2006年9月9日土曜日

Sturgis 2006 (その8)

(Sturgis 2006 その7 からの続き)

旅の八日目、八月十ニ日。土曜日。

八時すぎ起床。外を確認すると、空は真っ白。全力で雲りだ。ただ雲の間には晴れ間も見え、雨が降りそうな気配はまったくない。雨が降らない曇りの日は、バイクで走るのには適している。

昨晩の約束どおり、今日は九時出発。

これまでは何も決めずに、ただ、おれが先に起きたらその気配でチーフが勝手に起き、チーフが先に起きたらその気配でおれの目が覚めるという、阿吽の呼吸だけでやってきた。二人だけなので何の問題もない。

だが、今日からは四人での旅になる。二人だけでの阿吽の呼吸は通用しない。だいたい、モーテルの場合だと、同じ部屋で寝ているわけじゃないから、こっちが起きたかどうかは気配では分からない。

ひーちゃんの代理人でもあるヨネの意見をできるだけ尊重して、もしくは尊重している振りをしながら、自分の意見をなるべく無理なく、もしくは無理やりにでも通していくことが肝要となってくる。

チーフが日本から持ってきたカロリーメートを食べながらロビーでコーヒーを飲み、軽い朝食とする。

外を見ると、ヨネとひーちゃんが準備を始めた。二人の準備は、こっちの準備の何倍も時間がかかるので、ヨネが準備を始めてから準備をすればいいだろうとチーフと話していた。

外に出て、さっさと準備を済ますチーフとおれ。ヨネは先に準備を始めたのに、まだ終わらない。

実は、ヨネとチーフが借りたエレクトラグライド・クラシックにはツアーパックとサドルバッグがついているのだけれど、それらの上にラックがついていなかった。たしかにおれのにもついていないし、ラックは標準ではついていないのだけれど、レンタル用のバイクには当然つけてあると、勝手に思い込んでいた。というのも、HOG の Fry & Ride で借りられるバイクには、リアにもサイドにも、ラックがついているからだ。

このラックがないことで、二人分の荷物の積載はものすごく面倒になる。二人分の荷物は三つの箱の中には納まらないので、ツアーパックの上にくくりつける必要があるのだが、そこにラックがないものだから、簡単に固定する方法がないのだ。

二人分の荷物をヨネはどうやって積むのかと思っていたが、ヨネは、ツアーパックに傷をつけないようにテープで保護してその上にドライバッグを載せ、かなり長いバンジーコードで無理やり固定していた。なるほど、それしかないのだろう。もちろん、この方法ではツアーパックの開閉ができないので不便は不便だが、他に有効な方法はない。やはり、バイクは HOG で借りないといけない。

さて、今日のポイントは、バッドランズとスタージスだ。スタージスに行ってからバッドランズに行くか、バッドランズに行ってからスタージスに行くか、二つに一つ。

明日はこのブラックヒルズを離れる予定だし、できればスタージスでのんびりしたいということで、バッドランズからスタージスに行くルートで考えることにする。地図を広げ、チーフと二人でコースを練る。選択肢はあまりないが、できればあまり遠回りはしたくない。最短のルートはダートがあるので、それを避けつつ最短でいけるルートを選択する。

荷物を積み終えたヨネが、どんなルートを考えてるのかと心配そうに寄ってきて、地図を覗き込む。二人に任せておいたら、とんでもない道を選ぶかも知れないし、ひーちゃんへの責任もある。人任せにはできない。おれとチーフが選んだ道は、今までヨネが走ってきた道と比べると、そんなところ大丈夫なのかと思えるような道だったに違いない。行って見ないとどんな道だかさっぱり分からないような細いカウンティ道。州道ですらない。しかもインディアン保護地区。そんなところに、ちゃんとスタンドがあるのかも定かじゃない。

「こっちの方が安心じゃない?」と提案するヨネに対して、「いや、こっちの方が絶対にいいよ」と知りもしないくせにしたり顔で断言する。

九時十分、バッドランズに向かって出発。US-20 を西に十分ほど走り、US-385 との分岐点から北上する。

九時半、サウスダコタ州に到着。ヘルメットを脱ぎ捨て、ベースボールキャップに変更。頭の上にあった重しがなくなり、最高に快適。

US-385: South Dakota に突入

九時五十分、Oelrichs から、US-18 に乗り換えて東進。十時半、Denby の手前で 27 を北進。なだらかな丘を走る道。気持ちいい。

十一時、Sharps Corner でガスの補給。2 に乗り換えて東進。

とくに決めたわけでもなく、とりあえず今朝はここまでおれが先頭を走り、ヨネが続き、チーフがしんがりを務めていた。だが、やはり真ん中は気を使うだろうといって、ここでチーフとヨネがポジション交代。後ろを気にせずゆっくり走ればいいというチーフの配慮だ。

さて、後ろがチーフなら、どんだけ飛ばしてもついてくる。今までヨネの負担にならないように 60MPH (96km/h) くらいで余裕をもって走ってきた山道だが、ここからは 75MPH (120km/h) くらいで飛ばすことにする。コーナーを二つ越えると、あっという間にヨネの姿が見えなくなるが、まあ、いいだろう。二人乗りでついてくるのは難しいに決まっている。それに、こっちが少し速度を落として走っていれば、すぐに追いつく。

結局、この順番が一番気が楽なので、この後の道程はすべてこの順番で走ることにする。

十一時五十分、44 に合流。 44 を北上。向こうにうっすらとバッドランズの異様な景色が見えている。

十二時過ぎ、Badlands 国立公園に到着。ああ、来た。なんと表現すればいいのか分からない、異様な景色。昔の人が Badlands と呼ぶのも分かる。

240 をのんびりと北上し、異様な景色を堪能する。一通り堪能したら、そのまま Wall に向かう。おなかも空いてきた。

Badlands National Park in South Dakota

一時四十五分、Wall に到着。メインストリートはハーレーで埋め尽くされている。「ハーレーだらけだねー」ひーちゃんが言う。「いや、多いけど『だらけ』じゃないよ。Sturgis についたら『だらけ』になるよ」

この Wall は、I-90 を東から来ると、400マイル (640km) くらい先から「Wall Drug にタダの氷水がある」というような看板が何度も目に付いて、一体どんな町だろうと思わせる、いわゆるツーリストトラップで有名な町。実際には何の変哲もない町で、わざわざ行く価値はとくにない。

Wall ではちょっと遅めの昼飯。コーンビーフバーガー。ちょっと足りないってことで、みんなはサラダを食べる。おれはスタージスで何か食べるつもりだったので食べない。

二時半、出発。I-90 を Sturgis に向けて西進。

途中、とつぜんヨネの姿が遠くなる。どうしたのかと思えば、ガスがやばいらしい。高速走行では燃費も悪くなる。ヨネのはキャブで、おれとチーフのはインジェクションというのもある。この先、ガスの消費量が微妙に違うということにも気を使う必要がでてきた。

三時半、Rapid City に到着。ガスを補給。当初は Rapid City で来年モデルでも試乗していくかという案があったのだけれど、結構時間も遅くなってしまったので、Sturgis に向かうことにする。今回の旅にひとつだけ目的があるとしたら、それは、いつものおばちゃんにパッチを縫ってもらうことだ。あまり遅くなってそのチャンスを逃すわけにはいかない。先へ急ぐ。

四時過ぎ、Sturgis の Exit を降りる。とうとう来た。嬉しくて仕方ない。「来たねえ!!」「来ちゃったねえ!!!」

すでにあたり一体はハーレーだらけ。四年ぶりのスタージス。興奮する。ハーレーだらけの状況に圧倒されて、町の構成を思い出せない。「そういえば、メインストリートはどっちだったっけ…」とりあえず、前を走っているハーレーに黙ってついていく。どこからメインストリートに入ればいいのかよく分からないまま、とりあえず SD-79 を東進していく。あ、右手にメインストリートが見えた。ふむふむ、だんだん思い出してきたぞ。

こんな時間からメインストリートに行っても、どうせバイク三台を止めるスペースは見つけられるわけがない。のんびりとメインストリートを走るのもやりたいが、やっぱり後にしよう。SD-79/34 を東進しながら止められそうなわき道を探す。交差点のたびに左右を確認するが、すべての道がバイクで埋め尽くされ、どこまで行っても駐車スペースはまったくない。いったい、何しにこんなにたくさん来てるんだ、こいつらは。結局、町をほとんど抜けたところで、やっと止められそうな道を見つけた。かなり町の外れだけれど、仕方ない。

ふう。バイクをわきに止め、町の中心部に向けてやおら歩き始める。かなり暑いけれど、革ジャンを置いていくわけにはいかないので着ていく。だが、着ているとあまりに暑いので、途中から脱いで、手に持ち換える。重たい。

道沿いの家の玄関先では、椅子に座って SD-79/34 を走るハーレーを眺める人たちがたくさんいる。朝から晩まで、ビールでも飲みながら、行きかうハーレーをこうしてただぼーっと眺めているのだ。バカすぎる。何が楽しいのかさっぱり分からない。自分も、メインストリートに行きかうハーレーを何時間でも、ただぼーっと眺めて楽しんでいられるのは確かだけれど。

とりあえずメインストリートに出る。うーん、来たねえ。まさに一生分のハーレーがひしめくメインストリート。こいつら全員バカだ。テンションは最高潮。

Main Street at Sturgis Bike Rally in South Dakota

さっそくヘッドクオーターに向かう。誰が主催してようが、どこがヘッドクオーターだろうと、そんなことはどうでもいいのだが、おれにはヘッドクオーターでしなければならないことが三つある。ピンを刺し、オフィシャルTシャツを買い、パッチをおばちゃんに縫ってもらうことだ。そのための旅というわけではないが、これらはおれにとっては点睛であって、決して欠くわけにはいかない。

ほどなくヘッドクオーターに到着。

まずは世界地図を見つける。お、Redwood City はあいてるぞ。ピンを刺す。チーフとヨネも、それぞれ自分の町にピンをさす。

次に、パッチを買い、おばちゃんを探す。ヨネの記憶が確かならば、おれは八年前、パッチを買わずにパッチを縫ってもらったらしい。その時は、縫い代とパッチ代は別だということを理解していなかったらしい。

お、いたっ!今年もいてくれた!本人と約束はしていないが、この旅で会う約束をした唯一の人と会えて、感無量。過去に縫ってもらったパッチの下に、今年のパッチを塗ってもらう。「覚えてないだろうけれど、その二つも、おばちゃんが縫ったんだよ」

三つ目のオフィシャルパッチを縫うリンダおばちゃん

ヨネが二つ目のパッチを縫ってもらっている間に、オフィシャルTシャツを買い、目標を達成。あとは竜の尻尾を書くだけだ。これまでどおり、旅をぞんぶんに楽しむぞ。

小腹が減ったので、アメリカンドッグを買う。「短いの、長いの?」店員に聞かれる「え?じゃ、長いの」長さ 40cm以上の長すぎるアメリカンドッグ。こんなどうしようもない食い物を、そんなに長くしてもまったく意味はないのになあ。

今日はこれ以上の予定はないので、気分も楽でいい。だらだら町を練り歩き、スタージスに来たことを実感し、達成感に浸る。

六時半、革ジャンも邪魔だし、今晩のことも考えないといけないし、いったんバイクの方に戻る。

さて、寝床の確保はどうしようか。モーテルに空きがあるはずもないし、たとえあったとしてもありえないくらい高いに決まっている。この一帯の宿という宿は、みな半年から一年以上も前に予約で埋め尽くされているのだ。キャンプでいいよね?

八年前、ヨネと Mt. Rushmore で別れた後、チーフとスタージスに戻ってきて、この町の外れでキャンプをした。ちゃんとしたキャンプ場ではなく、単に広場で勝手にキャンプしたという感じだった。そういえば三時くらいまでエンジンを吹かして騒いでいるバカもいた。できれば、もうちょっとましなところがいいな、今回は…

地図を見ると、ちょっと上に州立公園がある。お、ここはいいかも。州立公園のキャンプ場は、国立公園のそれと比べると、空いている確率がすごく高いうえに安い。うんうん、ここにしよう。

その前に、とりあえずメインストリートで何かを食ってからいこう。走っておく必要もあるし。

バイクにまたがり、メインストリートに戻る。パレードに参加して、駐車スペースを探す。夕方なのに、まだまだバイクだらけで停めるところが少ない。探しに探してやっと見つかった。

さて、晩飯は何にしようか。まあ、何でもいいね。目に入ったところで適当に何かを買って食べることにしよう。

七時半、目に入った出店で晩飯。1パウンド (453g) のデカすぎるハンバーガーを食う。あまりに大きすぎる。ヨネはそれでも足りないかのような勢いで食べ、人の分まで食べている。どんな大食いやねん。

八時、メインストリートに別れを告げ、いざ、州立公園に向かう。SD-79/34 を東進。

八時十五分、SD-79 と SD-34 の分岐点で、州立公園まで 4マイル (6.4km) と書いてあるサインを見る。サインをみたヨネは、今のところ左折じゃなかったかと言うのだが、直進と見違えたおれは「まっすぐって書いてあった」と自信を持って答えて直進。SD-79 に行くべきところを SD-34 に行ってしまう。

4マイルほど走ると、そこは州立公園どころか、まっ平らの大草原。見渡す限り、何もない。おかしいなあ。地図を見ても、SD-79 沿いにあるのか SD-34 沿いにあるのかはっきり分からないので、さらに東進してみる。

うーん、何もない。4マイルでいいはずなのに 8マイルも走ってる。何か違う。やっぱり、さっきのところ左折だったのかも…

SD-34 を戻ってみると、やはり、ヨネが正しかった。どうして見間違えたのかさっぱり分からないが、おれの目は悪くない。見間違えるような書き方が悪いに違いない。二十分も時間を無駄にしてしまった。もうあたりは真っ暗。八時三十五分。

