨネとひーちゃんはエアベッド。

おれはほとんどフルフラットになる超アメリカ的リクライニングチェア。味もへったくれもないのだけれど、すわり心地は最高だし、いつか欲しい。

広すぎるキングサイズのベッドはチーフが一人で寝る。ベッドの半分以上がほぼそのまま使われなかったという贅沢な寝かた。

おれがそこで寝ても良かったのだけれど、相手の寝返りとかで目が覚めることもあるだろうし、ご老体で風邪ひきのチーフには一人で寝かせてあげようと思った。目が覚めたときに間違って抱き合っていても困るし。

しかし、いい大人が、広いスイートルームでこんな風に寝るとはなあ。楽しすぎるなあ。二十歳くらいに若返ったような気分になった。

  • 総合走行距離: 4280.22 マイル (6888.34 km)
  • 今日の走行距離: 248.22 マイル (399.47 km)
  • 最高速度: 91.2 マイル/時 (146.8 km/h)
  • 移動時間: 5時間19分
  • 移動平均速度: 46.7 マイル/時 (75.2 km/h)
  • 最低最高高度: 2913〜6670 フィート (888〜2033 m)
  • $3.179 x 2.588G = $ 8.23 — 9:45:48 LOAF N JUG — 225 Central Ave., Great Falls, MT
  • $3.299 x 3.424G = $11.30 — 13:58:05 TOWN PUMP EXXON — Hwy 89, Browning, MT 59417
  • $3.299 x 2.878G = $ 9.49 — 17:15:22 EVERGREEN GAS & DELI — 2100 US-2 East, Kalispell, MT


(Sturgis 2006 その13 へ続く)

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