ほどなく Bear Butte Lake 州立公園を見つけ、目当てのキャンプサイトを発見する。八時四十五分。

真っ暗ななか、少ない明かりを頼りにさっさとテントを設営。

そういえばビールがない。めんどうだけれど買出しに行かなくては。一人で行くのは寂しいのでひーちゃんと二人で行きたいのだが、そういうわけにもいかないので、チーフと二人で行くことにする。4マイルほど離れたスタンドにビールと明日の朝食を買出しに出かける。コーヒーがなかったので紅茶のティバッグを買って、マフィンを買って、ビールを買って、キャンプサイトに戻る。

ふう。必要なことを全て終え、ブーツをサンダルに履き替えてくつろぐ。ビールがウマイ。と思っていたら、とつぜん風が強くなる。モニュメントバレーの強風に比べればたいしたことはないが、それでもかなりの風。さっきまで無風だったのになあ。

風がさらに強くなり、夜もだいぶ更けたころ、係りの人が料金の回収に来た。こんな夜更けにまだ仕事しているとは。

小さな州立公園の多くは、料金の徴収は朝だったり、キャンプサイトの出入り口のところに置かれた箱に自己申告で払ったりするので、ちょっとびっくり。テント三つだと言うと、天気も悪いし負けてやるといって $2 × 3 で $6 だと言われた。本当はいくらかも知らないし、その人が本物のレンジャーなのかも知らないが、言われたとおりに払う。

風もさらに強くなり、さすがに寒くなってきた。さっさと寝ることにしよう。明日のことは何も考えてないけれど、明日は明日。目が覚めてから考えることにしよう。

十一時過ぎ、シュラフに滑り込み、あっという間に就寝。

  • 総合走行距離: 3012.01 マイル (4361.38 km)
  • 今日の走行距離: 301.97 マイル (615.94 km)
  • 最高速度: 92.5 マイル/時 (156.1 km/h)
  • 移動時間: 5時間14分
  • 移動平均速度: 57.5 マイル/時 (111.5 km/h)
  • 最低最高高度: 2319〜3775 フィート (653〜1256 m)
  • $3.159 x 4.092G = $12.93 — 11:00:10 GROCERY 141 — Sharps Corner, SD
  • $3.359 x 3.864G = $12.98 — 15:28:50 FRYING J TRAVEL PLAZA — 4200 North I-90, Rapid City, SD


(Sturgis 2006 その9 へ続く)

2006年9月8日金曜日

Sturgis 2006 (その7)

(Sturgis 2006 その6 からの続き)

旅の七日目、八月十一日。金曜日。

八時起床。カーテンを開け、外を確認。空は真っ白。

相変わらずウェザーチャンネルは Scattered Thunderstorm と言い張っているが、気にしない。降るなら勝手に降れ。いや、降るな。

モーテルのオフィスに朝食を取りに行ってみる。コーヒーしかない。ドーナツはないのかと訊いてみたら、そっけなくないという。売り切れではなく、最初からないらしい。ちぇっ。

荷物をまとめ、さっそく出発する。八時半。

US-36 を少し戻って US-283 との交差点に来てみると、むこう側にマクドナルドが見えた。おぉ、久しぶりに朝マックにしよう。毎朝、最低ランクのジャンクフードの朝食なので、朝マックというだけでものすごく贅沢に聞こえる。

店に入って、すぐに注文。ソーセージ・エッグ・マックマフィンとコーヒー。選択肢は一つなので迷う必要がなくていい。が、なんとチーフはマックグリドルズを頼む。日本にはないメニューらしい。あるわけない。

マフィンの代わりにメープルシロップのかかったパンケーキ。甘い香りが漂ってくる。ウマイ理由がない。嬉しそうに食べるチーフ。だが、どう見てもウマそうに見えない。

「日本人のくせに、よくそんなもん食えるね」

「ほんとうは食べてみたいくせに」

「ほんとうは後悔してるくせに」

「欲しいって言ってもあげないよ」

負けず嫌いでは、お互い誰にも負けない自信がある。

地図を見ながら、コースを検討。バイカーたるもの、来た道を戻るわけにはいかないので McCook に寄るのは諦めて、素直に US-283 を北上していこう。

北上して I-80 にぶつかったところで、少しだけインターステートを走ることにしよう。サービスエリアがすぐにあるから、そこでクーポン冊子を拾っていこう。ここまでまったく見つけられていないクーポン冊子だが、さすがにサービスエリアならあるはずだ。

モーテルはすでにヨネが確保したから要らないといえば要らないが、あって困るものでもないし、ワイオミングまでカバーされてれば今後も役に立つ。

九時十分、Norton を出発。数時間後にはヨネたちに会える。心が躍る。US-283 を北上。

九時二十分、not quite good life のネブラスカ州に到着。ヘルメットをする。

十時十五分、I-80 との合流点に到着。70マイル (112km) 位の距離を一時間くらいで走ってきたわけだから、なかなかいいペースだ。何もない道を走るのは楽だ。

Exit-237 から I-80 にのり、西に向かう。10マイルほど走ったところでサービスエリアに到着。

が、お目当てのクーポン冊子が見当たらない。うーむ。どうしてしまったんだろう。サービスエリアにモーテル情報がなくて、どうするんだよ。なぜ見当たらないのかさっぱり分からないが、ないものはない。仕方ないので、先に進む。

十時半、Exit-222 で I-80 を降り、Cozad でガスの補給。

と思いきや、このスタンドにはハイオクがない。うーむ。見た目、ふつーのスタンドなのに、何ゆえハイオクがないのだろうか。ここまで、どんなボロい店でもハイオクがあったし、ハイオクしか入れてこなかったのに。まあ、ないものは仕方ない。オクタン価 89 のガスを入れることにする。

ついでに水を買い、レジでお金を払っていたら、地元の兄ちゃんから声をかけられる。「よー。スタージスに行くのかい?」

アメリカ人は、相手が誰だろうといつも話がしたくてうずうずしている。どうでもいいことをベラベラと話していないと寂しくて死んでしまう。口から生まれてきたような連中ばっかりの国だ。

そうだと答えると、「やっぱり、そうか、そうだと思ったよ。スタージスなら 83 を上がっていくのがいいぞ。それから 2 もいいぞ。だいぶ前だけど工事をして綺麗になってたしな。20 もいいけどトラックが多いからオススメしないな。まあ、あれだよ、北上する道はどれも走ったことがあるけど、どれも最高だよ。ああそうだ、地図とか持ってないのかい?持ってたら詳しく教えてあげられるんだけどなあ」客を見つけたとばかりに、ものすごい勢いでまくし立てる。

どうやら道に詳しそうだし、話がしたくて仕方がないみたいだから、話を好きなだけさせてやろう。地図を広げて説明させる。

自由に話をさせていたら、必要ないことまで説明を始めたので、こっちの訊きたいことを重点的に質問攻撃する。こういう親切すぎる人は、いくつか質問して答えさせてあげると、すごく役に立った実感をもって、満足して開放してくれる。そうしないと、いつまで経っても話が終わらない。

「なるほどね。すごく参考になったよ。ありがとう。」

どうやら、考えていた道よりももっといい道があるということが分かったので、川沿いを走ろうと思っていた計画を微調整する。

十一時前、US-30 を西に向かう。Gothenburg から NE-47 を北上。

十一時四十分、NE-47 は NE-40 になり、十分後、Arnold に到着。Arnold からは NE-92 に乗り換え、西に向かう。

NE-92: 誰も走っていない田舎道 in Nebraska
もう、どれだけ走ってもめったに対向車とはすれ違わない。時々すれ違う対向車の半分以上は、ハーレーだ。スタージスに近づいている証拠だ。

気がつくと、道の脇にたくさん見られたとうもろこし畑はなくなり、なにもない草原になっている。ときどき牛や馬を見られる以外に何もない草原。あまりに気持ちよくて、眠たくなってくる。

十二時、スタンドであった兄ちゃんオススメの US-83 に乗り換え、北上。たしかに気持ちいい道だ。

大きく起伏し、坂の向こうの風景はまったく見えない。坂の向こうに見える景色が待ち遠しくなる。なだらかにいつまでも続く上り坂を越えると、またさっきと同じように起伏の激しい田舎道が続く。素晴らしい。やはり、地元のことは地元の人に訊くに限る。

十ニ時半、Thedford から NE-2 に乗り換え、西進。今日の目的地、Chadron はちょうど北西の方角にあるので、北上したら西進し、西進したら北上し、の繰り返し。

十二時四十五分、Seneca を越えて、マウンテン夏時間に変更。時計の針が一時間もどって、十一時四十五分になる。まったく気にしない。

十二時前、Mullen でガスの補給。またしてもハイオクがない。89 を入れる。

それにしても、ネブラスカ州にはオクタン価 91 以上のハイオクはないのだろうか。ハーレーの推奨は 91 以上なのでできれば 91 以上で入れたいのだけれど、どのスタンドに寄っても 87 と 89 の二つしかない。しかたないので 89 を入れておくが、坂道を五速で登ると時々ノッキングするのが分かる。四速で登ればいいのだが、トルクフルなのがハーレーの乗り味なので、やはり五速の低回転でだらだらと登りたい。

ちなみに、このオクタン価について「少し」知識がある人は、日本のオクタン価と比べてすごく低いアメリカのオクタン価を見て、アメリカのガソリンはとても質が悪いと勘違いするかも知れない。したり顔でアメリカのガスは質が悪いなどというと、「もう少し」知識がある人にバカにされるかも知れないので気をつけないといけない。

ポンプをよく見ると分かるのだが、アメリカのオクタン価は (R+M)/2 という基準で量られている。RON 基準と MON 基準の平均値という意味だ。日本や欧州のオクタン価は RON 基準だが、MON 基準の数値は RON 基準のそれよりも 10ポイント程度低いので、同じガソリンでもアメリカ基準の方が低い数字になる。つまり、書かれている数値だけを見て、日本のレギュラーとアメリカのハイオクが同じくらいのオクタン価だと考えるのは、とんでもない勘違いなのだ。実際、アメリカの 87 は、日本や欧州の 92〜95程度であり、日本のレギュラーよりもオクタン価は高い。

当たり前のことだが数値は同じ単位で比較しないと意味がない。2センチと 1インチを比較して 2センチの方が長いと思ってはいけない。数値を見たら、まず正確な単位を調べないといけないということだ。

さて、おなかも空いてないし、疲れてもいないし、たいしたものも売ってないので、さっさと先を急ぐことにする。

一時前、Hyannis の大き目のスタンドで昼飯。チーフはいつものジャンクフードを買ったが、せっかくいろいろ売っているスタンドだったのでピザにしてみた。いくつか種類があったので、一番具の多かったピザコンボにしてみた。

ら、それだけが切れていて、一から焼き始めてしまった。焼きたてが食べられるのは嬉しいのだけれど、そんなどうでもいい昼飯に時間をかけるのも馬鹿馬鹿しい。結局、十分以上待たされた。焼き立てでおいしかったけれど、さっさと昼飯を済ませていたチーフをだいぶ待たせることになってしまって申し訳なかった。

熱々のピザを急いで食いながら、頭上にかけてあったプラズマテレビに目をやると、音が聞こえないので何を言ってるのかは分からないが、なにやらテロ関係の放送をしているっぽい。ロンドンがなんとかって出てるけれど、もしかしてイギリスでテロでもあったのだろうか。世間の情報からだいぶ遠ざかっているので、世界中のどんな不幸もまったく別世界のことに感じられる。世の中の、何たる不公平なことか。

一時半、Hyannis を出発。NE-2 をさらに西進。

NE-2 は路面の状態がそれほどよくなく、バイクで走ってもあまり楽しい道ではなかった。いやになってきたので Ellsworth から NE-27 を北上する。二時過ぎ。

NE-27 の北上は大正解。地元の兄ちゃんも言っていたとおり、北上する道はどれも最高だ。US-83 よりもさらに起伏が激しく、こんどはカーブも多い。

NE-27: 起伏の激しい Scenic Byway in Nebraska

だいたい、直線で 85MPH (136km/h)、カーブは 70MPH (112km/h) くらいでぶっ飛ばす。ほとんど二人占め状態の田舎道。最高だ。

時々、忘れた頃にすれ違う相手のほとんどはハーレー。誰も走ってないこういう田舎道をわざわざ選んで走っているのは、ほんとうの好き者しかいない。すれ違うたびに手を上げて挨拶する。バイク乗りの挨拶。

止まっていると気温はそれなりにあるが、今日は朝からずっと雲り空なので、走っているとけっこう涼しくて快適。バイクに乗るには、じつはこういう日の方が楽でいい。ピーカンの日も悪くはないのだが、やはり雲ひとつない青空で太陽の下を走るのは物凄く疲れる。動いているから問題ないような気がするが、よく考えると、太陽からみればバイクなんて止まっているのに等しい。つまり炎天下の野外でじっとしながら扇風機をあびているのと変わらない。これを二時間もやってたら、そりゃ疲れる。

曇りは曇りでなんとなく損した気分だが、暑くないというのは本当に楽でいい。

GPS で現在位置を拡大してみると、Chadron がすぐそこに見えている。おお、もうすぐだ。テンションがあがる。

と、その時、前方に黒い影がうっすらと見えてきた。雨雲だ。うーむ。来るか。

カッパを着るのは面倒くさいなあ。祈りながら走っていると、左手に雨が降っているのが見えてきた。自分たちの真上にはまったく雲がないが、左手には雨が降っているのがはっきりと見える。

NE-27: 雨と晴れ間の差がはっきりと見える田舎ならではの光景

目の前の道が左にカーブしていくと、さっきまで左にあった雨が前方に移動する。げげ。やっぱり、あれに突っ込むのか。

さっきまで左手に合った真っ黒な雨雲が、前方に垂れ込めている。来るのか、来ないのか。

雨が降っている地帯と降っていないところの差が、さっきよりもはっきりと見える。田舎に来るとよく見る光景。

こういう何もないまったいらない所では、決して、雨は突然降ってきたりはしない。頭上にある雨雲が辛抱たまらず降り始めるか、さっきから雨が降っているところに自ら入っていくか、そのどちらかしかない。

さっきから、ずっと、自分たちの頭上に雨雲はないのだが、向かう先では雨が降っている。今走っているこの道が、その場所に入っていくのか、入っていかないのか、走ってみなければ分からない。

こういう田舎ではあまりに道が少なすぎて、道の選択肢はまったくない。ひとつ選んだら、その道を一時間ほど走らないと他の道に合流しないのが当たり前。つまり、避けたくても避ける方法がまったくない。雨に突っ込もうが突っ込むまいが、ただまっすぐに北上して、US-20 に出る以外の選択はない。

祈りながら走る。

結局、自分たちが走った道には雨が一滴も降らなかった。ただ、ずっと雨の真横を走っている感じだったので、まったく気が抜けなかった。

二時五十分、果たして、運良く雨には一滴も濡れずに Gordon に到着。ガスの補給。やはり、ハイオクはない。

ここからは US-20 で Chadron まで一本道だ。ガスを入れたらさっさと出発。気持ちがはやる。

US-20 を西進し始めるとすぐに北からの強風に悩まされることになる。あまりの強風のため、バイクを右に傾けた状態でまっすぐ走らないといけない。体力も神経も消耗する。この道を反対側から東進して Chadron に来るであろうヨネもこの強風の中を走ることになるだろう。二人乗りだから、自分たちの何倍も風を受け止めながら走らないといけない。大変だろうなあ。

この強風のおかげでさっきまで左側に停滞していた雷雨がさらに南側に向かってくれたのだろう。前方には雨の気配はまったくないが、左側では雨が降りしきり、雷が落ち続けている。

四時前、Chadron に到着。ヨネが予約して確保しておいてくれた Motel-8 にチェックイン。Motel-8 のくせに 132ドル。明らかにスタージス料金。スタージスが終わったら、閑古鳥が鳴き続けるに違いない。

部屋に入ってクーラーを全開にする。走っていれば涼しいのだが、止まると暑くてやってられない。気温は 30度近い。

ブーツを脱ぎ、ジーンズを脱ぎ、短パンに着替えてゆっくりくつろぐ。体も十分に冷えたころ、サンダルをはいて、近所を少しだけ散策。夜のために酒屋をチェック。

外は暑くて疲れるので、さっさと部屋に退散。こんな暑い日に外に出てる人の気が知れない。クーラーの効いた部屋でのんびりとテレビでも見る。

それにしても、ヨネはいつごろ着くだろう。

今日は、とくに寄るところもなかったし、当然ながら渋滞も町もなかったので、あっという間に目的地に着いてしまった。ヨネもこの町までは同じくらいの距離だろうけれど、嫁さんも乗ってるし、ペースも遅いと言っていたしなあ。

外でハーレーの音がするたびに窓から外を覗く。「どう?」「違った」何度も繰り返す。

ロビーにあったパソコンでネットを見たり、ロビーでお茶を飲んだり、久しぶりに骨の髄までくつろぐ。部屋に戻ってどうでもいい話をチーフと駄弁る。

そして、待ちに待ったその瞬間がやってきた。

「お、ハーレーが来るね」「うん、近い、近い」「お、すぐそこに止まったね、ここかな」「どれどれ、おおお、二人乗りしてるよ」「来たかな?」「キターーーーーーーー」

窓を開け、外の熱い空気を全身に浴びながら、ヨネに手を降る。「おーい、ここだよ!」「おー!!」

当たり前だけれど、予定通りに再会できて本当によかった。それにしても、ここまで、二人でよく頑張ってきたなあ。

とっくにチェックインしてすっかりくつろぎ切っているおれとチーフの部屋に、ヨネとヨネの嫁さんがあがってくる。ヨネの嫁さん、ひーちゃんにはじめましての挨拶。

三年前、おれとヨネがモニュメントバレーで奇跡の再会を果たしたその時、ひーちゃんは部屋にいて出てこなかった。すごく会いたかったけれど、おれも時間がなかったし、早朝だったし、無理を言っても仕方ないと思って、その時は素直に諦めた。

半年ほど前、LA に遊びに行ったとき、予定通りヨネとは会えたのだけれどひーちゃんは一緒じゃなかった。勉強が忙しいという理由で、おれとは会ってくれなかった。

先週、うちに泊まる約束だった金曜日、風邪を引いたというもっともらしい理由でうちには来なかった。

すぐそこにいるのに会ってもらえないという状況を三回も繰り返され、どうすれば気に入ってもらえるか、どうすれば許してもらえるか、自分なりに一所懸命考えたりもしたけれど、結論は出なかった。とにかく、会って、釈明させてもらうしかない。

そして、今日、とうとう、会えた。 「なんで嫌われてるのか分からないけれど、とにかく会えて嬉しいなあ!!」

二人が着替えをすませ、準備ができたところで晩飯を食いに行く。何があると言うわけでもないが、目の前にダイナーがあったので、そこに入ることにする。

みんなはステーキを注文したが、なんか毎日、肉ばかり食ってる気もしたので、なんとなくラザニアにしてみた。予想通り、量は多すぎだったけれど、味はまあまあ。

飯を食いながら、今日までどんな旅をしてきたか、お互いに報告しあう。話が弾む。

ダイナーを出て、酒屋でネブラスカの地ビール Luna Sea ESB を買って部屋に戻って、とりとめもなくだらだらと駄弁る。最高に楽しい。

一段楽したところで、ヨネとひーちゃんは洗濯をする。二人分の着替えというのはものすごい勢いで溜まっていくらしい。洗濯機があるならついでだし、自分たちも洗濯をすることにする。

洗濯している間、とくにすることもなかったので、チーフとプールで泳いだりネットを見たりして過ごす。こういうどうでもいい無駄な時間が最高にくつろぐ。

ああ、あしたはとうとうスタージスだなあ。

  • 総合走行距離: 2710.04 マイル (4361.38 km)
  • 今日の走行距離: 382.73 マイル (615.94 km)
  • 最高速度: 97.0 マイル/時 (156.1 km/h)
  • 移動時間: 5時間31分
  • 移動平均速度: 69.3 マイル/時 (111.5 km/h)
  • 最低最高高度: 2143〜4122 フィート (653〜1256 m)
  • $3.019 x 4.325G = $13.06 — 10:43:25 CASEY'S GENERAL STORE — 510 S. Meridian Cozad, NE 69130
  • $3.199 x 3.736G = $11.95 — 11:53:32 FARMER'S RANCHERS CO. — 202 SW. 1st St., Mullen,NE 69152
  • $3.099 x 3.609G = $11.18 — 14:46:25 PUMP & PANTRY #34 — 101 W HWY-20 Gordon, NE




(Sturgis 2006 その8 へ続く)

2006年9月7日木曜日

Sturgis 2006 (その6)

(Sturgis 2006 その5 からの続き)

旅の六日目、八月十日。木曜日。

七時、気持ちよく目が覚める。外を見ると空は真っ白。雨は降ってない。

なくなる前に、モーテルのオフィスにドーナツとコーヒーを取りに行く。ドーナツには限りがあるので、のんびりしてるとなくなってしまう。みると、シナモンロールとマフィンがあった。期待してなかった分、嬉しい。

たいしたものではないとはいえ、同じ値段で朝食がつくのとつかないのとでは大違い。結果の平等性が重視される日本では許されないであろう、早い者勝ちシステム。アメリカでは機会さえ平等なら結果はどうであろうと、なにも問題はない。

朝飯を部屋に持ち帰って、ベッドの上でのんびりと朝食を取る。

まずはウェザーチャンネルで天気予報の確認。案の定、Scattered Thunderstorm (ところにより雷雨) と言っているが、昨日はそれでも降らずに済んだし、今日も雨が降らないことを祈る。幸い、進行方向の北方面には雨雲はなさそうな感じだし、きっと大丈夫だろう。

天気も良くないし、急ぐ気もしないので、そのままのんびりとテレビを眺めて過ごす。チーフはいっこうに準備をする気配がない。実は、この時、風邪で体がだるくて動きたくなかったらしい。もちろん、チーフはそんなことはおくびにも出さない。結局、ESPN の Sports Center を一時間くらい見てダラダラと過ごす。

まあ、いつまでもこうしていても仕方ないし、そろそろ準備をして出かけることにしようか。

外に出てみると思いのほか寒い。これからロッキーを登りさらに標高は上がっていくので、寒さ対策は万全にしていく必要がある。パッチをはき、フリースを着ることにする。

さらにカッパまで着てしまうとかなり暑くなってしまうので、カッパは着ないで行くことにする。雨が降り始めたら着ればいい。きっと、降らない。

九時、目の前のスタンドでガスを補給し、出発。US-40 を北上。

九時半、Granby から US-34 に乗り換え。

十時前、Rocky Mountain 国立公園に到着。ひさしぶりのロッキー。四年ぶり。

Rocky Mountain National Park, Colorado

公園内をのんびりと走り、ビスタポイントで写真を撮る。

十時半、ビジターセンターに到着。けっこう寒い。GPS を見ると、標高は 11600フィート (3535メートル) らしい。酸素も薄いのだろう、眠くもないのに、何度もあくびがでる。

駐車場とそこに停まっている車はほとんど全部びしょ濡れという状態。今さっきまでここで雨が降っていたらしい。反対側から来たハーレー乗りたちは、みなカッパを来ていた。

「こっち側は降ってなかったけど、向こう側はけっこう降ってるの?」

「おまえら運がいいなあ。こっちはけっこう派手にやられたよ。ただの通り雨だと思うけどな」

「ふーん。ところで、これからどこ行くの?」

「家に帰るところだよ。そっちは?」

「スタージスに向かってるところ」

「おれたちは二日前にスタージスにいたんだけど、ヒョウが降って大変だったよ」

「えー、ヒョウなんて降ったの!死ぬじゃん!!」

「だよな。たまたま近くにバーがあったから飛び込んで、三十分くらいでやんでくれてよかったよ」

うーむ。今年の天気はどうなってるんだろう。四年前は一度もカッパを着ずに済んだのに、今年は、ほとんど毎日雨の心配をしてるし、スタージスではヒョウって、なんだ、それ。

十一時半、ビジターセンターを後にし、US-34 を東に向かう。空模様は、いつ雨が降ってもおかしくないけれど、雨はいまのところ降ってない。「緊迫した投手戦が続くねえ」チーフが言う。

十二時半、分岐点に到着。四年前は US-34 を走ったから、US-36 で行くことにする。また、前回は行ってない Bear Lake にも行きたかった。

一時前、Bear Lake に到着。

Bear Lake in Rocky Mountain National Park

結局ここまで、一滴二滴と来ることはあっても、それ以上は来なかった。そろそろダメかと覚悟しても、なんとか持ちこたえる。「塁には出しても点は与えない、粘りのピッチングだね」チーフが言う。

携帯を見たら電波が来ていたので、頂上付近で撮った自分の写真を女房宛にメールする。娘の写真が届く。ニヤニヤ。

ついでにヨネに電話する。留守電にメッセージを残すと、すぐにかかってきた。タイミングいい。元気な声が聞こえる。

お互いの状況と予定を手短に報告。Salt Lake 経由で Arches 国立公園に来て、飯を食ってるという。北上して南下して、また北上するというルートか。なんという無茶なルートだ。どうやらヨネはヨネで、贅沢な旅をしているようだ。嬉しくなってくる。それから、やっぱりあの後 I-80 に上がるのはやめて、US-50 でネバダを横断したという。US-50 は最高だったと。

ヨネたちは今日はデンバー方面に向かって、行けるところまで行く予定。おれたちは今日はネブラスカまで行っちゃうけれど、それならば明日は合流できる可能性がある。今晩、地図を見ながら計画を立てることにしよう。夜、電話する約束をする。

それにしても、US-50 を横断したのかあ。よかったなあ。おれは、感じなくてもいい罪悪感をちょっとだけ感じていたので、ヨネが US-50 を堪能してくれたことが、本当に嬉しかった。せっかくネバダを横断するチャンスがあったってのに、US-50 は走りませんでしたってんじゃあ、悲しすぎるというものだ。

気分が良くなったところであたりを散策することにする。 Bear Lake のまわりにはいくつも湖があったが、トレイルマップを見る限り、どれもそれなりに遠い。残念ながらそれらを順番に回っている余裕はない。結局、一番手前の Bear Lake だけを回って今年のロッキーマウンテンは終了ということにする。

一時二十分、Bear Lake を出発。

山を下り、どんどん標高は下がっていく。そして、気温はどんどん上がっていく。

一時四十五分、四年前に泊まった Estes Park を通過。US-34 に乗り換え。

振り返るとロッキーの上には分厚い雲が鎮座しているのが見える。おれたちの向かう前方は、雲ひとつない。もう、雨の心配はまったくない。

結局、雨はまったく降らなかった。毎回のようにヒットを許しながらも、終わってみれば完璧な継投で無失点。カッパも着ずに大正解。オレ竜采配がずばり当たった完全勝利。

Loveland を抜け、Greeley を抜け、ひたすら US-34 を東に向かう。

三時半、走っていた US-34 は Wiggins にて I-76 に変身。何ゆえインターステートを走らされているのか納得がいかず、次の Exit ですぐに降りて地図を確認する。もうひとつ先の Exit までは US-34 と I-76 が一緒の道ということらしい。United なんだけれど ANA みたいなものか。

それにしても暑い。標高を見たら 4480フィート (1365メートル) らしい。一瞬にして 2000メートルも下ってきたということか。そりゃ暑いに決まってる。

Exit を出たすぐ脇のところで、着替えることにする。ジーンズを脱ぐためにブーツを脱がなくてはならず、そのブーツを脱ぐのはものすごく面倒くさいことなのだけれど、さすがにもうこの暑さには耐えられない。汗びっしょりのパッチを脱ぎ、水を大量に飲む。あー、気持ちいい。

三時五十分、面倒くさいけれど、いったん I-76 に戻って次の Exit まで走る。

四時、Ft. Morgan に到着。Safeway のガソリンスタンドがあったので、そこで入れることにする。電話番号を入れて Safeway のメンバー認証をしたら、1ガロンあたり 3セントのディスカウントだった。チーフにもおれの自宅の電話番号を教える。

そういえばまだ昼飯を食べてなかった。おなかが空きすぎてて忘れていた。食事や休憩を別箇に取ると、思いのほか時間のロスが大きいので、なるべく給油のタイミングで食事と休憩を取ることにしている。給油はタイミングを選べないので、他に必要なことを給油に合わせるわけだ。

結果として、スタンドに寄らないと食べるチャンスを逃しがちということになってしまう。

Safeway で何かを買うという手もあったのだけれど、レジに並ぶのは面倒くさいし、次のスタンドまで走って、そこでジャンクフードでも食べることにしよう。

と思いきや、次のスタンドが見つからない。しかし、一度、おなかが空いていたことに気がついたら、もう我慢できない。おなかが空く一方。うーむ、Safeway で何か食べておくべきだったか。

四時四十分、Akron に到着。やっとの思いでスタンドを発見。そっこうで飛び込む。ホットドッグは食い飽きたし、サンドイッチももの足りない感じだったので、ひさびさにブリトーにしてみる。ウマイ。レモネードをがぶ飲み。リフィルしてがぶ飲み。マズウマイ。

さーて、今日はどこまで走ろうか。地図を見ながら作戦会議。

ここまで走ってきた US-34 を、そのまま 150マイル (240km) ほど東に走っていくと、McCook という町がある。なんか、MacBook みたいでいい名前だね。ここを目標にしよう。おれはマックユーザだったことは過去に一度もないが、チーフは生粋のマックユーザ。

まっすぐ McCook に向かってもいいのだが、地図には、その下のカンザスを走る US-36 が Scenic Road と書いてあるので、そっちを走って行ってみよう。

五時十五分、遅すぎた昼飯を終え、Akron を出発。

六時十五分、完全ヘルメットフリーのコロラド州(ちなみに、コロラド州、アイオワ州、イリノイ州、ニューハンプシャー州の四つの州だけが年齢制限なくヘルメットフリーで、あとのヘルメットしなくていい州は、18歳以上とか20歳以上という年齢制限がある。)から、全てのライダーがヘルメットをしなくてはいけない完全ヘルメット義務のネブラスカ州に突入。

ネバダ州のヘルメット着用義務もぜんぜん納得いかないけれど、あそこはラスベガスとかタホとかリノみたいな町があるし、まあ分からないでもない。だけど、ネブラスカ州はどこをどうひねくり回してもヘルメットの必要性が分からない。コロラド州よりも人は少ないし、町もないし、っていうか町自体まったくないし、車よりも牛や馬の方が何倍も多そうなのに、何ゆえヘルメットを要求するのだろうか。the good life って看板、偽りありすぎ。

US-34:NEBRASKA ... the good life

六時半、Haigler から NE-27 に乗り換え、カンザス州に突入。面倒くさいのでヘルメットはかぶったまま。

NE-27/KS-27:welcome to Kansas

ここからタイムゾーンはセントラルの夏時間となって、時計の針が一時間すすむ。ということは、現地時間は七時半。だが、そんなことは気にせず、KS-27 を南下。

七時五十分、US-36 に合流。

八時半、Atwood に到着。ガスを補給し、休憩。ずっと探しているモーテルのクーポン冊子は、ここでも見当たらない。以前はどこでもあったのに、今時ははやらないんだろうか。

となりでガスを入れている、明らかに超ダメ系白人男に声をかけられる。"My Name Is Earl" の Earl みたいな兄ちゃん。

「よー。あれだろ、スタージスに行くんだろ?おれっちはカンザスから出たこともねーずらよ」

「そ、そうなんだ… (なんて言って欲しいんだよ!)」

「ハーレーってさ、高いんだよな。仕事なにしてるずらか?」

「プログラマだよ」

「すげーずらな。おれもやってみてーずらよ。プログラマ」

うーむ。おれになんと言って欲しいのだろうか。勝手に友達にされてはかなわないので、そつなくつれなく突き放して話していたら、諦めたのか静かに去って行った。

さて、バイクの時計はカリフォルニア時間のまま、つまり六時半なので、ついつい勘違いしてしまうが現地時間は八時半。あたりは日も少し薄暗くなりつつある。

今日は McCook まで行きたかったけれど、暗くなってから走るのは意味がないので、モーテルが見つかったところでおしまいってことにしよう。

とりあえずスタンドの店員に、この町のモーテルについて聞いてみると「モーテルなら、この先の Norton ってところにたくさんあるよ」という返事。

地図を見るとその Norton という町は 60マイル (96km) ほど東に走ったところ。をいをい、そんなに走らないとモーテルないのかよ。うーむ。

ぐずぐずしていても仕方ないので、八時四十五分、Atwood を出発。とりあえず Atwood から 30マイル (48km) ほど東の次の町 Oberin を目指す。その間、草原以外なにもないので、走り始めたらつぎの町まで走る以外の選択肢はない。US-36 を東にひた走る。

九時十分、Oberlin に到着。これといって何もない町だがモーテルが三件あった。入ってみると二件は両方とも満室で、一件は廃業して家として住んでいた。

観光地が近くにあるわけでもない、カンザスの田舎町でモーテルに空きがない。ありえない。

うーむ。スタージスだ。全米から集まるハーレー野郎たちが、近辺のモーテルに泊まりまくっている。カンザスは結構遠いはずだけれど、がんばれば一日で行ける距離だから、もう近所と言っていい。うーむ。

当初の予定では Oberlin から McCook に北上するつもりだったが、スタージスに近づく方向でモーテルを探すのは難しいかも知れない。ましてや現地時間は九時を回っている。もしかしたら、McCook には一件くらいしかモーテルがないかも知れない。それなら、さっきのスタンドの兄ちゃんが言ってた Norton ってところに行った方が確率は高いかも知れない。二件しかモーテルがない Oberlin のことは一言も言わなかったのに、Norton にはたくさんあるって言ってたし。

うーむ。残念だけれど、Norton に向かうことにしよう。もし Norton がダメでも、KS-383 を南下するルートを取れば、町はいくつかあるから確率は高いはず。Mac を諦めて、Norton Utility をインストールすることにしよう。

九時四十五分、たくさんモーテルがある町、Norton に到着。ふむふむ、短いメインストリート沿いにいくつかモーテルらしき看板が見える。

徐行しながら順番に見ていこう。あ、あった… が満室。お、これはどうかな…満室。むむむ。じゃ、あれはどうかな…満室。げげげ。まじで。

Norton に入ってさくっと見つけたモーテル三件はすべて満室。見ると何台ものハーレーが泊まっている。スタージス野郎たちだ。

それはそうと、町の端っこはすぐそこというところまで走ってきたのに、他にモーテルは見当たらないのはどういうことだ。たくさんのモーテルって、どこにあるんだよ…

うーん、こうなったら、モーテルが見つかるまでどこまでもスタージスから遠ざかる方向に向かっていくしかない。近づいても仕方ない。と半ば諦めかけた時、町の外れにもう一件モーテルがあるのを発見。

恐る恐る近づいてみると… お、満室って書いてないよ!急いでオフィスに飛び込む。

「何でもいいから部屋ないですか?」

「えーと… 最後のひと部屋でしたね。ツインでいいですか?」

ひやっっほーぃ!!

結局、モーテルがたくさんある Norton には、モーテルは四件しかなく、部屋はひとつしか空いてなかった。人口千人ちょっとの Atwood 住人からすれば、四件のモーテルはたくさんってことになるのも無理はないのだろうか。

さて、寝床が確保できたし、何か買いに行こう。さっき昼飯を食べたばかりだし、おなかはぜんぜん空いてない。とりあえず、つまみとビールでいっか。

近所のスタンドに買出し。店に入ると、店員の汚いオバちゃんを地元の汚いオヤジが一所懸命くどいている。二人っきりで恋の駆け引きを楽しんでいるところに邪魔に入ったような感じ。オヤジはうっとうしそうにこっちを見る。なんだよ、こんな時間にこのクソアジア人が。顔に書いてある。

「えーと、ビール欲しいんだけど」

「ビールは置いてないよ。向かいの酒屋に行きな。でも、十時で閉まっちゃうけどね」

げげげ。バイクの時計は八時だったのですっかり勘違いしてたけれど、もう、十時なんだ。田舎では酒屋が閉まっちゃう夜遅い時間なんだ!

こんなに走ったのに、ビールなしとはあまりにトホホすぎる。非常用にビールは数本確保しておくべきかも知れないなあ。あああ。

おなかもぜんぜん空いてないし、結局柿の種とビーフジャーキーなどを適当につまむだけの寂しい夜。旅先での禁酒は本当に辛い。

うなだれてモーテルに戻り、疲れきった体をベッドに放り出す。

チーフがてきとうにチャンネルをひねって遊んでいると、ディスカバリーチャンネルでハーレーカスタムの番組 American Chopper がやっている。ひさしぶりに見る。面白い。二人であれこれいいながら見る。ふたりともただのハーレー好きの中年。

そういえばヨネに電話しないといけなかったことを思い出す。地図を引っ張り出し、電話する。

ヨネ一行はデンバーのちょっと手前のシルバーなんとかって町にいるらしい。まあ、そのくらいまで来てれば十分だね。それなら、明日、合流できる。

自分としては、できれば明日はバッドランズ、カスター、ウィンドケイブのどこかでキャンプってのが、次の日のスタージスにも近くていいと思っている。が、ヨネがどんなペースで走っているか分からないので、まず、どのへんまで北上できるか訊いてみる。

すると、仮に I-25 を頑張って北上してもワイオミング州の Douglas くらいまでかな、と言う。ネブラスカまではちょっと厳しそうだし、やっぱり、合流は明後日にスタージスくらいかな、と。

うーん、スタージスで再会ってのはちょっと劇的っぽい感じでやってみたい気もするのだけれど、いろいろ考えるとけっこう面倒くさい。お互いのバイクをどこに止められるかさっぱり分からないし、人も多すぎるし。やっぱり、できれば明日がいい。 

こうなるとサウスダコタまで来いって言うのはいかにも無理そうだ。そうするとどの辺りに誘い出すのがいいかなあ。チーフと地図を見ながら作戦を練る。

「ネブラスカの Chadron 辺りなら、お互いに 400マイル (640km) くらいだし、そっちはインターステートで登ってくればそれほど無理ってこともないんじゃないんじゃないかな。」

ヨネに訊いてみると、「頑張ればいけるかも知れないけれど、たぶん厳しい」と言う。やはり嫁さんが後ろに乗っていると、「休憩も多くなるし、一回の休憩が長くなるし、走るペースも遅くなる」らしい。ふむ。まあ、それは間違いなくそうだろうな。

どうしよう。っていうか、今、頑張ればできるかもって言ったな。じゃ、頑張ってみちゃおうよ。うん。頑張れ、頑張れ!明日の早い時間にモーテルを Chadron に予約しちゃって、無理やりでもそこまで走るってことにしちゃえば達成可能だ。うん、そうしよう、そうしよう!

明日、とうとう合流するのかと思うとテンションが上がってくる。最初は厳しいと言っていたヨネも、「うん、頑張れば、いけるね。うん、いける、いける」と徐々に乗ってきた。うんうん、そう来なくっちゃ。

そうとなれば、あとはモーテルの確保だけだ。

「こっちはこっちでモーテルクーポンを探すけれど、そっちはサービスエリアでモーテルクーポンを見つけられる確率が高いんで、それを見つけて Chadron にモーテルを二部屋、予約して連絡ちょうだい。もしこっちが先に見つけられたら、部屋を確保してから連絡するね。」

さーて、明日はとうとう合流だ。

明日からの旅のペースがいったいどうなるのか、少々の不安はあるけれど、ヨネの嫁さんに会えるのが嬉しい。もしかしたら、「さっき、体調を崩して、飛行機で LA に帰っちゃった」ってヨネに言われる可能性もあるから、実際に会って抱擁するまでは安心できないけれど。

過去に三回もチャンスを逃してるから、明日こそは絶対に会いたいなあ。四度目の正直、なるかなあ。

  • 総合走行距離: 2326.92 マイル (3744.81 km)
  • 今日の走行距離: 430.78 マイル (693.27 km)
  • 最高速度: 90.6 マイル/時 (145.8 km/h)
  • 移動時間: 8時間8分
  • 移動平均速度: 52.9 マイル/時 (85.1 km/h)
  • 最低最高高度: 2241〜12190 フィート (683〜3716 m)
  • $3.369 x 2.505G = $ 8.44 — 09:09:19 7-ELEVEN — 78878 US-40, Winter Park, CO
  • $3.149 x 3.934G = $12.39 — 16:00:59 SAFEWAY — 8404 N. Federal, Ft. Morgan, CO 80701
  • $3.199 x 4.390G = $14.04 — 19:40:16 KABREDLO'S #257 — 310 Grant, Atwood, KS 67730


(Sturgis 2006 その7 へ続く)

2006年9月6日水曜日

Sturgis 2006 (その5)

(Sturgis 2006 その4 からの続き)

旅の五日目、八月九日。水曜日。

七時半、起床。

やはり、ベッドは寝心地がいい。テントの設営もなければ片付けもない。やはりモーテルは最高だ。発明したモーテル氏に感謝。

カーテンを開けて外を見ると、空は真っ白でちょっと暗い。ウェザーチャンネルで天気を確認すると、辺り一帯が "Scattered Thunderstorm" らしい。日本語でなんていうのかは知らないが、「ところにより雷雨」って意味。つまり、やられたらやられるし、やられなければやられない、と。うーむ。あんまり役に立たない予報だが、とにかくカッパを着てけってことか。

空気を感じるために外に出てみると、太陽が出ていないのでけっこう寒い。最初からカッパを着ていくことに決定。カッパは防寒にも有用なのだ。Tシャツに革ジャンとカッパで、十分すぎるほど暖かい。

昨晩、洗って干しておいたパンツをたたんでドライバッグにしまう。荷物をバイクに積み、やおら出発。八時。

町を出る前にとりあえず朝飯でも食べようかと思ってスタンドを探すが見当たらない。たぶん、この町にある全てのスタンドは反対方向にあるのだろう。朝飯のためにわざわざ戻るのも面倒だし、起きたばかりでそんなにおなかが空いてるわけでもないし、このまま先に進むことにする。

US-160 を北上。

いったん走り始めると、徐々に気分が盛り上がってくる。ラジオをつけ、スピーカーからカントリーが流れ出すと、テンションはさらに上がっていく。ふだんは滅多に聴かないカントリーだけれど、アメリカの田舎道にはよく合う。

九時過ぎ、South Fork に到着。ここで朝飯を食べようかとも思ったのだけれど、ガスはまだあるし、もうちょっと走りたい感じ。そのまま先へと進む。

Del Norte を無言でやり過ごし、九時四十五分、Monte Vista に到着。うーん、ガスはまだあるし、もうちょっと走ろう。

「ねえ、左前方に見えるあの砂場みたいなのって、Great Sand Dunes 国立公園かな?」「でも、まだけっこう距離はあるよ。50キロくらい。」「だよねえ。たぶん、違うよねえ。」

いくら大きくても、50キロも離れている砂丘が見えるはずがない。きっと関係ない。では、あの 砂山みたいに見えるものは何なのだろうか。さっきから、ずっと左手前方に見えていて、近づいているはずだけれど、大きさがまったく変わらない。

十時、Alamosa でガスの補給。やはり、二時間くらい走ると走った気になる。気分がいい。いい加減おなかも空いてきたし、ついでに朝食にする。ホットドッグにサンドイッチにコーヒー。

地図で確認すると、目的の砂丘までは 30キロくらい。ふーむ。やっぱり、さっきから見えていたあの砂場みたいなやつが、それなんだろうか…

十一時、遅い朝食を終えて出発。

先に進めば進むほど、さっきまで左手前方にあった砂場が左の方に移動していく。うーむ。あれだ、間違いない。方角的に、それしかない。それにしても 50キロも先から見えていた砂場が目的の砂丘だったとは…

十一時半、分岐点に到着。あの砂場が真左に見える。もうどうみても砂場じゃない。砂山だ。CO-150 を左折。

前方の砂山は走れば走るほど大きくなっていく。しかし、どこまで大きくなっていくのかまるで際限がないように見える。際限なく大きくなっていくので、近づいている実感もあまり湧かない。

十一時四十分、Great Sand Dunes National Park に到着。

Great Sand Dunes National Park, Colorado

一時間も前から見えていたあの砂場は、どんどん成長し、とうとう鳥取砂丘の十倍の大きさとなって目の前に現れた。な、なんだ、これは。

ビジターセンターをぶらぶらして、外のテラスで巨大な砂丘をぼんやりと眺める。

備え付けの双眼鏡を覗いてみると、砂丘を登っている人が確認できた。肉眼で直接みてみると、ただの点。とても人には見えない。言われなければ気がつかないほど小さい。

つまり、目の前の砂丘の山が巨大すぎて実感できないだけで、その砂丘はいまだ凄く遠くにあるということになる。うーむ。

歩いていくのは遠すぎるっぽいので、バイクで一番近くまでいけるポイントをレンジャーに訊く。

ビジターセンターを後にし、奥の方に走っていく。レンジャーに教えてもらったポイントに到着。砂丘のすぐ傍までいけた。

やわらかい砂の上をブーツで歩くのは疲れるけれど、がんばって歩いてみることにした。せっかくなので、少しくらい登ってみようかと思ったのだ。

だが、歩いても歩いても目の前の斜面にはたどり着けない。振り返ってみると粒のように小さくなったチーフが見え、どのくらい歩いてきたかがなんとなく分かる。チーフは風邪っぽいのか、着いて来ようとしない。おれだけ登って、あとで自慢してやろう。

さらに歩く。そしてさらに歩く。黙って歩き続ける。

が、やはり、斜面にはたどり着かない。 こんなに歩いても、まだぜんぜん足りないということか。ここまで来て引き返したのでは、一歩も歩かなかったに等しい。ついてこなかったチーフが勝ったも同然だ。引き返すわけにはいかない。

とはいえ、冷静に計算して見ると、どうやら斜面まで行って戻ってくるだけで、とても三十分じゃきかなそうな勢いだ。砂山の頂上まで登ってる人たちが双眼鏡で確認できるが、きっと半日くらいはかかると思われる。うーむ。悔しいが、素直に諦めて引き返すことにするか。

結局、目の前の砂山が、どのくらい大きいのかあまり実感できなかった。ただ、実感することが難しいほど大きいということだけは分かった。いつか頂上まで登ってみたい。

さて、課題を残しつつも砂丘を堪能したところで次に向かおう。

一時、CO-150 を少し戻り、CO-17 の方向に抜ける。

地図で見ていて分かっていたことだが、この CO-17 は本当に定規のようにまっすぐで笑った。道がまっすぐなだけでなく、まっ平らなので、ほんとうにずっと先までよく見える。

かなり遠くと思しき鉄塔が見えたので、そこまでどのくらいあるのか試しに計ってみたら、15km くらいあった。そんな先までまっ平らでまっすぐな道。幅が足りるかどうかは分からないけれど、こんな道なら飛行機の緊急着陸も離陸も、楽勝だろう。

一時十分、完全にまっすぐな道を走りきり、CO-17 にぶつかる。右折して、北上。

一時半、US-285 に合流。そのまま北上。ガスが持つ限り先に進む。

二時半、Buena Vista の分岐点に到着。ガスの補給。ここから US-24 で北上するルートと US-285 で北上するルートの二つがある。どっちにするか相談。が、その前に、昼飯。時間は遅いが体はカリフォルニア時間の一時半なので、遅すぎということ感じはまったくない。

スタンドのジャンクフードにもそろそろ飽きてきたので、となりのハンバーガー屋に入ってみる。店の中に入ると、いかにも田舎のレストランといった風情。壁には銃や鹿の頭が汚く飾ってある。メニューを見ると、店の名前は Gunsmoke と書いてある。笑う。

アボカドとか入ってるハンバーガーが食べたかったけれど、そんな贅沢なものは当然ない。こういう場合は店の名前がついてるものを頼むことにしてるので Gunsmoke Burger とアイスティを昼飯にする。ただのハンバーガー。だけど、かなりウマイ。たぶん、もう何が来てもウマイと思うようになってる。そう思えないとしたら、きっと旅が辛すぎるってことなんだろうと思う。

それにしても、こんな田舎でも甘くないアイスティが当たり前のように飲めるなんて、いい時代になったものだ。以前は、甘いかどうか必ず訊いてからじゃないとアイスティは頼めなかったのに。

地図を見ながらこれからのルートを相談する。

インターステートを使わずにロッキーマウンテンまで行くには US-24 ではなく US-285 を北上するしかない。決定。次善の策があるならば、インターステートは使わないというのが定石。

その先は、Fairplay から CO-9 を使って Kremmling まで抜けるか、Grant まで US-285 で抜けて、Georgetown 経由で US-40 に抜けるか、二つにひとつ。

後者の方が距離がだいぶ短い上、Scenic Byways の距離が長い。決定。ここで重大な見落としがあったのだが、後日、見落としていたことをヨネに指摘されるまで気づかなかった。

さて、ルートが決まれば、あとは行くだけだ。三時半、Buena Vista を出発。US-285 を北上。

四時、Fairplay を抜け、さらに北上。60MPH (96km/h) くらいで山道を華麗に抜けていく。コロラドの山道は、気持ちいい。

四時半、Grant に到着、ここから Geneva Road に乗り換え。最近、工事されたばかりで路面の綺麗な林道だ。いい感じ。

と思ったのもつかの間、二分も走ったところでその綺麗な道はダート(砂利道)に変身する。

むむぅ。できればダートは走りたくないけれど、仕方ない。どうせすぐに終わるだろう、ちょっとの辛抱だ。

道路の右手に Georgetown まで 24マイル (38.6km) という看板が見えた。ふむ。まあ、そんなもんだろう。24マイルなら三十分はかからない。

甘かった。なんと、そこから Georgetown までの道のりは、全てダートだった。想定もしてなかったが、40km ちかくも砂利道を走るはめになったのだ。三十分どころか一時間もかかったのだった。

それにしても、このダートはけっこう深い砂利もあってなかなか怖かった。ヨネたちがいなくて良かった。二人乗りはちょっと厳しい。まあ、もし二人が一緒にいたら、すぐに引き返していただろうけれど。

五時、峠の頂上付近で工事があり、片側交互通行をやっていて停められる。GPS を確認すると標高は 11500フィート (3505m)、すぐ向こうには 14000フィート (4267m) を越える山がそびえている。寒いはずだ。上下のカッパは泥だらけになっているけれど、着てなかったら凍え死んでいる。

ちなみに、道自体は全編ダートでけっこう厳しかったが、そのコースと風景は素晴らしかった。工事が完了し、全てが舗装された暁には、かならず scenic byway と定義されるはずだ。いつか、舗装された後に、もう一度走ってみたいと思う。

工事で足止めを食らっている間、とくにすることもないので STOP の看板を持つおばちゃんに、訊いてみる。

「今日、何台ここをバイクが通った?」

「数台かな」

「ええっ、数台も通ったの?」

「あ、うん、多くはなかったけど、何台か通ったよ」

アメリカ人はバカすぎる。 こんなダートを何を好き好んで走ったのだろうか。まあ、おれたちとまったく同じ理由なんだろうけれど…

ほどなく先導車が反対側から登場。STOP のサインが SLOW に変わり、引き返していく先導車についていく。

1マイル (1.6km) ほど徐行しながら走らされて、やっとの思いで反対側に到着。当然ながら、そこには待っている車が十台くらい並んでいたのだが、よく見ると、その中にバイクも一台あった。バカだ。手を上げて挨拶する。

するとそいつだけではなく、もう一人、後ろにいる人が手をあげて挨拶した。ん?そいつの後ろには奥さんと思しき女性が座っていた。うーわ。超バカだ。この先 10マイル以上もダートを走らないといけないのに、二人乗りって、何を考えてるんだ。バカすぎるにもほどがあるだろ。

五時半、盆地にひっそりと佇む町、Gerogetown が見えた。コロラドらしい風景。

Georgetown, Colorado

少し休憩し、Georgetown を抜け、US-40 方面に向かう。が、道をよく確かめずに走っていたら、インターステートに乗らされてしまった。うーむ。どれだけ避けても、結局、乗らされるのかよ…

I-70 を 4マイル (6.4km) 走り、US-40 に乗り換え。六時。

ロッキーマウンテンまで行ってしまっては泊まるところが見つからなくなってしまうので、ここから Granby までにある小さな町のどこかでモーテルを探すことにする。

US-40 を北上すると、道はどんどん険しく峠道になっていく。あたりはスキー場が多く、見当たるのは本気っぽいロッジばかりで、ダメ系のモーテルがなかなか見つからない。

彼女と二人で来ているのならいざ知らず、四十男のチーフと二人でおしゃれなロッジに泊まって一泊 200ドルとか言われたら目も当てられない。とにかく先に進む。

六時半、Winter Park に到着。ちょっとした町。スキー客とロッキーマウンテンに行く人たちが便利に使える町と言った感じ。町の真ん中を南北に突っ切る US-40 の両側に、ホテルやレストランやスキー用品店やお土産屋などがひしめく。

さくっとモーテルを見つけてチェックイン。Best Value Inn Sundowner $71.43。高いけれど、ここが高いのはまあ仕方ない。

荷物を降ろし、ブーツを脱ぎ、ベッドに寝転がり、思い切りくつろぐ。あー、疲れたー。

バイクは乗っている間も楽しいが、一日走り終えた後の開放感もたまらない。やはり、バイクを運転するのは神経も体力もそうとうに消耗するのだ。

三十分ほどのんびりしたら、サンダルをはいて、さっそく町に散策にでる。晩飯を探しに行こう。

町を端から端まで歩き、だいたい何があるかは分かった。要するに、大したものはない。

うーん、何を食べようか。チーフは何でもいいというが、イタリアンレストランに入って、よく分からないパスタに 20ドルとか払うのはヨシとはしないだろう。どうしようかな。

だんだんおなかが空いてきて、面倒になってくる。日も落ち、あたりは徐々に薄暗くなり始めている。こうなってくると、もう何でもよくなる。てきとうに買って帰ってモーテルで食べることにしようか。

うーん、だったら、チャイニーズのテイクアウトの方がまだいい。何百倍もいい。

町の中心部に見つけた New Hong Kong という名の中華料理屋に向かうことにする。昨日も中華だったけど、まあ、いい。中国人は毎日中華を食ってるんだ。こんな田舎で贅沢を言っちゃいけない。

道すがら、チーフは、あの店はテイクアウトってできるのかなあとちょっと心配する。が、アメリカのレストランは、超高級レストランでない限りほとんどどんなレストランでもテイクアウトできるのがいいところ。中華でテイクアウトできない店はアメリカには一件もない。借りにあったとしても、マンハッタンに一件だけだ。知らないけれど、勢いとしてはそんな感じだ。

何が食べたいかチーフに訊くと、何でもいいと言う。まあ、そうだろうと思う。はっきり言って、おれも何でもいい。

考えるのも面倒くさいので、Shrimp with Black Bean Sauce とチャーハン。在米日本人なら誰でも知ってるであろう定番メニュー。全米の全ての中華料理屋で食べられる。メニューにあろうがなかろうが。

せっかくなのでビールも買っていくことにする。チーフは風邪薬を飲むからいらないという。ふーむ。ひとりだけ飲むのは申し訳ないけれど、飲まないのも自分に申し訳ないので、ひとりで飲むことにする。

チンタオ。するとその場で栓を抜いてくれようとするので、テイクアウトするから栓は抜かないようにお願い。「申し訳ないんですが、ここで飲んでもらえないと売れないんです。」なるほど、そうなのかも知れない。

仕方ないので、カウンターに座って一本だけ飲んでいくことにする。気を効かした店員がチーフに水を持ってくる。

ほどなく、注文の飯ができ上がり、ビールを飲み干し、モーテルに戻る。帰り道のスタンドでビールを追加。

飯を食いながら、とりとめなく駄弁る。毎日朝から晩まで一緒に行動していて、話すことはもう特にないはずなのだが、何故か話は尽きない。

ベッドに寝そべり、見てもいないテレビをぼんやりと眺め、今日の一日を振り返る。

今日は、朝から晩まで一日中カッパを着て走ったけれど、結局、雨は一滴も降らなかったなあ。明日の天気をウェザーチャンネルで確認してみると、明日の天気は "Scattered Thunderstorm" らしい。明日もか。

明日も運良く降らないといいんだけれど、どうなるかなあ。

  • 総合走行距離: 1896.15 マイル (3051.55 km)
  • 今日の走行距離: 355.56 マイル (572.21 km)
  • 最高速度: 89.5 マイル/時 (144.0 km/h)
  • 移動時間: 6時間43分
  • 移動平均速度: 52.9 マイル/時 (85.1 km/h)
  • 最低最高高度: 6886〜11518 フィート (2099〜3511 m)
  • $3.239 x 3.265G = $10.58 — 10:05:54 LOAF N JUG — Alamosa, CO
  • $3.399 x 3.396G = $11.54 — 14:26:00 GUNSMOKE TRUCKSTOP — 12916 Hwy 285, Buena vista, CO


(Sturgis 2006 その6 へ続く)

2006年9月5日火曜日

Sturgis 2006 (その4)

(Sturgis 2006 その3 からの続き)

旅の四日目、八月八日。火曜日。

七時過ぎ、目が覚める。目が覚めて、初めて自分が寝ていたことに気づく。昨夜は、雨は降らなかったけれど代わりに砂が降りつけるという物凄い嵐で、なかなか寝付けなかったのだった。

寝たりた感じがしなかったので、そのまま二度寝することにする。

一時間後の八時、今度は気分よく目が覚める。

外の様子を確認しようと起き上がって見たらと、足元においてあったドライバッグが砂まみれになっているのを発見。なんだこれは。テント内においてあったドライバッグがこのありさまとは。

どんな豪雨でも、洪水にならない限りはまったく問題のないおれのテントだけれど、フライの隙間から砂が上まで舞ってメッシュをすり抜けてきたようだ。メッシュ部分がだいぶ少ないチーフのテントは、おれよりもかなり軽症だったようだが、それでも砂が入ってきたらしい。メッシュ部分を完全に締め切れるタイプじゃないとモニュメントバレーでは通用しないようだ。

テントの中にあったのに砂まみれのドライバッグ in Monument Valley
テントを洗い、ドライバッグを洗い、顔を洗う。とくに食べるものもないので、「反対側」に向かうことにする。

五分後、「反対側」Goulding に到着。スーパーでマフィンとコーヒーを買い、朝食とする。九時。

懐かしいなあ。

三年前の夏、日本から来た親友二人と Goulding のホテルに泊まった日の翌朝、同じく日本から新婚旅行で訪れていたという男に声をかけられた。

さっさと朝の準備を終わらせて出発したかったおれは、その日本人と親友二人がおしゃべりしているのを尻目に、もくもくと自分の作業を続けた。バイクで旅をしている日本人を見つけて暇つぶしに声をかけてきたのだろうが、相手にしている暇はない。

さて、おれは準備完了だぞ。おまえら、ただでさえ準備がおれよりも遅いくせに、いつまでもくっちゃべってたら出発できないぞ。

そう思って顔を上げたら、つれの一人が言った。「この人もハーレー乗りなんだってさ」

ふーん。それで興味を持って早朝からわざわざ声をかけに来たってわけか。なんにせよ、とりあえず挨拶だけはしておこうと思って近づく。その男の顔を見て、頭の中が真っ白になる。

え゛… こ、この人、誰だっけ?っていうか、誰だっけってってどういうことだろ。おれ、この人、知ってるってことだよな。え???まじで???

相手の男も、おれの顔を凝視しながらクチをパクパクさせている。お互いにお互いを認識しているのに、想定外にもほどがありすぎて、ちゃんと認識できない。

その男はヨネだった。

九八年にスタージスで別れて以来の偶然の再会。ありえない。夜の九時から朝の七時までという短い滞在時間で、知り合いに偶然会うなんて、ありえない。しかも、相手は在米じゃない。日本から新婚旅行でたまたま来ていただけなのだ。

あの奇跡の再会から三年。

しかし、ヨネと一緒にアメリカを旅することになるなんてなあ…

ほんと、人生にはどういうドラマが待ってるのか、さっぱり分からないから面白い。

十時前、出発。US-163 を北上。モニュメントバレーを後にする

US-163: Monument Valley, Navajo

十時四十分、Bluff にてガスの補給。田舎ではありがちな、カードリーダーの付いてないタイプのポンプ。レジまで行かないといけない。面倒くさい。

が、とりあえず、レバーを上げてみる。動いた。ガスを入れてみる。入った。

カリフォルニアのような都会では、まずお目にかかれないだろうが、こういう田舎ではよくある。セルフサービスなんだけれど、料金はレジで「後払い」という暢気なシステム。システムの盲点を悪用するような人間は、仮にいたとしても滅多にいない。人は信用できる。田舎はいい。

いきなり入れることができる田舎のポンプ in Bluff, Utah

十一時四十分、コロラド州との州境に到達。CO-41 を南下し、US-160 に合流。さらに南下して、正午前にニューメキシコ州に突入。

正午、ニューメキシコ州とコロラド州とユタ州とアリゾナ州の州境に到着。

Four Corners, AZ-UT-CO-NM

四年前に来た時は、気に入った Tシャツの自分サイズが売り切れだったので、女房に買って行った。今日は、あの Tシャツの自分サイズを買って借りを返したい。

まわりの出店をチーフと二人でのんびりと歩く。インディアンジュエリー系は、とくに女房にプレゼントしたいと思うようなものがもうないので、最初からその手のものは興味なし。と思いきや、リース付きのいかにもインディアン風の可愛いヘアピンを発見。そうか、娘に買ってやらなくては。

どうせだからターコイスの付いてるやつを探すが、なかなか見当たらない。仕方ないので、ターコイスじゃないけれどそれっぽいのをひとつ選んで買うことにする。まわりの出店を全部見てから、外れにあった最後の一件を覗いてみたら、そこにはターコイスのリースのヘアピンがあった。悔しすぎる。

ちなみに、後日、この話を女房にしたら、「だったら二つ買えばよかったのに」と一撃で顎が砕け散った。考え方が違うと、到達できる地平はかくも違うのか。

結局、おれの Tシャツも買えなかったので、借りが増えただけになってしまった。さすがに、もう来ないと思うけれど、きっとそのうちまた来るんだろうと思う。

一時前、出発。US-160 を北上。

一時半、Cortez に到着。おなかも空いたし、暑いし、昼飯を食うことにする。最初に目に入った TacoBell に入る。久しぶり。

チーフがビーフにしたのでおれはチキンを頼む。ひとつずつ交換。ウマイ。とくに好きじゃないので滅多にメキシカンは食べないけれど、真夏のバイクの旅には欠かせない。

地図を見ながらタコスを食べていたら、前の席に座っている子供がずっとこちらを見ていることに気づく。田舎ではよくある光景。生のアジア人を見るのは珍しいのだろう。そんなにジロジロ見るなと親が言っても、子供は正直。目が離せない。

涼しい店内から外に出るのは勇気がいるけれど、いつまでもこうしているわけには行かない。意を決して出発。二時十五分。

二時半、 Mesa Verde 国立公園に到着。

Mesa Verde National Park, Colorado

Mesa を登っていく途中で雲行きが怪しくなり始めたので、カッパを着ることにする。山の一部で降っているだけだろうし、降ってもすぐに止むだろう。きっと上だけで十分だ。

だが、この後、三時間ほどこの公園内で観光することになるのだが、その間、一度も雨が止むことはなかった。なかなか止まないなあと思ったときには、ジーンズはびしょぬれ。いまさらカッパを着ても仕方ない状態。こんなに雨が降り続くなら、下もはけばよかった。

公園内では、車の人たちは突然の雨に傘の用意がなかったのか、みな、社内にとどまったまま外を眺めていた。だが、おれとチーフは最初から外にいる状態なので、何の気兼ねもなく、雨の中を歩いてあちこちの遺跡を見て回った。ポイントに来たらバイクを停めて、歩いて、遺跡を眺め、またバイクで進む。

「雨の中をバイクで大変だねえ」と車中の白人に同情されたが、「車の中からだと何も見られなく残念ですねえ」と逆に皮肉る。実際、ほとんどの遺跡は少し歩かないと見えないところにあったので、雨に濡れるのをはばかっている車の中の人たちは可哀想だった。

十分に遺跡を堪能し、山を下り始める。公園の出口を抜けるころには雨は上がっていた。

五時半、US-160 に戻ると空は快晴。夕方なのに、まだまだ暑い。西に向かう。気がつくと、さっきまでずぶ濡れだったジーンズは完全に乾いている。

六時過ぎ、Durango に到着、ガスを補給。

今日は早めに切り上げてゆっくりしたいねとチーフが妙なことを言う。年なのかな。さすがに四十にもなると体力がだいぶ落ちてるのかも知れない。ただ、Mesa Verde でのんびりしすぎたので最低でもあと二時間は走っておきたい。貯金できなくてもいいけど借金はしたくない。

さて、ぐずぐずしていても仕方ないので、さっさと出発。US-160 を東に向かう。

八時前、Pagosa Springs に到着。

本当はもうちょっと行きたいところだったけれど、South Fork まで走ったら真っ暗になってしまいそうだし、そんなに急がないといけない理由もないし、今日はここまでとすることにしよう。

さくっとモーテルを見つけて、荷物を降ろす。Pagosa Springs Pinewood Inn $69.31、ちょっと高いけど、他にない。

目ぼしいレストランはちょっと高い感じのところしかなかったので、近くにあった安めの中華料理屋に行くことにする。高い金を出してウマイものを食うのはやぶさかではないが、こんな田舎のレストランで旨い物は期待できない。だったら、安い方がいい。

小さな中華料理店のウェイトレスの一人はいわゆる ABC (American-Born Chinese) で、きっと田舎で苦労してきたのだろう、白人客への対応と、われら日本人二人および隣の席の黒人家族に対する対応が、笑えるくらいにあからさまに違う。そんなに愛想を振りまいてどうするんだという感じで白人男たちに接するのに対し、おしゃべりの邪魔をしないで欲しい的にイライラとこちらの注文をとる。ただ、そうならざるを得なかった田舎での生活風景も透けて見えるだけに、なんというか痛々しいというか、とても切ない。

それはそうと、たいしてうまくもないが久しぶりの食事と呼べる食事を堪能。ウマイ。アメリカ全土でこういうマズイ中華料理店をほそぼそと営業してくれている中国人の存在に、心の底から多謝。

九時半、モーテルに戻る道すがら、スタンドに寄り、水を買う。

水を買うだけかと思いきや、チーフが何かを探している様子。訊くと、風邪薬を探しているという。え?まじで?

チーフはどうやら風邪をひいたらしい。チーフがそう言うということは、もう完全に風邪だということだ。前兆はきっと前々から感じていたに違いない。きっと、ヨネの風邪がうつったのだろう。雨に濡れて悪化したかもしれない。さっさと切り上げたかった理由はこれか。うーむ。とりあえず Advil を買う。

モーテルに戻って携帯を確認すると電波が入っている。さっそくメールを確認すると、子供の写真が届いていた。これが楽しみで仕方がない。こっちもモーテルでくつろいでいる様子をメールする。

チーフは、よっぽど疲れたのか、薬を飲んだらさっさと寝てしまった。突然、ツインの部屋で一人ぼっちになる。

まだ十時、カリフォルニアは九時。おれはまったく眠くない。

他にすることもないので、部屋の電気を消し、三日ぶりのシャワーを浴びる。忘れていたけれど、綺麗になるってすごく気持ちいい。

風呂から出てドライバッグからパンツを取り出すと、それが最後の一枚だった。ちょうどよかった。パンツをお風呂で洗濯することにする。靴下の方はまだ余裕があったので次の機会にすることとする。チーフの下着は大丈夫なんだろうか。洗ってあげたくはないけれど、ちょっとだけ心配。

風呂から出て、地図を見ながら明日のルートを考える。明日は Great Sand Dune に寄ってから北上して、Rocky Mountain の手前くらいまで行ければ十分だな。

ウェザーチャンネルで辺り一体の天気を確認。雨はなさそうだ。
明日も楽しみだなあ。

  • 総合走行距離: 1540.60 マイル (2479.35 km)
  • 今日の走行距離: 305.82 マイル (492.17 km)
  • 最高速度: 87.6 マイル/時 (140.9 km/h)
  • 移動時間: 6時間01分
  • 移動平均速度: 50.8 マイル/時 (81.7 km/h)
  • 最低最高高度: 4137〜8404 フィート (1261〜2561 m)
  • $3.489 x 3.027G = $10.56 — 10:52:31 DAIRY CAFE — 3 W. Main St., Bluff, UT 84512
  • $3.429 x 4.338G = $14.88 — 18:17:00 MINI MART — 2501 Main, Durango, CO 81301



(Sturgis 2006 その5 へ続く)

2006年9月4日月曜日

Sturgis 2006 (その3)

(Sturgis 2006 その2 からの続き)

旅の三日目、八月七日。月曜日。

目が覚め、時計を確認すると、ちょうど六時。ちょっと早いけれど、チーフが起きている物音が聞こえたので起きることにする。

テントの外に出てみると、空は快晴だけれど、気温は 10度くらい。かなり寒い。起きたときの格好、Tシャツに短パンではちょっと無理。さっさとジーンズをはき、Tシャツの上に長袖のフリースを着る。それでもちょっと寒い感じ。

寒いのはおなかがすいてるせいもある。とりあえず、何か食べよう。

昨日 Kanab で買ったチキンパスタが袋も開けずに残っていたので、それを朝食にしよう。自分としてはもう少し軽い朝食が好ましいのだけれど、贅沢を言っても仕方がない。あるものを食べるしかない。適当に炒めて食べる。思いのほかウマイ。

ちょっと量が多かったのだけれど、捨てるのももったいなので チーフと二人でぜんぶ平らげる。

あー、おなかいっぱい。幸せ。と寛いでいたら、ガサガサと音がしたので、目をやると鹿がすぐそこにいた。チーフの体が排泄した物を舐めている。そんなんでいいのか。

チーフの排泄物を食す鹿
テントをたたみ、荷物を積み込み、North Rim へ向かう。八時。

八時半、North Rim に到着。

今日はモニュメントバレーまで 300マイル (480km) ほど走ればいいだけなので、時間はたっぷりある。急ぐ理由はまったくない。近場をあちこち歩き回り、ビジターセンターの外のテラスでコーヒーを飲みながら、グランドキャニオンを背景にくつろぐ。

North Rim からみえるグランドキャニオンは、反対側、つまり South Rim からみえるものと、とくに違いが見当たらない。写真を見比べて違いが分かる人は専門家だけだろうと思う。おれには違いが分からない。ただ、ビスタポイントの数は 圧倒的に少ないし、遊びに来ている人の数も圧倒的に少ない。初めて行くなら South Rim なのかも知れないけれど、行ったことがある人は North Rim の方がのんびりできていい気がする。おれは、次も North Rim に来ようと思う。

Grand Canyon North Rim

グランドキャニオンの絶景を十分堪能し、十時半、出発。

まずは AZ-67 を Jacob Lake まで北上。

この AZ-67 は、とくに何の期待もしていなかった道なのだけれど、走ってみたら最高に気持ちいい道だった。

林を切り裂く草原地帯のど真ん中に敷かれたその道は、適度に高低さがあり、大きなカーブでゆったりと曲がる、まさにハーレーで走るために作られたような道。70 MPH (112km/h) くらいでのんびりと、冷たい風を切り裂いていく。アリゾナは暑いイメージしかなかったのに、いい意味で裏切られた感じ。

AZ-67: A Road in a Meadow

十一時過ぎ、Jacob Lake に到着。とりあえず、ガスの補給。

US-89A を西に向かう。グランドキャニオンから下りていくに従い、どんどん気温はあがる。Tシャツに長袖フリースに革ジャンというセッテイングは、あっという間に汗まみれになる。

一時、Marble Canyon で昼飯。ホットドッグとサンドイッチとレモネード。定番のジャンクフード。

それにしても暑い。暑すぎる。さっきまで寒かったというのに、あっという間に酷暑に早変わり。とうとうナバホ国に来たなあと実感。

US-89A: バイクは日陰にしか停めたくない in Marble Canyon

アリゾナ州(とユタ州の一部)にあるナバホ国は、ナバホ国独自の法律でインディアンにより運営される国。アリゾナ州の中にあるけれど、アリゾナ州ではない。酒も買えないし、夏時間を採用しているし、観光客以外はインディアンしか住んでいない。というわけで、ここで時計の針が一時間進む。が、そんなことは気にしない。

Bitter Springs から US-89 を北上し、Page に向かう。

途中、左手に Horseshoe Bend へ向かう駐車場が目に入る。三年前は上から来たので分かりにくかったけれど、下から来るとけっこう分かりやすいところにある。誰もいなかったら行ってみようかとも思ったけれど、車が二台も止まっていたのでやめた。今日は、チーフのためにも早めにモニュメントバレーに着く必要があるので、ここで一時間も道草している時間はない。

また、かなり暑かったというのもある。三年前は熱中症になりかけてひどい思いをした場所だ。

二時過ぎ、Page の手前で US-89 から AZ-98 へと右折。念のためにいったんバイクを停めて、地図を確認する。

すると携帯がなった。なんとタイミングのいいことだろう。バイクで走っている最中は、携帯の音もバイブもまったく感じない。たまたま分岐点で地図を確認していたという絶妙のタイミング、しかも Page の近くで電波の届くエリアにいた時に電話をかけてきたその相手は、ヨネだった。おぉ、素晴らしすぎる。どうしているか聞きたいところだった。

「ところで、バイクは借りられた?」

「昨日、借りて、もう発ったよ。」

おおぉ。今日くらいにバイクを手配できるかって話だったのに、昨日の時点で出発してたのか。何が起きてそうなったのかは分からないけれど、それは会ってから聞けばいい。いやはや、嬉しい誤算だ。

「こっちは Page にいるんだけど、そっちは今、どこ?」

「Carson City でメシ食ってるところ。これから Fallon まで走って、そこから北上して I-80 で西に行こうと思ってる」

「うーん、I-80 よりも US-50 を横断した方がいいと思うよ」

「昨日、また風邪が悪化しちゃった感じで、ちょっとでも楽したいところなんだよねー」

うーん、おれ的には US-50 の方がぜんぜん楽だし、楽しいのだけれど、おれの好みを無理強いしても仕方がない。ヨネは US-50 がどんな道かは知らないんだし、I-80 でさくっと横断した方がいいって思うのも無理はないのかも知れない。

とりあえず、お互いの状況と今後の予定を手短に報告し合い、電話を切る。

とにかく、すでに出発していたというのは朗報だ。今ごろ、サンフランシスコ観光でもしながら、もう面倒だから車で行こうか、なんて言って盛り下がってるかも知れないなあ、なんてチーフと二人で心配していたのだけれど、まったくの杞憂に終わって最高に嬉しい。今、あっちはあっちで旅をしていて、あと何日か後にはどこかで合流できると思うと、さらにテンションが上がってくる。

それにしても、もし Fallon から I-80 方面に北上しちゃったら、US-50 の美味しいところはまったく走らずに終わってしまうということになるのが残念。予定通りに一緒に走っていられたら、絶対に US-50 を一緒に横断できたのになあ。

やっぱり、無理にでも US-50 を走るように勧めるべきだったんじゃないかなあ。なんか、ヨネに悪いことをしたような気になる。訊かれてもいないことを無理に勧めるのは相手に対して失礼だという思いもあれば、絶対にいいと自分が思っていることをちゃんと勧めきらないというのもどうかという思いもある。

「夫婦二人だけで走ってるんだし、きっとその方が嫁さんにとっていいってヨネが判断したってことだよ。それでいいんだって。」チーフに助けられる。

先を急ぐ。

三時過ぎ、US-160 に合流、北上。

三時半、Tonalea でガスの補給。

このままモニュメントバレーに向かうつもりだったけれど、ここでガスが満タンになったのならちょっとだけ寄り道したい。四年前に行ったときには時間が遅すぎてビジターセンターが閉まっていた国定公園が 8マイル (12.8km) ほど先にある。往復で一時間ほどの道草だけれど、「寄ってもいい?」「いいよ」チーフがいいと言ってくれることが分かっていて聞くのでズルいのだけれど、一応、聞く。

四時、Navajo National Monument に到着。ビジターセンターで目当ての Betatakin への行き方を訊くと、何マイルも歩かないといけないことが判明。ただ、見せてもらった地図にはマイルとキロの両方が書かれてあったのだけれど、計算がまったく合わない。マイルとキロのどっちの数値が正しいのかで、歩かないといけない時間がだいぶ変わってくる。どっちが正しいのか訊いてみるが、分からないという。というか、どっちかが正しいのだともしても、正しくない方は大きく間違っているということを指摘したのは自分が始めてだという。役に立ったのか、立ってないのか分からないけれど、治して置くようにお願いする。

Navajo National Monument, Navajo
いずれにせよ、歩いてる時間はないので Betatakin まで行くのは諦める。通り沿いから遠くに覗くアーチを見て、いつかゆっくり来ようと決意する。

四時四十分、US-160 まで戻って来る。あとはモニュメントバレーまで何もない。ただ、走っていくだけだ。

と思いきや、進行方向の空は真っ黒。雨が降っているのは見えないが、あの雲なら確実に雨が降りそうだ。上下ともにカッパを着て、雨に備えるとする。

降らないことを祈りながら US-160 を走り出す。そして、一分も経たないうちに雨がぽつりぽつりと降り始める。来た。カッパを着るタイミングは完璧だったようだ。

しかし、その雨はあっという間に豪雨となる。カッパを着ていようがいまいが、そんなことはどうでもいいとばかりに降りまくる。 バケツをひっくり返したどころの騒ぎではない。視界はほとんどゼロ。何も見えない。前も後ろも、どうなってるのかさっぱり分からない。バックミラーに映るライトが、かろうじてチーフの存在を証明してくれているようだけれど、体を激しく打ち付ける豪雨になすすべもない。

アクセルを緩め、徐行する。前がまったく見えないので、前進するのは怖いのだけれど、追突されるのも怖いので、とにかく一本橋を渡るようなスピードで前に進む。

前方に稲妻が落ちる。轟音が轟く。近い。大きい。怖い。また、落ちる。大自然の猛威にただただ恐怖を覚える。

好きなことをやっていて死ぬのだとしたら、それはそれで仕方ないと思う。もちろん、この旅の途中で死ぬつもりはないけれど、バイクに乗っている以上、事故って死ぬかもしれないという感覚は常にある。そうならないようにいつも細心の注意を払っているだけで、絶対に死なないとは言い切れない。今日、もしここで稲妻に殺されるのだとしたら、運が悪かったと思うしかない。

しかし、もしここで稲妻に殺されたとして、幼い子供たちは、お父さんの死をどう理解できるのだろうか。雷が怖くてトラウマになるに違いない。いや、そんなことはどうでもいい。きっと、いつか克服できるだろう。

問題は、子供たちには、稲妻で黒こげになったお父さんの顔を見せることができないということだ。女房は黒こげのおれを見て、現実を受け入れることができるだろうが、子供には絶対に見せられない。

うーむ。もし、ここでおれの命を奪う必要があるのなら、せめて顔だけは黒焦げにせずに死なせてくれないでしょうか。叶うのなら、子供たちには父さんの死に顔をちゃんと見せてやりたいのです。そうでないと、二人とも父さんがいなくなったことを理解できないに違いないと思うのです。幼い子供を残して死ぬのは忍びないし、まったく受け入れがたいことなのですが、せめて綺麗に死なせてはくれないでしょうか。

半ば本気で母なる自然にそう祈りながら、雷雨の中を少しずつ前進していく。後ろのチーフが着いてきているのかいないのか、まったく分からない。もう、気にもかけていない。

そして、少しずつ雨の威力は弱まり、だんだんとただの大雨に変わっていく。大雨はただの雨に変わり、やがて小雨へと変わっていく。

そして雷雨は過ぎ去った。あああああ、助かった!本当に怖かった。これほど怖い思いをしたことは記憶にない。もしかしたら死ぬのかもしれないと、本当に思った。

五時十分、Kayenta に到着。US-163 を北上し、先を急ぐ。

五時四十分、やっとの思いで Monument Valley に到着。

Monument Valley in Navajo

ジープツアーで中に行ったことがないとチーフが言うので、今日は必ずジープツアーをやりたいと思っていた。できればもっと早い時間に来たかったのだけれど、仕方ない。

三年前は一時間半のツアーだったので、今回は二時間半のツアーにしてみた。50ドル。運転手はハワードさん。

ジープに同乗したのはドイツ人親子五人。お父さん、お母さん、お母さんにべったりのマザコン息子、お父さん似のかなり美人の娘、そしてお母さん似のかなり可哀想な娘。激しく揺れる車に捕まり一所懸命にシャッターを押しまくる父と、そんな父さんを、「パパ、パパ、イッヒリーベシャウウェッセン!」みたいな感じで応援する娘たち。

ドイツ人なのに英語がかなりヘタだったのと、娘二人の差が印象に残った家族だった。

運転手のハワードさんは 30マイル (48km) ほど離れたユタ州の町に住んでいて、モニュメントバレーまで毎日仕事に来ている。息子が四人いるが、全員 Chicago や Salt Lake City などの都会に出て行ってしまったらしい。「まあ、ここにいたって他にやることはないし、仕方ないよね…」と寂しい顔をした。

前回は見られなかったモニュメントバレーの一番奥まで連れて行ってもらって、たっぷりとモニュメントバレーを堪能する。

Ear of the Wind, Monument Valley
暗くなってきたのでビジターセンターに戻り始める。いくら走っても着かない。相当、奥深くまで来ていたらしい。ビジターセンターに着いたときには、まっくらになっていた。

とりあえず、キャンプ場に向かう。暗いのでよく分からないが、あまり人はいない様子。好きなところを使っても良さそうだ。

ライトの明かりだけを頼りに、テントを張り始める。すると、さっきまで無風だったのが嘘のように、風がヒューヒュー吹き始める。

吹き始めたと思ったその風は、あっという間に強風へと変貌。まったく弱まる気配がなく、強くなっていく一方。

やっとの思いで設営したテントだが、杭で一部を止めてもそのまま吹き飛ばされそうな勢い。チーフのテントがひっくり返る。

いつもは左右の外室をつくるための二本だけに使う杭を、六本全箇所に使かって完全に固定。それでも吹き飛ばされそうになるほどの強風。全ての荷物を中に入れて、重石にする。まさに台風と言ってもいいくらいの強風。ふつうに立っているのも無理。おまけに風が吹くたびに、モニュメントバレーのあの細かく赤い砂が空を舞い、テントを叩きつける。バチバチバチバチッ!

うーむ。自然は厳しいなあ。

なにはともあれ寝床は確保したので、次はメシだ。

が、Kayenta で食料を調達しておく予定だったのをころっと忘れていた。雷雨をなんとかやり過ごした安堵感で、その後の予定をすっかり忘れていたのだった。うーむ。とりあえず手持ちのものを食っておくくらいしかない。

強風のなか、無理やりお湯を沸かし、カップラーメンを食うことにする。大きいカレーヌードル。温まる。ウマイ。

チーフに食うかと訊くと、いらないと言う。ウマイのに。まあ、そこでいらないって言ってしまうところが実にチーフらしいのだけれど。

仕方ないので、おれはもうおなか一杯だから、食っちゃってくれと言う。そんなら食うかと、なにげに一気食いするチーフ。ウマイに決まってる。

それから、チーフが日本からもってきた柿の種と、初日に Eureka で買ったビールの残りがあったので、それを飲むことにする。ナバホ国は禁酒なので酒類を買うことはできないが、持ち込みの検査をしているわけではない。

ああ、今日も一日終わったなあ。いつかはモニュメントバレーでキャンプしたいと思っていたけれど、とうとう実現することができて、満足至極。

寒くなってきたところで、テントに入っていざ就寝。しようにも、強風が凄まじく、寝るに寝られない。こんな台風のなか、なんで野宿なんかしているのかと自問する。そして、空を舞った赤砂がテントを叩きつける音が物凄い。どうやって寝られるのか分からない。さらに、フライの下から侵入して上まで舞う細かい赤砂が、ときどきテントの中にまで入ってきて顔にかかる。

三年前に反対側のホテルに泊まったときはまったく気がついてなかったけれど、モニュメントバレーの夜は、かくも過酷なんだなあと実感。

  • 総合走行距離: 1234.78 マイル (1987.18 km)
  • 今日の走行距離: 285.47 マイル (459.41 km)
  • 最高速度: 92.0 マイル/時 (148.0 km/h)
  • 移動時間: 4時間44分
  • 移動平均速度: 60.3 マイル/時 (97.0 km/h)
  • 最低最高高度: 3608〜9092 フィート (1099〜2771 m)
  • $3.369 x 3.703G = $12.48 — 11:12:57 JACOB LAKE CHEVRON — Jct US-89A & AZ-67, Jacob Lake, AZ
  • $3.429 x 3.788G = $12.99 — 15:35:00 BLACK MESA CONOCO — Hwy 160 Jct 564, Tonalea, AZ


(Sturgis 2006 その4 へ続く)


2006年9月3日日曜日

Sturgis 2006 (その2)

(Sturgis 2006 その1 からの続き)

旅の二日目、八月六日。日曜日。

八時過ぎ、荷物を積み込み、Eureka を出発。とりあえず Ely を目指す。

九時過ぎ、Ely に到着。昨晩は、最悪二時間弱くらいかかるかと思ったけれど、一時間で到着。誰も走っていない道を二人だけで爆走しているので、早い。それに、昨日と比べて、速い速度にもだいぶ慣れた。最初は 80MPH (128km/h) くらいで走るのも十分怖かったが、もう 90MPH (144km/h) で巡航してもまったく怖くない。

まずはガソリンを入れ、コンビニで朝食をとる。ホットドッグ、サンドイッチ、コーヒーという定番のジャンクフードをほおばりながら、地図を開き、今日の予定を相談する。

今日はネバダ州を抜け、グランドキャニオン国立公園あたりまで行く予定だ。

寄ろうと思えば途中にはいくらでも寄りたいところがある。たとえば、ブライスキャニオン国立公園やザイオン国立公園などがある。だが、ユタ州ではそんなことを言っているときりがない。潔く、グランドキャニオンまでわき目もふらずに直行する。

もし時間に余裕があったら、ちょっとだけ寄り道をして Cedar Breaks 国定公園に寄ろう。三年前に、ブライスキャニオンに行く途中で寄ってみたことがあったのだけれど、思いのほか良かった思い出があった。

Ely から三十分ほど US-50 を西に走り、Majors Place から US-93 を南下。

US-93: まっすぐな道 in Nevada

十一時半、Panaca にてガソリンと早めの昼飯。さっき Ely で食べたものとあまり変わらないジャンクフードでカロリーの補給。こういう田舎道では、食べられるときに食べておかないと、次のスタンドまで二時間かかることもある。

さて、Panaca からは NV-25 を西に、ユタ州へと走る。

十二時半、ユタ州との州境に到着。

NV-25/UT-56: WELCOME TO Utah!
ここから先は Mountain Timezone になり、一時間、時計の針が進む。時計の時間が変わっても、体の時計は簡単には変わったりしないし、混乱するだけなので、とくにバイクの時計の針は合わせない。携帯に表示される時刻は自動的に現地時間が表示されるので、必要ならばいつでも確認はできる。

それはそうと、バイク乗りにとってはタイムゾーンの変更よりも重要な違いがここからある。そう、ユタ州はヘルメットの着用義務がないのだ。ヤッピー!

そもそもネバダ州のようなほとんど砂漠の州で、何ゆえヘルメットの着用義務があるのかはよく分からないが、とにかく、ここユタ州から先は、当分の間、ヘルメットの必要がない。

ずっとヘルメットをしながら走っていて、いきなりヘルメットなしで走り始めると、ちょっと怖い感じがするのだけれど、それもすぐに慣れる。いったん慣れてしまうと、頭の軽いことの快適さは、本当にたまらない。なしで乗るとよく分かるのだけれど、ヘルメットはほんとうに重いのだ。気がついてないだけで、ヘルメットのせいでかなり首が疲れているのだ。

二時半、Cedar City で休憩。地図を見ながら相談。どうやら時間はありそうだから、Cedar Breaks National Monument に寄り道しながら行くことにする。

三時半、Cedar Breaks National Monument に到着。ここは、いつか Bryce Canyon みたいになると思うけれど、まだなってなかった。

というか、そんなことより、とにかく寒い。GPS を見たら標高 10500フィート (3200メートル) と表示されている。それほど登ってきたつもりもなかったけれど、Cedar City では 6000フィート (1800メートル) くらいだったのだから、かなり登ってきたことになる。寒いはずだ。

山を下り、US-89 を南下する。

五時、Orderville にてガソリンの補給。ここで嬉しいできごとが起った。それは、チーフのクレジットカードでガソリンが入れられたことだった。

実は、このスタンドに来るまでチーフのクレジットカードはことごとく利用が拒否されてきたのだった。

うちの近所のスタンドでは郵便番号の入力を要求されて、日本から持ってきたクレジットカードが使えないという面倒な問題があるのだけれど、実は要因はそれだけではなく、カードのスワイプする方向が日本のそれとは反対でカードをちゃんと読み取ってくれない機種もあるのだ。

三年前は、うちの近所を除けばほとんどどこでもクレジットカードでガソリンを入れることができたのに、今年の旅ではネバダ州に入ってもチーフのクレジットカードが使えずに、かなり面倒な思いをしてきたのだった。

わざわざ、海外で使えるという触れ込みのインターナショナルクレジットカードとか銘打たれたものを持ってきたというのに。

それが、この Orderville のスタンドでは、初めてちゃんと使うことができたわけだ。これで、この先ずっとクレジットカードが使えないというわけではないということが分かったのは朗報だった。

店に入らずにガスの補給が済むなら、必要がなければ 10分くらいの休憩でスタンドを後にできる。カードが使えなければ、必ず店に行く必要があるし、先払いのスタンドなら、ガスを入れるだけで店をニ往復しないといけない。かなり面倒だし、時間もかかる。

それに、田舎では無人のスタンドもちょくちょくあるから、そういう場合、カードが使えないと入れられない。まあ、その場合はおれのカードで入れればいいだけなのだけれど。

ちなみに、クレジットカードが使えないのはスタンドのポンプだけであって、コンビニでもレストランでも、対人で使うところでカードが使えないところはどこにもなかった。

なにはともあれ、さらに US-89 を南下。

五時半、Kanab のスタンドで作戦会議。

地図で確認すると、ここから先には Fredonia か Jacob Lake の二つしか町がない。しかし、どういう町だかよく分からない。

二人とも Kanab に来るのもグランドキャニオンに来るのも初めてじゃないけれど、North Rim に行くのは二人とも初めて。Kanab から先がどういう感じなのか、まったく知らない。

今夜は野営の予定だから、どこかで食料を買えると思ってたらどこにもなかった、という事態は許されない。まだ先にも店はあるかも知れないけれど、とにかく食料を買っておくことにする。ビール、氷、ソーセージ、ビーフジャーキ、その他もろもろ。

六時過ぎ、アリゾナ州との州境に到着。ここで時計が一時間もどる。

知らない人は、アメリカの全ての州で夏時間の適用があると思ってるかも知れないけれど、じつは夏時間がない州、地域もいくつかある。そのひとつがアリゾナ州。アリゾナ州には夏時間の適用がない。(あと、ハワイとインディアナの東部には夏時間の適用がない)

そういうわけで、アリゾナ州に入った瞬間から、タイムゾーンは変わらないのだけれど夏時間がなくなって、時計は一時間もどることになる。結果的にカリフォルニアの夏時間と同じ。つまり、時計は五時過ぎに戻った。まあ、時間なんて気にしても仕方ないし、別に気にもしてないし、あるがままを受け入れるだけ。

そして、六時ちょっと前にグランドキャニオンの手前の最後の町、Jacob Lake に到着。そこには、予想に反して大きなスーパーとモーテルがあった。ふむ。まあ、結果的には、ここで食料を調達するのが最善手ではあったということになる。損したわけでもないし、いいのだけれど、次はここで買うことにしよう。

10分ほど休憩したら、AZ-67 を南下して、グランドキャニオンへと急ぐ。時間も遅いといえば遅いし、観光は明日にして、まずは寝床の確保だ。

六時半、グランドキャニオンのエントランスに到着。

AZ-67: Grand Canyon National Park
パンフレットをもらい、キャンプ場のことを訊いて見る。「キャンプ場、空いてるか知ってますか?」「うーん、残念ながら North Rim のキャンプ場は、もう空きがないですよ」

むむぅ。こんなところでもちゃんとキャンプする人がいるどころか、たくさんいるのか。世界中から観光客がくる South Rim と違って、わざわざ行かないと行けない North Rim だから、それほど人もいないんだろうし、ましてやキャンプ場なら空きがあるだろうと高をくくっていたのだけれど、甘かった。それにしても、けっこうな広さのキャンプ場が当たり前のように埋まっているというのは凄い。アメリカ人は本当にキャンプが好きだと感心する。

ここまで来る途中の DeMotte というところでロッジとキャンプ場があったように見えたけれど、まずはそこまで戻るか。

とりあえずどうしたらいいと思うか、レンジャーに訊いてみる。「そこまで戻らなくても、4マイル戻ると 22 って道があるから、そこを右折して奥に入っていけば、道の脇で適当にオフロードキャンプできるよ。この通りから見える草原でのキャンプはダメだけれど、それ以外なら好きなところでテントを張っていいよ」

ふーむ。いきなりオフロードキャンプか。ヨネの嫁さんがいなくて良かったけれど、それにしても、うーむ。

ここで悩んでいても仕方ないので、とりあえず戻ってみて、その 22 という道を見てみよう。戻ってみると、その道はダート、砂利道だった。むむ。ちょっと引く。もう少し戻れば DeMotte にキャンプ場があるから、やっぱりそっちに行ってみよう。

さくっと DeMotte まで戻って、ロッジのレジストレーションにてキャンプサイトに空きがあるかを確認。「となりのキャンプサイトは、じつは今、全面改装中で使えないんです。ロッジには空きがありますけど、どうしますか?」

うーむ。ちなみに値段を聞いてみたらツインで 128ドルと言われた。考えるまでもなく退散。

結局、レンジャーが勧めてくれたオフロードキャンプしかないということか。さらに Jacob Lake まで戻ってもキャンプ場らしきものはなかったし、戻りながらキャンプ場を探していたら、二時間くらい戻らないといけなくなる感じだ。

仕方がない。面倒くさいけれどダートを行くしかない。意を決して 22 に入っていくことにする。

奥に入っていってみると、そこは、ちゃんとしたキャンプ場というわけではないのだけれど、一応、キャンピングカーで来る人たちが車を止めることができるような作りになっていた。ほほう。実は、それほど悪くないかも。

まあ、他に選択肢があるわけでもないし、適当に見つけた場所でテントを張ってしまうことにした。七時。

周りにはまったく人影がまったくなく、いきなりワイルドなキャンプということになったわけだが、林に囲まれたそのひっそりとした場所は、よく見ると回りに乾いた枯れ木がたくさんあって、火にくべる木にはまったく困らなかった。空を仰げば、天の川が綺麗に見える。たいしてうまくもないはずのソーセージが最高にウマイ。ビールもウマい。期せずして、最高のキャンプになった。

十一時、火を消してテントに入る。

気温が低いのでスエットパンツをはいてシュラフの中にすっぽり入ってみる。するとどうも暑すぎる。羽毛のシュラフは、思いのほか温かいのだ。ジッパーを少しずつ開けていくと結局全開になってしまい、すると寒くなりすぎる。寒すぎて、暑すぎて、どうにも気持ちいい設定が見つからない。結局、スエットパンツを脱いで、Tシャツにパンツだけという軽装になる。シュラフは下半身だけジッパーを全開という設定に落ち着く。

明日は初めての North Rim かあ。楽しみだなあと思っていたら、あっという間に眠っていた。
  • 今日の走行距離: 451.46 マイル (726.55 km)
  • 最高速度: 94.4 マイル/時 (151.9 km/h)
  • 移動時間:  7時間4分
  • 移動平均速度: 63.8マイル/時 (102.6 km/h)
  • 最低最高高度: 4698〜10530 フィート (1432〜3210 m)
  • $3.289 x 4.039G = $13.28 — 09:16:04 R-PLACE 1 — 1100 Aultman St., Ely, NV 89301
  • $3.349 x 3.428G = $11.48 — 11:25:00 MCCROSKY'S SHELL — Junktion 93 & 319, Panaca, NV 89042
  • $3.299 x 3.833G = $12.65 — 16:58:43 SINCLAIR — Orderville, UT



(Sturgis 2006 その3 へ続く)